綸子りんず)” の例文
第一、昨夜の曲者は衣摺きぬずれの音なんかしなかったぜ。百五十石や百八十石の御家人じゃ、平常着ふだんぎに羽二重や綸子りんずを着るはずはない。
銭形平次捕物控:126 辻斬 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
まんまと百合子になりすまして、白綸子りんずに黒の帯、素足に手拭をふきながしに被ったところはどう見ても替玉とは思えなかった。
鷺娘 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
いかさま年は二十七、八、髪はおすべらかしに、のはかまをはいて、紫綸子りんずの斎服に行ないすました姿は、穏やかならぬ美人なのです。
そこには、床柱の前にお寺さんに出すやうな厚ぽつたい綸子りんずの座蒲団だの、虎斑とらふの桑材で出来た煙草盆などが用意されてあつた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
ましてその男は、大将まげに束ねた頭をつや/\と光る黒漆くろうるしの枕に載せて、緞子どんすとか綸子りんずとか云うものらしい絹の夜着を着ているのである。
すなわち錦緞きんどん綸子りんず・綾・錦等の精巧なる織物を製造したるは、これわが邦人民の襤褸らんるさえ纏うあたわざるものありたればなり。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「一四一四年サンガル寺発掘記」の他二冊を脇に取り除け、綸子りんず尚武革しょうぶがわを斜めに貼り混ぜた美々しい装幀の一冊を突き出すと
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
久世大和守は平服に袴、雅楽頭忠清は白の綸子りんずの小袖に、無紋の同じ羽折をかさねており、風邪ぎみだからかさねている、と雅楽頭は断わった。
鷲鼻わしばなの、口の大きい、五尺何寸とありそうな大柄の御隠居様が浅黄綸子りんずのような立派な着つけをお引摺りにして
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
そのうちでも金襴きんらん羽二重はぶたえ縮緬ちりめん緞子どんす繻珍しゅちん綾錦あやにしき綸子りんず繻子しゅす、モミ、唐縮緬、白地薄絹、絹糸、絹打紐、その他銀塊、薬種等も多く輸入されます。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
呉絽は文政のころに支那から舶載され、天鵞絨びろうど、サヤチリメン綸子りんず鬼羅錦織きらきんおりなどとともに一時流行しかけた。
顎十郎捕物帳:03 都鳥 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
美しい下駄げた、博多の帯、縮緬ちりめんの衣裳、綸子りんずの長襦袢、銀の平打ち、珊瑚さんごの前飾り、高価の品物が数々出る。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いったん尼の姿をしていたお君は、ここへ来ては、やはりあでやかな髪の毛を片はずしに結うて、綸子りんずの着物を着ていました。兵馬は刀をとってその前に坐り
薄く染めた綸子りんず被布ひふに、正しく膝を組み合せたれば、下に重ねるきぬの色は見えぬ。ただ襟元えりもとより燃え出ずる何の模様の半襟かが、すぐ甲野さんの眼に着いた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
(唯、腰ぬけのお鳥だけはその式にも出る訣に行かなかった。)彼の家に集まった人々は重吉夫婦に悔みを述べた上、白い綸子りんずおおわれた彼のひつぎの前に焼香した。
玄鶴山房 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
お庭さきのうららかな日光に眼をほそめて、あーアッ、と大きな欠伸あくびとともに、白地にあおいの地紋のある綸子りんずの寝巻の袖を、二の腕までまくって、ポリポリ掻いた。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
綸子りんずの頭巾、しゃの衣、象牙のような手くびにかけた水晶の数珠じゅず白粉気おしろいけのない姿にも、露をたたえた白蓮の香があって、尼僧にしては余りにえんで余りに美し過ぎる。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雪のように白い白紋綸子りんず振袖ふりそでの上に目も覚むるような唐織にしき裲襠うちかけた瑠璃子の姿を見ると、彼は生れて初めて感じたような気高さと美しさに、打たれてしまって
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
几帳きちやうとも、垂幕さげまくともひたいのに、うではない、萌黄もえぎあを段染だんだらつた綸子りんずなんぞ、唐繪からゑ浮模樣うきもやう織込おりこんだのが窓帷カアテンつた工合ぐあひに、格天井がうてんじやうからゆかいておほうてある。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
緩い傾斜を中程登りつめると、黒板塀に西洋式の庭園の樹木の茂りの蔭に赤い壮麗な煉瓦の宮殿が聳えて見える。尖塔の窓の橙色の綸子りんずの窓掛に日の映るのさえが明らかに見える。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
半九郎に対しては、「男も肌は白小袖にて、黒き綸子りんずに色浅黄うら」と説明した。
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
御時服というは大きな紋の付いた綸子りんずの綿入で、大名等へ賜わるは三葵の紋、倍臣には唐花からはなという紋のついたものであった。私も父がそれを持って藩地へ帰って来た時には頗る嬉しかった。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
黒の十徳じっとくに、黄八丈きはちじょうの着付け、紫綸子りんずの厚いしとねの上に坐って、左手ゆんでたなそこに、処女の血のように真赤に透き通る、わたり五分程の、きらめく珠玉たまを乗せて、明るい灯火にかざすように、ためつ、すがめつ
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
綸子りんずの両袖の間にシッカリと抱締めて、たまらなく頬ずりをした。
名君忠之 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
綸子りんずの雲模様
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
第一、昨夜の曲者は、衣摺きぬずれの音なんかしなかつたぜ。百五十石や百八十石の御家人ぢや、平常着ふだんぎに羽二重や綸子りんずを着る筈はない。
銭形平次捕物控:126 辻斬 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
「これが春水の替え蓋」と老人は綸子りんずで張った薄い蓋を見せる。上に春水の字で七言絶句しちごんぜっくが書いてある。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
綸子りんずの着物に色袈裟いろげさをかけて、経机に向って、いま卒都婆小町そとばこまちが授けた短冊に向って歌を案じている。
綱宗の前をさがるとき、夫人が次ノ間まで送って来て、「おあか付きである」と、綸子りんず下襲したがさねを渡した。
その一歩うしろにさがって綸子りんず白衣の行服にのはかまうちはきながら、口に怪しき呪文じゅもんを唱えていた者は、これぞ妖艶ようえんそのもののごとき、尋ねる比丘尼行者でした。
一方は木綿服に小倉織の短袴たんこを着すれば、他方は綸子りんず被布ひふまとい、儼然げんぜんとして虎皮に坐す。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
そのうち読経どきょうの切れ目へ来ると、校長の佐佐木中将はおもむろに少佐の寝棺ねがんの前へ進んだ。白い綸子りんずおおわれたかんはちょうど須弥壇しゅみだんを正面にして本堂の入り口に安置してある。
文章 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
綸子りんずの下着を襟からのぞかせ、白い絹の太紐を——それは羽織の紐なのであるが、胸もと高く結んで垂れ、折り目の高い袴の膝に、両手のてのひらを開いてのせ、正面に顔を向けていた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
綸子りんず小袖こそでひしもんだ。武田伊那丸たけだいなまるというやつに相違そういないぜ」と、いった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「でも、こんな寢卷は公方樣くばうさまでもなきや着ませんよ。羽二重だか綸子りんずだか知らねえが、物が良いから、血を浴びると一倍凄くなりますね」
間着あいぎは紅梅地に百花を色とりどりに染めたものだし、打掛うちかけ綸子りんずらしい白地に唐扇と菊花ぢらしで、金糸の縫がある帯は桔梗ききょう色の地に唐草と蝶、これにも金糸の縫が入っていた。
竹柏記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
江の島見物の旅人たちが、なにがしかの賽銭さいせん神楽料かぐらりょうとしてげるたびに、この社家にいる一人の若い巫女みこが、白の綸子りんずの小袖にはかまをつけて、舞楽殿で湯立舞ゆだてまいの一節を舞うのであった。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いま一つは、これまたなまめかしい白綸子りんずづくりの懐紙入れでした。
解き下げて無造作に束ねた髮、地模樣の綸子りんずの帶、町家風の木綿物の小綺麗な袷も身に合つて、何とはなしに清らかさと美しさがあふれるのでした。
幸之進は綸子りんずの着物に大口ばかま、武者鉢巻をしてたすきをかけ、下に鎖帷子くさりかたびらを着たものものしい姿であったが、三之丞は木綿の着物に葛布くずふの短袴、わら草履という無雑作な恰好だから
備前名弓伝 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
白い綸子りんずに顔をつつんで、水晶の念珠を持った愛慾の墓。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
解き下げて無造作に束ねた髪、地模様の綸子りんずの帯、町家風の木綿物の小綺麗なあわせも身に合って、何とはなしに清らかさと美しさがあふれるのでした。
まるでかぶっていた物を脱ぐように頭から足までくるっとけた、見よ、もう茫髪も手足の垢も襤褸ぼろの着物もない、月代さかやきを青々とった秀麗な顔、みがきあげたような手足、綸子りんずの着物に琥珀織こはくおりはかま
緋鹿の子を絞った長襦袢が少し崩れて、燃えるような紅の綸子りんずの夜の物が、砕けた花片はなびらのように桜子の膝を埋めます。
さや/\と衣摺れの音の聞えるのは、羽二重か甲斐絹かひき精巧せいかう綸子りんずでなければなりません。
銭形平次捕物控:126 辻斬 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
さやさやと衣摺れの音が聞えるのは、羽二重はぶたえ甲斐絹かいき精好せいごう綸子りんずでなければなりません。
銭形平次捕物控:126 辻斬 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)