“膠(にべ)” の例文
膠(にべ)もなく断わる感じで、普段なら、「これ以上肥ったら大変だから」といったような冗談口のあってしかるべきところだったが……。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
「おやじの血が騒ぐから」と膠(にべ)もなくはねつけ、倫子のほうも、てんで問題にしなかったというような噂も聞いた記憶があった。
川波 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「……五十七番地」はその店たった一けんの小さな自転車屋へ入って訊いてもそんな番地は聞いたこともないという膠(にべ)もない返事だった。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
自分をさして、ご老台とよぶのは、義経の揶揄(やゆ)である。景時はもうそんな感情をゆり動かしながら膠(にべ)もなく云い返した。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
膠(にべ)もない、活気もない、艶も光もない渋紙色した彼の顔面に相当する彼の声は、常に雑音で低調で、平板である。
逆徒 (新字旧仮名) / 平出修(著)
道庵先生が言下に首を横に振ってしまったものですから、お雪ちゃんも、あんまり膠(にべ)のないのに少々狼狽(ろうばい)気味でした。そこを道庵が一杯ひっかけながら
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と膠(にべ)もなく、一喝(いつかつ)をしたかと思(おも)ふと、仙人(せんにん)どのと覺(おぼ)しき姿(すがた)、窓(まど)から飛(と)んで雲(くも)の中(なか)、山(やま)へ上(のぼ)らせたまひけり。
鑑定 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
これは其方に御納めを、と心は左程に無けれども言葉に膠(にべ)の無さ過ぎる返辞をすれば、源太大きに悦ばず。
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
彼は當時同じ不幸にあへるものに、同じ憐を垂れざることを得たりしか。われは讀むところの詩なるを忘れつ。沸きかへる膠(にべ)の海より聞ゆる苦痛の聲は、我胸を衝(つ)きたり。
平次は膠(にべ)もなく冷たく言い切って、巳之松の持って来た薬包を開いて見ました。
「いや、鹿児島やつたらお断りしまんね。」梅玉の返事には膠(にべ)も艶(つや)もなかつた。
ぶすりと膠(にべ)ない容子(ようす)でも表面(へうめん)に現(あらは)れたよりも暖(あたゝ)かで、女(をんな)に脆(もろ)い處(ところ)さへあるのであつた。彼(かれ)が盛年(さかり)の頃(ころ)に他人(たにん)の目(め)についたのは、自分自身(じぶんじしん)の仕事(しごと)には餘(あま)り精(せい)を出(だ)さないやうに見(み)えることであつた。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
で、膠(にべ)もなく拒絶した。しかし彼はなかなか引き退(さが)らない。
友(とも)とし樂(たのし)みゐるこそ樂みなれと最(いと)物堅き長三郎が回答(いらへ)に膠(にべ)なく言放(いひはな)すに忠兵衞今は詮方(せんかた)なく是ほど迄に勸めるに承引(うけひく)景状(けしき)あらざるは世に偏屈(へんくつ)なる若旦那と霎時(しばし)呆(あき)れて居たりしが屹度(きつと)意(こゝろ)に思ひ附く事や有けん膝(ひざ)を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そう膠(にべ)なくいっては話も何もできはしないがな。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そうして景気よくまず呼鈴を鳴らした。——が、出て来たのは顔を知らない女中で、先生はお留守でございます……膠(にべ)もなくそういった。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
「何にも喰べられやしませんわ。」と膠(にべ)の無い返事をして、菊枝は何か思出してまた潸然(さめざめ)とするのである。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
で——店の者には、小口の仕入(しい)れに来た、たばこ行商人と分っておりましたが、べつにお世辞の相槌(あいづち)も打たず、九兵衛も手代も膠(にべ)もなく黙っておりますと、男は
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と小人の常態(つね)とて語気たちまち粗暴(あら)くなり、膠(にべ)なく言い捨て立たんとするにあわてし十兵衛、ではござりましょうなれど、と半分いう間なく、うるさい、喧(やかま)しいと打ち消され
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
と白雲が膠(にべ)なくいいました。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
アコ長は、膠(にべ)もなく
顎十郎捕物帳:23 猫眼の男 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「どうぞその後を、それから。」と聞く身には他事をいううちが牴牾(もどか)しく、膠(にべ)もなく続きを促(うなが)した。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
膠(にべ)のない若衆である。そういってまた他念なく、小猿の毛を指で掻き分けているのであった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と心はさほどになけれども言葉に膠(にべ)のなさ過ぎる返辞をすれば、源太大きに悦ばず。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ずけりと膠(にべ)もなく三浦はこたえた。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
膠(にべ)もない挨拶である。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
膠(にべ)もない言葉である。
ここは構わないで、湯にでも入ったら可(よ)かろうと、湯治の客には妙にそぐわない世辞を言うと、言(ことば)に随(つ)いて、ではそうさして頂きます、後生ですわ、と膠(にべ)もなく引退(ひきさが)った。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いぶかる妹を、膠(にべ)もなく後宮へ追い立て、孫権はすぐ政閣へ歩を移して、群臣に宣言した。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
膠(にべ)もなく小倉もいった。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
源内先生は膠(にべ)もなく
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
と膠(にべ)も無く云放つ。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
御勝手(ごかつて)になさい、膠(にべ)のないこと夥(おびたゞ)しい。然(さ)やうでございませうとも、成程(なるほど)晴(は)れたのではない。窓(まど)をたよるほど暗(くら)さが増(ま)して気(き)の滅入(めい)る事(こと)又(また)夥(おびたゞ)しい。私(わたし)は家(いへ)が恋(こひ)しくなつた。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
少し気色も直して調子づいて来た吉次のことばを、牛若はまた、膠(にべ)もなくヘシ折って
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
藤波は膠(にべ)もなく
顎十郎捕物帳:07 紙凧 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「何(ど)うぞ其後(そのあと)を、それから、」と聞(き)く身(み)には他事(たじ)をいふうちが悶(もど)かしく、膠(にべ)もなく続(つゞき)を促(うなが)した。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
と、この納所は、武蔵を追っ払おうとするのが肚か、いよいよ膠(にべ)も素(そ)っ気(け)もない。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、膠(にべ)もない。
顎十郎捕物帳:10 野伏大名 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
光秀もその真情にたいしては、膠(にべ)ない顔はできなかったが、左馬介の語ることのほとんどが自然の風物であり人事以外のことだった。光秀の心にはどうしても染まって来ないものばかりだった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と膠(にべ)もなく、虞氏(ぐし)が涙(なんだ)を斥(しりぞ)けて
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、膠(にべ)もない。
このお相手は、膠(にべ)も世辞もない。坐ってはいるが、いるだけである。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と玄蕃允は、やや機嫌を直したが、大金と木下には依然、膠(にべ)もなく
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「まあ何という膠(にべ)もないお言葉。殿方の薄情けを真にうける女子は浅慮(あさはか)かも知れませぬが、妾はどうあっても、そんな近い日にお帰し申すのは嫌じゃ、覚明様、その心意(つもり)でおいでなされませの……」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
などと膠(にべ)なくそれを突っ返し、超然、物や黄金には目をくれない。
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なに、父のいいつけだと。……姫山の館へ立ち寄って、お別れのご挨拶を申しあげた折は、あのように膠(にべ)なく、はやく立て、何を恋々としておるかなどと、此方の未練を叱るように追い立てながら」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、謹んで膝を進めかけると、勝家は膠(にべ)なく手を逸(そ)らして
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
膠(にべ)もなく、小六は、彼の口上(こうじょう)の出ばなをヘシ折った。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
膠(にべ)もなく、お杉はひとりで、玄関から出て行った。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ないなあ、そんな気は」と、膠(にべ)なく、いった。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)