ほばしら)” の例文
ほばしらの樣な支柱を水際の崖から隙間もなく並べ立てゝ、其上に停車場は片側乘つて居るのである。停車場の右も左も隧道とんねるになつて居る。
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
と言い捨てて、続いて船室へと導かれて行こうとすると、そこへ、いつのまにかほばしらの上から下りて来た清澄の茂太郎が立ち塞がって
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ほばしらの様な支柱を水際のがけから隙間すきまもなく並べ立てゝ、其上に停車場は片側かたかわ乗って居るのである。停車場の右も左も隧道とんねるになって居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
あるひはだいなる夜泊やはくの船の林なすほばしらあいだに満月を浮ばしめ、その広漠こうばくたる空に一点あるかなきかの時鳥ほととぎす、または一列の雁影がんえいを以てせよ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
港の船のほばしらの林立と、帆が、布幅をたてに縫い合わされていて、絵にある支那の船の帆のようなのも、すべてが物珍しく映った。
播州平野 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
帆走する場合を考慮に入れてほばしらにする円材と帆布まで用意し、まずまずこれならどうにかいけるだろうというような見せかけをしていた。
ノア (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そして、土人たちの願いによって、ほばしらの上へ、わが軍艦旗に似た旗印をかかげた。土人が指を切って、その血でいた旗である。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
和島丸は位置を知らせるためどの窓も明るく点灯せられ、ほばしらには小型ではあるが、探照灯たんしょうとうが点じられ、船前方の海面を明るくらしつけた。
幽霊船の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
背景にふねほばしらを大きくいて、其あまつた所に、際立きはだつて花やかなそらくもと、蒼黒あをぐろみづの色をあらはしたまへに、裸体らたいの労働者が四五人ゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ほばしらの方に身を突きいだして、おん問いに答えまいらすはやすし、こなたに進みてまず杯を受けたまえといえば、二郎は、来たれ来たれと手招きせり。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
牛豕羊を食いまたほばしらのごとく海上にちて船客を捉え去ったといい、明治九年頃チリ辺の洋中で小鯨二疋一度に捲き込んだ由その頃の新聞で見た。
長いあいだ二人は波の上に一本の同じほばしらの上に揺られていた——それは「長髪」と綽名されたスヴェンが一艘ごとに二十人を乗り組ました櫓船二十を
かなしき女王 (新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
彼はセニルの松をもってなんじの板となし、彼はまたレバノンの柏香木を取りてなんじのためにほばしらを作り、彼はバシャンのつるばみをもってなんじの漿しるを作る。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
たたずんだ所は風下かざしもになっているが、頭の上では、ほばしらからたれ下がった索綱さくこうの類が風にしなってうなりを立て、アリュウシャン群島近い高緯度の空気は
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
士官の許しの首肯を見て、彼は足の鉄輪についていた鎖を鉄つちの一撃でうちこわし、それから一筋の繩を持って、ほばしらの綱具のうちに上っていったのである。
大祝賀會だいしゆくがくわいもようすとのことその仕度したく帆木綿ほもめんや、ほばしらふるいのや、倚子いすや、テーブルをかつして、大騷おほさわぎの最中さいちう
彼方はるかに白浪のゆる所、ほばしら折れげん砕けたる廃船の二つ三つ漂へるはバルチツクの海ぞ、そこの岸辺に近く、かつて実弾の祝砲を見舞はれたる弾痕の壁の下
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
それは放して飼つてあつて、ほばしらに昇つたり、船の底に這入つたりしてゐた。水兵が演習をすると、猿が真似をする。水兵はそれを見て面白がつて、皆で可哀かはいがつてゐた。
(新字旧仮名) / ジュール・クラルテ(著)
低いながらも遮っている、今通過した大籠山は、駱駝らくだ形をして、三角測量標が、霧の波に冠されながらも、その底から頂へと突き抜いて、難破船のほばしらのように出ている
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
ほばしら、檣の森。そして、もう飾りをつけたのが一本もない。来かたが遅かった。お祭は済んでいた。
わたくしと二人のきやうだいとで、前方まへかた大約七十噸ばかりの二本ほばしらの船を持つてゐました。
うづしほ (新字旧仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
もしそれ、夜半の月、ほばしらのうへに傾く時、この景にむかふもまた一脈の情致なくばあらず。
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
紅毛人の水夫が二人、ほばしらの下にさいを転がしている。そのうちに勝負の争いを生じ、一人の水夫は飛び立つが早いか、もう一人の水夫の横腹へずぶりとナイフを突き立ててしまう。
誘惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
六連島むつれじまを背景にして、一隻の汽船が、左に赤、右に緑、ほばしらに白の航海燈をともして、こちらに、近づいて来る。霞んだ暗い海のうえに、光をちりばめた黒い船体が、幻のようである。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
ほばしら索綱つなの黒い影の上に遥か高く、南国の星座が美しく燃えていた。ふと、古代希臘ギリシャの或る神秘家の言った「天体のたえなる諧音」のことが頭に浮かんだ。賢いその古代人はこう説いたのである。
さうして港の波止場はとばに訪ねくるとき、汽船のおーぼーといふ叫びを聞き、ほばしらのにぎやかな林の向うに、青い空の光るのをみてゐると、しぜんと人間の心のかげに、憂愁のさびしい涙がながれてくる。
田舎の時計他十二篇 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
ウリッセスさんはからだほばしらに縛らせましたが、7210
悶々もんもんほばしらけぶるたたずまひ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
第三の人は、即刻只今、戻って来そうですから、それをあたいは、このほばしらの上でお星様の数を数えながら、歌をうたって、待っているのです。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「そうです。さらに変なことというのは、軍艦のほばしらが——これは鋼鉄でできているんですよ。それが一部けて、あめのように曲っているんです」
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
背景に船とほばしらと帆を大きくいて、その余った所に、際立きわだって花やかな空の雲と、蒼黒あおぐろい水の色をあらわした前に、裸体の労働者が四五人いた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
第三図は童児二人紙鳶たこを上げつつ走り行く狭き橋の上より、船のほばしら茅葺かやぶき屋根の間に見ゆる佃島の眺望にして、彼方かなたよこたはる永代橋えいたいばしには人通ひとどおりにぎやかに
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ほばしら、電柱、五月鯉さつきのこいさおなどになるのが、奇麗に下枝をろされ、殆んど本末の太さの差もなく、矗々すくすくと天を刺して居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
敵の艦隊さながら海中よりわきづるごとく、煙まず見え、ついで針大はりだいほばしらほの見え、煙突見え、艦体見え、檣頭の旗影また点々として見え来たりぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「はげ」のウルリックがほばしらから沈みかけた時、琴手コンラはウルリックの髪の毛を持って引上げて息をつかせてやった、それでウルリックは生きていた。
かなしき女王 (新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
函館に来て、林なす港の船のほばしらを見、店美しい街々の賑ひを見ただけの人は、いかに裏浜とはいひ乍ら、大森浜の人気無さの恁許かばかりであらうとは、よも想ふまい。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
木下大佐は、敵の旗艦の折れたほばしらに、破れながら、ひるがえる大将旗を見て、残念そうに、つぶやいた。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
南風崎はえのさき、大村、諫早いさはやと通過する浜の黒々と濡れた磯の巖、灰色を帯びた藍にさわめいている波の襞、もやった舟のほばしらが幾本となく細雨に揺れながら林立している有様
ともを擦り、ふなべりを並べる、その数は幾百艘。ほばしらは押並び押重なって遠くから見ると林のよう。出る船、入る船、積荷、荷揚げ。沖仲仕がわたり板を渡っておさのように船と陸とを往来ゆききする。
一人の水夫があってほばしらの上から落日の大観をほしいままにし得た時、この感激を人に伝え得るよう表現する能力がなかったならば、その人は詩人とはいえない、とある技巧派の文学者はいった。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
この船は元来三本のほばしらを備えしものなるが、その二本はなかほどより折れて、これまた帆とともに行方を知らず、広漠たる船上に残るはただ一本の大檣たいしょうのみ、この大檣は甲板の中部にあり
南極の怪事 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
ほばしらや烟突を、林のやうに立たせ、重々しく鎖を引き擦り、錨を卸して、青い海の上と、焼けるやうな赤い雲の下に、装飾的に行列してゐるところであるが、この奇体な、みすぼらしい川船は
天竜川 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
この時ほばしらのかなたに立つ人あり、月を背にして立てばその顔は知り難し。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
その上、船の中には、しらみが沢山ゐた。それも、着物の縫目にかくれてゐるなどと云ふ、生やさしい虱ではない。帆にもたかつてゐる。幟にもたかつてゐる。ほばしらにもたかつてゐる。いかりにもたかつてゐる。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
今日は波が静かで、林立した帆船のほばしらも、じっとしていた。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
強いほばしらがいつでも用に立つように聳えている。
けぶりほばしらの闇に一列ひとつら
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
と思って上を見ると、塔の屋上にたてたほばしらによじのぼって、ペンキ塗をやっていた中国人らしいペンキ工が、その刷毛をとりおとしたのだった。
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
トリスタンの幕開まくあきほばしらの上で船頭の歌ふ歌、此の方がなほよく境遇に適して居やう。処が今度は歌の文句ばかりで、唱ふべき必要の節が怪しくなつて居る。
黄昏の地中海 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
去年の秋、かれが初めて此釧路に来たのは、丁度竹の浦丸といふ汽船が、どうした錯誤あやまりからか港内に碇泊した儘沈没した時で、二本のほばしらだけが波の上に現はれて居た。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)