かかわ)” の例文
旧字:
いずれにしても、ことであろうとは考えられない。にもかかわらず、身を迎えにゆだねて行くからには、武蔵にも覚悟はあるのであろう。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自ら信ずるにもかかわらず、幽寂ゆうじゃくきょうに於て突然婦人に会えば、一種うべからざる陰惨の鬼気を感じて、えざるものあるは何ぞや。
黒壁 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あんずるに無条件の美人を認めるのは近代人の面目めんもくかかわるらしい。だから保吉もこのお嬢さんに「しかし」と云う条件を加えるのである。
お時儀 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「しかし、相手がその男として、この四人とこんな場所で果合いをするようなかかわりがあるのか。四人ともその男に仕止められたとして」
夜明けの辻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
どこの表通りにもかかわりのない、金庫のような感じのする建物へ、こっそりと壁にくっついた蝙蝠こうもりのように、ななめに密着していた。
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
たとえ彼らの首を百人千人斬ったところで、大勢たいせいにはかかわりございません。そのために、故郷の妻子を嘆き悲しませるのは気の毒でございます。
第五十三条 両議院ノ議員ハ現行犯罪又ハ内乱外患がいかんかかわル罪ヲ除クほか会期中いん許諾きょだくナクシテ逮捕セラルヽコトナシ
大日本帝国憲法 (旧字旧仮名) / 日本国(著)
叔父は相変らず源三を愛しているにかかわらず、この叔父の後妻はどういうものか源三をいじめること非常なので、源三はついに甲府へげて奉公しようと
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それにもかかわらず、求めても求めても得られない愛着の切なさは、自分のものでありながら自分のもので無いと思う節子をどうすることも出来なかった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
貴嬢きみがいかに深き事情わけありと弁解いいひらきたもうとも、かいなし、宮本二郎が沈みゆく今のありさまに何のかかわりあらん。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
封建武士の思想には、鶏犬相聞う隣藩すら、相かかわらず。なんぞいわんや海外万里の世界をや。栄螺さざえはその殻を以て天地となし、蓑虫みのむしはその外包を以て世界とす。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
とにかく今までの狭い悩ましい過去と縁を切って、何のかかわりもない社会の中に乗り込むのはおもしろい。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
こういう無能な者にこのうえかかわり合っていなければならないとしたら、寿命が縮まるばかりだと言った。
さて当今上方筋人物寥寥りょうりょう。老兄の技倆ぎりょうにて勿論もちろんの事に御座候。僕も老兄とは同一家。御互に月旦の善悪は疾痛痾痒あようかかわるところなれば、僕之を聞きて寝ること能はず。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
だが、往来は彼の心象と何のかかわりもなく存在していたし、灯のにぎわう街の方へ入ると、そこへよく買物に出掛ける妻は、勝手知った案内人のようにいそいそと歩いた。
苦しく美しき夏 (新字新仮名) / 原民喜(著)
その故意わざとらしいところ不自然なところはすなわち芸術としての品位にかかわって来るのです。
文芸と道徳 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
内儀のお杉は自害ということにして、大分金をバラいて葬りましたが、踏台の無い首つりを検死に見とがめられては、今度は佐久間の暖簾のれんかかわらずには済みそうもありません。
何かしら甘いくつろぎを与え、かつて彼女の口を通していた外国の恋愛小説ほどの興味は望めなかったが、現実の問題にも何かかかわりがありそうなので、聴くのに退屈はしなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そんなことまでが何か自分と深いかかわりでもあるようにも考えられ、クニ子と同い年の子を持つ村の若い母親たちに交って、末っ子を小学校にあげることが、何か自分にもこれから
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
この時に下士の壮年にして非役ひやくなる者(全く非役には非ざれども、藩政の要路にかかわらざる者なり)数十名、ひそかに相議あいぎして、当時執権の家老を害せんとの事をくわだてたることあり。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「なに! では、そなたの災難も今奥へ消えていった荒法師玄長にかかわりがござるか」
努めていろいろの話をされるにもかかわらず、夫人に対しては、必要な言葉以外には殆ど話しかけられず、稀々たまたま話しかけられる言葉も、いつでもせいぜい四五文字にしかならない短いものだった。
血液型殺人事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
もはや、どうしようにも手当の余地はないと見た駒井甚三郎は、かかわいを怖れてそのまま戸を閉じて引込むかと思うと、そうでなく、提灯を持って、スタスタと柳橋の方へ進んで行きました。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
われに何のかかわりあらんや、という気がして来るのである。黙って聞いているうちに、自分の肩にだんだん不慮の責任がおおいかぶさって来るようで、不安なやら、不愉快なやら、たまらぬのである。
乞食学生 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そしてそれもみなひとりでにそうなったことで、私はそれに何のかかわりもないのだ。そうだ、それに何の不幸な事があろう。おそらく私を見る者は、私に非常な災いが起こったと思うかも知れない。
さて今日、僕はいかなる記念碑ともかかわりはない。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
それが彼に何のかかわりを持つと云うのだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
御主人の御腹立ちにもかかわらず、わたしは御話を伺っている内に、自然とほほんでしまいました。すると御主人も御笑いになりながら
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
だが、好むと好まないとにかかわらず、いつか一度は、武蔵と相会う日がきっと来るに違いないことは、巌流もひそかに予期していた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もともと自分は大兄をはじめ、くなった姉さんの御咎おとがめを受けるつもりで遠い旅から帰って来たものである、それにもかかわらず平然として今日に到ったと書いた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この書状は例によりてかの人に託すべけれど、貴嬢きみが手に届くは必ず数日の後なるべし、貴嬢きみもしかの君に示さんとならば、そは貴嬢きみの自由なり、われには何のかかわりもなし。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
その他、内面的経験にかかわりを持った人と物との凡てに対して私は深い感謝の意を捧げる。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
遠い国で起っているような騒ぎが、自分の身の上にかかわることと漸く気がついたのです。
十字架観音 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
まアそんなことをして試験はっとすましたが、可笑おかしいのは此の時のことで、私は無事に入学を許されたにもかかわらず、その見せてれた方の男は、可哀想にも不首尾に終ってしまった。
私の経過した学生時代 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「実は、平家ご一門にかかわる事でございまして、れっきとした謀叛むほんの準備なので」
ふぐと、しゃけでは、忙しい時は誰だって間違えらあな……なるべく物の名というものは、区別のつくように書かねえと、たいが現われねえのみならず、一字の違いで、この通り命にかかわることもあらあな
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
にもかかわらず、体じゅうを血の音ばかり駈けめぐって、頭はいたみ、手足の先は冷え、髪はそそけ立って、何一ついい出せなかった。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
殊に縁日えんにちの「からくり」の見せる黄海こうかいの海戦の光景などは黄海と云うのにもかかわらず、毒々しいほど青いなみに白い浪がしらを躍らせていた。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
自分が新橋を出発する時も、神戸を去る時も、思いがけない見送りなどを受けたのであるが、それにもかかわらず自分は悄然しょうぜんとして別れを告げて来たものであると書いた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「一人の生命など、戦況には何のかかわりもないのだからお命を助けて進ぜよう」
私はせんだってじゅうデフォーの作物を批評する必要があって、その作物を読直すときに偶然この句に出合いまして、ふと沙翁のヘンリー四世中の語を思い出して、その内容の同じきにもかかわらず
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
女は慇懃いんぎん会釈えしゃくをした。貧しい身なりにもかかわらず、これだけはちゃんとい上げた笄髷こうがいまげの頭を下げたのである。神父は微笑ほほえんだ眼に目礼もくれいした。
おしの (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
およそここにいる縁故や門流の顔ぶれを見ると、武蔵の人物を、知ると知らないにかかわらず、何かの気持から、武蔵を敵視していない者はない。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それにかかわらず彼は自分よりずっと年の若い女をえらんだ。楽しい結婚は何物にも換えられなかった。
刺繍 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
従っていかに吾輩の主人が、二六時中精細なる描写に価する奇言奇行をろうするにもかかわらず逐一これを読者に報知するの能力と根気のないのははなはだ遺憾いかんである。遺憾ではあるがやむを得ない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
が、林右衛門は、それを「家」にかかわる大事として、惧れた。併し、彼は、それを「しゅう」に関る大事として惧れたのである。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
こういうことは些細に似ているが、時によると重大な意志表示にもふと語気の上へ大きなかかわりをもたないとは限らない。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その日は宗蔵も珍しく機嫌よく、身体の不自由を忘れて、嫂の物語に聞恍ききほれていた。実が刑余の人であるにもかかわらず、こういう昔の話が出ると、弟達は兄に対して特別な尊敬の心を持った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
肉のたるんだ先生の顔には、悠然たる微笑の影が浮んでいるのにかかわらず、口角こうかくの筋肉は神経的にびくびく動いている。
毛利先生 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
平四郎にとっては、延びようと、何日いつになろうと、それはもう、萩井家から云わせても、かかわりのない他人でしかない。
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)