マスト)” の例文
まっさおに澄みわたった海に対してきょうの祭日を祝賀するためにマストから檣にかけわたされた小旌こばたがおもちゃのようにながめられた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
海を圧する歓呼と万歳声裡に船橋塔フォアキャッスル彼方かなたマストに高く英国旗ユニオンジャックなびかせたイキトス号はいよいよ巨体を揺すぶって埠頭を離れ始めたが
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
二本マストのゴエレット船、地中海の三角帆船タルタアヌ、マルタ島のトロール船、バクウの石油船。そうかと思うと古風な三檣砲艦モニトールなんてのもいる。
背後のマストも、前にある煙突の林立も、およそ文化といい機械という雑色のなかにあってさえも、この沈鬱の気を和らげるものではない。
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
艦橋もマストも起重機も、そして艦載機も、その激浪にのまれてしまったかと思われた。二千トンの潜水艦が、木の葉のようにゆれる。
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかし船長は相変わらず無感覚な顔をして、望遠鏡で地平線を見渡しながら、一日の大部分をマストの上の見張り所に暮らしている。
渦巻をぐるぐるまわるたびに船は樽やそのほか船の帆桁ほげたマストのようなもののそばを通るのですが、そういうような多くのものが
船が傾いているために、マストはずっと遠く水の上へ突き出ていて、檣頭横桁の私の棲木とまりぎの下には、湾の水面の他に何もなかった。
あかふねや、しろふねや、くろふねマストの三ぼんあるもの、また二ほんあるもの、ながふねやあまりながくないのや、いろいろありました。
カラカラ鳴る海 (新字新仮名) / 小川未明(著)
舷には櫓や網や竿やその他がゴチャゴチャになっているので、我々の横を疾走して行く時、私は極めて朧気な印象を得た丈である。マストは三本。
お前を慕つて遥々とやつて来た「二本マストの水夫」だよ。お前を追ひかけるために水夫になつたウルービノの羊飼ひだよ。
山彦の街 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
今夜買ったのは半月形で蒼海原に帆をはらんだ三本マストの巨船の絵である。夕日を受けた帆は柔らかい卵子色をしている。
まじょりか皿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
羽根は飛んでしまい、マストは折れ、その他表面にある附属物は一切滅茶滅茶に破損して、まるでいなごの足や羽根をむしったように鉄製の胴だけが残っている。
月世界跋渉記 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
木造、螺旋式らせんしき、三本マスト、フリゲット——長さは無慮二百四五十尺、幅は三十尺以上四十尺の間、排水は、玄人くろうとの目で見て三千トンは動かぬところ——
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ジブラルタルの海峡を指して航行しつつあると覚しい一杯に帆を張った二本マスト大型帆船ブリガンテンに出会ったのは、一八七二年十二月五日の午前十時頃だった。
海妖 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
マストの絶頂で日を暮したりしてゐる! けれど、彼のその拔け出さうとするあらゆる努力も、纔かに彼の頸と弱つた頭とを擡げさせるだけに過ぎなかつた。
笛の音は中甲板ちゅうかんぱんの巨大なマストの下、三本立った白茶に藍の開き耳の、これも大きな通風筒の向う蔭から響いて来る。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
つきくまない、その眞先まつさき黒烟こくゑんいてすゝんでるのは、二本にほん烟筒ゑんとう二本にほんマスト! 見忘みわすれもせぬ四ねんまへのそれ※
あれよりもずっと立派な五本マストの帆船や大きな汽船が暴風しけくらって避難港をさがしている時でも、彼船あれは平気なんだからね。ところで君は船に乗った経験があるかい?
浮浪少年は生まれながらの水夫であり、また生まれながらの屋根職人である。いかなるマストをも屋根をも恐れはしない。グレーヴの刑場ほどのお祭り騒ぎはどこにも見られない。
僕がマストの上へ帽子をかぶつてゐる軍艦の夢を見たのは、その晩だつたやうに記憶する。
軍艦金剛航海記 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
太陽も照らず、雨も降らず、唯波の音とマストやブリツヂに衝る風の響が如何にも物凄い。
マストの上には、荒鷲を描いた特別の司令旗が、はげしい風の中に、はためいている。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
あるいマストのように渚に突立って、くろみゆく水平線のこんもりふくれた背を、瞬きを忘れて見詰め、或は又、右手めて太郎岬たろうみさきの林を染めているかすかあかねに、少女のような感傷を覚えたり、さては疲れ果て
腐った蜉蝣 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
甲板にもマストの上にも海上にも、燈火一つない。へさきの突端に当直番ウォッチが、石像のようにじっと立っている。その姿はやはり眠っているようだ。船が自由意志に任されて、勝手に進むのかと思われる。
グーセフ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
何しろお前はマストの林と、家の際にもやつてある船が大好きなんだから。
マストから張られた縄にとりすがりながら、冷たい言葉を吐いた。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
だが、あゝ御空みそらの聖人たちよ、夕暮迫るマストのやうな
あけの明星は強い金色こんじきマストの横に放つて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
もちろんマストには、どこの国の船だかを語る旗もあがっていず、太い帆げたも、たるんだ帆綱ほづなもまるで綿でつつんだように氷柱つららがついている。
大空魔艦 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もう、正午ひるちかいのに、なかなか合図がない。キャラコさんは、マストの下まで行って、額に手をかざして谷底をのぞき込む。
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
マストを立て、煙を吐いて行く黒船の雄姿は、田山の眼と、心とを、両個ふたつの人影から奪うに充分でありました。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
私どもはその台風がすっかりおそってこないうちに帆索ほづなをゆるめておきましたが、最初の一吹きで、二本のマストのこぎりでひき切ったように折れて海へとばされました。
もとは三本マストの大きな船であったのだが、ずいぶん永い間雨風あめかぜに曝されていたので、ぽたぽた水を滴らしている海藻が大きな蜘蛛の巣のように周囲にぶら下っていたし
今や港は、米を下し魚を積み込む日本の通商戎克ジャンクで、一杯になっている。図345はその一つの写生で、割によく出来ていると思う。マストのてっぺんは、折れているのではない。
わたくしいま二本にほん煙筒えんとう二本にほんマスト不思議ふしぎなるふねて、神經しんけい作用さようかはらぬがふとおもうかんだこのはなししかの老水夫らうすゐふげん眞實まことならば、此樣こんふねではあるまいか、その海賊船かいぞくせんといふのは
早苗は、和やかな陽差を満身に浴びながら、マストに揺れる港の旗を眺めていた。
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
一隻残った戦艦『メーン』は、マストも煙突もない。ただ海上にうかぶ『鋼鉄の島』である。それにつづく駆逐艦も、七ノットか八ノットののろい速力で、やっと紅玉湾の入口へたどりついた。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
そんな二本マストの帆船で水夫などをしてゐないで一日も早く羅馬にいらつしやい。私は今パルベリーニ通りのブルウカノ・タバンといふ店で、誰よりも、持てはやされてゐる踊り子になつてゐます。
山彦の街 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
山の緑が、そうして白楊ポプラのそよぎが燦々さんさんと光り、街の屋根が見え、装飾された万国旗の赤、黄、紫が見え、青い海が見え、マストが見え、私たちの高麗丸が見え、ああそうして、白いかもめの飛翔が見えた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
各艦では、そのしらせをうけると、いちはやく水兵をマストの上にかけあがらせて、藍色灯をつけさせた。この藍色灯は、検閲点呼のしるしであった。
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
鋒杉ほこすぎ稜線りょうせんのうえに、まっ青な空がひろがり、それを突きさすように高く伸びあがったマストの頂きで、虹色の旗がヒラヒラと風にひるがえっている。
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
兵馬の眼を驚かしたのは、眼の前の沖に、見慣れぬ三本マストの大船が横たわっていることであります。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
河口に近づくと、風が吹き上げ始め、舟夫は岸へ上って数マイル間舟を曳いた(図453)。これをやるのに彼等はマストを立てそのてっぺんに繩を結びつけ、そして舟を引張った。
噸數とんすう一千とんくらゐ二本にほん烟筒えんとつ二本にほんマストその下甲板げかんぱんには大砲たいほう小銃等せうじうとうめるにやあらん。いぶかしきまで船脚ふなあしふかしづんでえたそのふねが、いま闇黒あんこくなる波浪なみうへ朦朧ぼんやりみとめられたのである。
マストの戦闘旗が、いまにも、ビリビリひき裂かれやしないかと思うばかり。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
わずか突き出たマストの先に、再び海鳥が群がりはじめた。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そのためにマストがぎいぎいと高い音を立てた。
あ、あのマスト、煙突、煙、々、々
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
しかし驚異軍艦は、かすかにマストをゆるがしているだけで、穴一つ明かないばかりか、砲弾の炸裂さくれつした様子もない。