あさ)” の例文
旧字:
われらがこの家をいでたる時、日はいまだ昇らざりき。われらはうずらあさらんがために、手に手に散弾銃をたずさえて、ただ一頭の犬をひけり。
森鴎外氏の『埋木うもれぎ』やそんなものを古書肆からあさって来てそれらを耽読たんどくしたり上野の図書館に通って日を消したりしながら
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
屑問屋くずどんやへ持込めそうな代物をあさっていたが、ジメジメしたごもくの中から、ニョッキリと現われたのが、やっぱり蝋細工の一本の腕であった。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
落葉や枯草を踏みにじって、そこらを隈なくあさりあるいたが、藻の姿は見付からなかった。二人はそこを見捨てて、さらにその次の丘へ急いだ。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
急いで家へ帰って来ると、父親はランプの下で、苦い顔をして酒のかんをしていた。子供たちは餉台のまわりに居並んで、てんでんに食べ物をあさっていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
二人はあらゆる手を尽して、お綾の身に着いた品を手に入れて、お舎利しゃり様のように拝んだり、お綾の書いたものをあさって、涙を流して抱きしめたりしました。
私が盛に哲学書をあさったのも此時で、基督教キリストきょうのぞき、仏典を調べ、神学までも手を出したのも、また此時だ。
予が半生の懺悔 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
彼は窓の方へ行って、往来に遊んでいる子供等の友達、あさり歩く農家の鶏などを眺めながら、前の晩のことを思ってみた。草木も青白く煙るような夜であった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
実業家馬越まごし恭平氏は、旧臘きうらふ大連たいれんへ往つたが、用事が済むと毎日のやうに骨董屋あさりを始めた。何か知ら、掘出し物をして、好者すきしや仲間の度胆を抜かうといふ考へなのだ。
さればその日のかてあさらうにも、鹿熊なんどのたぐひをとりひしぐは、指の先の一ひねりぢや。
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし黒の子分になって鼠以外の御馳走をあさってあるく事もしなかった。御馳走を食うよりも寝ていた方が気楽でいい。教師のうちにいると猫も教師のような性質になると見える。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今の学生諸君には映画レビュー、その他禁断の果をあさればダンス麻雀クラブその他我々の知らぬ種々の娯楽があろうがその頃には碁将棋か寄席か芝居の立見くらいのものであった。
放心教授 (新字新仮名) / 森於菟(著)
むかし古神君は、迷路の研究にふけっていましたよ。彼は主に洋書をあさって、世界各国の迷路の平面図を集めていましたが、その数が百に達したといって悦んで私たちにも見せました。
千早館の迷路 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その翌日から弓之助は、懐中硯ふところすずりつづり紙を持って、四辺あたりの風景をあさり廻った。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
屋根が低くて広く見える街路みちには、西並にしなみの家の影が疎な鋸の歯の様に落ちて、処々に馬をはづした荷馬車が片寄せてある。にはとり幾群いくむれも幾群も、其下に出つ入りつこぼれた米を土埃ほこりの中にあさつてゐた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
是れ即ち緑雨が冷罵に長ずる所以ゆゑんなり、緑雨は写実家の如くに細心なれども、写実家の如くに自然をあさること能はず、彼は貞之進を鋳る時、既に八万の書生を罵らんことを思ひ、駒之助を作る時に
他のものもあさって読んでいた。学校へ行かなかったから、いくらでも時間がある。兄の方ではこっちに引張りつけようと努めていたのだろうが、私の方ではむやみにいろいろのものに目を通していた。
故郷七十年 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
底の底まで根よくあさり尽くしたらば、あるいは福井と同じようにその鐘の本体を見付けることが出来たのかも知れない。
鐘ヶ淵 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
坂の下で、これも草花をあさりに出て来たI氏に行き逢った。植木の並んだ坂の下は人影がまばらであった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
年代の古さやレエベルの珍奇さをあさるなら、マッチのペーパーでも集めた方が、よっぽど安くつくだろう。
あそこのたひちり、こゝの蜆汁しゞみじる、といふ風によくあさつて歩いた私は大きな飲食店などにも飽き果てゝ、その薄汚い町中の洋食屋に我儘わがまゝの言へる隠れ家を見つけて置いた。
(新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ゴシップをあさり、遂に春泥が嘗つての静子の恋人と同一人物であったこと、又彼の日常生活が甚だしく厭人的であり、当時、已に筆を絶って行方ゆくえをさえくらましていたことを
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
無論その半年の間、僕はこの女ばかりをねらっていたのでは無く、沢山の若い女をあさりあるいている片手間かたてまに、一つの長篇小説でも書くつもりで、じっくり襲いかかって行ったのだ。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「で、また餌食えじきあさります」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
支那の小説あるいは筆記のたぐいは総てみな怪談本といっても好いのであるが——をあさってみると、遠くは『今昔物語』、『宇治拾遺物語』の類から
妖怪漫談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
悪戯いたずらや水いじりをしたり、または海草とか小蟹こがにとか雲丹うになどをあさってあるく子供や女たちの姿は、ようやく夏めいて来ようとしている渚に、日に日にえて来て
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
立ちどまつて、其人の名を思出してさへ、丑松はもう胸の踊るやうな心地こゝちがしたのである。見れば二三の青年が店頭みせさきに立つて、何か新しい雑誌でもあさつて居るらしい。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
その方の書物をあさっているかと思うと、ある時は飛んでもない方角違いの建築科の教室などに出掛けて行って、熱心に聴講して見たり、そうかと思うと、社会学経済学などに頭を突込んで見たり
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
僕は素早く、客の中に目指す相手の女をあさった。
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私の歯はこの魚腹に葬られるかと見ていると、鱶はこんな物を呑むべくあまりに大きい口をあいて、厨から投げあたえる食い残りの魚肉をあさっていた。
はなしの話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
馬は主人を置去にして、そこここと手綱を引摺ひきずりながら、「かしばみ」の葉でもあさっているらしい。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
最後に本郷の方を一二軒あさって、そこでも全く失望した二人が、疲れた足を休めるために、木蔭に飢えかつえた哀れな放浪者のように、湯島ゆしま天神の境内へ慕い寄って来たのは
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それから家内を隈なくあさってみたが、どこも皆きちんと片付いていて別に取り散らしたような形跡もみえなかった。
半七捕物帳:36 冬の金魚 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
古本をあさることはこの節彼が見つけた慰藉なぐさみの一つであった。これ程費用ついえが少くて快楽たのしみの多いものはなかろう、とは持論である。その日も例のように錦町にしきちょうから小川町の通りへ出た。
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
うめいて、紫色むらさきいろ雑木林ざふきばやしこずゑが、湿味うるみつたあをそらにスク/\けてえ、やなぎがまだあら初東風はつこちなやまされて時分じぶんは、むやみと三きやく持出もちだして、郊外かうぐわい景色けしきあさつてあるくのであるが
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
市郎はその綱の片端を自分の胴にしかと結び付けて、海燕うみつばめの巣をあさる支那人のように、岩を伝って真直まっすぐに降り初めた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
姉は今一つの窓をも開けて、そこにあるのは祖母おばあさんが嫁に来た時の長持、ここにあるのは自分の長持、と弟に指して話し聞かせた。三吉は自由に橋本の蔵書をあさることを許された。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
年取った内儀さんは、よく独りで、市中や東京居周いまわりの仏寺をあさってあるいた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
二人はそれを張に報告すると、張は更に府に申し立てて、弓矢の人数をあつめ、仙鶴観に近い太子陵の東にある石穴のなかをあさると、ここに幾匹の虎を獲た。
さあ、父は其を心配して、毎日水草の中をさがして歩いて、ある時は深い沢を分けて日の暮れる迄も尋ねて見たり、ある時は山から山をあさつて高い声で呼んで見たりしたが、何処にも影は見えなかつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
お芳は珍しい食べ物などをあさって歩く二人に話しかけた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
彼等は勿論深山の奥に棲んで、滅多に姿を見せることは無いが、時としては里に現われて食物をあさる。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかしまだすぐには取りかかれないので、更にドイルの作をあさって、かのラスト・ギャリーや、グリーン・フラグや、キャピテン・オブ・ポールスターや、炉畔物語ろはんものがたり
半七捕物帳の思い出 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
中禅寺にいる者に頼んでいろいろにあさらせたが、霊鳥といわれているこの鳥は声をきかせるばかりで形を見せたことはないので、彼は金にあかしてその巣を探させた。
慈悲心鳥 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
が、二人は何時いつまでも泣いている場合でなかった。追手おっては美濃屋の庭を探しつくして、更に両隣をあさり始めた。人の声が漸次しだいちかづいた。警官の角燈かくとうが雪に映じて閃いた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
老人は一生懸命になってあさり歩いたらしい。運の悪い雀が十二三羽も籠の中に押込まれていた。
半七捕物帳:15 鷹のゆくえ (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼はそれから少時しばらくそこらをあさっていたが、ほかにはなんにも新らしい発見もなかったらしく、泥によごれた手先をふところの手拭で拭きながら、もとの自身番へ引っ返してゆくと
半七捕物帳:28 雪達磨 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
円朝の続き話には外国の翻案物が数種あるが、これもモウパッサンの「親殺し」の翻案で、円朝の作としては余り面白いものではなく、円朝物もだんだんあさり尽くされた形であった。
寄席と芝居と (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
天保銭てんぽうせんがまだ通用していたゆえかも知れません。うす暗いカンテラの灯の前に立って、その縁日玩具をうろうろとあさっていた少年時代を思い出すと、涙ぐましいほどに懐しく思われます。
我楽多玩具 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
親分のうちへ今行ったら、ここの寺へ来ていると云うから、すぐに引っ返して来ました。きのうもあれから万年町の方をすっかりあさってみたが、どこにもそんな御符売りらしい奴は泊っていねえんです。
半七捕物帳:05 お化け師匠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)