きま)” の例文
「ではあなたの意志一つであなたの運命もきまります。」と彼は云つた。「私の手も、心も、所有物全部の分前わけまへもあなたに捧げます。」
天候其他に差支がなかったならば、更に金峰山まで縦走しようと相談がきまって、七月二十二日夜九時飯田町発の汽車で東京を出懸けた。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
わたくし自身じしん持参じさんしたのはただはは形見かたみ守刀まもりがたなだけで、いざ出発しゅっぱつきまった瞬間しゅんかんに、いままでんで小屋こやも、器具類きぐるいもすうっと
子供のときから何かといえば跣足はだしになりたがった。冬でも足袋たびをはかず、夏はむろん、洗濯せんたくなどするときはきまっていそいそと下駄をぬいだ。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
万事が金銭上の義理ばかりでなくて相方そうほうの好意から自然とお糸は葭町へ行くようにれがいるともなくきまっていたのである。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
り稻の穗を噛むのが癖だすな。……東京に居やはると、稻もおますまいがなア。……春は麥の穗を拔いて、秋は稻の穗や。きまつてる。』
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
その頃のおきてで、主殺しは磔刑はりつけきまつて居り、伊與之助もこの極刑は免れなかつたのですが、それつ切りお處刑しよけいがウヤムヤになつてしまひました。
一生かかって神学を勉強しても十分な説明のつかないことでありますが、しかしこれは理屈でわかるべき事柄でないんで、事実できまることなんです。
キリスト教入門 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
毎年秋風が立ちはじめるときまって漢の北辺には、胡馬こばむちうった剽悍ひょうかんな侵略者の大部隊が現われる。辺吏が殺され、人民がかすめられ、家畜が奪略される。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
何時のにか、天気がよくて雪の降らぬ日はふりこ沢のあたりまでスキーに乗って、積雪上の波型を見に出かけるということにきまってしまったのである。
これ、おにゃったがぢゃうならば、あいや。さうでなくばいなや。たった一言ひとこと二言ふたこと此身このみ生死しゃうしきまるのぢや。
だが仮にシェストフが彼の手紙の写しを全部机上に備えていたにしても、やはりチェーホフにごつんごつんと頭をぶつけさせずにはかなかったにきまっている。
将軍のところへ出入する情報局蒐集官しゅうしゅうかんたちは、きまって、将軍から同じ趣旨しゅしの質問を受けるのだった。
「痛いよ。だッて、お前さん。角川の若旦那には判然ちゃんとお嫁さんがきまってると云うじゃアないか。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
したが、君の事は君さへ承知すれば直ぐきまる位に話を進めて来た。無論現在よりは条件も可ささうだ。それに君は家族が小樽に居るんだから都合が可いだらうと思ふんだ。
札幌 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
よろしい訳でしたが、どうも世の中というものはむずかしいもので、その人が良いから出世するという風にはきまっていないもので、かえってほかの者のそねみや憎みをも受けまして
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
晩方になると、きっとお仕着せを飲ませることにきまっている父親への、酒の支度をおろそかにしたといって、小野田がその時も大病人のように二階に寝ていたお島に小言をいった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
もうあまの心に成つて居ますと云つて泣き伏したが、もう朗然和上と夫婦との間に縁談がきまつて居つたあとだから、親の心に従つてつひに其年の十一月、娘は十五荷ので岡崎御坊へ嫁入よめいつて来た。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
かかる艱苦かんく旅路たびじうちにありて、ひめこころささうるなによりのほこりは、御自分ごじぶん一人ひとりがいつもみことのおともきまってることのようでした。
萬事ばんじが金銭上の義理ばかりでなくて相方さうはうの好意から自然とおいと葭町よしちやうくやうにれがひるともなくきまつてたのである。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「そのお話は隨分急におきまりになつたのね。あの方達は知り合つてから未ださう長くはない筈だわ。」とダイアナが云つた。
実験のやり方はきまっているのであるが、硝子管の太さと長さとを色々にかえ、混合気体の割合をまた色々かえて調べて行くので、やることはいくらでもあった。
しかしこんな不安の状態ありさま何時いつまでも続いていたら、結局自分は根負こんまけがしてしまうにきまっている。先刻さっきからほど時間も経っているだろうのに、救いの人々はまだ見えぬ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
大枚たいまい三百両の支度金したくきんまで投げ出して、いよいよ明日の晩は、お君を伊賀井家に乗込ませるときまった——昨夜ゆうべになって、肝心かんじんのお君は自分の家の裏口で、植木屋の女房のお滝は
まじらふものがあれば堰止せきとむることも出來できるものと、舅御しうとご才覺さいかくにて、きふ婚禮こんれいこときまった。
其處へ道廳に勤めてゐる友人の立見君が公用旁々見舞に來て呉れたので、早速履歴書を書いて頼んで遣り、二三度手紙や電報の往復があつて、私は札幌の××新聞に行く事にきまつた。
札幌 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
明日をも知れぬ、今のやうな淺ましい身體になつて、自分のきまつた世界といふもののない、みだもつれた神經にでも、昔の折の鮮かな花嫁姿の誇りは、ハツキリと刻み込まれてゐるであらうか。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
そして其の上でまあ其処そこいらが落著おちつきどころときまつたわけであつた。
復讐 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
御自分同志ごじぶんどうしいのは結構けっこうであるが、ういうことは、矢張やは御両親ごりょうしんのお許諾ゆるしほうがよい……。』どうせわたくしもうすことはこんな堅苦かたぐるしいはなしきまってります。
葉の落ちた木を少し離れて見た場合、梅か桜かかえでかということは、枝ぶりですぐ分る。枝ぶりは、一個所から出る小枝の数とその角度、それに次ぎの小枝までの距離できまる。
「親分、忌々いまいましいじゃありませんか、下手人はあの亭主野郎にきまっているのに」
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「勿論です、それはもう、すつかり、きまつてゐますわ。」
水蒸気を適当に、かつ結晶の隅々すみずみまで行き渡らすには自然対流を用いるのが一番良いことは考えて見れば何でもないことであった。自然の場合だって天は上に、地は下にときまっている。
雪を作る話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
水の温度を色々に変えて、水蒸気の供給を加減すると、それぞれにきまった形の結晶が得られる。例えば水蒸気が多いと羽毛状に発達した繊細な結晶になり、中ほど位にすると綺麗な角板になる。
雪を作る話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)