洲崎すさき)” の例文
あまとぶかり小夜さよの枕におとづるるを聞けば、都にや行くらんとなつかしく、あかつきの千鳥の洲崎すさきにさわぐも、心をくだくたねとなる。
小林の船倉ふなぐらから東の方へ突き出した洲崎すさきには材木場の大きな建物が見えています。町は明るいのに船倉と材木場の方は真暗です。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
案内者あんないしやがついてゐます。御串戲ごじやうだんばかり。……洲崎すさき土手どてあたつたつて、ひとふねせば上總澪かづさみをで、長崎ながさき函館はこだてわた放題はうだい
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
この妙な声は、わたくしが二十歳はたちの頃、吉原の羅生門横町、洲崎すさきのケコロ、または浅草公園の裏手などで聞き馴れたものと、少しも変りがない。
寺じまの記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
女は元は洲崎すさきかどこかに出ていて、留さんとはそこで馴染なじんだ。そのあと潮来かどこかへ変ってからも、幾たびか留さんが逢いにいったらしい。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
寒い洲崎すさきのほうにさぎの立っている姿があたりの景によき調和を見せてい、はるばると長い宇治橋が向こうにはかかり
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
終いには洲崎すさきの引手茶屋へ問い合わしてみると、そこでは返事が少し曖昧であった。お庄はそれから叔母に相談して、俥でそこまで出かけて行った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
千葉、木更津きさらづ富津ふっつ上総かずさ安房あわへはいった保田ほた那古なご洲崎すさき。野島ヶ岬をグルリと廻り、最初に着くは江見えみの港。それから前原港を経、上総へはいって勝浦、御宿おんじゅく
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
深川の洲崎すさきにはこの群集がぞろぞろ続いている。と言ったどこまでも呑気のんきな世風である。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
扱う人間は口が堅いから、ここで荒立てると、親船が判らなくなる。大川から芝浦、洲崎すさきへかけて、あんなにたくさん船が居るから、どれが抜け荷を扱う親船だか見当の付けようはねえ
さて眺望みわたせば越後はさら也、浅間あさまけふりをはじめ、信濃の連山みな眼下がんか波濤はたうす。千隈ちくま川は白き糸をひき、佐渡は青き盆石ぼんせきをおく。能登の洲崎すさき蛾眉がびをなし、越前の遠山は青黛せいたいをのこせり。
「それもそうだな。……これは、チト怪しくなって来た。おやおや、高下駄を穿いて駈け出して行く。おい、伝兵衛、和蘭陀だと思ったら、どうやら、これは洲崎すさきあたりの景色らしいな」
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「そんな議論にむきになっているよりも僕と一しょに洲崎すさきへでも来いよ。」
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
若旦那さえ世に出れば私の身の上は何うなってもいといません、おまはんには難儀をかけないから、若し無心をいってかない時は、洲崎すさきの土手あたりの淋しい処で……なア、ようざますか、なア
ですが、閻魔樣あちらさままへでは、けたものですから。——じつ此寺こゝ墓地ぼちに、洲崎すさき女郎やつまつてるんです。へ、へ、へ。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
女は元は洲崎すさきかどこかに出ていて、留さんとはそこで馴染なじんだ。そのあと潮来かどこかへ変ってからも、幾たびか留さんがいにいったらしい。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
或日わたくしは洲崎すさきから木場きばを歩みつくして、十間川じっけんがわにかかった新しい橋をわたった。橋のてすりには豊砂橋とよすなばしとしてあった。
元八まん (新字新仮名) / 永井荷風(著)
さて眺望みわたせば越後はさら也、浅間あさまけふりをはじめ、信濃の連山みな眼下がんか波濤はたうす。千隈ちくま川は白き糸をひき、佐渡は青き盆石ぼんせきをおく。能登の洲崎すさき蛾眉がびをなし、越前の遠山は青黛せいたいをのこせり。
ただ夜空をとぶかりの声が枕もとちかく聞えてくると、あの雁は都をさして飛んで行くのだろうかと、それさえなつかしく思われ、明け方の千鳥が洲崎すさきで友よびかわして鳴くのを耳にすると
「おや、洲崎すさき兄哥あにい
したがつて、洲崎すさきだの、仲町なかちやうだの、諸入費しよにふひかる場所ばしよへは、ひて御案内ごあんないまをさないから、讀者どくしや安心あんしんをなすつてよい。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さればや僕少壮の頃吉原よしわら洲崎すさきに遊びても廓内かくない第一と噂に高き女を相方あいかたにして床の番する愚を学ばず、二、三枚下つたところを買つて気楽にあそぶを得手えてとなしけり。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
……不首尾重って途絶えているけれど、中洲より洲崎すさき遊女おんなが大切なんだ。しかし、心配は要るまいと思う。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夏中洲崎すさき遊廓ゆうかくに、燈籠とうろうの催しのあった時分じぶん、夜おそく舟でかよった景色をも、自分は一生忘れまい。とまのかげから漏れる鈍い火影ほかげが、酒にって喧嘩けんかしている裸体はだかの船頭を照す。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
船蟲ふなむしむらがつて往來わうらいけまはるのも、工場こうぢやう煙突えんとつけむりはるかにえるのも、洲崎すさきかよくるまおとがかたまつてひゞくのも、二日ふつかおき三日みつかきに思出おもひだしたやうに巡査じゆんさはひるのも
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
船虫ふなむしむらがって往来を駆けまわるのも、工場の煙突えんとつけむりはるかに見えるのも、洲崎すさきへ通う車の音がかたまって響くのも、二日おき三日置きに思出おもいだしたように巡査じゅんさが入るのも
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おなじ町の軒並び二町ばかり洲崎すさきの方へ寄った角に、浅草紙、束藁たわし懐炉灰かいろばい蚊遣香かやりこうなどの荒物、烟草たばこも封印なしの一銭五厘二銭玉、ぱいれっと、ひーろーぐらいな処を商う店がある
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一体堀割の土手つづきで、これから八幡はちまん前へ出る蛇のうねった形の一条ひとすじ道ですがね、洲崎すさきへ無理情死しんじゅうでもしに行こうッて奴より外、夜分は人通のない処で、場所柄とはいいながら、その火事にさえ
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
洲崎すさきくるわへ入った時、ここの大籬おおまがきの女を俺が、と手折たおった枝に根をはやす、返咲かえりざきの色を見せる気にもなったし、意気な男で暮したさに、引手茶屋が一軒、不景気で分散して、売物に出たのがあったのを
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
父が存生ぞんじょうの頃は、隅田川を前に控え、洲崎すさきの海をうしろいだき、富士筑波を右左に眺め、池に土塀をめぐらして、石垣高く積累つみかさねた、五ツの屋の棟、三ツの蔵、いろは四十七の納屋を構え、番頭小僧、召使
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「深川の方で、ええ、その洲崎すさきの方で、」
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)