じじい)” の例文
が、お久と云うものをそばへ置くとき、父が何だか父らしくなく、浅ましいじじいのように見えて来るのがこの上もなく不愉快なのである。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
日本文字に精通しているというだけのじじいとしか見えませんから、仕方なしに××領事の了解を経てコチラへ立たせた訳ですが、しかし
人間レコード (新字新仮名) / 夢野久作(著)
邪見じゃけんな口のききようだねえ、阿魔だのコン畜生だの婆だのと、れっきとした内室おかみさんをつかめえてお慮外りょがいだよ、はげちょろじじい蹙足爺いざりじじいめ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そんな欲張りじじいだから、手前んとこの郵便函に、聞いた事もない人の通帳が入れてあったのを、普通の人なら気味悪がって届けるものを
ニッケルの文鎮 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
それは勿論「脱走」に備えたものだった。その見張りの役が、今は老耄おいぼれて仕舞ったが、昔はこの一座を背負って立った源二郎じじいなのだ。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
ナネットはあわてて家の戸締りをする。そして、急いで教会堂に行く。彼女は『あっけらかん』と呼ばれるヴァンサンじじいの戸口の前を通る。
「あの慾ばりじじいめ、まさかおれが、あの黄金メダルの裏表をあの店の中で、写真にとってしまったことに気がつくまい。ふふふ」
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私たちは水際みずぎわを廻って崖の方へ通ずる小径こみち攀登よじのぼって行くと、大木の根方ねがたじじいが一人腰をかけて釣道具に駄菓子やパンなどを売っている。
だがあの慈善家のばか野郎、いったい何をしてるんだ。本当に来るのか。ことによると番地を忘れたかな。あのじじいの畜生め……。
「早いにも、織さん、わっしなんざもう御覧の通りじじいになりましたよ。これじゃ途中で擦違すれちがったぐらいでは、ちょっとお分りになりますまい。」
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さすがの老侯も物質尊重のお歴々には、あがめたてまつられている御本尊であるが、お鯉にとっては、おせっかいな世話やきじじいに過ぎない。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「へい」と云って仁右衛門を見たが、なかなか立派な仁態じんていである。「ナーニあなた、そのじじいはね、一口に云えば乞食でさあ。 ...
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
休んだ茶屋のじじいに「どうだろう、工事をしているところは通れないだろうか」と尋ねたところが、爺平然として曰く
どのみち、玉は出ぬとわかっているものを、さかしらだてて、領収うけとりの、ためし射ちのと騒ぎまわるじじいの気が知れない。
ひどい煙 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
引き放さなかったものなら、ほんとに殺してしまったかもしれないぜ、あんなイソップじじいに手間暇がかかるもんか!
明治四十一年四月二日の昼過ぎ、妙なじいさんがたずねて来た。北海道の山中に牛馬を飼って居る関と云うじじいと名のる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
じじいも、起きて来て、三分心のランプに火を点けて、其処の勝手許に吊したのである。ランプはまだぐらぐらと揺れている。外には、吹雪の音が絶えなかった。
凍える女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
田名網たなあみです……まだ警視庁にごやっかいになっています。……おお、久保田検事さんですか? へえ、こっちに……ええ、ええ、そうです。じじいになりましてね。
(新字新仮名) / 楠田匡介(著)
死んだじじいもわるいんじゃ。だがのう今度の一揆にやってあのおきん婆の仕打ちはどうじゃ。足腰のたっしゃな息子が三人もあるのにな。自分の息子は出さんでな。
義民甚兵衛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
弁当には玉子焼きとものとが入れられてあった。小使は出流でながれのぬるい茶をついでくれた。やがてじじいはわきに行って、内職のわらを打ち始めた。夜はしんとしている。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
二十五歳の公爵総裁は、若夫人同様おっとりとして、鷹揚おうようで典雅で上品で、その代り悪くいえばじじい青年のようにしなびている。若さなぞというものは薬にしたくもない。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
あんな出鱈目でたらめを言う、いけ好かないじじいっちゃ無い、お前さんこそ、この間私の家へやって来て、多勢居る前で、村岡さん貴方あなた何時いつまでもそうして後家を立て通す気か
青い眼鏡 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「おれがじじいになったとき。そのときは、この子も大きゅうなっとるぞ。……そうじゃ。かつ、という字を入れた名にしてやろ。……勝、勝、……勝、何がええかのう?……」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
ソクラテスがアテネの裁判所に召喚しょうかんせられ、有罪の宣告を受けて、獄屋ごくやに投ぜられたときには、アテネの者が皆々あざけり笑って、とうとうあのおしゃべりじじいも、あの年になって
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「気がつきましたか。」と農夫の身なりをしたじじいが傍に立っていて笑いながら尋ねる。
竹青 (新字新仮名) / 太宰治(著)
貧乏な、御家人風情ごけにんふぜいではあっても、かく両刀りゃんこを差したあがりのおれが、水ッぱなをすすりながら、町内のお情で生きている夜番のじじいと一緒に、拍子木ひょうしぎをたたいたり、定使じょうづかいをする始末だ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
のみならず、昔話のまねじじいと同様によほどひどい目にあうのが落ちであろう。
時事雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
するとそこの踏切番のじじいが通る人から聞いたことを伝えてくれた。神田が大火である。日比谷も盛んに燃えている。日本橋、浅草、本郷、麹町こうじまちなども燃えている。あの雲は火事の煙であると。
地異印象記 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
「実際これはじじいが長州征伐の時に用いたのです」と寒月君は真面目である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのころ僕は学校の餓鬼大将だけにすこぶる生意気なまいきで、少年のくせに大沢先生のいばるのがしゃくにさわってならない。いつか一度はあの頑固じじいをへこましてくりょうと猪古才ちょこざいなことを考えていた。
初恋 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
その憤怒のために、彼はかなりの熱の発作に襲われ、女中は立ち去ってしまった。彼女は疳癪かんしゃくを起こして、彼女のいわゆる「この気違いじじい」に一言の断わりもせずに、二度と姿を見せなかった。
彼は評判の慾ばりじじいですから、当てになったものではありません。そこで、僕は三造がこの事件に関聯して何か秘密を持っているに相違ないと目星をつけ、彼の身辺につき纒って探偵を始めました。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「あのじじいは、再度生老人だなんて、名ばかり偉くて、何もろくなものは描けねえようでがすな。どこから頼まれでも、俺が頼んでも、さっぱり描きいんからな。気が向かねえ、気が向かねえって描きいんでがすからな。」
再度生老人 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「かわいそうに、じじいみたいな名じゃないか」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見る影も無いビッコの一寸法師で、木乃伊ミイラ同然に痩せ枯れた喘息ぜんそく病みのヨボヨボじじいと云ったら、早い話が、人間の廃物だろう。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
内々その予言者だとかいうことを御存じなり、外にあたりはつかず、旁々かたがたそれでは、と早速じじいをお頼み遊ばすことになりました。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お前は批評壇の明星プランス・デ・クリチックは馬鹿じじいだといった。それでお前は、彼の批評が出る新聞を買いに、はやばやと新聞の売店へ出掛けた。
ははああいつが鑿孔機せんこうき、うんとこさ書籍ほんも持っていやがる……オヤオヤオヤ人形もあらあ、やアいい加減じじいの癖に、あんな人形をいじっていやがる。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「とんでもない。私がチャン老人を最後に見たときは、彼はこれから百年も長生きをするような顔をしていた。あの慾ばりじじいを殺したのは、私ではない」
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「そんなことはどうでもいい。」と大きなかぎを持ってる仮面の男が腹声でつぶやいた。「なかなかすげえじじいだ。」
ミーチャと同じようにあのイソップじじいの血を流しかねない——つまり殺しかねない人間だと思ってるかい?
その赤い提燈は十けんばかりたがいへだたりを置いて三つ、東南の村口から入って来て何処どこへか消えてしまうのである。最初それを見付みつけたのが村のはずれに住んでいた百姓じじいであった。
北の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
おのれじじいめ、えせ物知ものしりの恋の講釈、いとし女房をお辰めお辰めと呼捨よびすて片腹痛しとにらみながら、其事そのことの返辞はせず、昨日頼みおき胡粉ごふん出来て居るかと刷毛はけ諸共もろとも引𢪸ひきもぐように受取り
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
眼のぎろりとした、胡麻塩髯ごましおひげの短い、二度も監獄の飯を食った、丈の高い六十じじいの彼は、村内に己が家はありながら婿夫婦むこふうふを其家に住まして、自身は久さんの家を隠れ家にした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
あけたじじいを見た? ……あいつ、いま天然痘にかかっているのよ。真症ヴァリオラなの、ちょうど膿疱のうほう期だから危ないわね。あなたのようなお嬢さんがだい好きだから、抱きつくかも知れないわ
キャラコさん:05 鴎 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
糸織いとおりの羽織に雪駄せったばきの商人が臘虎らっこ襟巻えりまきしたあから顔の連れなるじじいを顧みた。萌黄もえぎの小包を首にかけた小僧が逸早いちはやく飛出して、「やア、電車の行列だ。先の見えねえほど続いてらア。」
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「黒羽でい宿屋はどこだ」と試みに問うと、将棋を指していた四、五人のじじい
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
じゃけどな、おきんさん、わしはたびたび無心いいとうはないんじゃけどな、家のじじいがな、二、三日前から、わずらいついてな。……食うものも食わんのじゃけに、わずらいつくのも当り前じゃがな。
義民甚兵衛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
テーブルの上には戸籍台帳こせきだいちょうやら、収税帳しゅうぜいちょうやら、願届ねがいとどけを一まとめにした書類やらが秩序ちつじょよく置かれて、頭を分けたやせぎすの二十四五の男と五十ぐらいの頭のはげたじじいとが何かせっせと書いていた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
三馬さんばったことがある。そうさ、五十四、五に見えた。猿のしるしのある家で、化粧水を売っていたっけ。倉の二階住で、じんきょやみのくせにめかけがあった。子供心にも、いやなじじいだと思ったよ。