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狼狽
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うろた
ふりがな文庫
“
狼狽
(
うろた
)” の例文
「助けてい!」と言いさまに、お雪は何を
狼狽
(
うろた
)
えたか、
扶
(
たす
)
けられた滝太郎の手を振放して、
僵
(
たお
)
れかかって拓の袖を千切れよと
曳
(
ひ
)
いた。
黒百合
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
青い稲田が一時にぽっと
霞
(
かす
)
んだ。泣いたのだ。彼は
狼狽
(
うろた
)
えだした。こんな安価な殉情的な事柄に
涕
(
なみだ
)
を流したのが少し恥かしかったのだ。
葉
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
すると
忽然
(
こつぜん
)
として、女の泣声で眼が
覚
(
さ
)
めた。聞けばもよと云う下女の声である。この下女は驚いて
狼狽
(
うろた
)
えるといつでも泣声を出す。
永日小品
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
『ハイ。』と答へて、薬局生は
匙
(
さじ
)
を持つた儘中に入つてゆく。居並ぶ人々は
狼狽
(
うろた
)
へた様に居住ひを直した。
諄々
(
くどくど
)
と挨拶したのもあつた。
鳥影
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
喜太郎は
狼狽
(
うろた
)
へながら、しはがれた声で闇の中の見知らぬ人間を
誰何
(
すゐか
)
した。が、相手はまだ笑ひ声を収めたまゝ、ぢつとしてゐる。
真珠夫人
(新字旧仮名)
/
菊池寛
(著)
▼ もっと見る
石火矢を
撃
(
ぶ
)
ちこんでも、みぐるしい
狼狽
(
うろた
)
えはしそうもない緊張が見える。鉄の塀が徐々と船に添って行くようにも見えるのである。
新編忠臣蔵
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
正に天柱砕け地軸折るるかの轟音。えらい事になった、こんな時
狼狽
(
うろた
)
えるではない、と言っても別に心の落著けようもないのだ。
登山は冒険なり
(新字新仮名)
/
河東碧梧桐
(著)
お町は嬉しさ余って途方に暮れ、手持無沙汰に
狼狽
(
うろた
)
えて居りましたが、文治の姿を見るより玄関まで出迎えまして、両手を突き
後の業平文治
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
で、
吃驚
(
びつくり
)
したやうに、きよときよとして其處らを見𢌞しながら、何か不意に一大事件にでも
出會
(
でくは
)
したやうに
狼狽
(
うろた
)
へる。
妄
(
やたら
)
と氣が
燥
(
いら
)
ツき出す。
解剖室
(旧字旧仮名)
/
三島霜川
(著)
そうしたなら、どんなに向うの二人は
狼狽
(
うろた
)
えることだろう。その二人の顔を見てやりたい。いっそ、それならそうしよう。——
上海
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
蜂は一層その騒ぎに興奮させられて
狼狽
(
うろた
)
えるのか、それともそう云う習性があるのか、庭へ飛び去りそうにしては又舞い戻って追って来る。
細雪:02 中巻
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
川島は始めて我に返ったらしく
狼狽
(
うろた
)
えた調子で、「君子さん。かまわずに置いてくれ。お客様にされちゃアかえってこまる。」
つゆのあとさき
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
此
(
この
)
時
(
とき
)
の父の様子は余程
狼狽
(
ろうばい
)
して居るようでした。それで声さえ
平時
(
いつも
)
と変り、僕は
可怕
(
こわ
)
くなりましたから、しく/\泣き出すと、父は
益々
(
ますます
)
狼狽
(
うろた
)
え
運命論者
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
ヴエスヴイアスの麓の住民は気違ひのやうになつて、
狼狽
(
うろた
)
へて騒いで逃げた。プリニイは皆んなが逃げてゐる、此の一番危険な方へ行つたのだ。
科学の不思議
(新字旧仮名)
/
ジャン・アンリ・ファーブル
(著)
その面色、その
声音
(
こわね
)
! 彼は
言下
(
ごんか
)
に
皷怒
(
こど
)
して、その名に
躍
(
をど
)
り
被
(
かか
)
らんとする
勢
(
いきほひ
)
を示せば、愛子は
駭
(
おどろ
)
き、狭山は
懼
(
おそ
)
れて、何事とも知らず
狼狽
(
うろた
)
へたり。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
彼は、しかし、もう
狼狽
(
うろた
)
えても恐れてもいなかった。粛然とした空気の中に、彼はかえって安堵に似た感じを味うことが出来た。そして、もう一度
論語物語
(新字新仮名)
/
下村湖人
(著)
其跫音
(
そのあしおと
)
を聞くと、敵も
流石
(
さすが
)
に
狼狽
(
うろた
)
えたらしく、力の限りに七兵衛を
突退
(
つきの
)
け
刎退
(
はねの
)
けて、あなたの森へ逃げ込んで
了
(
しま
)
った。
飛騨の怪談
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
めったにないことに娘の花世が急に熱を出し、死ぬほど胆を冷やして
狼狽
(
うろた
)
えまわったが、これがようやく治まったと思ったら、厩から火事を出しかけた。
顎十郎捕物帳:02 稲荷の使
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
「ハハハ。まあさ。そう
狼狽
(
うろた
)
えなさんな。下手人どころか……まだ斬られた女の身の上さえ、わかっちゃおらん」
狂歌師赤猪口兵衛:博多名物非人探偵
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
「そやなあ……」鴈治郎は武士道の鼓吹者から受取つた盃を唇に当てたまゝ小鳥のやうに
狼狽
(
うろた
)
へた眼つきをした。
茶話:04 大正七(一九一八)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
お松はこの声を聞くと、さすがに
狼狽
(
うろた
)
えて立ちかけたところを、がんりきはその左の手でお松の手首をとって
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
お勢はその時奥坐舗に居たが、それを聞くと、
狼狽
(
うろた
)
えて起上ろうとしたが間に合わず、——
気軽
(
きがろ
)
に入ッて来る昇に視られて、さも余義なさそうに又坐ッた。
浮雲
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
彼は、一瞬間前の
狼狽
(
うろた
)
えた自分自身を思い浮べた。それが恥かしくなった。木下の姿を眼の前に見ると、あらゆる気兼や狼狽や敵意や嫉視は消えてしまった。
二つの途
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
「うむ、待て、
危殆
(
あぶな
)
い! 待てと言ったら待て!」と、小平太は
狼狽
(
うろた
)
えながら、その手を振り放そうとした。
四十八人目
(新字新仮名)
/
森田草平
(著)
それらの態度の
狼狽
(
うろた
)
えた内気な、それでいて怖れに充ちているのが、私には限りなく優しいものに見えた。
性に眼覚める頃
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
狼狽
(
うろた
)
えて飛び起きさまに道具箱へ手を突っ込んだは半分夢で半分
現
(
うつつ
)
、眼が全く覚めて見ますれば指の先を
鐔鑿
(
つばのみ
)
につっかけて怪我をしながら道具箱につかまって
五重塔
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
天井のなかへ手を突っ込んで
狼狽
(
うろた
)
え騒いでいるその鼠をつかみ出すと、咽喉から釣針を吐き出させてやり、その代わり鼠の首っ玉へ釣糸を首輪のように巻きつけ
寄席
(新字新仮名)
/
正岡容
(著)
慌てていきなり飛び起きて
狼狽
(
うろた
)
へながら左や右を見廻したら、ばかにお天気の良い蒼空が光つてゐた。
霓博士の廃頽
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
と空とぼけた返事をしたものの、しかし伊吹のつきつめた視線にぶつかると私は急に
狼狽
(
うろた
)
えながら、「大丈夫ですよ」といいのこして大股に広場を突っ切っていった。
十三夜:――マニラ籠城日記
(新字新仮名)
/
尾崎士郎
(著)
そして一生を徒らに唯着して過して人間の一大事——死とか恋とかいふものに不意に
出会
(
でつくわ
)
して、そして驚いたり悲しんだり
狼狽
(
うろた
)
へたりしてゐる。多くは皆さうである。
孤独と法身
(新字旧仮名)
/
田山花袋
、
田山録弥
(著)
「どのようなことがあっても、
狼狽
(
うろた
)
えてはなりませぬぞ。京弥が抜くまでは抜いてはなりませぬぞ」
旗本退屈男:11 第十一話 千代田城へ乗り込んだ退屈男
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
「あーっといい湯だ、おい紋太夫」若さまの声である、「このばか者ッとくるか、ばかの柱をかき揚げにして一杯やるからって、紋太夫にそう云え、はっは
狼狽
(
うろた
)
えてやがる」
若殿女難記
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
明は戸口に立った
儘
(
まま
)
、そんな彼女の目つきに
狼狽
(
うろた
)
えたような様子で、
鯱張
(
しゃちほこば
)
ったお辞儀をした。
菜穂子
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
特に前髪に命じて俊雄の両の
膝
(
ひざ
)
へ
敲
(
たた
)
きつけお前は野々宮のと勝手馴れぬ俊雄の
狼狽
(
うろた
)
えるを
かくれんぼ
(新字新仮名)
/
斎藤緑雨
(著)
仮屋のむしろ戸明けて半分頸を出し見まわしながら「お光ちょうお光ちょう」と叫んで見ても返事がない。俄に
狼狽
(
うろた
)
えて走り出で
下
(
しも
)
を見まわすと、繋いであった舟の影もない。
漁師の娘
(新字新仮名)
/
徳冨蘆花
(著)
「なに、
儂
(
わし
)
が知らんかって⁉ いや、お互いに
洒落
(
しゃれ
)
は止めにしましょう」レヴェズ氏は反撃を喰ったように
狼狽
(
うろた
)
えたが、その時、不遜をきわめていたクリヴォフ夫人の態度に
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
三藏は思はぬ賜物に少し
狼狽
(
うろた
)
へて「もう結構です、水で結構です」と早口に辭退した。尼は無造作に「さうどすか」とすぐ鐡瓶の湯を止めてさつさと臺所の方へ行つてしまつた。
俳諧師
(旧字旧仮名)
/
高浜虚子
(著)
即
(
すなわ
)
ち裏の垣より忍び入りて
窠宿
(
とや
)
近く往かんとする時、
他
(
かれ
)
目慧
(
めざと
)
くも僕を
見付
(
みつけ
)
て、
驀地
(
まっしぐら
)
に
飛
(
とん
)
で
掛
(
かか
)
るに、不意の事なれば僕は
狼狽
(
うろた
)
へ、急ぎ元入りし垣の穴より、走り抜けんとする処を
こがね丸
(新字旧仮名)
/
巌谷小波
(著)
彼が小走りにその曲り角へ来た時、彼女は
恰度
(
ちやうど
)
三四間向うの左手の格子戸の
嵌
(
はま
)
つた家へ
這入
(
はい
)
るところだつた、這入りながら彼女はふいと背後を振り返つた。道助は少し
狼狽
(
うろた
)
へた。
静物
(新字旧仮名)
/
十一谷義三郎
(著)
よく顔に墨を塗られたり、帯に紐をつけて机に縛りつけられて居たり、算盤を結びつけられて居たりした。そして突然呼び起され、驚かされ、
狼狽
(
うろた
)
へさせられて、皆の哄笑の種となつた。
世の中へ
(新字旧仮名)
/
加能作次郎
(著)
はつと
狼狽
(
うろた
)
え立上り『あ奥様でござりまするか』とどきどきとして出迎ふる。お園をきつと睨み付け『園何も私が帰つたとて、さうあはてて、逃げるにも及ぶまい。まあそこに居るがよい』
したゆく水
(新字旧仮名)
/
清水紫琴
(著)
下婢は
止
(
よ
)
すにも止されず、キョトキョトした眼付をしながら、
狼狽
(
うろた
)
えている。
家:01 (上)
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
上地の様子を知らない私が、突然お祭礼の
御神輿
(
おみこし
)
を館舎にかつぎ込まれて、どうしたらいいかと
狼狽
(
うろた
)
えているのを見て、彼女は私を後から押し出すようにしてヴェランダへ突き出したんです。
機密の魅惑
(新字新仮名)
/
大倉燁子
(著)
しかし逢ってみると、一昨日帰ったばかりだというので、ほっとしたが、「随分遅かったわ」とも口へ出せずにいるところへ、栗栖にそう言って目をじっと見詰められ、銀子は少し
狼狽
(
うろた
)
えた。
縮図
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
ベンヺ ロミオ、
速
(
はや
)
う!
速
(
はや
)
う
迯
(
に
)
げた! あれ、
市人
(
まちびと
)
が
騷
(
さわ
)
ぎはじむる。チッバルトは
落命
(
らくめい
)
ぢゃ。
狼狽
(
うろた
)
へてゐるところでない。
捕
(
とら
)
へられたならば、
領主
(
りゃうしゅ
)
は
死罪
(
しざい
)
を
宣告
(
せんこく
)
せう。
速
(
はや
)
う
落
(
お
)
ちた、
速
(
はや
)
う/\!
ロミオとヂュリエット:03 ロミオとヂュリエット
(旧字旧仮名)
/
ウィリアム・シェークスピア
(著)
すると、その男は自分を見て、少し
狼狽
(
うろた
)
えたがそれを隠そうとした。
香油
(新字新仮名)
/
水野葉舟
(著)
「はやく、此処へあがつて下さい!」
狼狽
(
うろた
)
へたヒーヴリャは、天井のすぐ下のところに二本の
横梁
(
よこぎ
)
で支へられて、そのうへにいろんながらくた道具がいつぱい載せてある棚板を指さしながら叫んだ。
ディカーニカ近郷夜話 前篇:03 ソロチンツイの定期市
(新字旧仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
家人の病気に手療治などは思いも寄らず、堅く禁ずる所なれども、急病又は怪我などのとき、医者を迎えて其来るまでの間にも頓智あり
工風
(
くふう
)
あり、
徒
(
いたずら
)
に
狼狽
(
うろた
)
えて病人の為めに却て災を加うること多し。
新女大学
(新字新仮名)
/
福沢諭吉
(著)
石子は余りに
狼狽
(
うろた
)
えた自分の姿を少し恥じながら
支倉事件
(新字新仮名)
/
甲賀三郎
(著)
小田島は少し
狼狽
(
うろた
)
えて不用意に云って仕舞った。
ドーヴィル物語
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
“狼狽”の意味
《名詞》
狼 狽(ろうばい)
思わぬ出来事に遭い、慌てること。
(出典:Wiktionary)
狼
漢検準1級
部首:⽝
10画
狽
漢検準1級
部首:⽝
10画
“狼狽”で始まる語句
狼狽者
狼狽方
狼狽気味
狼狽敷
狼狽眼
狼狽居士
狼狽驚愕