きら)” の例文
九月七日——「昨日も今日も南風強く吹き雲を送りつ雲を払いつ、雨降りみ降らずみ、日光雲間をもるるとき林影一時にきらめく、——」
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
濃紺のうこん濃紫のうしの神秘な色をたたえて梢をる五尺の空に唯一つ明星をきらめかしたり、彼の杉の森は彼に尽きざる趣味を与えてくれる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
全くベアトリーチェにそゝげり、されど淑女いとつよくわが目にきらめき、視力みるちからはじめこれにへざりしかば 一二七—一二九
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
さっきからこまかい虫の集りのようにうごめいていた、新嘉坡シンガポールの町の灯がだんだん生き生きときらめき出した。日本料理店清涼亭の灯も明るみ出した。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼は一切が馬鹿げた踊りのように見え始めて来るのであった。すると、幾度となく襲っては退いた死への魅力が、きらめくように彼の胸へ満ちて来た。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
夜の大空の野にきらめくうねをつける星辰せいしん——眼に見えぬ野人の手に扱われる銀のすき——その平和を汝はもっている。
蒼天の星の如くきらめくG師の眼光も一緒になつて、自分の心に直入し、迷へる魂の奧底を責めさいなむのであつた。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
穹窿アーチ形の天井から下っている純白しゃのように薄い垂れ幕……ふうわりと眼も醒めんばかりの羽根蒲団クッションが掛けられて、瑪瑙めのう勾欄こうらん……きらびやかな寝台の飾り!
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
名も知らないような宝石たまが両の手のどの指にもきらめいているのだ、袖口がゆれると腕輪の宝石いしが目を射る、胸もとからは動くとちらちらと金の鎖がゆれて見える。
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
複雑な思想が瞳の奥で奔湍ほんたんのようにきらめき、やがて一束の冷徹な流れとなって平一郎をみつめるのである。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
さうしてはかへるかぬ日中につちうにのみ、これあふげばまばゆさにへぬやうにはるかきらめくひかりなかぼつしてそのちひさなのど拗切ちぎれるまでははげしくらさうとするのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
翩翻へんぽんとして、現実の隙間に、季節と光線の僅かなきらめく彫刻を施しながら、一瞬から一瞬へ、偶然から偶然への、その散策の途すがらに、彼の檻の一隅をも訪れたのである。
測量船 (新字旧仮名) / 三好達治(著)
狩衣かりぎぬのすそを旅支度にくくり、えりの下にはよろい小実こざねきらめいていた、長やかな銀作りの太刀を、革紐かわひも横佩よこばきにし、それでいて烏帽子えぼしをいただいた髪の毛は真っ白なのである
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たまか、黄金こがねか、にもたうと宝什たからひそんで、群立むらだつよ、と憧憬あこがれながら、かぜ音信たよりもなければ、もみぢを分入わけいみちらず……あたか燦爛さんらんとして五彩ごさいきらめく、天上てんじやうほしゆびさしても
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
弱きには怨恨うらみを抱かしめ強きにはいかりをおこさしめ、やがて東に西に黒雲狂ひ立つ世とならしめて、北に南に真鉄まがねの光のきらめきちがふ時を来し、憎しとおもふ人〻に朕が辛かりしほどを見するまで
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
お光はシヨールをとりコートを脱いで、お召の着物に黒縮緬の羽織、博多の帶の間に金鎖をきらめかしたまゝ、長火鉢の側まで出て來た。店頭みせさきには何時の間にか山形に日の丸の高張提灯が輝いてゐる。
兵隊の宿 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
きらめき、さてはづぶづぶと青く沈みぬ。
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ひろしまの中のきらめく租借地
原爆詩集 (新字新仮名) / 峠三吉(著)
すべる車のきらの輪の
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
洪水のようにみなぎり流れる路面の水にも、それを蹴返してホースの口が注ぎ上げるような飛沫ひまつにも、撩乱と踏みしだかれた花野の片れ/\が映りきらめき
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
されどいざ我に從へ、われ行くをねがへばなり、雙魚天涯にきらめき、北斗全くコーロの上にあり 一一二—一一四
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
浴槽ゆぶねの一たん後腦こうなうのせて一たん爪先つまさきかけて、ふわりとうかべてつぶる。とき薄目うすめあけ天井際てんじやうぎは光線窓あかりまどる。みどりきらめくきり半分はんぶんと、蒼々さう/\無際限むさいげん大空おほぞらえる。
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
が、濡れしをれた衣服の裾がべつたり脚に纒つて歩きにくさうであり、長く伸びた頭髮からポトリ/\と雫のしたゝる圭一郎のみじめな姿を見た千登世の眼には、夜目にも熱い涙の玉がきらめいた。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
振り廻される劉髪りゅうはつの波の上で刺さった花が狂うように逆巻いていた。焔を受けてきらめく耳環の群団が、腹を返して沸き上る魚のように沸騰した。と、再び揺り返しが、彼の周囲へ襲って来た。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
仰げば空のななほしあかきらめき
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
私たちはかなり潤いと勇気とを取戻した頃、東側の喫茶店の再建築の足場の頂上に西日が射して路面はたそがれ、ネオンがちらほらきらめき出して来ました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
我よく汝が己の光の中にくひて目よりこれを出すをみる、汝笑へば目きらめくによりてなり 一二四—一二六
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
星あかり朧ろきらめく野の靄に
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
東京には、こういう娘がひとりで蹣跚まんさんの気持ちをひきいつつ慰み歩く場所はそう多くなかった。大川端にはアーク燈がきらめき、涼み客の往来は絶ゆる間もない。
蝙蝠 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
されど憂ひのしたゝりかく頬をくだる汝等は誰ぞや、汝等の身にかくきらめくは何の罰ぞや 九七—九九
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
東京には、かういふ娘がひとりで蹣跚まんさんの気持ちをになひつつ慰み歩く場所はさう多くなかつた。大川端にはアーク燈がきらめき、涼み客の往来は絶ゆる間もない。
蝙蝠 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
店先には商品が充実していて、その上種類の変化も多かった。道路のやみを程よく残して初秋らしい店の灯の光がき水の上にきらきらときらめいたり流れたりしていた。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そこは櫟林の外れで、櫟林から離れると緑の葉にきら/\陽がきらめいている大根畑がありました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
だん/\募る夕闇の中に銀の食器と主客の装身具が、星座の星のやうにきらめいた。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
世界的百貨店、ウェルトハイムの大飾窓にきらめく満天の星、神木の木の下の女神を取巻く小鳥、獣類、人間の小児こども、それらを囲る幽邃な背景が、エンジンの回転仕掛けで、めぐる、めぐる。
伯林の降誕祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
近くに䚧釣にべづりの火が見え出し、沖に烏賊いか釣りの船の灯が冷涼すずしくきらめき出した。
蝙蝠 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
近くに𬵩釣の火が見え出し、沖に烏賊いか釣りの船の冷涼すずしくきらめき出した。
蝙蝠 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
賭博場を取巻く角や菱形に区切られた花園は夜露に濡れ、窓から射す燈に照らされ、ゴムを塗った造花の様にきらついて居る。その中を歩き乍らいくら小田島が振り除けても女は離れて行こうとし無い。
ドーヴィル物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)