海月くらげ)” の例文
ところで——番町ばんちやう下六しもろく此邊このへんだからとつて、いし海月くらげをどしたやうな、石燈籠いしどうろうけたやうな小旦那こだんなたちが皆無かいむだとおもはれない。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
右の手の指でつまんで棄てようとするとそれが右の腕にへばりつく。へばりついた所が海月くらげの糸にでもさわったように痛がゆくなる。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
妾の寝台は隅から隅まで印度インド風でり固まっていた。白いのは天井裏のパンカアと、海月くらげ色に光る切子きりこ硝子のシャンデリヤだけだった。
ココナットの実 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「骨があるのかないのか、まるで海月くらげのようなことを言う奴じゃな。——不憫ふびんな気がしないでもない。望みならば、一杯呑ましてやろうか」
山県有朋の靴 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
音が味を助けるとか、音響が味の重きをなしているものには、魚の卵などのほかに、海月くらげ木耳きくらげ、かき餅、煎餅せんべい沢庵たくあんなど。
数の子は音を食うもの (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
失意にも思われない様子は、こう云う生活に慣れ抜いて、海月くらげが海に漂いながら、塩水を辛く感じ得ない様なものだろうと代助は考えている。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
船の周囲には、たくさんの小海蝦こえびと共に、無数の小さな海月くらげやうみうしなどが集まって来ているので、鯨のみえるという見込みはもう十分である。
兵部ひょうぶは、眸のながれたような眼で、明りにつれて、海月くらげみたいに、ふわふわとうごく、無数の女の顔を、見まわして
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何故ともなく私は数え切れぬ疲労をどっと感じ、肩を海月くらげのように落しながら、そこにある露地の中に入って行った。
風宴 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
迎えにきた使者は人であれ、亀・海月くらげであれ、きまってその途中で訪問者の利益になることを教えてくれる。竜宮に行ったら何か欲しいものはないか。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
『二れつさ!』と海龜うみがめさけんで、『おほくの海豹あざらしや、海龜うみがめなぞが、それから往來わうらい邪魔じやまになる海月くらげぱらふ——』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
黒崎、出雲いずも村の方は夕煙が霞のようになって、宿に迷う初瀬詣はつせまいりの笠が、水の中の海月くらげのように浮動する。
あの人が嬌瞋きょうしんを発して、喜田川三郎氏に涙乍ら訴えると、実業界であんなに鳴らした喜田川三郎氏は、全く海月くらげのようになってしまうのも有名な事でありました。
氷がひとでや海月くらげやさまざまのお菓子の形をしてゐる位寒い北の方から飛ばされてやつて来たのです。
氷河鼠の毛皮 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
わたしの待つた消滅の薫りが馥郁ふくいくとしてわたしの骨に匂ひ出した。わたしは生涯働かなかつたといふことを思ひ出に漂ふ空無リヤンの海に紫の海月くらげとなつて泳ぎ出るのだ。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
それが嫌なら、あの暗緑色の深いところへ、はいつてゆかねばなるまい。あそこには気味の悪い海月くらげや鮹や、恐しいあんかうや、わにざめなんかひそんでゐるだらう。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
先天的に剛に出来ている人と、同じく先天的に柔に出来ている人とあるは、あたかも動物にもかめもあれば海月くらげもあり、植物にもくりもあればいちごもあるがごとくである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
折さえ有れば奪い取り度い、アレを取って了いさえせば、彼は骨も筋もない海月くらげ同様の者になるのだ。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
法師丸は、女が城を落ちて来たように思わせるために、被衣かつぎを頭へかざしていたが、そのうすものゝ影が真っ白な地上に海月くらげの如くふわ/\するのを視つめながら歩いた。
海月くらげみたいに盛り上っては動くその耳を見ると、釘抜形にまがった藤吉の脚が、まず自ずと顫え出して、気がついた時、本八丁堀を日本橋指して藤吉は転ぶように急いでいた。
骨のない海月くらげや豆腐を料理なされてもなんの御手堪おてごたへもござるまい。さつきの喧嘩とは訳が違ひまする。こゝは何分この奴に免じて、そのお刀はお納めなされて下さりませ。
番町皿屋敷 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
その本の著者の心情からスーと遠のいて自然科学的な観察の対象と化された半透明な、自発的な意志のない、海月くらげか何ぞのように感じられて来るのは、何と悲しい心持だろう。
生態の流行 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
びりびりとまるで揺られる海月くらげみたいに慄え続けているだけだが、そのうちに中央にいる病人だけはもう慄える力もなくなって皆の慄える中で一人じっと縮んでしまって動かない。
時間 (新字新仮名) / 横光利一(著)
玉蜀黍殻とうきびがらといたどりの茎で囲いをした二間半四方ほどの小屋が、前のめりにかしいで、海月くらげのような低い勾配こうばいの小山の半腹に立っていた。物のえた香と積肥つみごえの香がほしいままにただよっていた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
海月くらげなす漂へる天蓋、とでも言つたら、あなたたち風流人は喜びますかね。
お伽草紙 (旧字旧仮名) / 太宰治(著)
この風景はおのずから「磯ぎんちゃく」の充満した、けわしい岩むらに変ってしまう。空中に漂う海月くらげの群。しかしそれも消えてしまい、あとには小さい地球が一つ広いやみの中にまわっている。
誘惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「そはまことに嬉しき事かな。さばれかく貴き医師くすしのあることを、今日まで知らざりしおぞましさよ。とかくは明日往きて薬を求めん」ト、海月くらげの骨を得し心地して、その翌日あけのひ朝未明あさまだきより立ち出で
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
しづかなる秋の入江に波のむた限りも知らに浮ける海月くらげ
長塚節歌集:2 中 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
海月くらげに用心しなければならない。
骨もなく鰭もなき海月くらげの嘆か。
偏奇館吟草 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
海月くらげは渚にきて青く光れり
ありや二曲 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
海月くらげのやうに青ざめた
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
海月くらげなす漂へる時
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
存命ながらえて坊主になって老い朽ちた。娘のために、姉上はそれさえお引取りになった。けれども、その魂は、途中でおす海月くらげになった。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
暗緑色に濁ったなみは砂浜を洗うて打ち上がった藻草をもみ砕こうとする。おびただしく上がった海月くらげが五色の真砂まさごの上に光っているのは美しい。
(新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ルルとミミは女王様から貸していただいた、大きな美しい海月くらげに乗って、湖の御殿の奥庭からおかの方へおいとまをすることになりました。
ルルとミミ (新字新仮名) / 夢野久作とだけん(著)
これは紛れもなく海神わたつみの宮の口女くちめであり、また猿のきもの昔話の竜宮りゅうぐう海月くらげであって、こういう者が出てこないと、やはり話にはなりにくかったのである。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
円い灯影ほかげの輪が、女の白いあごから面長な顔を逆さまに撫でて、暗い天井を海月くらげのようにふわふわとうごいて来る。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのなかには「禿はげを自慢にするものは老人に限る」とか「ヸーナスはなみから生れたが、活眼の士は大学から生れない」とか「博士を学界の名産と心得るのは、海月くらげを ...
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
出して見ると海月くらげの幼児の群れのようにぬめるが、水分はほとんどないと言ってよいくらいである。
洛北深泥池の蓴菜 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
お喋り坊主はひきつづき、海の中に漂う海月くらげのように、小路こうじの暗いところで法然頭ほうねんあたまを振り立てて
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「それが惡く賢こくて、さすがの勘兵衞も海月くらげ見たいにされて居るといふ話だらう」
彼は『母胎』という言葉に似たものを感じながら、十分間ほどゆらゆらと海月くらげのようにただよっていた。空には雲がなく、一面に星が光っていた。福がどこにいるか、もう判らなかった。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
海月くらげなす漂へる天蓋、とでも言つたら、あなたたち風流人は喜びますかね。
お伽草紙 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
扁平へんぺいな漁場では、銅色あかがねいろの壮烈な太股ふとまたが、林のように並んでいた。彼らは折からのかつおが着くと飛沫ひまつを上げて海の中へんだ。子供たちは砂浜で、ぶるぶるふるえる海月くらげつかんで投げつけ合った。
花園の思想 (新字新仮名) / 横光利一(著)
海月くらげうた
偏奇館吟草 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
この度の娘の父は、さまでにもなけれども、小船一つで網を打つが、海月くらげほどにしょぼりと拡げて、泡にも足らぬ小魚をしゃくう。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
指さすと、彼女は、不敵な、そしてまた、ひどく蠱惑こわくな、あの笑靨えくぼを、海月くらげのように、頬に、チラつかせて
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
波は非常に澄んでいるから高い所から見下すと、おかに近いあたりなどは、日の照る空気の中と変りなく何でもいて見えます。泳いでいる海月くらげさえ判切はっきり見えます。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
船首の突端へ行って海を見おろしていると深碧しんぺきの水の中に桃紅色の海月くらげが群れになって浮遊している。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)