おそれ)” の例文
それに今陸にのぼつて見ると、これから真直にどこまででも行かれる。元の所に帰るやうなおそれは無い。これまでとは大ぶ工合が違ふ。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
此奴らはとにかく丈夫に固着している故、浪が烈しく岩に打当てても離れるおそれがなく、随って岩に打付けられるような恐れもない。
ただ心配なのは、僕が余計なことを抗議した為めに、あなたに対する会社の待遇、進級、賞与等に影響を及ぼすおそれはないかということで
青バスの女 (新字新仮名) / 辰野九紫(著)
昭和十六年一月十四日閣議決定の発表に「肇国ちょうこくの精神に反し、皇国の主権を晦冥かいめいならしむるおそれあるが如き国家連合理論等は之を許さず」
戦争史大観 (新字新仮名) / 石原莞爾(著)
例えば乗換券を巻いて煙草のように耳に挾んでいるものがある。それでも落すおそれがあると思ってか、耳の穴へ揷入しているものもある。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
凡人の情なさには、僕の身の自由を制裁し得る人、すなわち僕の生活の道を制する人はついに僕の心までも制裁するにいたるおそれがある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
此物語に引き入れらるゝおそれなく、詩趣ゆたかなる四圍あたり光景ありさまは、十分に我心胸に徹して、平生の苦辛はこれによりて全く排せられをはんぬ。
当時政治は薩長土の武力によりて翻弄ほんろうせられ、国民の思想は統一を欠き、国家の危機を胚胎はいたいするのおそれがあり、旁々かたがた小野君との黙契もっけいもあり
東洋学人を懐う (新字新仮名) / 大隈重信(著)
江戸川の水勢を軟らげ暴漲ぼうちょうおそれなからしむる放水路の関門であることは、そのそばまで行って見なくとも、その形がその事を知らせている。
葛飾土産 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
青年首相となって一番に驢耳形の帽を創製して王の耳を隠したので、王も異様の耳を見らるるおそれなく大いに安楽になったという。
水は如何にも清冷で、岩面に水垢が着かないから少しも滑るおそれがない、それで極めて安易に水の中を登って行かれるのである。
秩父の渓谷美 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
更衣をすました爽な心持からいえば、袂には一物もない方がいいかも知れぬが、一概にそうきめてしまうと、また一種の型に陥るおそれがある。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
この棋というものが社交的遊戯になっている間は、危険なる思想が蔓延まんえんするなどというおそれはあるまいと、若い癖に生利なまぎきな皮肉を考えている。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
四つ目垣の穴をくぐり得る事は、いかなる小僧といえどもとうてい出来る気遣はないから乱入のおそれは決してないと速定そくていしてしまったのである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
前にも述べたような理由で読者は何となくあざむかれたような不満を感ずるおそれがあるのだからそのヤヤコシイ事一通りでない。
創作人物の名前について (新字新仮名) / 夢野久作(著)
五、 屋外おくがいおいては屋根瓦やねがはらかべ墜落ついらいあるひ石垣いしがき煉瓦塀れんがべい煙突えんとつとう倒潰とうかいきたおそれある區域くいきからとほざかること。とく石燈籠いしどうろう近寄ちかよらざること。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
これは兎角女の客が縋り付くので座席から引き卸されるおそれがあるからである。人は自分にかう云つてゐる。客は皆自分に用があつて来るのだ。
平静と沈着とは、悪魔を防ぐ為めの大切な楯で、一たんそれに隙間ができれば、未発達な悪霊どもが、洪水の如くそこから浸入するおそれがある。
あまり続けさまに拷問を加えると落命するおそれがあるので、よくよく不敵の奴と認めないかぎりは、同時に二つの拷問を加えないことになっていた。
拷問の話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
作っては却って観破されるおそれがあるから、投書の方だけを誰か腹心の人に預けて置いて、あとで投函してもらったのではないでしょうか。現に、遺書を
闘争 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
第五十九条 裁判ノ対審たいしん判決ハこれヲ公開ス但シ安寧秩序あんねいちつじょ又ハ風俗ヲ害スルノおそれアルトキハ法律ニリ又ハ裁判所ノ決議ヲもっ対審たいしんノ公開ヲとどムルコトヲ
大日本帝国憲法 (旧字旧仮名) / 日本国(著)
突然海上で風波の難にあい、舟とともにこれに乗ったすべての人々の生命が奪われるおそれの生じた場合には、それは海神が人間を希望している為だと解する。
人身御供と人柱 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
「野に・かぎろひの」のところは所謂いわゆる、句割れであるし、「て」、「ば」などの助詞で続けて行くときに、たるむおそれのあるものだが、それをたるませずに
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
併し、この二重生活をいつまでも続けることは、煩わしいばかりでなく、細君に真相を悟られるおそれがあった。
一人二役 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「静かにさえしていれば、そんなおそれはない。まア少しの間、その椅子にでも腰をかけて気を落着けるが可い」
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
要するに、このマイカ大要塞こそは、かねがね太青洋方面から侵入してくるおそれのある敵国に対し、難攻不落の前衛根拠地として、建造されていたものであった。
二、〇〇〇年戦争 (新字新仮名) / 海野十三(著)
理由は、摘要だけ見たのでは実験の内容にはないものまでも責を負わされるおそれがあるというのであった。
レーリー卿(Lord Rayleigh) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
されば、外国文を翻訳する場合に、意味ばかりを考えて、これに重きを置くと原文をこわすおそれがある。
余が翻訳の標準 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
田沼様に睨まれている浪人者と、そう知られては所の領主に、とらえられて渡されるおそれがあるからで。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これまではチベットの法王が少し変った事をやるというと、シナ政府からじきに異議を唱えられ、あるいはそのシナ皇帝の命令の下に罰せらるるというおそれがあった。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
嘲笑というような印象を読者に与えるおそれがありましたから、「数学基礎論は完成してもよい、又は完成しなくてもよい。只H先生は余生を安楽に送られることを望む」
無責任な独断的記述と取られるおそれがないでもないが、しかし次の拙著では私はこれらのことを立証すべく努めているから、神経質の読者には一応参照を願いたい、——
又「一千一夜物語」の完訳は風俗上許し難い。縦令たと私版しはんであるとしても、公衆道徳をきずつけるおそれある以上はバ氏に罰金を課するが至当だ」と云ふやうな調子であつた。
従て何時過激派が宅へ来て父にも危害を加えるかも知れぬというおそれもあった。そこで私も万一の際は如何したらよかろうかと考えたが、結局父と共に死ぬる他はない。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
自然科学とは違って文化科学については、いろいろの意味での民族的感情などが、一時的にはたらくおそれもないではないが、終局においては学術の世界性は確実に保たれる。
どうしてゐたつて、飢渇に迫るおそれはないと見抜いてゐるから、怠ける。酒を飲む。さてさう云ふ風にして諸国から金が這入つて来れば、資本が出来る。中流社会が出来る。
然れども上流漸く人家多くして、亦漸く綾瀬のごとくならんとするのおそれあり。好事の人の就て汲む者の如き、つひに往時の一夢たらんのみ。利根川の水、「がまん」甚だ佳なり。
(新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
子供は唯もう手足を動かしたいから運動に出るので、それに賞品が附くといふ事になると、子供心にも慾が手伝つて来て、しまひは何をするにも打算的になるおそれがあるといふのだ。
物の名称とはすべてかかる性質のものであることを忘れるおそれはないが、実物を離れて、ただ言葉のみをもって考える人々は、一つ一つの言葉に定義を下して、その内容の範囲を定め
境界なき差別 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
もうつてくれ、無邪氣むぢやきないたづらをして、そのへんをかきみだすのは辛抱しんぼうするが、不潔ふけつなことをするおそれがある、つてもらない、そのまゝ默認もくにんしてゐるうちに、とこに、またたれた。
ねこ (旧字旧仮名) / 北村兼子(著)
然し、いまそれに就いて書き始めるといかにも附けたりの樣に聞えるおそれがある。
鉄道の始めて通じた時はさぞ驚いたろうと思いますが、今では隧道トンネルなども利用しているかも知れませぬ。火と物音にさえ警戒しておれば、平地人の方から気がつくおそれはないからであります。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
我らはわが内界に不抜ふばつの確信を豊強なる実験の上に築き、そしてまた同時にその外的表現に留意すべきである。外にのみ走りて浅薄になるおそれあると共に、内にのみひそみて狭隘きょうあいとなるきらいがある。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
けだし人の死するはたきぎの尽るが如く、その死後の余徳は火の尽きざるが如しと云うと雖も、薪と火と共に消滅するのおそれなきに非ず。従前既に幾多の名士を喪い、今又老生と諸君と共に老却したり。
有たずに強い彼等も、有てば弱くなるおそれがある。世にも恐ろしい者は、其生命さえも惜まぬのみか、如何なる条件をもって往っても妥協だきょうの望がない人々である。彼等は何ものを有っても満足せぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「その夢をお話になるには、ひどく興奮なさるおそれがあるでせうか。」
さるほどに汽船の出発は大事を取りて、十分に天気を信ずるにあらざれば、解纜かいらん見合みあわすをもて、かえりて危険のおそれすくなしとえり。されどもこの日の空合そらあいは不幸にして見謬みあやまられたりしにあらざるなきか。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
間違つたつて、この広告は誰にも迷惑を掛けるおそれはないからね。
人間の方でも噛まれてはならぬというおそれがあるから。
よしや誤って虚無の中に滅し去るおそれがあろうとも