日比谷ひびや)” の例文
日比谷ひびや公園、帝国劇場、丸ビル等々を、あるいは車の上から、或はちょっと降りたりして、最大急行で見物し、五時半に東京駅に着いた。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
もなく日比谷ひびやの公園外を通る。電車は広い大通りを越して向側むこうがわのやや狭い街の角に止まるのを待ちきれず二、三人の男が飛び下りた。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その翌日、日比谷ひびや公園の大車道に、一台の自動車が捨ててあった。番号によって、それが昨夜明智の傭った車であることが分った。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
『毎日新聞』では、日比谷ひびやの或るビルで、タイピスト嬢が、タイプライター台の上に、十個の卵を立てている写真をのせている。
立春の卵 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
新聞記者をしている友人と飯をったが、その友人が帰りに茶でも飲んで別れようと云うので、そこを出ると日比谷ひびやの方へ歩いて往って
妖影 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
日比谷ひびや音楽堂から明治生命のホールに、幾夜かにわたって、おびただしいベートーヴェンとそして少しばかりのバッハ、モーツァルトを弾いた。
それから日比谷ひびやで写真をって、主人、伯父、郷里の兄、北海道の母にとどく可く郵税ゆうぜい一切いっさいはらって置いた。日比谷から角谷は浅草あさくさに往った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そのころ奠都てんと祭というものがあって式場は多分日比谷ひびやだったようにおもう。紅いはかま穿いた少女の一群を見て非常に美しく思ったことがある。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
彼はもう犯人を捕らえたような気持ちで足も宙に日比谷ひびやの交差点まで来ると、おりから通りかかったタクシーを呼び止めて、元園町へと急がせた。
五階の窓:03 合作の三 (新字新仮名) / 森下雨村(著)
場所は日比谷ひびや陶陶亭とうとうていの二階、時は六月のある雨の夜、——勿論もちろん藤井のこういったのは、もうそろそろ我々の顔にも、酔色すいしょくの見え出した時分である。
一夕話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
藩兵になって日比谷ひびやの藩公邸の長屋にいた時分の話なども、なんべん同じ事を聞かされても、そのたびに新しいおもしろみとおかしみを感じさせた。
亮の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
昼飯ひるは相川がおごった。その日は日比谷ひびや公園を散歩しながら久し振でゆっくり話そう、ということにめて、街鉄がいてつの電車で市区改正中の町々を通り過ぎた。
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
日比谷ひびや公園内のどこそこに立っていてくれ、すると自分はこれこれの番号のついた自動車に乗ってそこを通るから、そこで車に一緒にのってくれるように
暗号数字 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それは容易わけない事だ。毎日一度大飯おおめしを喰って、日比谷ひびやの原(その頃はマダ公園でなかった)を早足で三遍も廻ればき肥る。それには牛肉で飯を喰うのが一番だ。
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
自動車が、日比谷ひびや公園の傍のお濠端ほりばたを走っている時だった。美奈子は、やっと思い切って母に訊いて見た。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
日比谷ひびやには騒擾そうじょうが起り、電車焼打ちがあって、市内目抜きの場所の交番、警察署、御用新聞社の打こわしなどがはじまり、忠良なために義憤しやすき民衆は狂暴にされ
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
堀端ほりばたの柳は半蔵門はんぞうもんから日比谷ひびやまで続いているが、此処ここの柳はその反対の側に立っているのである。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
均平も退屈しのぎに一緒に日比谷ひびやや邦楽座、また大勝館あたりで封切りを見るのが、月々の行事になってしまったが、見る後から後から筋や俳優を忘れてしまうのであった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
水上みなかみさんと二人ふたり一所いつしよ。タクシイが日比谷ひびやところでパンクした。しかもときながかつたさうである。
九九九会小記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
日比谷ひびや第二戦隊司令官は末山司令長官の戦死を告げた後で、すぐに『最上』に命令を下した。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
論より証拠、おりおり日比谷ひびやの近辺をはじめ諸所に行わるるモッブ騒ぎを見ても分かる。自分から進んで他を威赫いかくしたり、あるいは苦しめたりするのは、未開の社会における強さである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
たぶん溜池ためいけの火の烟でそれが日比谷ひびやの烟と一つになって見えたのであろう。
地異印象記 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
そんなわけで、なまじっかなところではとてもあぶないので、大部分の人は、とおい山の手の知り合いの家々や、宮城きゅうじょう前の広地ひろちや、芝、日比谷ひびや上野うえのの大公園なぞを目がけてひなんしたのです。
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
それはわずかに文字に表現するまでの不平不満であり、改革的意気であることを知るに至って、その志士的口吻の溢れた文字も、唯だ日比谷ひびやの議院における喧囂けんごうと一般の感をくに過ぎなくなります。
三面一体の生活へ (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
鈴岡さん夫婦、俊雄君、それから兄さん、僕、五人で日比谷ひびやへ支那料理を食べに出かけた。みんな浮き浮きはしゃいでいたが、僕ひとりは、ゆうべの寝不足のせいもあり、少しも楽しくなかった。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
日比谷ひびや村あたりの畑や河すじの船が見える。下町の人通りが見える。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日比谷ひびや公園。
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
人々は、口々にわめきながら、あるいは数寄屋橋すきやばしのほうへ、あるいは日比谷ひびやのほうへ、つなみのように、なだれをうってかけだしました。
宇宙怪人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
日比谷ひびやには公園いまだ成らず銀座通ぎんざどおりには鉄道馬車の往復ゆききせし頃尾張町おわりちょう四角よつかど今ライオン珈琲店コーヒーてんあるあたりには朝野ちょうや新聞中央新聞毎日新聞なぞありけり。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
話はちがうが、せんだって日比谷ひびやで「花壇展覧会」というものがあった。いろいろのばらがあった中に、柱作りの紅ばらのみごとなのが数株並んでいた。
錯覚数題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
昭和十一年の早春、あの大雪の降った前後、日比谷ひびや公会堂で聴いて、陶然とした心持は今でも忘れられない。
のみならず人間のうちなる自然も、人間の中なる人間に愛憐あいれんを有するものにあらず。大震と猛火とは東京市民に日比谷ひびや公園の池に遊べる鶴と家鴨あひるとをくらはしめたり。
彼は多吉夫婦と共に以前の本所相生町の方にいて、日比谷ひびやにある長州屋敷の打ちこわしに出あったことを覚えているが、今度上京して見ると、その辺は一面の原だ。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
日比谷ひびや公園のの間に、薄紫のアークとうが、ほのめき始めた頃から幾台も幾台もの自動車が、北から南から、西から東から、軽快な車台で夕暮の空気を切りながら
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
……灰色はひいろ禿げた古鼠ふるねずみが、八九疋はつくひき小鼠こねずみをちよろ/\とれてて、日比谷ひびや一散歩ひとさんぽつたつらで、をけぐらゐに、ぐるりと一巡ひとめぐり二三度にさんどして、すましてまたえんしたはひつてく。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いま東京まるうちのオアシス、日比谷ひびや公園の中にも、黄昏たそがれの色がだんだんと濃くなってきた。秋の黄昏れどきは、なぜこのように淋しいのであろう。イヤ時には、ふッと恐ろしくなることさえある。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
日比谷ひびやに桜田赤龍子せきりゅうしという、人相の名人があるんですがね、実によくあたりますよ。何しろぴたりと前へ坐ったばかりで、その人の運勢がすっかりわかるんですからね。その代り見料は少したこござんすよ。」
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
朝はやき日比谷ひびやそのむくみたる足をぞさす労働はたらきびとひとり
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
三宅坂みやけざかへんを一と周りして日比谷ひびや映画劇場へ着けた。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
逮捕、ただいま警視庁にむかって飛行中。いまから、やく十分ののち、日比谷ひびや公園の広場に着陸の予定。着陸地点に数名の警官を配置してください。
奇面城の秘密 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その晩二人は数寄屋橋を渡ってガードの下を過ぎ、日比谷ひびや四辻よつつじ近くまで来たが、三十銭で承知する車は一台もない。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
夏のある朝築地つきじまで用があって電車で出掛けた。日比谷ひびやで乗換える時に時計を見ると、まだ少し予定の時刻より早過ぎたから、ちょっと公園へはいってみた。
雑記(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
日比谷ひびや大神宮の神前でも、彼は瑠璃子の顔を、仰ぎ見ることさえなし得なかった。彼は、瑠璃子親子の前には、罪を待つ罪人のように、悄然しょうぜんとその頭を垂れていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
みんな日比谷ひびや公園の池へはふりこんで、生埋いきうめにしちまつたらう。それで金どんもやつぱり生埋めにされちまつたもんだから、それであんなにお母さんが泣いてゐるのさ。
饒舌 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
長州屋敷の打ちこわしが始まったのだ。幕府はおのれにそむくものに対してその手段に出た。江戸じゅうの火消し人足が集められて、まず日比谷ひびやにある毛利家もうりけの上屋敷が破壊された。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「わしのことかね。わしは、そのう、つまり日比谷ひびや署の者だ」
火星兵団 (新字新仮名) / 海野十三(著)
日比谷ひびや公園をブラブラしていて、ひとりの会社員ふうの男と知りあいになったのです。その男が、みょうな金もうけがあるといって、教えてくれたのですよ。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
数寄屋橋すきやばしから幸橋さいわいばしを経てとらもんに至る間の外濠そとぼりには、まだ昔の石垣がそのままに保存されていた時分、今日の日比谷ひびや公園は見通しきれぬほど広々した閑地で
そうしてぶらぶら歩いて日比谷ひびやへんまで来るとなんだかそのへんの様子が平時とはちがうような気がした。
コーヒー哲学序説 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
おれはとうの杖を小脇にした儘、気軽く口笛を吹き鳴らして、篠懸の葉ばかりきらびやかな日比谷ひびや公園の門を出た。「寒山拾得かんざんじつとくは生きてゐる」と、口の内に独りつぶやきながら。
東洋の秋 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)