辻占つじうら)” の例文
所名ところな辻占つじうらも悪い。一条戻り橋まで来たときだった。供奉ぐぶの面々は急にながえを抑えて立ちどまった。いやしゃ二、み車をまわし初めた。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おまけにホテルの支払まで済まされて姓名不詳扱いにされていれあ世話はない。アラ行ッチャッターの辻占つじうらがチット当り過ぎた。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そのあいだには芝居みやげの菓子や、辻占つじうらせんべいや、花かんざしなどを売る店もまじっている。向う側にも七、八軒の茶屋がならんでいる。
島原の夢 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
新三郎はお露にうにもして逢いたいと思い続けているものだから、其の事を夢に見てビッショリ汗をかき、辻占つじうらが悪いから早く帰ろうと思い
ここに梓が待人まちびと辻占つじうら、畳算、夢のうらないなどいう迷信のさかんな人の中に生れもし育ちもし、且つ教えられもしたことをあらかじめ断っておかねばならぬ。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
図書館へ行けというほどの辻占つじうらかも知れぬ、しばらく御無沙汰ごぶさたしているから、僕はそんなことを思いながら、新刊書の広告など見て行きました。
わが師への書 (新字新仮名) / 小山清(著)
それからその数字を一つは横へ、一つはたてに繰って、両方が一点にかいしたところを本で引いて見ると、辻占つじうらのような文句が出る事になっていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
物思うことの多い若き男女は、熊野の神前に祈って、そうしてこの車をクルクルと廻せば、待つ人の辻占つじうらになるという。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それともあすの船出の不吉を告げる何かのわざかもしれない。木村との行く末の破滅を知らせる悪い辻占つじうらかもしれない。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「向うからくいついて来るんだから世話あねえや、あの文次に逃げられてどうしようかと思ったが、これでこの勘定もしんぺえなしか、いい辻占つじうらだぜ」
あすなろう (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
伝便や花櫚糖売は、いつの時侯にも来るのであるが、夏は辻占つじうら売なんぞの方が耳に附いて、伝便の鈴の音、花櫚糖売の女の声は気に留まらないのである。
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
また、辻占つじうらのごときは一種の戯れにひとしきものである。よって、ここにいちいち説明するほどの必要はない。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
いずれにしても三河屋へ行かないでしまったお艶だったという噂は、嘘にしても小助六にとってはときにとってのいい辻占つじうらと思わないわけにはゆかなかった。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
「おっと諸君、辻占つじうらがいいぞ!」と、将校の中の誰かが言った。「われらのセッターが先陣を承わってるじゃないか。てっきりあいつ、獲物を嗅ぎつけたんだぜ!……」
接吻 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
おばさんは毎日、石榴の木の見える縁側で、白い昆布こんぶ辻占つじうらを巻いて、帯を結ぶ内職をしていた。
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「隠すより現れるはなしっていうが、そのことわざは、ちょいとこちとらにゃ辻占つじうらのよくねえ文句さ」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
恋の辻占つじうらが刷ってある、あの名代の包紙のまま、一息にみ込んでしまったんでございまス。
〽聞く辻占つじうらにいそいそと雲足くもあし早き雨空あまぞらも、思ひがけなく吹き晴れて見かはす月の顔と顔………
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ずんずん通りを塗町ぬしちょうへ 出て、土手に沿いながら歩いていると、辻占つじうらア、辻占ア、というわびしい声といっしょに、土手の切れめから、ぽっかり白いあかりが浮きあがりました。
歌よみがましきは憎くき物なれど、かかることには身にしみて思ふ友ともなりぬべし。大路おほぢゆく辻占つじうらうりのこゑ、汽車の笛の遠くひゞきたるも、なにとはなしに魂あくがるゝ心地す。
あきあはせ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
悪い辻占つじうらのように思われた。こんどの旅行は、これは、失敗かも知れぬ。
八十八夜 (新字新仮名) / 太宰治(著)
これで対照されていいと思うものは冬の霜夜の辻占つじうら売りの声であった。
物売りの声 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「うわア、辻占つじうらが悪いのう。ところでどこまで話したっけ?」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
手も加えずに、立ったまま帯がけるとは、なんの辻占つじうら
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
よきこゑの『こひ辻占つじうら
霜夜 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
たづねてもおたなすぐには參れねどお文は都度々々つと/″\中宿迄なかやどまで御屆おとゞけ申て置ましたが其處そこへもたえて御出のないよしもつとも其後お變りなく御辛抱しんぼうとの事ゆゑにいづれお出で有ませうと取り留もなき挨拶に詮方せんかたつきて小夜衣はたゞ明暮あけくれ神頼かみたの神鬮みくじ辻占つじうら疊算たゝみざん夫さへしるしの有ざれば二かい廻しの吉六を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いらざるところへ勇気が出て敵は川添いの裏二階もうのうちと単騎せ向いたるがさて行義よくては成りがたいがこの辺の辻占つじうら淡路島通う千鳥の幾夜となく音ずるるにあなたのお手はと逆寄せの当坐のなぞ俊雄は至極御同意なれど経験ためしなければまだまだ心おくれて宝の山へ入りながらその手を
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
奥には、板新道の雛妓おしゃくらしいのが、五人ほど、水盤をのぞき合って、明礬みょうばん辻占つじうらだの、水草の弄具おもちゃなどを咲かせて、騒いでいる。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのあいだには芝居みやげの菓子や、辻占つじうらせんべいや、花かんざしなどを売る店もまじっている。向う側にも七、八軒の茶屋がならんでいる。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
楊枝ようじ辻占つじうらで巻いていた古女房が、おびえた顔で——「話に聞いた魔ものではないかのう。」とおっかな吃驚びっくりを開けると、やあ、化けて来た。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
また、辻占つじうらのごときは一種の戯れにひとしきものである。よって、ここにいちいち説明するほどの必要はない。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
この際、そういったような梅花心易はないか——つまり、時にとっての辻占つじうらはないかというところまで、駒井甚三郎の頭が動揺してきたのも無理のないところがあります。
いつも一杯めし上ると声色こわいろ使いや辻占つじうら売り、右や左なんていう連中にまで、よくお眼をかけ下さるので、そのような流し仲間では先生のお姿を拝んでいるので御座いますよ。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
寿司屋では茶柱が二本も立ったので、眼をつぶってその辻占つじうらをぐっと呑みこんでしまった。だから、お前はいやしいと云うのだ。ほんの少しの事にでもキタイを持ちたがる。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
〽聞く辻占つじうらにいそいそと雲足早き雨空あまぞらも、思ひがけなく吹き晴れて見かはす月の顔と顔……
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ことに欽吾きんごは多病である。実の娘に婿むこを取って、かかる気がないとも限らぬ。折々に、解いて見ろと、わざとらしく結ぶ辻占つじうらがあたればいつもきちである。いては事を仕損ずる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
辻占つじうらはみんなおじさんが買ってやるからな。そのかわり、おまえのからだを
辻占つじうらが悪くなるような気がされて、雪之丞、胸がうっしてならないのだった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
そんな辻占つじうらも悪かったし、仕入れ向きはおもしろくなく、ついでに隣県まで足をのばして四日目に帰ってみると、なんと、店の戸は閉まっている。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
諸君が随処、淡路島通う千鳥の恋の辻占つじうらというのを聞かるる時、七兵衛の船は石碑のある処へかかった。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは、上方かみがたからあずまへ下るほどの人に、「行きかふ人に近江路や」は悪くないとしても、これから、「いつかわが身のをはりなる」という辻占つじうらがよろしくないというわけです。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
第四種(卜筮ぼくぜい編)易筮えきぜい亀卜きぼく銭卜ぜにうら歌卜うたうら太占ふとまに口占くちうら辻占つじうら兆占ちょうせん夢占ゆめうら御鬮みくじ神籤みくじ
妖怪学講義:02 緒言 (新字新仮名) / 井上円了(著)
したがって恐れる男とか恐れない女とかいう辻占つじうらに似た文句を、黙って聞いているはずはなかったのだが、しっとりとうるおった身の上話の続きとして、感想がそこへ流れ込んで来たものだから
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ほかの御用を打っちゃって置いても、この槍突きを挙げなければならないというので、詮議に詮議を尽していましたが、そのなかに葺屋町ふきやちょうの七兵衛、後に辻占つじうらの七兵衛といわれた岡っ引がいました。
半七捕物帳:18 槍突き (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
つては不可いけないとふのかね。」と、こゝろがかりな今夜こんやの、辻占つじうらにもと裏問うらどへば……
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ここは自身の城下だけに、ここで鎌倉の使節が待ちうけていたなどは、いい辻占つじうらではない。ひょっとしたら、自分への切腹申し渡しかとさえ、いやな胸騒むなざいに慌てたのだった。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こういう種類の人間には、幸先さいさきや、辻占つじうらというようなものを、存外細かく神経にかけることがあるもので、七兵衛はそれほどではないが、全く無頓着というわけでもありません。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ただ小野さんは勝手な神に恋の御賽銭おさいせんを投げて、波か字かの辻占つじうらを見てはならぬ。小野さんは、この黒い眼から早速さそくに放つ、見えぬ光りに、空かけて織りなした無紋の網に引き掛った餌食えじきである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
やっぱり金杉の方から吉原へ辻占つじうらを毎晩売りに来る娘があるんです。
半七捕物帳:09 春の雪解 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かどからかど浅黄暖簾あさぎのれんすそのぞいて歩く木刀や、船から上がる客や、流しや、辻占つじうら売りや、そしてなまめかしい灯の数々と、春の星とが、どっぷりと黒くよどんだ堀の水によれあって美しい。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)