めぐみ)” の例文
旧字:
時はすべての傷を癒やすというのは自然のめぐみであって、一方より見れば大切なことかも知らぬが、一方より見れば人間の不人情である。
我が子の死 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
親兄のつかへをもなさで、君が家の二九九ほだしならんは三〇〇由縁よしなし。御めぐみいとかたじけなけれど、又も参りなんとて、紀の国に帰りける。
仮令たとえ山賊の棲家であろうとも、られる物のない心易さ、其処そこまで行けば、一飯一食のめぐみ位にはあり付けそうに考えたのでした。
江戸の火術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
米八が『春色しゅんしょくめぐみはな』のうちで「そんな色気のないものをたべて」とけなした「附焼団子つけやきだんご」は味覚の効果をほとんど味覚だけに限っている。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
それのみか然様そういう恐ろしいところではあるが、しかし沈香じんこうを産するの地に流された因縁で、天香伝一篇を著わして、めぐみを後人におくった。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しかし人間というものは到底とうてい吾輩猫属ねこぞくの言語を解し得るくらいに天のめぐみに浴しておらん動物であるから、残念ながらそのままにしておいた。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
加特力教カトリックきょう信ずる養父母は、英吉利人に使はるるを嫌ひぬれど、わが物読むことなど覚えしは、かの家なりし雇女教師やといじょきょうしめぐみなり。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
余の熱心の足らざるが故にあらずしてかえって余の熱心(爾のめぐみによりて得ば)の足るがゆえにこの苦痛ありしなり、ああ余は幸福なるものならずや。
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
岩居がんきよがてんぷらをふるまひたる夜その友蓉岳ようがく来り、(桜屋といふ菓子や)余が酒をこのまざるを聞て家製かせいなりとて煉羊羹ねりやうかんめぐみぬ、あぢはひ江戸に同じ。
をんなの徳をさへかでこの嬋娟あでやかに生れ得て、しかもこの富めるにへる、天のめぐみと世のさちとをあはけて、残るかた無き果報のかくもいみじき人もあるものか。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「あなたはやせてゐますね、いけませんよ。わたしとわたしの羊たちとをごらんなさい。よく肥つてゐるでせう。神さまのおめぐみが深いのだと思ひますよ」
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
天のめぐみは二重である、とはシエイクスピアの句にあるが、この事業たるや、かくして三重の恵となつてるのであるから、に大したものではなからうか。
翻訳製造株式会社 (新字旧仮名) / 戸川秋骨(著)
それは普通の程度を越えてめぐみ深いことであった。どうして、それが欠点かと云うと、彼女の慈悲心は、余りにも突飛な形式で現われることが多かったからだ。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
寒くなると人の往来ゆきゝは少のうなります、酒臭き人の往逢ゆきあう寒さかなという句がありますが、たま/\通る人を見てもめぐみを受けようと思う様な人はさっぱり通りません。
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
九代目市川団十郎が『忠臣蔵』の大石内蔵之助くらのすけで、山科やましなの別れに「冬のめぐみ」をかなで、また四国旅行の旅土産たびづとに、「三津の眺め」の唱歌をつくったので、一層評判になった。
... どっちみち今日のめぐみ御為おために悪いことはございません。」と座蒲団ざぶとんねて、「これは早朝から御邪魔申しました。それではなりたけお早く御出おいで下さいまし、一足御先へ。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いたみおおきマリア様、どうぞおめぐみ深く、お顔をこちらへお向け遊ばして、わたくしの悩みを御覧なされて下さいまし」という句に始まる祈祷きとうは哀調にみちた美しい祈りであると思う。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
われは罪なき父の霊の、めぐみふかき上帝かみ御側みそばに救い取られしを信じて疑わず、後世ごせ安楽を信じて惑わず、更にって我一身のため、わが一家のため、奮って世と戦わんとするものなり。
父の墓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一一八 紅皿欠皿べにざらかけざらの話も遠野郷におこなわる。ただ欠皿の方はその名をヌカボという。ヌカボは空穂うつぼのことなり。継母ままははにくまれたれど神のめぐみありて、ついに長者の妻となるという話なり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
老人子供の寝て居る処に血気の壮士が暴れ込んではとても助かる道はない、所がここに不思議とやわん、天のめぐみとや云わん、壮士連の中に争論を生じたと云うのは、如何いかにも今夜は好機会で
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
生くとても為すこともなき老いの身は君のめぐみの勿体なくして
枕上浮雲 (新字旧仮名) / 河上肇(著)
いつまでもめぐみを垂れる、悪い神様になりましたの。9665
貧しきものも人のめぐみに逢ひぬべし。
鉄鎖てつくさりとける日生活のめぐみを見せ
鶴彬全川柳 (新字旧仮名) / 鶴彬(著)
それは大きなめぐみで気づかずに
わがひとに与ふる哀歌 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
勝四郎つらつら思ふに、かく落魄おちぶれてなす事もなき身の何をたのみとて遠き国にとどまり、六八由縁ゆゑなき人のめぐみをうけて、いつまで生くべき命なるぞ。
岩居がんきよがてんぷらをふるまひたる夜その友蓉岳ようがく来り、(桜屋といふ菓子や)余が酒をこのまざるを聞て家製かせいなりとて煉羊羹ねりやうかんめぐみぬ、あぢはひ江戸に同じ。
彼祈り得る時はなんじの特別のめぐみなぐさめとを要せず、彼祈り能わざる時彼は爾の擁護を要する最も切なり、余は慈母がその子の病める時に言語ことばに礼を失し易く
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
と云うので此方こちらも見送る、右内は見返りながら、金の出来よう筈はないが、神仏かみほとけめぐみで、何うか才覚したいものだと考えながら、うか/\と大原村という処へ掛りました所が
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼方あなたも在るにあられぬ三年みとせの月日を、きは死ななんと味気あぢきなく過せしに、一昨年をととしの秋物思ふ積りやありけん、心自から弱りて、ながらへかねし身の苦悩くるしみを、御神みかみめぐみに助けられて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
草木も人の手のめぐみに遠ざかりたるより色失せ勢へて見る眼悲しくなりたるが中に、此花のたかき常盤樹の梢に這ひ上りて、おのが心のまゝに紫の浪織りかけて静けく咲き出でたるなど
花のいろ/\ (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「うむ、天のめぐみは洪大じゃ。茸にもさて、るものをお授けなさるじゃな。」
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
清と山嵐とはもとより比べ物にならないが、たとい氷水だろうが、甘茶あまちゃだろうが、他人からめぐみを受けて、だまっているのは向うをひとかどの人間と見立てて、その人間に対する厚意の所作だ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今この主人あるじをお前のめぐみに逢わせてくれい。695
されどもああわが神よなんじめぐみは我死せずして我をこの苦痛より免れ得せしむ、爾によりてのみ貧者も自尊を維持し得べく、卑陋ならずして高尚なるを得るなり。
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
あけの日二八八大倭やまとさとにいきて、翁が二八九めぐみかへし、かつ二九〇美濃絹みのぎぬ三疋みむら二九一筑紫綿つくしわた二屯ふたつみおくり来り、なほ此の妖災もののけ二九二身禊みそぎし給へとつつしみて願ふ。
もし刑罰とすれば、めぐみしもとなさけむちだ。実際その罪を罰しようとするには、そのまま無事に置いて、平凡に愚図愚図ぐずぐず生存いきながらえさせて、しわだらけのばばにして、その娘を終らせるがいと、私は思う。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
めぐみをなさらいでは、おたのしみはございません。
えしぼんだ草樹も、そのめぐみに依って、蘇生いきかえるのでありますが、しかしそれは、広大無辺な自然の力でなくっては出来ない事で、人間わざじゃ、なかなか焼石へ如露じょろで振懸けるぐらいに過ぎますまい。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)