よこたは)” の例文
種々くさ/″\なる旗章は其さきひるがへれり。光景は拿破里ナポリに似たれど、ヱズヰオの山の黒烟を吐けるなく、又カプリの島の港口によこたはれるなし。
さうして静かに野によこたはつたものの上に、そのやうな心を抱くといふことは却つて死んだものゝ心を浮ばせぬことになる。罪になる。
百合子 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
放蕩と死とはつらなる鎖に候。何時も変りなき余がをお笑ひ下され度く候。余は昨夜一夜いちやをこの娼帰しやうふと共に、「しかばねの屍に添ひてよこたはる」
夜あるき (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
樵夫そまやとふてぼくさがす、このくら溪底たにそこぼく死體したいよこたはつてる、東京とうきやう電報でんぱうつ、きみ淡路君あはぢくんんでる、そしてぼくかれてしまう。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
日出雄少年ひでをせうねん二名にめい水兵すいへいもくして一言いちげんなく、稻妻いなづま終夜よもすがらとうしにえたので餘程よほどつかれたとえ、わたくしかたわらよこたはつてる。
彼らの行くてには、いつ迄も/\未知之国シラレヌクニよこたはつて居た。其空想の国を、オヤたちの語では、常世トコヨと言うて居た。
妣が国へ・常世へ (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
かくして私もある日は部屋に閉ぢて、しづかにその障害の去るのを待ちつつよこたはるのである。それは大抵わづかではあるが、熱とそれから胸部のいたみとのためであつた。
嘘をつく日 (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
今王政一新、四海属目しよくもく之時に当りて、如此かくのごとき大奸要路によこたはり、朝典を敗壊し、朝権を毀損きそんし、朝土を惑乱し、堂々たる我神州をして犬羊にひとしき醜夷の属国たらしめんとす。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
かれたる老樹折れてみちよこたはりたるをこゆるは臥竜を踏がごとし。一条ひとすぢ渓河たにかはわたり猶登る事半里ばかり、右に折れてすゝみ左りにまがりてのぼる。奇木きぼく怪石くわいせき千態せんたいじやう筆を以ていひがたし。
上松を過れば、一たび遠く離れし木曾川は再び來りて路傍を洗ひ、激湍の水珠すゐしゆを飛ばし、奇岩の水中によこたはれる、更に昨日さくじつに倍せるを覺ゆ。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
一行はアルバノの山をえたり。カムパニアの曠野ひろのは我前によこたはれり。道の傍なる、蔦蘿つたかづら深くとざせるアスカニウスのつかは先づ我眼に映ぜり。
はて艇舷ふなべり材木ざいもくでも打碎うちくだいて、にしてまんかとまで、馬鹿ばかかんがへおこつたほどで、つひれ、船底ふなぞこまくらよこたはつたが、その空腹くうふくため終夜しうやねむこと出來できなかつた。
此説明は若水の起原のみか、日・琉古代霊魂崇拝の解説にもなり、其上、暦法の問題・祝詞の根本精神・日本思想成立の根柢によこたはつた統一原理の発見にもなるのである。
若水の話 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
かれたる老樹折れてみちよこたはりたるをこゆるは臥竜を踏がごとし。一条ひとすぢ渓河たにかはわたり猶登る事半里ばかり、右に折れてすゝみ左りにまがりてのぼる。奇木きぼく怪石くわいせき千態せんたいじやう筆を以ていひがたし。
我一身の大事は前によこたはりて、まことに危急存亡のときなるに、このおこなひありしをあやしみ、又たそしる人もあるべけれど、余がエリスを愛する情は、始めて相見し時よりあさくはあらぬに、いま我数奇さくきを憐み
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
下には村、かれ等二人が敵として戦つた村がよこたはつて居るが、かの娘は果して何んな感を抱いてこの村を見下して居るであらうか。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
凡そ拿破里ナポリの入江の諸市は、譬へば葡萄の蔓の梢より梢にわたりて相つらなれるが如く、一市を行き盡せば一市又前によこたはる。
わたくし印度洋インドやう海底かいてい有樣ありさま精密くわしくはらぬがこのやう全面積ぜんめんせき二千五百※方哩にせんごひやくまんほうマイルふかところ底知そこしれぬが、處々ところ/\大暗礁だいあんせうまた海礁かいせうよこたはつてつて、水深すいしん五十米突メートルらぬところもあるさうな。
こゝに現代の小説の根本義が横つてゐるから、また此処にすべての小説作家としての最高の意義がよこたはつてゐるから……。
小説新論 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
外交の機微は、人間と人間との間によこたはれる機微と同じものであるが、それを巧に発展させて行くやうな点が乏しい。
現代と旋廻軸 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
かれは其の端麗な顔に、人間の慈愛を発見し、その威厳を保つた表情に人性の根本によこたはつた金剛の相を発見した。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
數歩にして既にその舊道のいかに嶮に、かついかに荒廢に歸したるかを知りぬ。昔の大路たいろには荊棘けいきよく深く茂りて、をり/\よこたはれる小溪には渡るべき橋すら無し。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
即ち思ふ、木曾の大溪はこのわが立てる山脈とかの山系との間によこたはりて、其間にこそわが久しく見んことを願ひし奇絶快絶の大景は全く深く藏せらるゝなれと。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
たとひ今はゐなくとも、今夜は逢へるといふ自信がかれの心の底にはつきりと棒のやうによこたはつてゐた。
時子 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
弾丸たま胸部むねに受けて、野によこたはつた父の苦痛と、長い悲しい淋しい生活を続けた母の苦痛と
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)