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拙
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まず
ふりがな文庫
“
拙
(
まず
)” の例文
「そうすると、あなたのことも、わたしのことも、知り抜いていての
悪戯
(
いたずら
)
なんでしょうか、それにしては仕上げが
拙
(
まず
)
うござんしたわ」
大菩薩峠:38 農奴の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
「やはり親分のおっしゃった通り、百両出せと言って手紙が来ましたよ、少し
手跡
(
て
)
が違うようでしたが相変らず鼻紙へ書いた
拙
(
まず
)
い字で」
銭形平次捕物控:043 和蘭カルタ
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
最初のうちはせっかくの希望を無にするのも気の毒だという考から、
拙
(
まず
)
い字とは思いながら、先方の云うなりになって書いていた。
硝子戸の中
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
お前さんとこの親方は威勢がいいばかりで、
肴
(
さかな
)
は一向新しくないとか、刺身の作り方が
拙
(
まず
)
くてしようがないとかいう小言もあった。
新世帯
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
書体は毛筆を使い
馴
(
な
)
れない現時の青年の筆蹟としては決して
拙
(
まず
)
くないけれども、
何処
(
どこ
)
かに商店の番頭の字のような品の悪い達者さがある。
卍
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
▼ もっと見る
それらの脅迫状はいずれも、
拙
(
まず
)
い文章で書かれてあったが、文章の構造から、差出人はイタリア人であることが、想像された。
恐ろしき贈物
(新字新仮名)
/
小酒井不木
(著)
その混雑の最中にこんな掛け合いをするのも
拙
(
まず
)
いと思ったが、半七はそこらに立ち働いている店の者をよんで、主人は家にいるかと
訊
(
き
)
くと
半七捕物帳:29 熊の死骸
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
「それが甚だ
拙
(
まず
)
かったのさ。きっぱり断れば宜かったのに、多少気のあるようなことを言ったものだから、未だに祟っている」
好人物
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
わたくしの
旧
(
ふる
)
い
拙
(
まず
)
い句である。こんな月並に
耽
(
ふけ
)
っていた青年ごろから、自分の思索にはおぼろげながら
親鸞
(
しんらん
)
がすでにあった。
親鸞
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「美術商岩田天門堂に化けて二度も同じ手を使うとは、なんて
拙
(
まず
)
いことだ。それにさ、この画だって、ニセ物だということを君は知らんのか」
すり替え怪画:烏啼天駆シリーズ・5
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
此歌も余り
拙
(
まず
)
いから、多分後の物語作者などが作ったのだろうと思われては迷惑であるから断って置くが、
慥
(
たしか
)
に右衛門集に出ているのである。
連環記
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
自由
気儘
(
きまま
)
にグングン訳し、「昔のような
糞
(
くそ
)
正直な
所為
(
まね
)
はしない、
拙
(
まず
)
い処はドンドン直してやる」と、しばしば豪語していた。
二葉亭四迷の一生
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
主義思想の宣伝でない事は前
以
(
もっ
)
て十分にお断りして、この
拙
(
まず
)
い一文を読んで下さる「探偵好き」の方々に、深甚の敬意を表しておきたいと思う。
暗黒公使
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
そんな言訳なぞするようなことをせずに、
拙
(
まず
)
いものは拙いものとして、堂々と吐き出してしまったらどうです。そして心を新たにするのですな。
夢は呼び交す:――黙子覚書――
(新字新仮名)
/
蒲原有明
(著)
そこには、一枚の手紙様のものと、破った封筒とが放り出してあったが、手紙の文句は、鉛筆書きのひどく
拙
(
まず
)
い字で、次の様に記されてあった。
孤島の鬼
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
ところで彼らが十二、三歳ともなると妙に絵も歌も
拙
(
まず
)
くなってくる。彼らの心から神様が姿を消して行くのだ。従って全くの人間と化けてしまう。
油絵新技法
(新字新仮名)
/
小出楢重
(著)
文芸上の作物は
巧
(
うま
)
いにしろ
拙
(
まず
)
いにしろ、それがそれだけで完了してると云う点に於て、人生の交渉は歴史上の事柄と同じく間接だ、とか何んとか。
一利己主義者と友人との対話
(新字新仮名)
/
石川啄木
(著)
然し
自惚
(
うぬぼ
)
れなく、私たちはそのことをみんなに納得させること、つまりみんなの毎日の日常の生活に即して説明してやることでは、まだ/\
拙
(
まず
)
いのだ。
党生活者
(新字新仮名)
/
小林多喜二
(著)
一座の俳優の芸が観ていられないのではなく、僕等の翻訳の
拙
(
まず
)
さ、甘ったるさが——原文も無論だが——どうにもこうにも我慢が出来なかったのである。
銷夏漫筆
(新字新仮名)
/
辰野隆
(著)
しかし、奴を片づけるのなら、それを今口に出しては
拙
(
まず
)
いという意味を伝えようとしているのだ。そして彼は、何気なく呉昌の方を見て、眼くばせした。
雲南守備兵
(新字新仮名)
/
木村荘十
(著)
「二人がいっしょに行っては
拙
(
まず
)
いじゃありませんか、私はここにおりますから、まずあなたが往って、お父さんに逢ってお父さんの容子を見てきてください」
金鳳釵記
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
己
(
おの
)
が工夫が
拙
(
まず
)
うては、近松門左が心を砕いた前代未聞の狂言も、あたら京童の笑い草にならぬとも限らない。
藤十郎の恋
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
それには象が練っている途中に殺したと見せるのでなければ
拙
(
まず
)
い。象の腹の内側に桐油を張って漆で留め、二刻ぐらいは血が外へ洩れないようにして置いた。
平賀源内捕物帳:山王祭の大像
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
「口説かれるのも下拙だし、気は利かないし、
跋
(
ばつ
)
は合わず、
機会
(
きっかけ
)
は知らず、言う事は
拙
(
まず
)
し、意気地は無し、」
日本橋
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
そのほかに分数や小数を習い、代数も少し習ったが、その文字などは子供が書いたように
拙
(
まず
)
いものである。
世界怪談名作集:06 信号手
(新字新仮名)
/
チャールズ・ディケンズ
(著)
当時
居延
(
きょえん
)
に
屯
(
たむろ
)
していた
彊弩都尉
(
きょうどとい
)
路博徳
(
ろはくとく
)
が詔を受けて、陵の軍を中道まで迎えに出る。そこまではよかったのだが、それから先がすこぶる
拙
(
まず
)
いことになってきた。
李陵
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
一々是は
何
(
なん
)
という名で何という人が画いたのかと云う事を、通弁に聞いて手帖に写し、
是
(
こ
)
れは
巧
(
うま
)
い、
彼
(
あ
)
れは
拙
(
まず
)
いと評します所を見ると、中々眼の利いたもので
真景累ヶ淵
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
ちょっとためらった後、ショパンの作品九番の第二の夜曲をさぐりさぐり
弾
(
ひ
)
き出す。甚だしく
拙
(
まず
)
い。少し弾いて直ぐ行詰まって
了
(
しま
)
う。立ち上って、楽譜をさがす。
みごとな女
(新字新仮名)
/
森本薫
(著)
と
拙
(
まず
)
い字で、しかも赤インキで丸々をつけたのが、「なるほど此処は樺太だわい。」とおかしがられた。
フレップ・トリップ
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
「まあま、お酌もせんどいて、えろう済まんことしてしまいましたけん。冷えて
拙
(
まず
)
うなりましてん?」
生不動
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
その日寅彦君は初めから終いまで黙って私たちの謡を聞いていたが、済んでから、先生の謡はどうかしたところが大変
拙
(
まず
)
いなどと漱石氏の謡に冷評を加えたりした。
漱石氏と私
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
その間も楽堂の舞台では、
拙
(
まず
)
い音楽が続けられていた。そして
聴衆
(
ききて
)
は根気よく静かに耳を傾けている。
沙漠の古都
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
文化的進歩とは、シュークリームの
甘
(
うま
)
い、
拙
(
まず
)
い位のものだが、金儲けもその程度のものにすぎない。
大阪を歩く
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
昔狂月坊に汝の歌は
拙
(
まず
)
いというと、「狂月に毛のむく/\と
生
(
はえ
)
よかしさる歌よみと人に知られん」。
十二支考:07 猴に関する伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
「こいつは
縛
(
しば
)
って置き給え。いや縛る前に早く承諾書をとらなくちゃ。校長もさっぱり
拙
(
まず
)
いなぁ。」
フランドン農学校の豚
(新字新仮名)
/
宮沢賢治
(著)
それで彼女は意趣返しに、できるだけ
拙
(
まず
)
くひこうとくふうすることもあった。彼女はかなりの音楽家だったが音楽を好んでいなかった——多くのドイツ婦人のように。
ジャン・クリストフ:04 第二巻 朝
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
『ここに居ちゃ
拙
(
まず
)
い、正九時半にまたここへ来い、ドジさえふまにゃ荷物が積めるから…………』
水晶の栓
(新字新仮名)
/
モーリス・ルブラン
(著)
そして、
紙箒
(
はたき
)
を持って兄の机の上の
埃
(
ほこり
)
を払いながら、書物の間に
挿
(
はさ
)
んである洋紙を覗いて、
拙
(
まず
)
い手蹟で根気よく英字を書留めているのに、感心もし、冷笑を浮べもした。
入江のほとり
(新字新仮名)
/
正宗白鳥
(著)
題材が大きいということは、この題材の取り扱い方が
拙
(
まず
)
いということを、救う力は持っていない。
日本精神史研究
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
たかだか
拙
(
まず
)
くないというまでに過ぎまい。美しくしなければ美しくならないのは不自由な証拠である。たとえ拙くとも拙いままに美しくなるような作であってこそよい。
民芸四十年
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
それにまた、関係者の認識不足が
禍
(
わざわい
)
して、原料会社と和紙生産者組合との間に、楮商業組合というのを設置したため、とかくごたごたの起り易い配給機構の
拙
(
まず
)
さもあった。
和紙
(新字新仮名)
/
東野辺薫
(著)
白状して書いているのだ。立派な詩人が上手に書いたのでも、下手な
素人
(
しろうと
)
が
拙
(
まず
)
く書いたのでも、それだけは同じ事だ。それと違って、この先生なんぞは気取っているのだ。
みれん
(新字新仮名)
/
アルツール・シュニッツレル
(著)
惜しいかなその仏像の陳列の仕方が
拙
(
まず
)
いので参拝人をしてそれ程に敬粛の念を起させない。つまりぞんざいな仏像画像及び経本等の博覧会に行ったような感じが起ったです。
チベット旅行記
(新字新仮名)
/
河口慧海
(著)
門倉平馬
(
かどくらへいま
)
か、その
伴
(
つ
)
れに相違ない——彼等としては、雪之丞に、みにくいおくれを取ったのを、この女に見られている筈なので、何となく、
拙
(
まず
)
い気持がしているのであろう。
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
矢張
(
やは
)
り
人物
(
じんぶつ
)
の
善悪
(
ぜんあく
)
は、うまく
行
(
い
)
った
場合
(
ばあい
)
よりも
拙
(
まず
)
く
行
(
い
)
った
場合
(
ばあい
)
によく
判
(
わか
)
るようでございます。
小桜姫物語:03 小桜姫物語
(新字新仮名)
/
浅野和三郎
(著)
話しながら
拙
(
まず
)
い答弁をしたものだと内心思っていたら、
果
(
はた
)
して「バタアンにおけるマックァーサー軍は、全く救援の望みはなかったが、ああいう目的のない破壊はしなかった」
硝子を破る者
(新字新仮名)
/
中谷宇吉郎
(著)
拙
(
まず
)
くてのろのろしているが、
一旦
(
いったん
)
こうと決めてしまったら、生命がすりきれてもそれに
喰
(
く
)
いついて離れないのではないか——阿賀妻は見ていた。落ち着きはらった眼であった。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
「私——私、お話ししようと思ったのですけど、私、切り出しが
拙
(
まず
)
かったんでしょう。」
小公女
(新字新仮名)
/
フランシス・ホジソン・エリザ・バーネット
(著)
やれ誰が巧いとか
拙
(
まず
)
いとかてんでに評判をし合って皆なで
天狗
(
てんぐ
)
になったのでございます。
女難
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
笠森
(
かさもり
)
のおせんは、
江戸
(
えど
)
一
番
(
ばん
)
の
縹緻佳
(
きりょうよ
)
しだ。おいらが
拙
(
まず
)
い
絵
(
え
)
なんぞに
描
(
か
)
かないでも、
客
(
きゃく
)
は
御府内
(
ごふない
)
の
隅々
(
すみずみ
)
から、
蟻
(
あり
)
のように
寄
(
よ
)
ってくるわな。——いいたくなけりゃ、
聞
(
き
)
かずにいようよ
おせん
(新字新仮名)
/
邦枝完二
(著)
“拙”の意味
《名詞・形容動詞》
(セツ)得意でない事、苦手。
《代名詞》
(セツ・セチ:古風、しばしば滑稽。明治期以降は職人・芸人・幇間の自称や遊里における用語)自称に用いる。
(出典:Wiktionary)
拙
常用漢字
中学
部首:⼿
8画
“拙”を含む語句
拙者
拙劣
拙僧
気拙
巧拙
下拙
拙者方
拙作
拙宅
古拙
拙老
稚拙
迂拙
拙堂
拙陋
穉拙
拙夫
稚拙味
拙筆
氣拙
...