脾腹ひばら)” の例文
捨身の庖丁にしたたか胸を刺されて、一人がだあっとふすまもろ共倒れる。その脇から、残った一人が短刀を抜きざま正吉の脾腹ひばらへひと突き
お美津簪 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
さっと立ち上がると、懐中奥深く忍ばしていたドスを抜き払って、名人の脾腹ひばら目がけながら突き刺しました。と見えたのは一瞬です。
十余名の力者りきしゃは一斉におどり出して、二人へ組みつき、左右から脾腹ひばらに短剣を加え、袁煕、袁尚ともども無造作に首にしてしまった。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その声を聞いて近所の人達が駈け付けたときには、お北はもう正気を失っていた。跳ねあがった溝板で脾腹ひばらを強く突かれたのであった。
半七捕物帳:06 半鐘の怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そのとき、母親ははおやのやせた姿すがたが、西日にしびけて、屋根やね灰色はいいろながかげをひきました。のつやもなく、脾腹ひばらのあたりは骨立ほねだっていました。
どこかに生きながら (新字新仮名) / 小川未明(著)
ダッ! と片脚あげて与吉の脾腹ひばらを蹴ったと見るや、胡麻ごまがら唐桟とうざんのそのはんてんが、これは! とよろめく与吉の面上に舞い下って
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
鼻介が笑いながらヒジを放して、軽く脾腹ひばらをつくと、飛作はググッと蛙の一声を発してグニャグニャ倒れてノビてしまった。
男はすでに立ち上がっていたが、無言で、十手で新助の脾腹ひばらを、一突き突いて他愛なく倒し、逃げて行くお浦の後を追った。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
やい、しっかりしろ。と励ませば、八蔵はようように、脾腹ひばらを抱えて起上り、「あいつ、あ痛。……おお痛え、痛え、畜生非道ひどいことをしやあがる。 ...
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたしはまだいままでに、あのくらゐ氣性きしやうはげしいをんなは、一人ひとりことがありません。もしそのときでも油斷ゆだんしてゐたらば、一突ひとつきに脾腹ひばらかれたでせう。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
然し石山の馬は、口綱をとって行く主人と調子が合わなかった為、一寸した阪路を下る車に主人は脾腹ひばら太腿ふとももをうたせ、二月も寝る程の怪我をした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
といいながら、目をつぶって、床の上に寝倒れると、木村の手を持ち添えて自分の脾腹ひばらを押えさして、つらそうに歯をくいしばってシーツに顔をうずめた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
あつしの背後へ廻つた味噌摺みそすり用人奴、小笠原流で靜々とした起ち居振舞ひだから、うつかり油斷をして居ると、横合ひから、あつしの脾腹ひばらへどかんと來た。
しかしことばもなく脾腹ひばらをおさえたまま、左肩はダラリと首のつけねからたれさがって、髪のみだれかかったうつくしい顔半面は、紅にそまっております。
亡霊怪猫屋敷 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「おお、荘厳なる雷よ! さあ、万丈の天空より一瞬のうちに落下して、脳天をうち砕き、脾腹ひばらをひき裂け!」
(新字新仮名) / 海野十三(著)
彼は手ぬるい鞭を投げ捨てて、足を上げると、固い靴のかかとで、いやと云う程、文代の脾腹ひばらを蹴りつけた。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
きゃっと云いましたからびっくりして机から落ちたとまでは覚えておりましたが、其の折何処か脾腹ひばらでも打ちましたか、それから先は夢のようでとんと解りません
と、いで来るのを、かわしてやりすごすと同時に、左手の拳がパッと伸びて、十分に、脾腹ひばらにはいった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
牡牛が、羆の前足で、たれない裡に、その鉄のような角を、敵の脾腹ひばらへ突き通せば牡牛の勝利です、妾も、自分のみさおを汚されない裡に、立派にあの男を倒してやりたいと思います。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
脾腹ひばらが痛む、そして高い熱が出る。たかしは腸チブスではないかと思った。枕元で兄が
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
透明人間がま近にきたな、と感じた瞬間しゅんかん、ケンプ博士は、したたかにあごに一げきをくらった。倒れたところを脾腹ひばらをけられ、つづいて胸を重いものがおさえつけ、のどをしめつけられた。
お角は我を忘れてがんりきを呼ぶ途端に、一人の覆面のために烈しく地上へ投げ出され、その拍子に路傍の石で脾腹ひばらを打ってウンと気絶してしまったから、その後のことは何とも分りません。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
黄金丸は鷲郎とおもてを見合せ、「ぬかり給ふな」「脱りはせじ」ト、互に励ましつ励まされつ。やがて両犬進み入りて、今しも照射ともしともろともに、岩角いわかどを枕としてねぶりゐる、金眸が脾腹ひばらちょうれば。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
脾腹ひばら突込つゝこみぐつと一ゑぐりゑぐりし時重四郎は荼比所だびしよ火影ひかげかほ見逢みあはせヤア三五郎か重四郎殿好機しつくり參つて重疊々々ちようでふ/\扨此樣子は先刻さつき用事ようじあつて貴殿の宅へ參りし所何か人聲がする故樣子有んとうかゞへば金兵衞が子分共こぶんども我を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
長助はぐさりと一突き脾腹ひばらをやられてすでにまったくこと切れていたので、いっせいに人たちの口からは驚きの声が上がりました。
其角が伸上って、助けてくれ! と叫ぼうとしたとたん、駕籠の垂の間から、すっと白刃が出て、其角の脾腹ひばらへぐいと差しつけられた。
其角と山賊と殿様 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
下からは、やりをならべた一隊がせまり、そのなかなる、まッ先のひとりは、流星のごとく忍剣の脾腹ひばらをねらって、やりをくりだした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれは武士に手ひどく投げつけられたはずみに、樹の根か杭かで脾腹ひばらを打たれたのであろう、片足を水にひたして息が絶えていた。
半七捕物帳:19 お照の父 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
五兵衛の脾腹ひばらに突きささっている一本の小柄こづか。手裏剣に用いるものだ。刃の根元まで突きこんでいるが出血は少い。
わたしはまだ今までに、あのくらい気性のはげしい女は、一人も見た事がありません。もしその時でも油断していたらば、一突きに脾腹ひばらを突かれたでしょう。
藪の中 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
これは火事でも起ったのかと思い、戸口を開けてやみ戸外そとへ一歩踏み出した途端とたんに、脾腹ひばらをドスンと一つきやられて、そのまま何もかも判らなくなりました。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
こすっては消し擦っては消し、ようようけたる提灯の燈明あかりてらせば、煉瓦れんがの塀と土蔵の壁との間なる細き小路に、やつれたる婦人俯伏うつぶしになりて脾腹ひばらおさ
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と陸奥守が、喚きを上げて起き上がり、逃げようとする脾腹ひばらあたりを、金剛杖の二度目の突きが突いた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
左膳をめがけて跳躍にうつろうとしていた大垣七郎右衛門の脾腹ひばらを、ななめに斬りさげた。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ビッショリと汗を掻いたその掻いた汗の中から、また冷たいものがたらたらと脇の下から脾腹ひばらへかけて伝わってきた。そしてこの時ほど私は人家の灯を恋しく思ったことはなかった。
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
この有様を見ると、お蘭は「あゝなさけない」と机を下りにかゝると、踏み外ずすとたんに脾腹ひばらを打ちまして、お蘭は気絶致しましたが、是から何うなりますか、次のくだりに申し上げます。
最初に出た小姓頭の男はかねがね忠直卿の猛勇を恐れているだけに、槍を合わすか合わさぬかに、早くも持っていた槍を巻き落されて、脾腹ひばらの辺を突かれると、悶絶せんばかりにへたばってしまった。
忠直卿行状記 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
のどを掻き切って、なお、手から離さずにいた短刀で、光安入道は、云い終るなり、よろいの胴のすきまから脾腹ひばらへそれを突き立てて果てた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
真向と脾腹ひばらを存分に斬られて、二人のからだまりのように飛ぶ、と見た次の刹那には、三樹八郎の躰は左手の一団のまっただ中へ
武道宵節句 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
よし重量のある鉄扇で急所の脾腹ひばらを襲われたとしても、距離は少なくも六七間以上離れた遠方からでしたから、どんなに心得ある達人が打ったにしても
人丸堂の前まで来かかった時に、さっきの男が何処からか現われて、突然に娘の脾腹ひばらを突いたのであるという。
半七捕物帳:49 大阪屋花鳥 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
相手は中々手強てごわい。私の左腕はちぎれるように痛みを増した。急場きゅうばだ、ヒラリと二度目に怪漢の腕をさけると、三度目には身を沈め、下から相手の脾腹ひばらを突き上げた。
空中墳墓 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ひとりは人の袖をひき、ひとりはわが口を両手に抑え、ひとりは己れの頭をたたき、またひとりは脾腹ひばらを抑え、百態の限りをつくして、ののしり、笑いさざめいていた。
閑山 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
こゑなかあツ一聲ひとこゑ床几しやうぎからころちさう、脾腹ひばらかゝへてうめいたのは、民子たみことも與曾平親仁よそべいおやぢ
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
二の太刀はわたくしの羽織のそでを五寸ばかり斬り裂きました。わたくしはまた飛びすさりながら、抜き打ちに相手を払いました。数馬の脾腹ひばらを斬られたのはこの刹那せつなだったと思いまする。
三右衛門の罪 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
醜い争いが深夜まで続いた後、折柄しの突くばかりの土砂降りの中をお銀は戸外へ不貞腐れて出たのだった。後を追って助三郎が格子へ手を掛けた時、雨に濡れた冷たい刃物が彼の脾腹ひばらえぐった。
脾腹ひばらを岩などで打ったからであろう、茅野雄は谷底で意識を失った。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
敵の突き出した鎗が、縅の裏をかいて彼の脾腹ひばらを貫いていた。
(新字新仮名) / 菊池寛(著)
足を挙げてその脾腹ひばらと思うあたりを力一杯蹴上げてくれた。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
はて? とひとみをさだめてみると、その脾腹ひばらへうしろ抱きに脇差わきざしをつきたてていたのは、いつのまに飛びよっていたか武田伊那丸たけだいなまるであった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)