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蒼然
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そうぜん
ふりがな文庫
“
蒼然
(
そうぜん
)” の例文
鍋町
(
なべちょう
)
の
風月
(
ふうげつ
)
の二階に、すでにそのころから
喫茶室
(
きっさしつ
)
があって、片すみには古色
蒼然
(
そうぜん
)
たるボコボコのピアノが一台すえてあった。
銀座アルプス
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
それから山内の森の中へ来ると、月が
木間
(
このま
)
から
蒼然
(
そうぜん
)
たる光を
洩
(
もら
)
して一段の趣を加えていたが、母は我々より
五歩
(
いつあし
)
ばかり先を歩るいていました。
牛肉と馬鈴薯
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
そして金堂自身のもつ
蒼然
(
そうぜん
)
たる陰翳は、後の講堂に反映し、講堂のもつ
稍々
(
やや
)
浮いた明るさに適切な重厚味を与えている。
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
私達は舟遊び気分の何ともいえぬ心地で、
櫓
(
ろ
)
の音
緩
(
ゆる
)
く
蒼然
(
そうぜん
)
として暮れ行く島々の間を縫い廻った上、南風楼に帰った。
雲仙岳
(新字新仮名)
/
菊池幽芳
(著)
この前買った「ウァートン」の英詩の歴史は製本が「カルトーバー」で古色
蒼然
(
そうぜん
)
としていて実に安い掘出し物だ。
倫敦消息
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
▼ もっと見る
壁の一枚岩にも、ところどころ自然がもてあそんだ浮き彫りのようなものが見られるけれど、それらもみな、
蒼然
(
そうぜん
)
たる古色を帯び
煤
(
すす
)
けかえっているのだ。
紅毛傾城
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
今しがたまで見えた隣家の
前栽
(
せんざい
)
も、
蒼然
(
そうぜん
)
たる夜色に
偸
(
ぬす
)
まれて、そよ吹く
小夜嵐
(
さよあらし
)
に立樹の
所在
(
ありか
)
を知るほどの
闇
(
くら
)
さ。
浮雲
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
蒼然
(
そうぜん
)
とその面を名人も青めくらましながら、ややしばしじっと考えに沈んでいたようでしたが、やがて突如!
右門捕物帖:17 へび使い小町
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
そうして月は、その花々の先端の縮れた羊のような
皺
(
しわ
)
を眺めながら、
蒼然
(
そうぜん
)
として海の方へ渡っていった。
花園の思想
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
この
丈
(
たけ
)
高く細長き女の
真白
(
まっしろ
)
き裸体は身にまとへる赤き
布片
(
ふへん
)
と黒く濃き毛髪とまた
蒼然
(
そうぜん
)
たる緑色の背景と
相俟
(
あいま
)
つて
真
(
しん
)
に
驚愕
(
きょうがく
)
すべき魔力を有する整然たる完成品たり。
江戸芸術論
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
幾時代もたっているのでまったく古色
蒼然
(
そうぜん
)
としていた。微細な菌が、こまかに
縺
(
もつ
)
れた
蜘蛛
(
くも
)
の巣のようになって
檐
(
のき
)
から垂れさがり、建物の外側一面を
蔽
(
おお
)
いつくしている。
アッシャー家の崩壊
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
日が落ちたと見えて、窓の外が
蒼然
(
そうぜん
)
と暗くなった。夕闇がもたれかかった障子に
蛾
(
が
)
が一匹音を立てた。気が
欝
(
うっ
)
して、背筋が固くなったような気がする。旅川が話し出した。
風宴
(新字新仮名)
/
梅崎春生
(著)
妾
(
わらわ
)
に
跟
(
つ
)
いてこっちへと、
宣示
(
のりしめ
)
すがごとく大様に申して、粛然と立って導きますから、
詮方
(
せんかた
)
なしに
跟
(
つ
)
いて行く。土間が冷く
踵
(
くびす
)
に障ったと申しますると、早や小宮山の顔色
蒼然
(
そうぜん
)
!
湯女の魂
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
驚きしも
宜
(
うべ
)
なりけり、
蒼然
(
そうぜん
)
として死人に等しきわが
面色
(
めんしょく
)
、帽をばいつのまにか失い、髪はおどろと乱れて、幾度か道にてつまずき倒れしことなれば、衣は
泥
(
どろ
)
まじりの雪によごれ
舞姫
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
伊豆の
修禅寺
(
しゅぜんじ
)
に
頼家
(
よりいえ
)
の
面
(
おもて
)
というあり。作人も知れず。由来もしれず。木彫の
仮面
(
めん
)
にて、年を経たるまま面目分明ならねど、いわゆる古色
蒼然
(
そうぜん
)
たるもの、
観
(
み
)
来たって一種の詩趣をおぼゆ。
修禅寺物語
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
万年草
(
まんねんそう
)
御廟の
辺
(
ほとり
)
に生ず
苔
(
こけ
)
の
類
(
たぐひ
)
にして根蔓をなし長く地上に
延
(
ひ
)
く処々に茎立て高さ一寸
許
(
ばかり
)
細葉多く
簇
(
むらがり
)
生
(
しょう
)
ず採り来り貯へおき年を経といへども一度水に浸せば
忽
(
たちまち
)
蒼然
(
そうぜん
)
として
蘇
(
そ
)
す此草漢名を
植物一日一題
(新字新仮名)
/
牧野富太郎
(著)
飛ばしてきた古色
蒼然
(
そうぜん
)
たるロオドスタアがキキキキ……と止って、なかから、
噛
(
か
)
み
煙草
(
たばこ
)
を
吐
(
は
)
きだし、
禿頭
(
はげあたま
)
をつきだし、
容貌魁偉
(
ようぼうかいい
)
な
爺
(
じい
)
さんが、「ヘロオ、ボオイ」と
嗄
(
しゃが
)
れた声で、呼びかけ
オリンポスの果実
(新字新仮名)
/
田中英光
(著)
もっとも、本体の石神様自身が、神か仏かただの人間か、古色
蒼然
(
そうぜん
)
として、名もなく、わけもわからぬお
像
(
すがた
)
を持っているのでありますから、
祭祀
(
さいし
)
の方法もまた、これでいいのかも知れません。
江戸三国志
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
二人は足袋屋の横町を曲って、酒井子爵邸の古色
蒼然
(
そうぜん
)
とした門の前を歩く。
新版 放浪記
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
如何
(
いか
)
にも古色
蒼然
(
そうぜん
)
として、一見古代生物の異風をそなえた
曲者
(
くせもの
)
であった。
イグアノドンの唄:――大人のための童話――
(新字新仮名)
/
中谷宇吉郎
(著)
どこかわからないまま睡っておりました草原の中から頭を
擡
(
もた
)
げますと、折りから降り出した
時雨
(
しぐれ
)
の中に、
蒼然
(
そうぜん
)
と明け離れて行く宮城の
甍
(
いらか
)
を仰ぎました瞬間に、思わず濡れた草の中に正座しました。
暗黒公使
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
寺域を囲む
築地
(
ついじ
)
もむろんわずかしか残っていない。松の大樹と雑草につつまれて
蒼然
(
そうぜん
)
たる有様である。
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
流体力学の専門家はその古色
蒼然
(
そうぜん
)
たる基礎方程式を通してのみしか流体を見ないから、いつまでたってもその方程式に含まれていない種類の現象に目の明く日は来ない。
物理学圏外の物理的現象
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
香取の顔色は
蒼然
(
そうぜん
)
として変って来た。彼女は身を床の上に
俯伏
(
うつぶ
)
せた。が、再び
弾
(
はじ
)
かれたように頭を上げると、その
蒼
(
あお
)
ざめた頬に涙を流しながら、声を
慄
(
ふる
)
わせて長羅にいった。
日輪
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
活気は少年の満面に
溢
(
あふ
)
れて、
蒼然
(
そうぜん
)
たる暗がりの
可恐
(
おそろ
)
しい
響
(
ひびき
)
の中に、灯はやや
一条
(
ひとすじ
)
の光を放つ。
黒百合
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
その外坐舗一杯に敷詰めた
毛団
(
ケット
)
、
衣紋竹
(
えもんだけ
)
に釣るした
袷衣
(
あわせ
)
、柱の
釘
(
くぎ
)
に懸けた
手拭
(
てぬぐい
)
、いずれを見ても皆年数物、その証拠には
手擦
(
てず
)
れていて古色
蒼然
(
そうぜん
)
たり。だが
自
(
おのずか
)
ら秩然と
取旁付
(
とりかたづい
)
ている。
浮雲
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
一度びは
猛
(
たけ
)
き心に天主をも
屠
(
ほふ
)
る勢であった寄手の、何にひるんでか
蒼然
(
そうぜん
)
たる夜の色と共に城門の外へなだれながら吐き出される。
搏
(
う
)
つ音の絶えたるは一
時
(
じ
)
の間か。暫らくは鳴りも静まる。
幻影の盾
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
地も空も
蒼然
(
そうぜん
)
と
昏
(
く
)
れ、時々坊岬灯台の光の束が、空を
薙
(
な
)
いで走る。石段も暗く、手をつなぎ合って、そろそろと降りた。しめった掌を離すと、女は道を降り、ダチュラの花を四つ五つ
摘
(
つ
)
んで来た。
幻化
(新字新仮名)
/
梅崎春生
(著)
周囲にめぐらした
土塀
(
どべい
)
も崩れ、山門も傾き、そこに
蔦
(
つた
)
がからみついて
蒼然
(
そうぜん
)
たる
落魄
(
らくはく
)
の有様である。
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
絹のごとき
浅黄
(
あさぎ
)
の幕はふわりふわりと幾枚も空を離れて地の上に
被
(
かぶ
)
さってくる。払い
退
(
の
)
ける風も見えぬ往来は、夕暮のなすがままに静まり返って、
蒼然
(
そうぜん
)
たる大地の色は刻々に
蔓
(
はびこ
)
って来る。
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
色がいいから
紅茸
(
べにたけ
)
などと、二房一組——色糸の
手鞠
(
てまり
)
さえ随分糸の乱れたのに、
就中
(
なかんずく
)
、
蒼然
(
そうぜん
)
と古色を帯びて、しかも精巧目を驚かすのがあって、——中に、可愛い娘の
掌
(
てのひら
)
ほどの
甜瓜
(
まくわ
)
が、
一顆
(
ひとつ
)
。
河伯令嬢
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
こういうトピックスで
逆毛
(
さかげ
)
立った高速度ジャズトーキーの世の中に、彼は一八五〇年代の学者の行なった古色
蒼然
(
そうぜん
)
たる実験を、あらゆる新しきものより新しいつもりで繰り返しているのであろう。
野球時代
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
あざやかなる織物は往きつ、戻りつ
蒼然
(
そうぜん
)
たる夕べのなかにつつまれて、
幽闃
(
ゆうげき
)
のあなた、
遼遠
(
りょうえん
)
のかしこへ一分ごとに消えて去る。
燦
(
きら
)
めき渡る春の星の、
暁
(
あかつき
)
近くに、紫深き空の底に
陥
(
おち
)
いる
趣
(
おもむき
)
である。
草枕
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
始めのうちは振動の問題や海の色の問題や、ともかくも見たところあまり先端的でない、新しがり屋に言わせれば、いわゆる古色
蒼然
(
そうぜん
)
たる問題を、自分だけはおもしろそうにこつこつとやっていた。
時事雑感
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
いま辻町は、
蒼然
(
そうぜん
)
として
苔蒸
(
こけむ
)
した一基の石碑を片手で抱いて——いや、抱くなどというのは
憚
(
はば
)
かろう——霜より冷くっても、千五百石の
女﨟
(
じょうろう
)
の、石の
躯
(
むくろ
)
ともいうべきものに手を添えているのである。
縷紅新草
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
夫人の面は
蒼然
(
そうぜん
)
として
外科室
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
“蒼然”の意味
《名詞》
青々としているさま。
薄暗いさま。
古びているさま。
(出典:Wiktionary)
蒼
漢検準1級
部首:⾋
13画
然
常用漢字
小4
部首:⽕
12画
“蒼然”で始まる語句
蒼然色