明神みょうじん)” の例文
私はとうとう万世橋まんせいばしを渡って、明神みょうじんの坂を上がって、本郷台ほんごうだいへ来て、それからまた菊坂きくざかを下りて、しまいに小石川こいしかわの谷へ下りたのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
むかし、摂津国せっつのくに難波なにわというところに、夫婦ふうふものんでおりました。子供こども一人ひとりいものですから、住吉すみよし明神みょうじんさまに、おまいりをしては
一寸法師 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
孫兵衛の姿は、明神みょうじんふもとから、竹林の中へ消えた。とまた、だらだら上りの中腹に影がみえ、やがて、左へうねったひのき林の細道へ入る……。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すすきかやそよいでいる野路の向うに、明神みょうじんだけとか、大内山おおうちやまという島原半島の山々が紫色にかすんで、中腹の草原でも焼き払ってるのでしょうか
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
昔は金峯山きんぷせん蔵王ざおうをはじめ、熊野くまの権現ごんげん住吉すみよし明神みょうじんなども道明阿闍梨どうみょうあざりの読経を聴きに法輪寺ほうりんじの庭へ集まったそうである。
文章 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
どうか旱魃かんばつの時にはこの村の田畑に水の枯れぬように、どうか小供の水難を救われるようにと祈祷きとうをして、さてこの池をば稚子ちごふち明神みょうじんと名づけたのである。
稚子ヶ淵 (新字新仮名) / 小川未明(著)
こころみに初めてあわせを着たその日の朝といわず、昼といわず、また夕暮といわず、外出そとでの折の道すがら、九段くだんの坂上、神田かんだ明神みょうじん湯島ゆしま天神てんじん、または芝の愛宕山あたごやまなぞ
そこは明神みょうじんの深い森の影を受けているようなところで、地面が低く空気がしッとりしていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
明くる日はかごかきの人足まで皆村方から出て来て、その外お供が非常に多かった。三島明神みょうじんの一の鳥居前から、右に入って、市ヶ谷いちがや中原なかはら中島なかしま大場だいばと過ぎ、平井ひらいの里で昼食ちゅうじき
丹那山の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
明神みょうじん華表とりいから右にはいって、溝板どぶいたみ鳴らす細い小路を通って、駄菓子屋のかどを左に、それから少し行くと、向こうに大きな二階造りの建物と鞦韆ぶらんこや木馬のある運動場が見えた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
見えるものは、明神みょうじん岳の裾と、それに続くあずさ川の白い河床、白っぽい川柳の木立。
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
村の中央には明神みょうじんさまの御社おやしろと清い泉とがあって村の人の渇仰かつごうを集め、それに養われたと言われる無筆の歌人、漁夫磯丸いそまるの旧宅と石のほこらとは、ちょうど私の本を読む窓と相対あいたいしていた。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その実谷の奥をさぐれば無数の温泉が渓流けいりゅうの中に噴きで、明神みょうじんたきを始めとしていくすじとなく飛瀑ひばくかかっているのであるが、その絶景を知っている者は山男か炭焼きばかりであると云う。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
江戸以来の三大祭りといえば、麹町の山王さんのう、神田の明神みょうじん深川ふかがわの八幡として、ほとんど日本国じゅうに知られていたのであるが、その祭礼はむかしの姿をとどめないほどに衰えてしまった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この日は本所ほんじょでは牛の御前の祭礼、神田かんだ日本橋にほんばし目貫めぬきの場所は神田明神みょうじんの祭礼でありました(その頃は山王と明神とは年番でありました。多分、その年は神田明神の方の番であったと思います)
そこで、ついおとなり和泉国いずみのくに信田しのだもり明神みょうじんのおやしろ月詣つきまいりをして、どうぞりっぱな子供こども一人ひとりさずくださいましと、熱心ねっしんにおいのりをしていました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
それと、朝がけを取止めたからには、当然、夜討となるが、こよいは三島明神みょうじんの祭、明十八日は、観世音の潔斎日けっさいびで、あなたに取って、殺生せっしょうは好まれますまい。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うねうねと曲りくねった野道一杯にすすきかやおおい乱れて、葉末の彼方かなたに島原半島の明神みょうじんだけ大内山おおうちやまが顔を現していることも、何の変りもありませんでしたが、この辺
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
加茂かも明神みょうじんがかく鳴かしめて、うき我れをいとど寒がらしめ玉うの神意かも知れぬ。
京に着ける夕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
村にただ一つある産土うぶすなの神の御名さえ知らず、ただお宮といい明神みょうじんさんといってすませ、その他の神々でも山で祭るから山の神、泉のほとりに祭ればカワの神またはオスズ様、正月に祭る神を正月様
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それからこれは人間にんげんちからだけにはおよばない、神様かみさまのおちからをもおりしなければならないというので、頼光らいこう保昌ほうしょう男山おとこやま八幡宮はちまんぐうに、つな公時きんとき住吉すみよし明神みょうじん
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
せき明神みょうじんの高い石段は、さっき右手にみて左へ折れた薄おぼえがある。道はいつかダラダラ上りにかかっていて、緑の濃い竹林の中に、淙々そうそうとしてゆく水の声がある。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ゆびほどの大きさの子供こどもでも、ともうげたら、ほんとうにゆびだけの子供こども明神みょうじんさまがくださった。」
一寸法師 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
思うにこの若い二人はゆうべすぐそこの赤山明神みょうじんの拝殿にでも一夜の雨露をしのいだに相違ない。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あるとしあきなかばのことでした。保名やすなは五六にん家来けらいれて、信田しのだ明神みょうじん参詣さんけいに出かけました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
せき明神みょうじんいただきは、無明むみょう琵琶びわを抱いて、ここに世を避けていたという、蝉丸道士せみまるどうしの秘曲を山風にしのばせて、老杉ろうさん空をかくし、こけの花を踏む人もない幽寂ゆうじゃくにつつまれている。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みんなはあの三にんのおじいさんは、住吉すみよし明神みょうじんさまと、熊野くまの権現ごんげんさまと、男山おとこやま八幡はちまんさまがかり姿すがたをおあらわしになったものであることをはじめてって、不思議ふしぎおもいながら
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「てめえが江戸へ来れば江戸表へ、北へ逃げれば北の果てまで、を折って俺の心に従うまで、付きまとってやるということは、オオ、いつかせき明神みょうじんでも、たしかに言い渡してある筈だ」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もうずいぶん前のことだが、せき明神みょうじんの森で、首をくくろうとしているところを
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)