機織はたおり)” の例文
最初にいった一千万人の婦人は、毎日よろこんで農事に、養蚕に、機織はたおりに、裁縫に、紡績に、商業に、教員に、その他百般の事業に従事している。
うちへ帰ってもあの年紀としで毎晩々々機織はたおりの透見をしたり、糸取場をのぞいたり、のそりのそりうようにして歩行あるいちゃ、五宿の宿場女郎の張店はりみせを両側ね
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
成程ちいさいうちから機織はたおり糸繰いとくりばかりさせて置いて、手習などをさせんから手の書けないのは無理もないが、俗にいう貧の盗みに恋の歌とやら、妙だなア
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
また、いろいろの職工や、かじ屋の卓素たくそという者や、機織はたおり西素さいそという者や、そのほか、酒を造ることのじょうずな仁番にほという者もいっしょに渡って来ました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
農耕、土木、鍛冶かじ、木工、染色、皮革ひかくなめし、車輛しゃりょう作り、牧畜、酪農らくのう機織はたおりなど、その生産は、あらゆる部門にわたっている。だが、ここでの消費物資ではない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
機織はたおりから、近所の養蚕ようさんの手つだいまでやって、かいがいしく働いているおのぶの顔は浅黒く陽にやけてはいたが、三十五の今日にいたるまで小皺こじわひとつうかんでいない。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
それは九月の彼岸前で、日の中は盛夏まなつのようにまだ暑いが、暮れるとさすがに涼しい風がそよそよと流れて、縁の柱にはどこから飛んで来たか機織はたおり虫が一匹鳴いていた。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一寸ちょとついわたいた受取うけとった/\一つでは乳首くわえて二つでは乳首はないて三つでは親の寝間を離れて四つにはよりよりいつつでは糸をとりそめ六つでころ機織はたおりそめて——
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
博多の小山おやまという所の母方の御親戚に当るお婆さんの処へ行って、機織はたおりいなぞをお習いになりましたが、そのお婆さんが名高い八釜やかまのお師匠さんでしたのに
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ここには石浦というところに大きいやしきを構えて、田畑に米麦を植えさせ、山ではかりをさせ、海ではすなどりをさせ、蚕飼こがいをさせ、機織はたおりをさせ、金物、陶物すえもの、木の器、何から何まで
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
呉服物ごふくものなども、品物しなものみな特別とくべつらせたもので、機織はたおりがなかなかさかんでございました。もっともごく高価こうかしな鎌倉かまくらではわず、矢張やはりはるばるきょうあつらえたように記憶きおくしてります。
老婆はその金で王成にいいつけて三百の良田を買わせ、いえを建て道具を作らしたので、居然たる世家きゅうかとなった。老婆は朝早く起きて王成に農業の監督をさし、細君に機織はたおりの監督をさした。
王成 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
また機織はたおり女は、やはり以前と同じ機数はたかずの麻布を織らなければならなかった。
もちろんチベットでは機織はたおりをする女はある。また糸つむぎをする者もある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
機織はたおりするものもあれば百姓ひやくしやうするものもあんのよ」
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
機織はたおりはわれに語りぬ、ながきぬをみづから織れと。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
「どうせ、機織はたおりかなんかなんでしょう?」
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
ちゆうちゆうぱたぱた、すずめ機織はたおり
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
早梅や奥で機織はたおり長屋門 吏明
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
機織はたおり虫は
青い眼の人形 (新字新仮名) / 野口雨情(著)
春の茶摘ちゃつみ歌、五月雨さみだれ頃の田植歌、夏の日盛りの田草取の歌から、秋の哀れも身にきぬたの音、さては機織はたおり歌の如き、いやしくも農事に関する俗歌俗謡の如きものは
夫婦共稼ぎと女子の学問 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
はい左様でございますかと云ってえるような人間じゃアございませんよ、田舎じゃアちいさい時から木綿着物で育て、教える事は糸繰いとくりから機織はたおりぐらいで済むけれど
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
日帰りに山家からふもとの里へ通う機織はたおりの女工が七人づれ、えですか。……峠をもう一息で越そうという時、下駄の端緒はなおが切れて、一足後れた女が一人キャッと云う。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
機織はたおりはわれに語りぬ、ながきぬをみづから織れと。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
うごすかい、さあ寝られません。総鎮守の風の音が聞えますね、玉川のながれは響きますね、遠くじゃあ、ばッたんばッたん機織はたおり夜延よなべでしょう、さみしいッたらありません。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
草葉ですだく虫には種々いろ/\有りまするが一緒にいて居りますると、いずれが鈴虫か、松虫か、機織はたおりか、草雲雀くさひばりか、とんと分りませんけれども、余念を去って沈着おちついて聞きますと分りますから
機織はたおりとなりし園丁を
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
箒を堂の縁下えんしたに差置き、御手洗みたらしにて水をすくい、かみ掻撫かきなで、清き半巾ハンケチたもとにし、階段の下に、少時しばしぬかずき拝む。静寂。きりきりきり、はたり。何処どこともなく機織はたおりの音聞こゆ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
眼前まのあたり真黄色な中に、機織はたおりの姿の美しく宿った時、若い婦人おんなと投げたおさの尖から、ひらりと燃えて、いま一人の足下あしもとひらめいて、輪になってひとねた、しゅ金色こんじきを帯びた一条いちじょうの線があって
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)