貼紙はりがみ)” の例文
伊太利亜イタリア名家のえがける絵のほとんど真黒まくろになりたるを掛けあり。壁の貼紙はりがみは明色、ほとんど白色にして隠起いんきせる模様および金箔きんぱくの装飾を施せり。
茶を飲みながらふと見ると、壁の貼紙はりがみに、彼岸会ひがんえ説教せっきょう斗満寺とまむじと書いてある。斗満寺! 此処ここ其様そんなお寺があるのか。えゝありますと云う。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
今度こんどは『召上めしあがれ』といた貼紙はりがみがありませんでしたが、それにもかゝはらずあいちやんはせんいてたゞちにくちびるてがひました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
お幸はその中に新しい貼紙はりがみの一つあるのを見出みいだしたのです。それは大津おほつの郵便局で郵便配達見習を募集するものでした。
月夜 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
監督は「賞品」の外に、逆に、一番働きの少いものに「焼き」を入れることを貼紙はりがみした。鉄棒を真赤に焼いて、身体にそのまま当てることだった。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
外の壁へは、高田先生に書いていただいた、「ただで、手紙を書いてあげます」という貼紙はりがみをしたので、直ちに多くの人々がこの窓の外に群がった。
水の三日 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
木崎の家は、もう忌中きちゅう貼紙はりがみも取れ、立番の巡査もいなくなって、何事もなかった様にひっそりと静まり返っていた。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
探偵小説家の長谷川は壁の貼紙はりがみから目を離すと、いきなりそう言ってドアのほうへ踏み出した。が、冬木刑事は何かほかのことでも考えていたらしく
五階の窓:03 合作の三 (新字新仮名) / 森下雨村(著)
外郭だけ残っている駅の建物は黒く空洞で、今にもくずれそうな印象を与えるのだが、針金を張巡はりめぐらし、「危険につき入るべからず」と貼紙はりがみが掲げてある。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
ある時、電信掛の技手に向い、葡萄酒罎ぶどうしゅびん貼紙はりがみを指しまして、どうだ君にこの英語が読めるかとそう申しました。読めるなら一升おごろうというんで御座います。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
門の柱に、毎月まいげつ十五十六日当山説教と貼紙はりがみした、かたわらに、東京……中学校水泳部合宿所とまた記してある。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
余は風呂場の貼紙はりがみに注意してある日付と、裸連はだかれんの趣向をらしていた時刻を照らし合せつつ、この落語会なるものの、すでにとどこおりなくすんだ昨日の午後を顧みて
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そういう小家こいえの曲り角の汚れた板目はめには売薬と易占うらないの広告にまじって至るところ女工募集の貼紙はりがみが目についた。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その店先に、「琉球泡盛あり」とらちもなく書いた貼紙はりがみが出ている。コップ飲をさせるというのである。鶴見はそれが場所にふさわしくないので多少不安におもっている。
「天誅組というのは、このごろ流行はやり出した悪い貼紙はりがみで、疱瘡神ほうそうがみよりもっと剣呑けんのん流行神はやりがみだ」
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
父は起きるとすぐ、自分で、閉店の貼紙はりがみを店のガラス戸に貼りつけた。貼りつけてしまって笑っている。こんな時になぜ父が笑ったのか、僕にはよくわかるような気がした。
次郎物語:03 第三部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
居間いま障子しょうじ、その縁に向ったところに、墨黒ぐろと半紙に大書した貼紙はりがみがしてあるのだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
平次はいきなり立ち上がると、あひの唐紙、古くて貼紙はりがみだらけのを、サツと開けました。
明日、午後三時より三時半までのあいだ、イースト二十四番街のリクリェーション埠頭パイアーの出際、「老鴉オールド・クロウ」なる酒場にてお待ち申しおり候、目印しは、ジルベーのジンと書いてある貼紙はりがみの下。
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
大きな穀物問屋の白壁に「売家」の貼紙はりがみが雨風にさらされて黄色くなっていたり、鷲尾がまだ土地にいた頃はさかんだった時計屋の看板が、かたむいて軒と一緒に倒れかかっていたりした。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
玄関の障子に、そんな貼紙はりがみをした事もある。いい加減なごまかしの親切で逢ってやるのは、悪い事だと思ったからだ。自分の仕事も、だいじにしたいと思いはじめて来たからだ。自分のために。
新郎 (新字新仮名) / 太宰治(著)
長崎に落付おちつき、始めて横文字の abc とうものを習うたが、今では日本国中到る処に、徳利とくり貼紙はりがみを見ても横文字は幾許いくらもある。目に慣れて珍しくもないが、始めての時は中々むずかしい。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
殺人を行うには変装が便利であるし、現にそのあくる日も変装して、着色眼鏡いろめがねをかけていたではありませんか。それにあの古風な貼紙はりがみ悪戯いたずらをしたのは、主義者に似合わぬ道化たところがあります。
“Special Dance — Admission : Ladies Free, Gentlemen \3.00”と記した貼紙はりがみがあり、ボーイが一人番をしていて、会費を取ります。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
貼紙はりがみをして逃げていったときには四十歳ぐらいの年恰好としかっこうに見えた。
五階の窓:05 合作の五 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
こういう貼紙はりがみは、他の神社だの辻にも見かけられた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぎがてにあいちやんは、たなひとつから一かめ取下とりおろしました、それには『橙糖菓オレンジたうくわ』と貼紙はりがみしてありましたが、からだつたのでおほいに失望しつばうしました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
さう小家こいへまがかどよごれた板目はめには売薬ばいやく易占うらなひの広告にまじつて至るところ女工募集ぢよこうぼしふ貼紙はりがみが目についた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そっと、下へかがむようにしてその御神燈をみまわすと、ほか小草おぐさの影は無い、染次、と記した一葉ひとはのみ。で、それさえ、もと居たらしい芸妓げいしゃの上へ貼紙はりがみをしたのに記してあった。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたし今晩帰りみちで大津の郵便局の郵便脚夫の見習に十五以上の男を募集すると云ふ貼紙はりがみ
月夜 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
入口には小さい貼紙はりがみがあって、それにはこう書きしたためられていた。
逆行 (新字新仮名) / 太宰治(著)
此方こっちの云うこともわからなければ、彼方あっちの云うことも勿論もちろん分らない。店の看板も読めなければ、ビンの貼紙はりがみも分らぬ。何を見ても私のしって居る文字もんじと云うものはない。英語だか仏語だか一向計らない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
重吉は店口みせぐちに募集の貼紙はりがみが出してある処を見付け遠慮なく聞いて見るがいいというので、お千代は再び銀座へ出掛けたが表通おもてどおりにはそういう貼紙のしてある店が見当らない。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
今度こんど其上そのうへちひさなびんが一ぽんありました、(『たしかにまへには此處こゝかつた』とあいちやんがひました)びんくびには、『召上めしあがれ』と美事みごとだい字でつた貼紙はりがみむすびつけてありました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
小店の障子に貼紙はりがみして
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)