神酒みき)” の例文
「平三さん。悪いことは言わねえ。さあ、このお神酒みきをあげてお詫びをなせえ。酔っててのことだから、まだ取り返しは付く。さあ!」
或る部落の五つの話 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
その市の姫十二人、御殿の正面にゆうしてづれば、神官、威儀正しく彼処かしこにあり。土器かわらけ神酒みき、結び昆布。やがて檜扇ひおうぎを授けらる。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まあ、条山神社のお神酒みきでもいただいて、今夜はよく眠ることだ。こういう時世になって来ると、地方なぞはてんで顧みられない。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
土器かわらけを取って、羊の生血をそそいだ神酒みきをすすりあい、やがて呉学人が案文した起誓文きしょうもんを受けて、晁蓋が壇にむかって読みあげた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
でこでこの頭が二つ恭しく段のうへに据ゑられ、巻奉書まきぼうしよのそぎ竹のやうなのがつくんと立つた大きなお神酒みき徳利が供へられる。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
お亀は神酒みき徳利や団子やすすきなどを縁側に持ち出してくると、その薄の葉をわたる夕風が身にしみて、帷子かたびら一枚の半七は薄ら寒くなってきた。
半七捕物帳:07 奥女中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「俺らは飲めねえけれど、お前、そこで飲むなら飲みねえ。ナニ構わねえよ、神様の前だってお前。神様だってお神酒みきをあがるんだからな」
無邪心むじゃしん小児のごとき泰軒が、お神酒みきをすごして大道に不穏な気焔をあげている時、山田奉行手付の小者が通りかかって引き立てようとすると
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
眞正面に据ゑてある八足臺やつあしだいの上に注がれて、木の間を漏るゝ星明りに映し出されたすゞ神酒みき瓶手へいしが一つゐ、母を引き寄せるやうにして立つてゐた。
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
小几こづくゑのうへに何時も小さい神酒みき徳利のやうなものが、水が入つてゐたが、書く時には原稿紙に其の水を振りかけるといふことも、妙な癖だつたが
亡鏡花君を語る (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
○さて堂内人さんじて後、かの山長やまをとこ堂内に苧幹をがらをちらしおく㕝れいなり。翌朝よくてうおとこ神酒みき供物くもつそなふ、うしろさまにすゝみさゝぐ、正面にすゝむを神のいみ給ふと也。
神酒みきをあげ、「六根清浄ろっこんしょうじょう………………懺悔〻〻さんげさんげ」と叫んだあとで若い者がふんどし一つになって此二間はばの大川に飛び込み
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
村では鎮守に、お神酒みきがあがった。叔母は、もう叔父が明日にでも、戦地からかえって来るように、喜んだ。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
琵琶びわの銘ある鏡の明かなるをんで、叡山の天狗共が、よいぬすんだ神酒みきえいに乗じて、曇れる気息いきを一面に吹き掛けたように——光るものの底に沈んだ上には
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それでいて、少しお神酒みきがまわると、すぐに手拭をかぶって、口で笛と太鼓の調子を一つにとりながら、腰を据えて、肩を揺って、塩吹面舞ひょっとこまいと言うのをやりたがる。
ひょっとこ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ここでも、神酒みきをひっかけ、まだ暗いので、弓張提灯を持って、金五郎先登に、蛭子神社へ出かけた。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
尋常の『修身書』に出ておる、武士が瓢箪ひょうたんを切りたる話は、『珍奇物語』と題する書中に出ておる。また、祈祷きとう者が神酒みき徳利にどじょうをいれたる話は、『閑際筆記かんさいひっき』に見えておる。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
此地こゝには妓楼ぎろうがありますでな、とりの無いのもなものぢやといふ事でと、神酒みきばんするらしきがなにゆゑかあまたゝび顔撫かほなでながら、今日限こんにちかぎ此祠このほこらりましたぢや。これも六七年前。
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
頭家とうやでは神酒みき燈明とうみょう供物くもつを用意する他は、ただその食べ物の世話をするだけである。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
欄杆の端にちかくいろいろとおもりものをした台が据えてありましてお神酒みき燈明とうみょうがそなえてありすすきやはぎなどが生けてありますのでお月見の宴会をしているらしいのでござりましたが
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
おまえは、も一つお神酒みきとお洗米せんまいを持って来てくれないか、お倉の方へな」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
さあ、お父つあんからはまだ何も聞いとりやせんが。……お神酒みき
生活の探求 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
ぐと神酒みきがひらかれた。土器をまわして一わたり冷酒をなめた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
夜の神酒みきに我酔ひけらし斑鳩いかるがやほろこほろことまねて寝にける
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
あるいはイクラかお神酒みきがまわっていたせいかも知れないがね。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「お神酒みきは過ぎてるが、口なんか過ぎるものか」
神酒みきの長官、常世とこよの國においでになる
古甕ふるがめ神酒みきみて
わなゝき (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
うしろの床には、伊弉諾尊いざなぎのみこと伊弉冊尊いざなみのみことの二神をまつって、そこにも一穂いっすい神灯みあかしと、一瓶いっぺい神榊みさかきと、三宝には餅や神酒みきが供えられてあった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仲人なこうど参上の節は供一人ひとり、右へ御料理がましいことは御無用に願いたし。もっとも、神酒みき二汁にじゅう、三菜、それに一泊を願いたし。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いし散々さんざんにお神酒みきをいただいて行った形跡もあります。矢大臣の髯を掻きむしって行ったのもこのやからの仕業と覚しい。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
玉虫 女子おなごばかり住む家に、酒のたくわえは無けれども、幸いにここに神酒みきがある。めでたい折柄にはふさわしかろう。さかずきは女子から……。
平家蟹 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
救うには、竹駒稲荷大明神の御供物おくもつ、お神酒みきと言って医薬を施すより他には途がないものと思ったからで御座います。
或る部落の五つの話 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
○さて堂内人さんじて後、かの山長やまをとこ堂内に苧幹をがらをちらしおく㕝れいなり。翌朝よくてうおとこ神酒みき供物くもつそなふ、うしろさまにすゝみさゝぐ、正面にすゝむを神のいみ給ふと也。
平井明神の神酒みきを盜まうとした時、神の名を騙つて、母の手を捉へた白衣の男と母との關係は、丁度寺の和尚さんと煑賣屋の娘のそれと、同じことではあるまいか。
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
月のついたちで、八幡様に神官が来て、お神酒みきあがる。諒闇りょうあん中の御遠慮で、今日は太鼓たいこも鳴らなかった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それが、翌日になると、また不吉ふきつな前兆が、加わった。——十五日には、いつも越中守自身、麻上下あさがみしもに着換えてから、八幡大菩薩に、神酒みきを備えるのが慣例になっている。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ときに巫は壇に神酒みきをもうけ、紙の幣束へいそくを立てて主人にいえらく、『一家のものをして、ことごとく壇の前を過ぎ行かしめよ。もしその中に盗みしものあらば、幣束おのずから動かん』
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
エビとたいつきの膳で、神酒みきをのみ、打ち込みをして、縁起を祝うのである。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
また神のお供物くもつ神酒みきを戴きつつ、語り明かしたことがあるのであろう。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
この神酒みきは中ほど黒き土器かはらけにとよと注がれていや沁みにけり
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「お神酒みきは過ぎてるが、口なんか過ぎるものか」
「正直、こんな景気がもう十年もつづいてくれるようにッて——ごらんなすって、あの通り神棚へお神酒みきを上げて朝夕祈ってるんですよ」
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そんな中で遷宮式の日を迎えた半蔵は、清助と栄吉を店座敷に集めて、焼※やきするめぐらいをさかなに、しるしばかりの神酒みきを振る舞った。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
だんの上にはせきをまうけて神酒みきをそなへ、此町の長たるもの礼服をつけてはいをなし、所繁昌の幸福をいのる。
にわかにおしいただいて神棚へ上げるやら、お神酒みきを供えるやらの騒ぎとなりました。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「それじゃあ、わたしも早くお参りをして、お神酒みきとお供え物をあげて来ましょう」
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
木戸銭御無用、千客万来の芝居、お神楽かぐら、其れが出来なければ詮方せんかた無しのお神酒みきまつり
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ところが、その日は、小姓こしょうの手から神酒みきを入れた瓶子へいしを二つ、三宝さんぼうへのせたまま受取って、それを神前へ備えようとすると、どうした拍子か瓶子は二つとも倒れて、神酒が外へこぼれてしまった。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
福島県たいら附近の例をいうと、正月十一日の農立ての日の朝、今年苗代なわしろにしようと思う田に行って初鍬はつぐわをいれ、三所に餅と神酒みき洗米あらいよねとを供えて、これを早稲わせ中稲なかて晩稲おくての三通りに見立てて置く。