くが)” の例文
一つの堂を中にし、庭を隔ててむかいの楼上の燈を見るに、折から霧濃く立迷いたれば、海に泊まれる船の燈をくがより遥に望むが如し。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あらず、あらず、彼女かれは犬にかまれてせぬ、恐ろしき報酬むくいを得たりと答えて十蔵は哄然こうぜんと笑うその笑声はちまた多きくがのものにあらず。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
渋江の家には抽斎の歿後に、既にいうように、未亡人五百、くが水木みき、専六、翠暫すいざん、嗣子成善しげよしと矢島氏を冒した優善やすよしとが遺っていた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
鶏はくがに米をついばみ家鴨は水に泥鰌どじょうを追うを悟り、寝静まりたる家家の向う「低き夢夢の畳める間に、晩くほの黄色き月の出を見出でて」
絵画についての嗜好しこうは次第に強烈になって、絵であればどんなものでも面白がって見るようで、ある時くが翁の娘の六ツばかりになる児が
竹乃里人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
刀は抜けてうみに沈んで、小刀しょうとうばかり帯に残つたが、したくがに成つた時、砂浜のなぎさに少年を落して、鷲は目の上の絶壁の大巌おおいわに翼を休めた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かゝる織物かけられしことなし、たとへばをりふし岸の小舟のなかば水に半くがにある如く、または食飮くひのみしげきドイツびとのあたりに
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
風の餘り好かりければ、初めソレントオよりくがに上るべかりし航路を改め、直ちに拿破里の入江を指して進むことゝなりぬ。
くがには、鰐淵寺わにぶちでらをはじめ、日ノ御碕みさきの神職土屋一族、大社の国造孝時くにのみやつこたかときなどの宮方。——また、はるかにはかの伯耆ほうき大山だいせんが我をさしまねくかのごときすがただ。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
王 じゃと申して水とくがに生きる事のよう出来るものは神のお造り召された生きものの中にあるのじゃ。
胚胎 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
一旦は船へ戻るとしても出直して、北上の竿頭かんとうさらに一歩を進めて、陸奥みちのくくがの果てなる恐山——鬼が出るか、じゃが出るか、そこまで行って見参したいものだな。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
………午後四時頃、婆サントくが子ガ這入ッテ来ル。陸子ヲコノ部屋デ見ルノハ久シ振デアル。七月十九日ニ予ノ拒絶ニ会ッテカラ、彼女ハスッカリ予ニ愛想ヲ盡カシテイタ。
瘋癲老人日記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
くがや浜田は早くも去って古川一人が自恃庵の残塁にっていたが、区々たる官僚の規矩きくを守るをいさぎよくしないスラヴの変形たる老書生が官人気質の小叔孫通とれるはずがないから
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
ある群は千鳥がたして、またるはくがの方向き、またるはちりちりと散り、すれすれにるは落ちつつ、波の上驚きて飛び、時に消え、時に明り、いよいよに暗く恐れて、いよいよにさをまりて
漁夫もこの頃は將來さきざきの望みのないことに多少氣がついて來て、思ひ切つて百姓になる者が出來て來たが、百姓だと米の飯に魚を添へて食ふ譯に行かんし、こんな村ぢや海でもくがでもえゝことはない。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
たひらなるくがにかたまり青きをばやなぎかとおもひつつ居る
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
おだしくくがへおくり返さむ。8415
希望のぞみ墜葉おちば滅ぶるくがうづしほ
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
海女とてもくがこそよけれ桃の花
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
くがけば平地へいちあゆむがごと
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
くがの妻にまかす。
佐藤春夫詩集 (旧字旧仮名) / 佐藤春夫(著)
渋江氏ではこの年感応寺かんのうじにおいて抽斎のために法要を営んだ。五百、保、矢島ゆたかくが、水木、比良野貞固さだかた、飯田良政よしまさらが来会した。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
くらぶればここのは大樹だ。椅子の丈はくがの山よりも高い。そうしている貴女の姿は、夕日影の峰に、雪の消残ったようであろう。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
我等は喜べり、されどこの喜びはたゞちに歎きに變れり、一陣の旋風新しきくがより起りて船の前面おもてをうち 一三六—一三八
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
われはしづかに、ジエンナロよ、そはよも眞面目なる詞にはあらじといひて、其手を握りしに、ジエンナロは手を引き面をそむけ、舟人にくがに着けよと命ぜり。
これがくがを行き、海をいて進んで行くさまは、けだし壮観をきわめたであろう。「梅松論」の筆者も
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
月はさやかに照りて海もくがもおぼろにかすみ、ここかしこの舷燈げんとうは星にも似たり。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
今日辻堂カラくが子ガ子供達ヲ連レテ来ルノデ、ソレヲ心待チニシテイルラシイ。
瘋癲老人日記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
また或るはくがの方向き、また或るはちりちりと退き、すれすれに或るは落ちつつ波の上驚きて飛び、時に消え、時に明り、いよいよに暗く恐れて、いよいよに青にまりて、時わかず連れ啼く千鳥
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
夏潮をつて戻りてくがに立つ
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
くがの妻にまかす。
佐藤春夫詩集 (旧字旧仮名) / 佐藤春夫(著)
くがほそめしのみわざ
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
当時の家族は主人四十五歳、さい五百いお三十四歳、長男恒善二十四歳、次男優善やすよし十五歳、四女くが三歳、五女癸巳一歳の六人であった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
人間は知らんのか、知っても知らないふりをするのだろう。知らないふりをして見ないんだろう。——くがは尊い、景色は得難い。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
されど未だかくくすしき笛にあはせて歩騎動き、くがまたは星をしるべに船進むをみしことあらじ 一〇—一二
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
なにせい、わずか九隻。それにくらべ、敵の兵船は大小百余艘もありましょうか。くがにおいて、攻め口を
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
舟人は漁舟すなどりぶねくがに曳き上げたり。暮色漸く至れば、新にともしたる燈火その光を増して、水面みのもは碧色にかゞやけり。一時四隣は寂として聲なかりき。忽ち歌曲の聲の岸より起るあり。
「颯子バカリジャナイ、くが子ナンゾ見舞ニ来ヤガッタラ承知シナイゾ」
瘋癲老人日記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
天雲あまぐもの青くたなびく大きくがかくいにしへもやはしたまひき
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
船に乗ればくが情あり暮の秋
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
ただくがは貴い。けれども、我が海は、この水は、一うねりの波を起して、その陸を浸す事が出来るんだ。ただ貴く、うつくしいものはほろびない。……中にも貴女は美しい。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これがわかるとくがでは兵庫から生田、御影へかけて狂喜の歓呼かんこがうねりのようにつたえられ
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ながれめての方にて折れ、こなたのくが膝がしらの如く出でたるところに田舎家二、三軒ありて、真黒まくろなる粉ひき車の輪中空なかぞらそびえ、ゆんには水にのぞみてつき出したる高殿たかどの一間ひとまあり。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
一心に島とくがとに鳴く虫の声澄み入れり闇夜なりけり
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「おのれ。その儀なれば、くがへ戻って、もう一戦せん。諸葛亮しょかつりょう、そこをうごくな」
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
流れめての方にて折れ、こなたのくがひざがしらのごとくいでたるところに田舎家二三軒ありて、真黒なる粉ひき車の輪中空なかぞらにそびえ、ゆん手には水にのぞみてつきだしたる高殿の一間あり。
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
夕かげはくが岬々さきざき嶋のさきとほながく見て高度かうど行くなり
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「は。……それゆえに、くがでは早や落ち行く道はただの一つもありませぬ」
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こはもと海のものなれば、くがには馴れず
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ただよう海に一つのくがを見つけたように、生れてから一遍にあふれわいた思慕と肉親への肌恋しさが——これは抑えるべくもなく、ずいぶん連れの権之助をも困らしたほど、きょうまでは楽しみにして
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)