かき)” の例文
これは必ずしも食えるものをかき集めるというだけでなく、この日正月神の年棚としだなの飾りものを、いっさい取卸して始末することらしい。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
かの男はと見ると、ちょうどその順が来たのかどうか、くしゃくしゃと両手で頭髪かみかきしゃなぐる、中折帽も床に落ちた、夢中で引挘ひんむしる。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かきおほせの如く此後は決して立寄たちよるまじとかたく約束なし猶又綿入羽織わたいればおり一ツを貰ひ夫より本所柳原町なる舂屋權兵衞を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
と朝夕に母にかきくどかれては、どれほどに心苦しかったであろう。おなじ年(廿六年四月十三日の記に)
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
老女らうぢよようちなつた*6といひつゝ木のばんの上に長き草をおきて木櫛きくしのやうなるものにてかき解分ときわくるさま也。
「私はじっとしていられない性分だからね」とお島はくっきりと白いほおのあたりへ垂れかかって来る髪をかきあげながら、しげみの間から晴やかな笑声を洩していたが
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
忠興からそう云われて、彼女はまた、れはてている涙をおののきこぼした。——今朝、鏡の前にあった清麗も艶美も、嘘のものだったように彼女の面からかき消えていた。
にもかくにも著訳書が私の身を立て家をす唯一の基本になって、ソレで私塾をひらいても、生徒からわずかばかりの授業料をかき集めて私の身に着けるようなケチな事をせずに
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
蕎麥そばかきなんぞにしたつてつまりやしねえ、ろくりもしねえこなだ」かれつぶやいた。それからかれまた
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
新吉はなんの事だかとんと分りませんが、致し方なく夜明け方に帰りますると、情ないかな、女房お累は、草苅鎌の研澄とぎすましたので咽喉笛のどぶえかき切って、片手に子供を抱いたなり死んで居るから
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ろう小屋の蒸炉むしろには、火がごうごうと燃えていた。従兄弟たちは、そのまえに行くと、めいめいに火かきや棒ぎれをにぎって、さきを争うように、炉口ろぐちにうずたかくなっている蝋灰をかきおこしはじめた。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
そのあかつき、ほつれし髪をかき上げてつぶやきぬ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
これをさまると、一時ひとしきりたゝきつけて、屋根やねかきみだすやうな風雨あめかぜつた。驟雨しううだから、東京中とうきやうぢうにはらぬところもあつたらしい。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かきさらば三次が引請ひきうけんと其夜は戻りて二三日すぎ眞面目まじめに成て尋ね來れば長庵はお安を打招うちまねきお富を奉公に世話を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
彼奴あいつはあんな奴ですよ。畜生ちきしょう人を見損みそこなっていやがるんだ」お島は乱れた髪をかきあげながら、腹立しそうに言った。そしてはずんだ調子で、現場の模様を誇張して話した。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
蕎麥そばかきでもしたらよかつぺつてお内儀かみさんしたつけのよ」卯平うへいもと位置ゐちすわつていつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
猟師れふしこれを見れば雪を掘て穴をあらはし、木のえだしばのるゐを穴にさし入れば熊これをかきとりて穴に入るゝ、かくする事しば/\なれば穴つまりて熊穴の口にいづる時槍にかくる。
これかき集めて千両ばかり出来たから、れから数寄屋町の鹿島と云う大きな紙問屋に人をやって、紙の話をして、土佐半紙を百何十俵、代金千両余りの品を即金で一度に買うことに約束をした。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
吉「だって、あかかきも何も流されてしまったじゃアねえか」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
秋の夜番、冬は雪かきの手伝いなどした親仁おやじが住んだ……半ば立腐りの長屋建て、掘立小屋ほったてごやというていなのが一棟ひとむねある。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
仇でかへすとは御前方夫婦の事サア/\只今直に夫文右衞門が身のあかりを立出牢させて下されとなきうらみかき口説を市之丞夫婦は一々御道理ごもつともには御座れども何卒御新造樣私し共の申事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あらけなくかきあくれば、綾子は顔をあかめつつ、悪汗おかん津々しんしん腋下えきかきて、あれよあれよともだえたまう。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おら一生懸命に、艪でかきのめしてくれたけれど、火の奴は舵にからまりくさって、はあ、婦人おんなの裾が巻きついたようにも見えれば、じじいの腰がしがみついたようでもありよ。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「だってね、ようやっと談判が調った処で、お婆さん、腰が立たないんでしょう。私が納屋へ入ってかきまわして持って来たんですのさ。」「肩がきがつくぜ、まるで昼鳶ひるとんびだ。」
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蹴飛ばしやらむ、かきむしらむ、すきあらばとびいでて、九ツこだまとおしえたる、とうときうつくしきかのひとのもとに遁げ去らむと、胸のきたつほどこそあれ、ふたたび暗室にいましめられぬ。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蹴飛けとばしやらむ、かきむしらむ、すきあらばとびいでて、ここのこだまとをしへたる、たうときうつくしきかのひとのもとげ去らむと、胸のきたつほどこそあれ、ふたたび暗室にいましめられぬ。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
びんかきに、当代の名匠が本質きじへ、肉筆で葉を黒漆くろうるし一面に、の一輪椿のくしをさしたのが、したたるばかり色に立って、かえって打仰いだ按摩の化ものの真向まっこうに、一太刀、血を浴びせた趣があった。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「や、蕎麦かきを……されば匂う。来世はかりうまりょうとも、新蕎麦と河豚ふぐは老人、生命いのちに掛けて好きでござる。そればかりは決して御辞儀申さぬぞ。林間に酒こそ暖めませぬが、大宮人おおみやびとの風流。」
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)