音頭おんど)” の例文
京都からワザワザ上京したと云う御連枝が、音頭おんどを取って唱える正信偈しょうしんげは、譲吉の哀悼の心を無用に焦立たせたに過ぎなかった。
大島が出来る話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「猫の鳴き声なんか、陰気いんきじゃありません? それよりか、ここには友愛塾音頭おんどというのがありますから、あたしそれをご披露ひろうしますわ。」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
艫幕ともまくいッぱいに風をはらむかと思うと、やがて、さっ! 颯! 颯! 二十四ちょう櫓拍子ろびょうしが、音頭おんどと共にこころよく波を切った——。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お雪が後から駈けつけて立って見ると、音頭おんどを取っていた五十ぐらいの、水々しくふとった婆さんが、お雪を見て
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
わけても、歌の音頭おんどをとる十八九の娘と、踊のリーダーになつて居る、十六七の娘の非凡さは大したものでした。
「踊りの品がよいとやら」と彼は常磐津節ときわずぶしをたのしそうにうたった、「——わたしもどうか乙声の、音頭おんどのふしが気にいって、ぞっとしんから戻りがけ」
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
多勢おおぜいの美人の踊る音頭おんどを見せられ、ある時はまた川向いにある彼女の叔母おばの縁づき先であった町長の新築の屋敷に招かれて、広大な酒蔵へ案内されたり
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
これが農人の労働を愉快なものにしようとする企てであったことは明らかで、田を植えつつ歌う農人の歌も、恐らくこの田楽の音頭おんどに従ったものであろう。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
まだやっと一年生なのに、彼女の音頭おんどとりはなれきっていた。天才とでもいうようなものであろうか。ちゃんと、みんなをあとについて歌わせる力があった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
これが東京音頭おんどの流行となんらかの関係があるかどうかは不明であるが多少の関係があるかもしれない。
異質触媒作用 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
伊勢音頭おんどの作りかへもさせられた。俺は外ヘ出る必要もなくなつた。柔媚じうびを四畳半に求むることも出来なくなつた。俺は一時間の黙想をすら許されないのである。
畜生道 (新字旧仮名) / 平出修(著)
おじいさんはゆきうえにすわって音頭おんどをとりました。わかおんなと、わか一人ひとりおとこっておどりました。一人ひとりおとこは、やはり、ゆきうえにすわって胡弓こきゅういていました。
春になる前夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「さあ、遊佐君の為に万歳を唱へやう。奥さん、貴方あなた音頭おんどをお取んなさいましよ——いいえ、本当に」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
だれが音頭おんどをとるともなく、せずしてみんなの両手が、高く空にあがりました。そして一同、かわいらしい声をそろえて、くりかえしくりかえしさけぶのでした。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
町の子供たちが村社の鳥居前から動き出すころには自分で拍子木ひょうしぎをさげて行って行列の音頭おんどをとった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
辰爺さんが音頭おんどをとりながら先に立つ。鉦がガァンと鳴る。講中こうじゅうが「南無阿弥陀ァ仏」と和する。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そっと梯子段はしごだんのところからのぞいていると、しまいには二人の老人が浮れて、伊勢音頭おんどを踊っているかげが、庭にむかった、そとの暗い廊下の障子にチラチラと動いていました。
出しもの 袖香炉そでごうろ(手向)、なのは、黒髪、すりばち、八嶋、江戸土産、鉄輪かなわ、雪、芋かしら、都鳥、八景、茶音頭おんど、ゆかりの月、桶取おけとり(次第不同)出演者名及番組は当日呈す
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
よいとまけ——それは、いなかの人たちが、家をたてるまえ、地がためをするとき、重い大きいつちを、上げおろしするのに力をあわせるため、声をあわせてとなえる音頭おんどです。
いぼ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
學校がくかう唱歌しようかにもぎつちよんちよんと拍子ひやうしりて、運動會うんどうくわいやり音頭おんどもなしかねまじき風情ふぜい、さらでも教育きやういくはむづかしきに教師きやうし苦心くしんさこそとおもはるゝ入谷いりやぢかくに育英舍いくえいしやとて
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
見ればその真中を村の青年たちがおおぜいかかって、太い縄のようなものをかついで、それに繋がって静に歩いてゆく、その傍に立って、一人列を離れて音頭おんどを取っている老爺ろうやがある。
何でも音頭おんど取りの音頭につれて、みんなが踊ってさえいれば、それで満足なんだ。
新秩序の創造:評論の評論 (新字新仮名) / 大杉栄(著)
前者の音頭おんどを取るものは、さきに大石と同行した奥野将監を始めとして、小山、進藤の徒であり、後者は堀部安兵衛、奥田孫太夫などの在府の士、並びに関西では原総右衛門、大高源吾
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
まだ新鮮な香りのする白木の桁構えのうちには、健やかな気分が漲っていた。かしらが上にあがって音頭おんどを取った、そして大勢の衆の木遣りの唄につれて棟木がゆるゆると上に引き上げられた。
少年の死 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
これはちょうど音頭おんど取りのようなものです。だがその鐃鉢を打ちながら踊り廻る様子の活発で、またその素振そぶりの面白い事は、他の国の舞曲とかダンスとかいうようなものとは余程違って居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
これから幕のあく色模様名古屋音頭おんどで、市村宗助が七役の早変わりをするってんで、みんなそれを目当てでやって来たのに、今にわかと用ができて舞台に出られねえと頭取がぬかしゃがったんで
チビの鮎子さんが、音頭おんどをとることになって元気よく立ちあがったが、なんというのだったか忘れてしまった。鮎子さんは仏蘭西フランス語でやっつけたいのである。それで、となりのピロちゃんにたずねる。
輪になったまん中に、手太鼓てだいこを持ったひとりのグリーンランド人が毛皮も着ないで立っていて、海豹捕あざらしとりの歌の音頭おんどをとっていました。すると合唱隊は『エイア、エイア、ア!』とそれに応じました。
菊太郎君のお父さんが向う鉢巻をして、音頭おんどを取っていた。
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
かへろ音頭おんどはじめよか
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
はばかりながら、もしこの長兵衛が、音頭おんどを取って、野伏りどもを集めなかったら、日向守はまだこうして、首になってはいなかったろうと存じます
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この村の青年たちは、すでに友愛塾音頭おんどまでを、塾生たちといっしょにじょうずにおどることができたのである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
たちまち、いいふえ音色ねいろや、ちいさならっぱのや、それにじって、歩調ほちょうわし、音頭おんどをとる太鼓たいこおとこって、しんとしたあたりがきゅうににぎやかになりました。
雪の上のおじいさん (新字新仮名) / 小川未明(著)
「さあ、若い衆、拙者が音頭おんどを取るから、それについて景気のいいところを一つ……オーイ、ヤレーヨ、エーンヨンヤレテコセー、コレハセー、イヤホーウイヤネー」
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
マスノの音頭おんどがあんまり大げさだったので、吉次や仁太まで泣きそうになり、それをがまんしているふうだった。大きな生徒のなかにはおもしろそうに見ているものもいた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
面々各自てんでの挨拶がある。鎮守の宮にねり込んで、取りあえず神酒みき一献いっこん、古顔の在郷軍人か、若者頭の音頭おんどで、大日本帝国、天皇陛下、大日本帝国陸海軍、何々丑之助君の万歳がある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それと同時に、公爵の音頭おんどで、荘田唐沢両家の万歳が、一斉に三唱された。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
音頭おんどを合せて流れに乗せると、松兵衛、帆方アとどなって手を振った。キキキキキと帆車が鳴る、赤い魚油燈がぶらんとかかった。人魂ひとだまが綱を手繰たぐって登ったように。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
国防婦人こくぼうふじん制服せいふくひとたちが、ちいさなまるはたって、調子ちょうしわせてうたっていました。戦闘帽せんとうぼうかぶった青年せいねんが、元気げんきいっぱいにおおきなこえで、音頭おんどっていました。
とびよ鳴け (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのためには、まず第一に、朝倉先生夫妻をはじめ、友愛塾がわが総立ちになって、例の友変塾音頭おんどおどるのが、もっとも効果的だと思われた。この予想はみごとに的ちゅうした。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「わたしが音頭おんどを取りますから、人家へ出るまで皆さん、歌をうたって下さいまし」
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
マスノがひとりで音頭おんどをとっている。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
踊らないのはただ馬上のお喋り坊主と、音頭おんどを取る清澄の茂太郎だけであります。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
秀吉が僭越せんえつ音頭おんどを取って事態をうごかしているように邪推じゃすいされた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かおが少しばかり見よいと申すのが評判でお玉は大当りでございますが、ナニあなた、殿様方の前でございますが、あれは女乞食の出来のよいので、こちらの音頭おんどの衆などの前へ出ましたら
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼の音頭おんどに、どっと笑い声が揚がり、満堂一せいに杯をあげ合った。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昼は千早振ちはやぶる神路山かみじやまの麓、かたじけなさに涙をこぼした旅人が、夜は大楼の音頭おんど色香いろかえんなるに迷うて、町のちまたを浮かれ歩いていますから、夜のにぎわいも、やっぱり昼と変らないくらいであります。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
戴宗も、挙げて、和解の音頭おんどをとった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お侍衆が音頭おんどを見物しておいでになる時に」
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)