棟木むなぎ)” の例文
山門の棟木むなぎにぐわんと鳴ったような。——それと共に、彼のいていた陣刀は電光をえがいて槍のケラ首あたりを斬り落していた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宮内は棟木むなぎに抱きついてはいたが、まだ死んでない証拠に、乱髪を一ふり振った、しかしその髪の毛は焼けて短かくなっていた。
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
僕 あの家の棟木むなぎは僕には重たい。近代文芸読本の印税はいつでもお前に用立ててやる。僕の貰つたのは四五百円だから。
闇中問答 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
折節おりふし年末の煤払すすはらいして屋根裏を改めると、棟木むなぎの間より杉原紙すぎはらがみの一包みを捜し出し、見るにかの年玉金なり。全く鼠が盗み隠したと分ったとあり。
そこで最初ノッケから手を附けた四十尺ばかりの美事な米松べいまつ棟木むなぎをコツンコツンとこなして行くうちに四十尺ブッ通しのつながった削屑アラをブッ放しちゃったんで
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
山伏やまぶしの首が、高く、とざした門を、上から俯向うつむいて見込む時、小法師こほうしの姿は、ひよいと飛んで、棟木むなぎしゃがんだ。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
自分で大國主の命となつてそのわたしのむすめのスセリ姫を正妻として、ウカの山の山本に大磐石だいばんじやくの上に宮柱を太く立て、大空に高く棟木むなぎを上げて住めよ、このやつ
御泉水あたりの巨樹大木も一様にさながらほうきを振るように鳴りざわめき、その中を燃えさかったままの棟木むなぎの端や生木なまきの大枝が、雨あられと落ちかかって参ります。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
事面倒と見た八五郎は、お葉を横抱きに、窓格子まどがうしを蹴つて、離屋の外にパツと飛出しました。一瞬の差で、後ろには、棟木むなぎの落ちる音、火花が中空にパツと散ります。
今でも何かしようと思う積極的の人は晩蒔おそまきながら京阪へ出て行きますから、自然春日様の棟木むなぎで奈良人形を刻んだりするいざりのようなものばかり居残るのだと申します。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ず目につくのは、縦に、長々とよこたえられた、太い、曲りくねった、大蛇の様な棟木むなぎです。
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いままでに、こんな小屋は見たことがありません! かべは、丸太まるたが二列にならんでいるだけで、すぐそれから屋根になっています。天井張てんじょうばりがないために、棟木むなぎまでも見えます。
小屋に使ってある丸太はどす黒く古びており、多くの屋根はふるいのように穴だらけになっている。中には上に棟木むなぎと、その両側へ肋骨のように張り出した垂木たるきだけしか残っていないのもある。
太古たいこ日本家屋にほんかおくは、匠家せうかのいはゆる天地根元宮造てんちこんげんみやづくりしやうするもので無造作むざうさごろの合掌がつしやうしばつたのを地上ちじやうてならべ棟木むなぎもつてそのいたゞきわたし、くさもつ測面そくめんおほうたものであつた。
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
こちら様の本堂は棟木むなぎから柱、床板に至るまでことごとく一本のけやきの木でお建てなすったとやら、その評判をお聞き申しましたものですから、こうして通りがかりに伺いましたようなもので
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
みやとかご殿てんとかの建築や船造りのために、山に木材を採りにはいるときもその一つ、それから木を運びきりけずって、いよいよ船のかわら(底材そこざい)をすえ、または新築の棟木むなぎをあげる日なども
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
五、凶雲低迷す極楽荘の棟木むなぎの上に。さてその翌朝、コン吉が寝床で唱歌を歌っていると、突然、赤と黄の刺繍ぬいとりをした上衣を着た、身長抜群のコルシカ人が一人、案内も乞わずに悠然ゆうぜんと入って来た。
この家は以前もと土蔵をこわした跡へたてたのだが、土蔵のあった頃当時の住居人すまいにんそれ女房にょうぼが、良人おっとに非常なる逆待ぎゃくたいを受け、嬰児こどもを抱いたまま棟木むなぎに首をつって、非命の最期を遂げた、その恨みが残ったと見えて
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
うたれて塔のもろ/\の棟木むなぎは高く鳴りわたる。
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
今また棟木むなぎ、——末世まつせの火
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
なおそこへ、長い棟木むなぎだの、床板だのは、絶え間なく運ばれて来る。一歩一歩、決死の修理をつづけて、味方の突撃路は作られてゆく。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御泉水あたりの巨樹大木も一様にさながらほうきを振るやうに鳴りざわめき、その中を燃えさかつたままの棟木むなぎの端や生木なまきの大枝が、雨あられと落ちかかつて参ります。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
「大工と違つて、指物師は滅多に一寸鑿は使ひませんよ。そいつは棟木むなぎに穴を掘る鑿ですからね」
既に父とならうとしてゐた彼は、この宮の太い棟木むなぎの下に、——赤と白とに狩の図を描いた、彼の部屋の四壁の内に、高天原たかまがはらの国が与へなかつた炉辺の幸福を見出したのであつた。
老いたる素戔嗚尊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ただわたくしの住所を天の御子みこの帝位にお登りになる壯大な御殿の通りに、大磐石に柱を太く立て大空に棟木むなぎを高くあげてお作り下さるならば、わたくしは所々の隅に隱れておりましよう。
追掛おっかけるのか、逃廻るのか、どたばた跳飛ぶ内、ドンドンドンドンと天井を下から上へ打抜くと、がらがらと棟木むなぎが外れる、戸障子が鳴響く、地震だ、と突伏つッぷしたが、それなりしんとして、しずかになって
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
俊基が上を仰ぐと、棟木むなぎの隙や屋根のに、赤い火光が映じている。遠いといったが、バチバチ火のハゼ音まで耳につく。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
釘勘はまたそこでも、柱、棟木むなぎひさしの裏などに、ベタベタ貼りちらしてある千社札を、早い眼で読み廻していましたが
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
太鼓櫓たいこやぐら棟木むなぎの陰へ、すいすいと吸いこまれるように、はちがかくれてゆく、またぶーんと飛び出してゆくのもある。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
下にながめていた伊那丸いなまるをはじめ、あまたの勇士も、思わず、きもをひやしたが、こんどは瓔珞も落ちず、龍太郎も完全に棟木むなぎへ片手をかけてしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は堂の棟木むなぎげてある古弓をはずして、小脇に持った。すべてが前から手順がついているように運ばれてゆく。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
望楼に立って、手をふった竹童、待たせてあるクロが飛び去っては一大事と、大いそぎで、欄間らんまから棟木むなぎへ手をかけ、棟木から屋根の上へ、よじ登ろうとすると
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若宮小路にはまだ敵影を見ないから、飛び火にちがいあるまいが、柳営の一角からさえ、すでに煙の渦を噴き、真ッ赤な舌が、めろと、小御所の棟木むなぎをなめている。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その地盤の上に十二けん四面の伽藍がらんいしずえが、さながら地軸のように置かれた、堂塔内陣の墨縄は張りめぐらされ、やがてひのき太柱ふとばしらと、巨大な棟木むなぎと、荘重なはりも組まれた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
下の者は背をのばして、竹童の腰帯こしおびをグイとつかんだ。もうどうしたってのがれッこはない、竹童は、運を天にまかせて、棟木むなぎかどへかけていた手を、ヒョイとはなした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれど九間の大殿には、おそらくそんな長い棟木むなぎがあるまいと思われたので、蘇越をよんで
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
本願堂の階前に立って武蔵は、そこの古びた棟木むなぎに懸かっている額を仰いでいるのである。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて、どっぷりと墨いろに暮れた御堂みどう棟木むなぎをつたわって、梵鐘ぼんしょうの音が、ひびいてくる。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その明智の人数も、棟木むなぎに火がついたというので、あわてて外へあふれ出たものが多い。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「見事な棟木むなぎ、結構な欄干、これはちと贅沢ぜいたくじゃの」と、つぶやいたり
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四面のたくましい板張、頑健な棟木むなぎ。彼は威圧をうけてすくんだ。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「御無念さ、いかばかりでおしたろう。——その六月二日から、ちょうど今日は十三日目、燃え残りの棟木むなぎや柱にもまだ火のにおいがするようだ。……おお。小袖の焼けきれが落ちている。弓の折れも見える」
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
華雲殿げうんでん棟木むなぎをゆすり
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)