肋骨あばらぼね)” の例文
五ヵ月ぶりで一切経いっさいきょうの中から世間へ出た時の範宴はんえんのよろこびは、大きな知識と開悟とに満たされて、肋骨あばらぼねのふくらむほどであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
洗濯板のようになった肋骨あばらぼね露出こっくりだいてヒョックリヒョックリと呼吸いきをするアンバイが、どうやら尋常事ただごとじゃないように思われて来ました。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
射手たちはこのひッきりなしに襲ってくる水攻めに絶えず身をかがめ、犬も悲しげに尾を垂れて、肋骨あばらぼねのうえに毛をぺッたりくッつけていた。
寡婦 (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
文治は突然いきなりおあさのたぶさを取って二畳の座敷へ引摺り込み、此の口で不孝をほざいたか、と云いながら口を引裂ひっさ肋骨あばらぼね打折ぶちおひどい事をしました。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
胸の肉が膨らんでいて下の方へ手を当ててみると肋骨あばらぼね中央まんなかの一番しまいが突出てとがって、それで柔いのは若鳥の証拠です。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
どうもね、女は子を産んじゃあ不可いけねえ。ひどくやつれてみっともなくなる。肋骨あばらぼねなどがギロギロする。もっとも金持の家庭なら、一人ぐらいはいだろう。
隠亡堀 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
だが、夜が明けると狐どもは立去り、樹を降りると幹には鋸のあともなく、そこらに牛の肋骨あばらぼねが五、六枚おちてゐた。
春宵戯語 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
「けれどもナカ/\面白いのよ。神さまがアダムの肋骨あばらぼねでエバを拵えたというのは、元来間違っているんですって」
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
汝思へらく、己があぢはひのため全世界をしてあたひを拂はしめし女の美しき頬を造らんとて肋骨あばらぼねを拔きし胸にも 三七—三九
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
胸の隅々くまぐまに、まだその白いはだ消々きえぎえに、うっすらと雪をかついで残りながら、細々と枝を組んで、肋骨あばらぼねが透いて見えた。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼女は口と頭のまわりとを強く壓迫されながらかろうじて殿様に声をかけたが、同時に肋骨あばらぼねのあたりにしたゝか打撃を加えられて、そのまゝ前後不覚になった。
肋骨あばらぼねが折れて、水を呑んで居なかつたので、人に殺されてから水へ投り込まれたと解り、いろ/\調べると、甚五兵衞の用箪笥だんす抽斗ひきだしから、書置きが出て來た。
そして私の怒りは隣室でバタ/\団扇を動かすうちの者の気勢けはひにも絶間なく煽られてゐた。胸に湧出る汗は肋骨あばらぼねの間を伝つてチヨロリ/\と背の方へ落ちて行つた。
氷屋の旗 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
と、首領は全身をブルブル震わし、銃口をグイグイと帆村の肋骨あばらぼねりつけたが、引金を引くと一大事となるので、歯をギリギリ云わせて射撃したいのをこらえた。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「おれは飲みに出ちゃったんだ、飲みに出なければ逆に肋骨あばらぼねの二三本は叩き折ってやったんだが」
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
蛇の胴の脊髄とほとんど相応した多数の肋骨あばらぼねを、種々変った場面に応じて巧く働かせて行き走る。
父子おやこはここに腰をおろして、見るとも無しに瞰上みあげると、青い大空をさえぎる飛騨の山々も、昨日今日は落葉に痩せて尖って、さなが巨大おおいなる動物が肋骨あばらぼねあらわしたようにも見えた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「お蔭で着物を汚しただけで済みましたが、危なく肋骨あばらぼねを折ってしまうところでしたよ。」
すっかり肋骨あばらぼねにくっついてしまって、乳首が黒く小さくかたく、丁度花のしぼんだあとのやうになってるのを見ると、もうなんの誇る所もない、美しさもない、つかひつくした
秋は淋しい (新字旧仮名) / 素木しづ(著)
母が病気で死ぬ二三日にさんち前台所で宙返りをしてへっついの角で肋骨あばらぼねって大いに痛かった。母が大層おこって、お前のようなものの顔は見たくないと云うから、親類へとまりに行っていた。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
六郎は東京にて山岡鉄舟のじゅくに入りて、撃剣げきけんを学び、木村氏は熊谷の裁判所に出勤しゅっきんしたりしに、或る日六郎たづねきて、撃剣の時あやまりて肋骨あばらぼね一本折りたれば、しばしおん身がもとにて保養ほようしたしという。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
肋骨あばらぼねきかつうたふ。
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
やっと信長のほうへ向って坐り得た官兵衛は、二つの穴のような眼から信長の姿を仰いで、同時に、がくと肋骨あばらぼねの下を折って、両手をつかえた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
○「へえー肋骨あばらぼねが出て、歯のまばらな白髪頭しらがあたまばゞあが、片手になた見たような物を持って出たんだね、一つの婆で、上から石が落ちたんでげしょう」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
蓬々ぼうぼうと乱れた髪毛かみひげの中から、血走った両眼をギョロギョロとき出して、洗濯板みたいに並んだ肋骨あばらぼねを撫でまわしてゼイゼイゼイゼイとせきをした。
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ひえびえと寒い秋の夜だのに酔いのために身体が熱いのか、襟をはだけて肋骨あばらぼねの見える、胸を腹まで現わしている。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
主人になった息子とおばあさんだけで、そのお媼さんが、骨だった顔の、ボクンとくぼんだ眼玉がギョロリとしていて、肋骨あばらぼねの立った胸を出して、大肌おおはだぬぎで
何でもその孤家ひとつやの不思議な女が、くだんの嫉妬で死んだ怨霊の胸をあばいて抜取ったという肋骨あばらぼねを持ってぜん申しまする通り、釘だの縄だのに、のろわれて、動くこともなりませんで
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鉄もほっとして樹を降りると、幹にはのこぎりのあとらしいものも見えなかった。ただそこらに牛の肋骨あばらぼねが五、六枚落ちているのを見ると、かれらはこの骨をもってのこぎりの音を聞かせたらしい。
冷い汗が、わきの下ににじみ出して、やがてタラリと肋骨あばらぼねを、駆け下りた。
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
血をしぼってなしあげた穏密覚え書の一帖も、江戸の大府だいふへ送り届ける頼りはなし、このまま木乃伊みいらとなる肋骨あばらぼねに、抱いてゆくより道はないのである。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一方に臓腑は腹の皮と一緒に襤褸切ぼろきれを見るように黒ずみ縮んでピシャンコになってしまい、肋骨あばらぼねや、手足の骨が白々と露われて、毛の粘り付いた恥骨ちこつのみが高やかに
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
胡坐あぐらをかゝせて膝でおせえるのだ、自分の胸の処へ仏様の頭を押付おっつけて、肋骨あばらぼねまで洗うのだ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
猟師の食べのこしたけだものの肉の、干からびたのが捨ててあったり、頭葢骨ずがいこつ肋骨あばらぼねがとり散らされてあり、そこへ細長い早瀬の影法師が、焔の加減で顫えながら、延びちぢみして映っていた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
さながら野晒のざらし肋骨あばらぼねを組合わせたように、れ古びた、正面の閉した格子を透いて、向う峰の明神の森は小さな堂の屋根を包んで、街道を中に、石段は高いが、あたかも、ついそこに掛けた
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
翌晩あくるばんになるとまた昨夜ゆうべのように、同じ女が来て手を取って引出して、かの孤家へ連れてまいり、釘だ、縄だ、抜髪だ、蜥蜴とかげの尾だわ、肋骨あばらぼねだわ、同じ事を繰返して、骨身にこたえよと打擲ちょうちゃくする。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其の頃は商人あきんどは皆雪駄を穿いて居りまして、どじょうの鼻緒のくだりの雪駄で駈けて来まして、前へのめる途端に八右衞門の肋骨あばらぼねの男が頭を打付ぶっつけましたから、八右衞門は驚いたのなんのと申しまして
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
私は又も、肋骨あばらぼねうずき出す程の、烈しい動悸に囚われてしまった。
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そのまま真白まっしろ肋骨あばらぼねを一筋、ぽきりと折って抜取りましてね。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)