日々にちにち)” の例文
いでわたくしは保さんをおうと思っていると、たまたまむすめ杏奴あんぬが病気になった。日々にちにち官衙かんがにはかよったが、公退の時には家路を急いだ。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
かくて彼は、日々にちにちの波を分けておのれの小舟を進めながら、側目わきめもふらず、じっとかじを握りしめ、目的の方へ眼を見据えている。
がどうしても離れる事が出来ない。しかも第二の少女に対しては気の毒である、済まん事になったと云う念が日々にちにちはげしくなる。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なアに少しも憎くは有ません目「では何故殺した藻「伯父の身代しんだいが欲いから殺しました、此頃は商買しょうばいが不景気で日々にちにち苦しくなるばかりです、 ...
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
日々にちにち平常の生活難に追はれて絶えず現実の感情より脱離する事なきも、しかもまたそのうちおのずから日本人生来の風流心を発露せしむる事なり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
父も母も失って、伯父の家に引き取られ、わがままないとこにしいたげられながら、彼女は孤独な寂しい日々にちにちを暮していたのだ。
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
日々にちにちの流れ、差す潮引く潮を戯曲として味い、あらゆる形の美を理解し、又われわれの内心を凝視する術を教えてくれた。
爺さんの寿命を日々にちにち夜々ややちぢめつゝあるものは、斯展望台である。余は爺さんに目礼して、展望台の立つ隣の畑に往った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ここは会社と言っても、営業部、銀行部、それぞれあって、官省やくしょのような大組織。外国文書の飜訳ほんやく、それが彼の担当する日々にちにち勤務つとめであった。
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それが、三人にとってどんなに得意な、楽しい日々にちにちであったかは、読者諸君のゆたかな想像力で、十分想像して下さい。
新宝島 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
襲撃された邦人の噂が日々にちにち市中を流れて来た。邦人の貨物が掠奪されると、焼き捨てられた。支那商人が先を争って安全な共同租界へ逃げ込んだ。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
されば日々にちにち気にくわぬ事ので来るごとに、春がすみの化けてでたる人間の名をお豊と呼ばれて目は細々と口も閉じあえずすわれるかたわらには
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
これはまた外の敵に打勝つよりも難しくて、より以上の烈しい気力を要するものであり、長陣となればなるほど濃くなって来る日々にちにちの声なき苦闘であった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
監督の武士と捕虜との間に日々にちにち衝突が絶えなかった。朝高も終局しまいには疳癪かんしゃくおこして、彼等をことごとく斬れと命じた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ローリーさんの身体の重さは、ちゃんと計量されてあるので、ローリーさんが泳ぐ速度に係数コエフイシアントを掛け合わせると、満潮時の潮流の速度と日々にちにちの変化がわかる。
キャラコさん:07 海の刷画 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そも/\われは寄辺よるべない浮浪学生ふらうがくしやう御主おんあるじ御名みなによりて、もり大路おほぢに、日々にちにちかてある難渋なんじふ学徒がくとである。おのれいまかたじけなくもたふと光景けしき幼児をさなご言葉ことばいた。
そうかといって、また日々にちにち毎日竈の火吹き役もハアあきあきだ。これから一つ伊勢参宮にでも上ろうか、ヤアハア伊勢の国、そうして伊勢の国へ上ってしまう。
東奥異聞 (新字新仮名) / 佐々木喜善(著)
これより一同みなみな励み勤め昨日に変る身のこなし、一をきいては三まで働き、二と云われしには四まで動けば、のっそり片腕の用を欠いてかえって多くの腕を得つ日々にちにち工事しごと捗取はかど
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
……然し或はまた何にも起らないでこのままのあわ日々にちにちが続くのかも知れない。
過渡人 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
何しろ、その時分は、あの女もたった一人のおふくろに死別しにわかれた後で、それこそ日々にちにちの暮しにも差支えるような身の上でございましたから、そう云うがんをかけたのも、満更まんざら無理はございません。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
見よや今、「小樽日々にちにち
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
それら最初の日々にちにちは、大きな雲の移りゆく影を宿して風に吹かるる麦畑のように、子供の頭の中に騒々しい音をたてる……。
これに加うるに日々にちにち昔ながらの名所古蹟を破却はきゃくして行く時勢の変遷は市中の散歩に無常悲哀の寂しい詩趣を帯びさせる。
けれども、徒手てぶらで行くのが面白くないんで、そのうちの事と腹の中で料簡をさだめて、日々にちにち読書にふけって四五日しごんち過した。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
岡田の日々にちにちの散歩は大抵道筋が極まっていた。寂しい無縁坂を降りて、藍染川あいそめがわのお歯黒のような水の流れ込む不忍しのばずの池の北側を廻って、上野の山をぶらつく。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
わしが植えるには、ただ手を動かしているのみでなく、一つまみの苗の根を田へ下ろすごとに、有難や、この苗のために、わしらは今日えもせず、日々にちにち幸福しあわせに生きている。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
川辺家の主人は、朝早く起きて西洋草花の手入れをするのが、この三四年以来日々にちにちの仕事である。村川が部屋へ行ったとき、主人はもう庭園から部屋に帰って、新聞を読んでいた。
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それに君は俺が唯遊んで昼寝ひるねして暮らす様に云うたが、俺にも万更仕事が無いでもない。聞いてくれ。俺のあたまの上には青空がある。俺の頭は、日々にちにち夜々ややに此青空の方へ伸びて行く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
閑静なるかわぞいの宿をえらみて、ここを根拠地と定めつつ、軍服を脱ぎすてて平服に身を包み、人を避け、公会の招きを辞して、ただ日々にちにち浪子を連れては彼女かれが意のむかうままに
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
巡査はの事件以来、日々にちにち通い馴れているので、険阻けんそ山路やまみちも踏み迷わずに、森を過ぎ、岩を越えて、難なく虎ヶ窟の前に辿り着いた。足の達者な忠一は巡査にちっともおくれなかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
『静岡日々にちにち新聞』です。これは一体何を意味するのでしょうか
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
今日の如く日々にちにち外国思潮の襲来激甚げきじんなる時代においてかくの如き自由解放の態度はむしろ全体の破壊を招かんのみ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
これは分らない方が好ましいので、必要のない限りは、兄の日々にちにちの戸外生活に就て決して研究しないのである。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
保はこれを忍んで数カ月間三人を欵待かんたいした。そして殆ど日々にちにち貞固を横山町の尾張屋に連れて往って馳走ちそうした。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「でも、荷駄千匹の往来と御自慢あるが、越後においては、出入りの船、日々にちにちそう。一艘の船には、馬千疋が負うほどの荷は積みます。してみると甲州は、存外な小国とみえますな」
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
田崎は例のごとく日々にちにち来たりては、六畳の一間に控え、例のごとく事務をとりてまた例刻に帰り行く。型に入れたるごとき日々の事、見るもの、聞くもの、さながらに去年のままなり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
ただもうレンズと鏡の日々にちにちを送ったことであります。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
二人は自分と共々ともども、青春に幸多い外国の生活、文学、絵画、音楽、社会主義、日々にちにち起る世間の出来事、何につけても、活々いきいきした感想をもってそれらを論じた。
曇天 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「そう云う恩知らずは、得て哲学者にあるもんだ。親不孝な学問をして、日々にちにち人間と御無沙汰ごぶさたになって……」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
『毎日』は島田三郎さんが主筆で、『東京日々にちにち新聞』の福地桜痴ふくちおうちと論争していたので、保は島田を助けて戦った。主なる論題は主権論、普通選挙論等であった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そして日々にちにち改善されて行くその状態を見ると、まず西洋の生活と同じようにするという事に帰着するらしい。
独居雑感 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
われらは平和なる家庭の主人として、少くとも衣食の満足を、吾らと吾らの妻子さいしとに与えんがために、この相撲に等しいほどの緊張に甘んじて、日々にちにち自己と世間との間に
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
唯その方法手段が得られぬので、日々にちにち人知れず腐心している。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
東京はその市内のみならず周囲の近郊まで日々にちにち開けて行くばかりであるが、しかし幸にも社寺の境内、私人しじんの邸宅、また崖地がけちみちのほとりに、まだまだおびただしく樹木を残している。
忠正は日々にちにち巴里市内を行商せしが業務たちまち繁栄しいくばくもなくして一商店を経営するに至りぬ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
八重日々にちにち菜園に出で繊手せんしゅよくこれをみ調味してわが日頃好みて集めたるうつわに盛りぬ。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
知らず知らず日々にちにち新聞社の近くまで歩いて来たので、二人はやや疲れたままその辺の小さなカッフェーに小憩こやすみして、進はウイスキー村岡はビール一杯を傾け、足の向くまま銀座通へ出た。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
さればわれ日々にちにち編輯局に机を連ねて親しくこの翁の教を受け得たる事今にして思へばまことに涙こぼるる次第なり。岡本綺堂子はその頃しきりにユーゴー、ヂュマなぞの伝奇小説を読まれゐたり。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
余は日々にちにち時代の茶番に打興うちきょうずる事をつとむると共に、また時としては心ひそかに整頓せる過去の生活を空想せざるを得ざりき。過去を夢見んには残されたる過去の文学美術の力によらざるべからず。
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
去歳さるとしわが病伏やみふしける折日々にちにち看護にきたりしより追々に言葉もかけ給ふやうになりてひそかにその立居たちい振舞を見たまひけるが、癇癖かんぺき強く我儘なるわれにつかへて何事も意にさからはぬ心立こころだての殊勝なるに加へて
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)