梶棒かぢぼう)” の例文
車夫は梶棒かぢぼうを下した後で、そここゝにれた家を指して見せて、病院通ひの患者が住むことを夫人に話した。
灯火 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
車上しやじやうひと目早めばやみとめて、オヽ此處こゝなり此處こゝ一寸ちよつとにはか指圖さしづ一聲いつせいいさましく引入ひきいれるくるま門口かどぐちろす梶棒かぢぼうともにホツト一息ひといきうちには女共をんなども口々くち/″\らつしやいまし。
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
下坂くだりざかは、うごきれると、一めい車夫しやふ空車からいて、ぐに引返ひつかへことになり、梶棒かぢぼうつてたのが、旅鞄たびかばん一個ひとつ背負しよつて、これ路案内みちあんないたうげまでともをすることになつた。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
黒縮くろちりつくりでうらから出て来たのは、豈斗あにはからんや車夫くるまやの女房、一てうばかりくと亭主ていしが待つてて、そらよと梶棒かぢぼう引寄ひきよすれば、衣紋えもんもつんと他人行儀たにんぎようぎまし返りて急いでおくれ。
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
十字に交叉かうさしたみちを右に折れると、やがてわたしの選んだ旅店やどやの前に車夫は梶棒かぢぼうおろした。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
これはけろといふ合図に相違ないから、父は当然避けるだらうとおもつてゐると依然として避けない。その刹那せつなにどしんといふ音がして人力じんりき梶棒かぢぼうがいきなり僕の尻のところに突当つた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
車夫は梶棒かぢぼうを下ろして、オゾ/\母衣を後へはねた。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
まへなるは梶棒かぢぼうおろしてすわり、あとなるは尻餅しりもちついて、御新造ごしんぞさん、とてもとふ。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
車上しやじやうひと言葉ことばすくなかくまがつてくだされ、たしか此道このみちおもふやうなりとて梶棒かぢぼうきかへさせぬ、御覽ごらんなされまし矢張やはりこゝはもとみちこれでよろしう御座ございますかといぶかしみて車夫しやふ言葉ことば
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
れい梶棒かぢぼうよこせてならんだなかから、むくじやらの親仁おやぢが、しよたれた半纏はんてんないで、威勢ゐせいよくひよいとて、手繰たぐるやうにバスケツトを引取ひきとつてくれたはいが、つゞいて乘掛のりかけると
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
莊子さうしてふゆめといふ義理ぎりまこと邪魔じやまくさしぎはまではとひきしむる利慾りよくこゝろはかりには黄金こがねといふおもりつきてたからなき子寶こだからのうへもわするゝ小利せうり大損だいそんいまにはじめぬ覆車ふくしやのそしりも梶棒かぢぼうにはこゝろもつかずにぎつてはなさぬ熊鷹主義くまたかしゆぎ理窟りくつはいつも筋違すぢちがひなる内神田うちかんだ連雀町れんじやくちやうとかや
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
おもしろいことは、——停車場ていしやば肱下ひぢさがりに、ぐる/\と挽出ひきだすと、もなく、踏切ふみきりさうとして梶棒かぢぼうひかへて、目當めあて旅宿りよしゆくは、とくから、心積こゝろづもりの、明山閣めいざんかくふのだとこたへると、うかね、これ
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)