脇息きょうそく)” の例文
しかし光秀はまだ懐紙に手もふれていないし、そのひじは、脇息きょうそくに託し、そのおもては、若葉時特有なそよぎを持つ庭面にわもの闇へ向けていた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
繊細な人情の扱われる話になってから、玉鬘は脇息きょうそくによりかかりながら、几帳の外の源氏のほうをのぞくようにして返辞を言っていた。
源氏物語:31 真木柱 (新字新仮名) / 紫式部(著)
と玄心斎が敷居際に手をついたとき、源三郎は、座敷の真ん中に、倒した脇息きょうそくを枕にして——眠ってでもいるのか、答えは、ない。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
脇息きょうそくによりかかりながら、やっと筆を手にして、遺書と云うほどのものではないが、ともかくもあの方に道綱の事をくれぐれもお頼みし
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
書院というは名ばかり、几帳きちょう簾垂すだれ、脇息きょうそくしとね、目にうつるほどのものはみな忍びの茶屋のかくれ部屋と言ったなまめかしさなのです。
けば/\しい金蒔絵きんまきえ衣桁いこうだの、虫食いの脇息きょうそくだの、これ等を部屋の常什物にして、大きなはい/\人形だの薬玉くすだまの飾りだの、二絃琴にげんきんだの
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「討手を出せ、余の申しつけだ」右京亮はこぶし脇息きょうそくを打ちながら叫んだ、「——弓、鉄砲を持って取詰めろ、手に余らば火をかけて焼き払え」
初夜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
お君は脇息きょうそくの上に両肱りょうひじを置いて、暫らくの間、ほてる面を押隠していましたが、そのうちにウトウトと眠気がさしてきました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
肥満した、赤ら顔の、八字ひげの濃い主人を始として、客のそばにも一々毒々しい緑色の切れを張った脇息きょうそくが置いてある。
鼠坂 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
通されたのは二階の奥の、八畳か十畳程の座敷である。先づ座布団と脇息きょうそくが出て、次に燭台が四つ運ばれると、スイツチを拈つて電燈を消して了ふ。
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
藤十郎は、人影の見えぬのを心の中によろこんだ。彼は、床の間に置いてあった脇息きょうそくを、取り下すと、それに右のひじもたせながら、身を横ざまに伸したのである。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
正面には唐銅からかねの大火鉢へ、銀の網の上から手をかざして、五十年輩の立派な人物が坐り、脇息きょうそくもたれたまま、寛達な微笑をさえ浮べてこっちを眺めているのでした。
しかしそのときの邦夷はとうとしなかった。大儀げに脇息きょうそくもたれかかって、ひざをくずしたむぞうさな姿勢になっていた。彼の前では見る見る座が崩れて行った。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
そうして大名は芝居でするように、厚座蒲団の上に座ってかたわらに脇息きょうそくを置いて澄ましていたろう。
丸の内 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
浪路は、片手を脇息きょうそくにかけて、紅唇にほほえみをうかべようとするのだったが、その微笑は口ばたにこわばりついて、かえって、神経的な痙攣けいれんをあらわすにすぎなかった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
寝床の後ろには、古雅な山水の絵の描かれた屏風びょうぶが立て回してある。まくらもとに脇息きょうそくと小さな机。机の上に経書、絵本など二、三冊置いてある。薬壺くすりつぼ、湯飲み等を載せた盆。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
委細いさいかまわずそのまま縁からおあがりなさって、差しおきました緋色繻珍ひいろしゅちんしとねに御着座になり、脇息きょうそくに肘などをおつきなされ、尊大なる御様子にて半刻ほどお待ちねがいます。
顎十郎捕物帳:16 菊香水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
小肥満こぶとりのした体を脇息きょうそくにもたして、わざとを遠くの方へ置きながら、二人の少女にうしろからあおがし、庭の樹木の間から見える鵜飼うかいの火を見るともなしに見ているところであった。
赤い土の壺 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
例の大船で一艘いっぱい積出す男は、火のない瀬戸の欠火鉢をわきに、こわれた脇息きょうそく天鵝絨びろうど引剥ひきはがしたような小机によっかかって、あの入船帳にひじをついて、それでも莞爾々々にこにこしている……
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
通されて二階に上ると、伯父は座敷の真中の蒲団の上に起きて、古ぼけた脇息きょうそくもたれて坐っていた。伯父は三造を見ると非常に——滅多に見せたことのないほどの——嬉しそうな顔をした。
斗南先生 (新字新仮名) / 中島敦(著)
(居間に上って、粗末な脇息きょうそくをすすめる)さあ、さあ、どうぞひとつ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
脇息きょうそくに、ほっそりした被布ひふ姿をよりかからせていたお蓮様は、ホッと長い溜息とともに、眉のあとの赤い顔をあげるのも、ものうそう……。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
部屋の御簾みすは皆上げて、脇息きょうそくの上に帳を置いて、縁に近い所でゆるやかな姿で、筆の柄を口にくわえて思案する源氏はどこまでも美しかった。
源氏物語:32 梅が枝 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ひざまずいて見ると、病人はいつも寝くたびれた時するように、自分で窓をあけ、枕を脇息きょうそくにして、床のうえに坐っていた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
城主丹羽にわ長国は、置物のようにじっと脇息きょうそく両肱りょうひじをもたせかけて、わざとあかりを消させた奥書院のほの白いやみの中に、もう半刻はんとき近くも端座しなが
十万石の怪談 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
と云っても別にものものしくはせず、ただ脇息きょうそくの上に香を盛った土器かわらけを置いたぎりで、その前で一心に仏にお祈りした。
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
脇息きょうそくにおよりあそばして、うつら/\まどろんでいらっしゃるのかと思われましたが、そうではなくて、とき/″\ほっとといきをついていらっしゃいます。
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その時、夫人は、脇息きょうそくのようにひじを置いていた経机へ、正面に向き直りましたから、今まで蔭になっていた床の間の画像が、ありありと見え出してきました。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
広間の中央、床柱を背にして、銀燭ぎんしょくの光を真向に浴びながら、どんすの鏡蒲団かがみぶとんの上に、ったりと坐り、心持脇息きょうそくに身をもたせているのは、坂田藤十郎であった。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
妓は脇息きょうそくを横にし、ふところ紙を当てて、主計に枕をさせた。その妓は若くて、名は小光というのだ。主計は眼をあげてお袖という年増を見、どうしたんだと云った。
古今集巻之五 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
高麗縁こうらいべりの青畳の中、脇息きょうそくもたれて、眼をやると、鳥の子に百草の譜を書いた唐紙、唐木に百虫の譜を透かし彫にした欄間らんまぎょくを刻んだ引手やくぎ隠しまで、この部屋には何となく
そういうと、曙染めの小袖こそでたもとに顔をおしあてて泣きだした。播磨守は脇息きょうそくを押しのけてしとねから膝を乗りだし、崩れた花のようなお糸の方の襟足のあたりを、強い眼つきで睨めつけた。
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
金屏風の背後うしろから謹んで座敷へ帰ったが、上段のの客にはちと不釣合な形に、脇息きょうそくを横倒しに枕して、ごろんとながくなると、瓶掛の火が、もみじをいたようにかッと赤く、銀瓶の湯気が
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
脇息きょうそくに手を置き春を惜みけり
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
で、坐り直ると、脇息きょうそくをかかえて、うつらうつらと居眠っていた万太郎も、さっぱりと疲れの癒えたように冴えた顔をして
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
風がすごく吹く日の夕方に、前の庭をながめるために、夫人は起きて脇息きょうそくによりかかっているのを、おりからおいでになった院が御覧になって
源氏物語:41 御法 (新字新仮名) / 紫式部(著)
脇坂山城守は、縁端えんばた近く脇息きょうそくをすすめて、客に対座している。山城守は、相撲すもう取りのように肥った人だ。動くと、脇息が重みに耐えてギシと鳴る。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
昼にここから見た打出うちでの浜の光景が、畳と襖一面にぶち抜いて、さざなみや志賀の浦曲うらわの水がお銀様の脇息きょうそくの下まで、ひたひたと打寄せて来たのでありました。
ずんぐりとした好きしゃらしい脂肉あぶらじしを褥の上からねじ向けて、その主計頭がいとも横柄に構えながら、二万四千石ここにありと言いたげに脇息きょうそくもろ共ふり返ったのを
お遊さんはその奥の方に上段の間こそありませぬけれども脇息きょうそくにもたれてすわっている
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
家扶は迷って、助言をうように甲斐を見た。甲斐は立ちあがって、手を貸そうと云い、家扶と二人で、新左衛門の半身を起こし、前に脇息きょうそくを置いて、もたれかかるようにしてやった。
近頃は作者夥間なかまも、ひとりぎめに偉くなって、割前の宴会のみかいの座敷でなく、我が家の大広間で、脇息きょうそくと名づくる殿様道具のおしまずきって、近う……などと、若い人たちをあごさしまね剽軽者ひょうきんものさえあると聞く。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と仰せになって、御心みこころは冷静でありえなくおなりになるのであろうが、じっと堪えて脇息きょうそくによりかかっておいでになった。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
脇息きょうそくに頬杖をついて、ジッと、夜更けを起き澄ましている万太郎の心に、あの白い手にき出された時の、紫頭巾の蠱惑こわくな顔が浮かび出ました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うすあばたの顔に切れの長い眼をとろんとさせて、倒した脇息きょうそくを枕に、鈴川源十郎はほろ酔いに寝ころんでいる。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それを、また、いい気になってその隣りの一間で、脇息きょうそくひじを置いて、しきりに眺めている人があります。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこの脇息きょうそくに腰打ちかけると、文庫の中の奉書ほうしょを取り出して、さらさらと達筆に書きしたためました。
此の老女は比較的身分が高いので皆の尊敬を集めていたらしく、厚いしとねの上にすわって、脇息きょうそくひじをついて、二十人程の一団が輪を作っている中心のような位置に座を占めていた。
……夫人、獅子頭に会釈しつつ、座に、しとねに着く。脇息きょうそく
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その夜愛宕あたごの下屋敷では、脇息きょうそくにもたれて松平忠房が、さっきから自鳴鐘とけいばかり睨んで、仇討の首尾如何にやと、しきりに気懸りな様子である。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)