猥褻わいせつ)” の例文
当時、両国にはたいへん猥褻わいせつな見世物があって、いまのストリップ・ショーなんか、とても追いつくものではなかったというんですね。
平次放談 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
一方には、強盗、密売、詐欺、暴行、猥褻わいせつ、殺人、あらゆる種類の冒涜ぼうとく、あらゆる種類の加害。そして他方には、潔白のただ一事。
次にそれは/\猥褻わいせつな歌を、何ともいえぬ好い喉で歌うのですが、歌は猥褻な露骨なもので、例を出すことも出来ないほどです。
江戸か東京か (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
顔馴染かほなじみの道具屋をのぞいて見る。正面の紅木こうぼくたなの上に虫明むしあけらしい徳利とくりが一本。あの徳利の口などは妙に猥褻わいせつに出来上つてゐる。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
白い旅客たちの旦那マスター奥様ミセスたちを奇襲して、その手相を明らかにあらわれていると称して、ひどく猥褻わいせつなことを、たとえばあの
ヤトラカン・サミ博士の椅子 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
歌っている自分が、まるであの青空の中に吸収され、解消されて行くみたいな気がして、私はそこに一つの恥ずべき猥褻わいせつをかんじるのだ。
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
あんな猥褻わいせつな席につらなッている……しかも一所に成ッて巫山戯ふざけている……平生の持論は何処へ遣ッた、何のめに学問をした
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
講演者はさらにその歌のあることさえも知らなかったが、演説中にいやだいやだという句を使ったために、猥褻わいせつと思われたのであったという。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
振仮名がついた下手な字で、ビラがらさっていた。下の余白には、共同便所の中にあるような猥褻わいせつな落書がされていた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
彼らのつるぎ猥褻わいせつなかけ声と一緒に鹿の腹部に突き刺さると、たちまち鹿は三人からなる一組の兵士の手によって裸体にされた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
それはまったく荒唐無稽むけいな事柄の連続であって、おかしな結婚、死人、裁縫女、王侯、滑稽こっけいなまた時には猥褻わいせつな事柄、などが問題になっていた。
その巨細こまかな事については風俗を害する恐れもあり、また余り猥褻わいせつにして大方の人に知らすことの出来ぬ事も沢山あります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
猥褻わいせつなる豚は、昂奮こうふんの余り、真青になった顔を、妙にこわばらせて、黙ったまま、ヌルヌルした唇で、彼女を圧迫した。
江川蘭子 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼は図書館で、色々な辞書を持出し、猥褻わいせつな意味をもつ字句を引いて、その解を読みながら、ひそかな興奮を感じた。
プウルの傍で (新字新仮名) / 中島敦(著)
この少年は何か猥褻わいせつな感じがして見たくないような感じだったが、この少年が最後の難芸に失敗して墜落したとき
青春論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
支那の古塚に、猥褻わいせつの像をおさめありたり。本邦で書箱鎧櫃よろいびつ等に、春画まくらえを一冊ずつ入れて、災難除けとしたなども、とどの詰まりはこの意に基づくであろう。
猥褻わいせつ至極なやつじゃ。女のもとへ逃げ走って、今生の思い出に蛤鍋なぞをたらふく用いるとはなにごとじゃ。
蒲団ぶとんという、支那人の書いた、けしからん猥褻わいせつな本がある。お負に支那人の癖で、その物語の組立に善悪の応報をこじつけている。実に馬鹿げた本である。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それに、田舎は存外猥褻わいせつ淫靡いんびで不潔であるということもわかってきた。人々の噂話うわさばなしにもそんなことが多い。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
慶元けいげん以還、民間俗楽ぞくがく種々起り、楽器もまた増加し、古昔こせきに比すればいっそう進みたりというべし。しかれども、おおむね卑俚ひり猥褻わいせつにして、士君子のめでるに適せず。
国楽を振興すべきの説 (新字新仮名) / 神田孝平(著)
老女も中々の才物ではございますが、女だけに遂に大藏の弁舌に説附ときつけられました。此の説附けました事は猥褻わいせつわたりますから、唯説附けたと致しておきましょう。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
年少すでに童色どうしょくを談じ、小身者しょうしんものはよく猥褻わいせつをささやくので、それと語るのを歓び、歌舞伎のまねをしていつのまにか三味線を覚えたり、また、鷹野たかのにでも行く時は
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
戦友としての人間らしいやさしさ、同時に行われる盗みっこ、要領、残酷、猥褻わいせつ、目的のない侮蔑。「軍服」の中でそういう軍隊生活の特色は皆とりあげられている。
その頃の田舎の子供達は猥褻わいせつな言葉をよく口にする。勿論、何の感情も伴うものでないから、却って極めて露骨である。それ等の言葉が禁忌であることは薄薄知っている。
澪標 (新字新仮名) / 外村繁(著)
東京とうきやうの或る固執派オルソドキシカー教会けうくわいぞくする女学校ぢよがつかう教師けうし曾我物語そがものがたり挿画さしゑ男女なんによあるを猥褻わいせつ文書ぶんしよなりとんだ感違かんちがひして炉中ろちう投込なげこみしといふ一ツばなし近頃ちかごろ笑止せうしかぎりなれど
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
ちょっとお話にも出来ないような、むごたらしい猥褻わいせつな刑罰を加えて苦しめるのですから、死骸のからだを一応あらためたくらいでは判りません。そこはお察しを願います。
半七捕物帳:36 冬の金魚 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そして、なにか猥褻わいせつなことを内田さんに言い、自分もすこし照れた様子で、わざと「うまい。うまい」と内田さんのほうに、みせびらかしながら、虎さんと食ってしまいました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
が、今日はページ面に何か猥褻わいせつな写真らしいものが何枚も貼ってあるのに気がついた。私は慌てて眼を閉じ、いつもより一層急いでページを伏せた。一体あれは何だったのだろう。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
恋の曲者くせもの、代言人、物事に熱くなるさが乳母うば、それに猥褻わいせつな馬鹿話、くだらぬ妄想もうそうは、すべて運星のめぐりに邪魔をいたします……さあ、いらっしゃい、わたしたちの力を頼めば
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
上海の猥褻わいせつな写真帳が閉じられ、四馬路に人気がなくなると市街の電気のスイッチが切られ全市は暗黒になった。秘密結社から送られた大規模な陰謀が全市に配置されるのであった。
地図に出てくる男女 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
ただ無邪気な少女のきわだった美しさに迷っただけであった。何よりもその無邪気な容姿が、これまで猥褻わいせつな女の色香にのみなじんで、すさみきっていた女たらしの心を打ったのである。
捨吉は人知れず自分の馬鹿らしい性質をじずにはいられなかった。何故というに神聖な旧約全書の中からなるべく猥褻わいせつな部分を拾ってさかんに読んで見た男もそういう自分だから……
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
次に御話したいのは先年来自然主義をある一部の人がとなえ出して以後世間一般ではひどくこれをきらってはては自然主義といえば堕落とか猥褻わいせつとかいうものの代名詞のようになってしまいました。
文芸と道徳 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
僕が何かあなたに猥褻わいせつな事でもしたのですか? 自惚うぬぼれてはいけません。誰があなたみたいな女に、わざとしなだれかかるものですか。あなたご自身、性慾が強いから、そんなへんな気のまわし方を
チャンス (新字新仮名) / 太宰治(著)
「遠慮なく出懸けるが可い、しかし猥褻わいせつだな。」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここにいたって客の小山笑い出し「アハハ君の攻撃も随分皮肉だね。それでは家庭教育論が文学論になってしまう」中川「イヤさ、これが家庭教育に大関係あり。文明の進歩した清潔なる家庭に果して猥褻わいせつなる小説や淫靡いんびなる文学を ...
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
猥褻わいせつなる身振をなす。)
左に雛妓すうぎを従へ、猥褻わいせつ聞くに堪へざるの俚歌を高吟しつつ、傲然がうぜんとして涼棚りやうはうの上に酣酔かんすゐしたる、かの肥大の如き満村恭平をも記憶す可し。
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
講演者はいかなる点が猥褻わいせつであるかとんと理解しえなかったが、よくよくその事情を聞くと「いやだいやだ」で始まる猥褻わいせつの歌があるそうである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そんなに両方から押しつけちゃいやだわという恰好をして、ボロンボロンと猥褻わいせつ三味線しゃみせんもらしていたりした。
白昼夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
グージャールのほうは、クリストフのこともも一人のドイツ人のことも念頭に置かずに、猥褻わいせつ心理の露骨な問題について医者のジュリアンと話していた。
猥褻わいせつなことを平気で話している。世の覊絆きはんを忘れて、この一夜を自由に遊ぶという心持ちがあたりにみちわたった。垣の中からは燈光あかりがさして笑い声がした。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
野卑なこと、猥褻わいせつなこと、不潔なこと、それを語るにも一種の落ち着きをもってし、風流の冷静さをもってした。まったく彼が属する前世紀の不作法さである。
これはただ私が秘密に調べるだけの事で、社会に公にするのもほとんど困難な位猥褻わいせつのものである。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
兵隊らしい猥褻わいせつなうたはひとつも出なかった。ひろ子は、うたの終らないうちに眠ってしまった。
播州平野 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
耳にするさえ顔の赤くなる猥褻わいせつな言葉を平気で叫んだり——あらゆる能力をもつ大魔小魔を地へろしたかのごとく、それらの大衆が、自分のくるま一つへ向って、吠え、たけ
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
芸術に猥褻わいせつな絵などがあるように、pornographie はどこの国にもある。婬書いんしょはある。しかしそれは真面目なものでない。総ての詩の領分に恋愛を書いたものはある。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
酩酊めいていした連中はげらげら笑いながら、そのそばに立ち止まると、口から出まかせに猥褻わいせつな冗談を言い始めた。と、突然一人の若い紳士が、まるでお話にもならぬ奇矯ききょうな問題を考えついた。
何でも其の中には、「笑は不安也。」と云うのがあったと思った。「鼻は猥褻わいせつ也。」もあったようだ。「自ら誇る時、心つねに悲し。」「黙する時、必ずしも考えず。」こんなものもあった。
The Affair of Two Watches (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
続いて、聞えてきたのは、太い調子のひそひそ声で、なにか陰険いんけんな悪口か、猥褻わいせつな批判らしく、無遠慮にひびいてくる高らかな皆の笑い声と共に、ぼくはまた、すっかり悄気しょげてしまったのです。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)