得物えもの)” の例文
韓はさらに近隣の者を大勢駆り集めて、弓矢その他の得物えものをたずさえてかの墓をあばかせると、墓の奥から五、六匹の犬があらわれた。
ルンペンどもは前もって明智の逃げ道を察し、そこの出口にとかたまりになって、手に手に得物えものを持って待ち構えていたのである。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
私たちはすぐ得物えものをふりあげて近寄りざま、ブランカをなぐりつけた。ブランカは力がつきて最後の悲鳴をあげてぐたりと横にたおれた。
ことに、その武器と得物えものなども今は、携えている者すらなく、まるで土中から発掘された泥人形の武者や木偶でくの馬みたいになっていた。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
穏かでないのは、これが城下の人ではなく、蓑笠みのかさをつけ得物えものを取った、百姓一揆いっきとも見れば見られぬこともない人々であります。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その男が、警戒していた家からも、物音をききつけて、得物えものを持って四、五人走り出ようとしたのを、男はよく戦って射すくめてしまった。
女強盗 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
赤裸体あかはだかのもの、襯衣シャツ一枚のもの、赤いふんどしをしめたもの、鉢巻をしたもの、二三十人がてんでに得物えものを提げてどこということなしに乗り込んでいる。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
が、再び思うに、むやみと得物えものを振廻しては、れない事なり、耕耘こううんの武器で、文金に怪我をさせそうで危かしい。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
討とうとする得物えものじゃ。凡そ、人を討つほどの者は、敵のみ討って、己を全うしようと考えてはいかん。己も死ぬ、その代りに、敵もたおす。この覚悟を
三人の相馬大作 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
そのあとにももちろん、何人かの盗人たちは、小路こうじのそこここに、得物えものをふるって、必死の戦いをつづけている。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いつのまにどこから現われ出たのであろう、得物えものを持った十二、三人の男がお粂を真ん中に取りこめて、得物得物を打ち振って、お粂を叩き倒そうとしている。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
得物えものもあるまいに、よくそれだけの傷で済んだものじゃのう。どうしてまたその姿でここへ参った」
別に怪しい者でなく三人の小娘が枯れ枝を拾っているのでした。風が激しいので得物えものも多いかして、たくさん背中にしょったままなおもあたりをあさっている様子です。
春の鳥 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
晝飯が終ると三人は又手に/\得物えものを持つて出かけて行く。夕餉の膳に對して彼等の口は際限もなく動く。而して夜が彼等を丸太まるたのやうに次ぎの朝まで深い眠りに誘ひ込む。
小さき影 (旧字旧仮名) / 有島武郎(著)
刀か脇差だと、これは左利きのわざだが、傷の工合じゃ、どうしても得物えものは合せ剃刀かみそりだ。ネ、そんな短い物で人の命でもろうとすると、逆手さかてに持たなきゃア役に立たないよ。
硝子ガラスはから/\と鳴りたり。我は目に見えぬ威力に驅らるゝものゝ如く、走りて裏口に至り、得物えものもがなと見𢌞すかたへの、葡萄だなの横木引きちぎりつ。女はニコオロにやと叫べり。
そこでお医者に見せたいなれど。俺は何ともないなぞいうて。得物えもの振り立て暴れまするで。止むを得ませぬ非常の手段。いつもここらを通るとわかり。取って押えに張り込みまする。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
仕合よしとうばひ取り何國いづくともなく逃失にげうせけり斯て穀屋にては音吉の知せに悴平吉を始め家内中驚きさわぎ平吉は親重代おやぢうだいの脇差追取おつとり音吉を案内として駈出かけいだすを後に續て番頭手代共各々提灯ちやうちん得物えもの
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「それたっ」と、武士ぶしたちが得物えものをとつてむかはうとすると、だれもかれもものおそはれたようにたゝかもなくなり、ちからず、たゞ、ぼんやりとしてをぱち/\させてゐるばかりであります。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
松の木を小楯こだてに取りまして、不埓至極な奴だ、旦那をなんと心得る、羽生村の名主様であるぞ、粗相をすると許さんぞというと、大勢で得物えもの/\を持って切って掛るから、手前も大勢を相手に切り結び
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
帆村は咄嗟とっさになにか得物えものはないかとあたりを見廻した。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「竹竿? ふむ。得物えものはそれっきりか。」
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
乃公おれ得物えものはこれだ。」
はりがふれてもピリッと感じるであろう柄手つかで神経しんけいに、なにか、ソロリとさわったものがあったので竹童は、まさしく相手の得物えものと直覚し
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人の騒ぎ罵る声は、いよいよ喧しくなりました。思うに蓑笠みのかさを着けた幾多の百姓連が、得物えものを携えて出水出水の警戒に当るらしくあります。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
伝七も得物えものをとって再び引っ返して来たが、もうその時には黒い物の影も見えなかった。佐兵衛は転んだはずみに膝を痛めた。
半七捕物帳:06 半鐘の怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
が、わたしも多襄丸たじやうまるですから、どうにかかうにか太刀たちかずに、とうとう小刀さすがおとしました。いくらつたをんなでも、得物えものがなければ仕方しかたがありません。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
男の教主の怪しき得物えものと、女の教主の檜扇とは、そういう信者の一人一人へ、一々軽く触れて行った。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
葉子は何かたたきつけるものでもあれば、そして世間というものが何か形を備えたものであれば、力の限り得物えものをたたきつけてやりたかった。葉子は小刻みに震えながら、言葉だけはしとやかに
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
たてに取サアい汝等片端よりひねり殺して呉んずと身構たれども手振てぶらにて何の得物えもののなきを付込惡者共は聲々に人の來ぬ間に打殺せと先に進みし一人が振揚ふりあげかゝる息杖いきづゑを飛違へさまもぎ取て手早く腋腹ひばら
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
平次は辰五郎の酔顔すいがんの前に、その斑々はんぱんたる得物えものを突きつけました。
くわすきの類をはじめとしての得物えものは、それぞれ柳の木に立てかけられたり、土手の上に転がされたりして、双方が素手すでで無事に入り交って
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と、具足ぐそくの音をあられのようにさせ、やり陣刀じんとう薙刀なぎなたなど思いおもいな得物えものをふりかざし、四ほうにパッとひらいてりむすんだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四月十日の小雨こさめのふる宵であった。同町の往来で二人の男が喧嘩をはじめた。最初は番傘で叩き合っていたが、しまいには得物えものを投げすてて組打ちになった。
半七捕物帳:45 三つの声 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
場内は寂然しんと静かであった。松明の火が数を増した。火事場のように赤かった。後から後からと無数の信者が、出入り口からはいって来た。みんな得物えものを持っていた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
太刀たちをはくもの、矢を負うもの、おのを執るもの、ほこを持つもの、皆それぞれ、得物えものに身を固めて、脛布はばき藁沓わろうずの装いもかいがいしく、門の前に渡した石橋へ、むらむらと集まって、列を作る——と
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
また思い思いな得物えものを把って、毛利勢へ当って来た予想外な戦力にぶつかって、寄手浦兵部丞も初めて、これは? と狼狽ろうばいしたほどであった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こういうやからの習い、得物えものをわざと投げ出したのは、こっちに油断させる為であろうと、半七は用心しながら追ってゆくと、式部は奥の八畳の間へ逃げ込んで
半七捕物帳:26 女行者 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
手には丸太や板片いたきれを持っているものもあれば、同心や牢番を叩き伏せてその得物えものを奪うて働くのもあります。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「よし来た!」とばかり地廻りども、得物えもの得物を打ち振って、伊集院一味へ打ってかかった。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
こりや火吹竹を得物えものにした、宿の若え者が云つた事だ。
鼠小僧次郎吉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「こうなる場合——こう敵と自分とをおいて立つ時は——相手の得物えものを巻き取るのがこっちの目的、太刀、槍、棒、何へ向ってもそれは出来る」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鉄如意を離さなかったけれど、近藤勇はがんとしてきかなかった。ぜひ、他の得物えものを取れと勧めたから和尚は
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼は得物えものを取り直して、天をにらんで突っ立っていると、その勢いに辟易へきえきしたのか、あるいは道理に服したのか、雷は次第に遠退いて、かえって蛇の穴の上に落ちた。
「あの木像こそ他ならぬ窩人族の守護神まもりがみじゃ。彼らの祖先宗介じゃ。窩人どもの族長じゃ。族長の持っている得物えものをもって、他の族長を討つ以外には、妖婆を討ち取る手段はない」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そしてついに衆のいきどおりをこめた声が「わあッ」となって、かい水棹さお、水揚げかぎ、思い思いな得物えものを押っとり、李逵へむかってかかって来た。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
無論、ただ俄然として驚き醒めただけでは安心が成り難いから、それで卒然として立ち上ったものですから、その手に例の唯一の得物えものを放すことではありません。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
翁は内へ引っ返して小さい鎌となたとを持ち出して来た。畜生めらをおどすには何か得物えものがなくてはならぬと、彼はその鉈を千枝松にわたして、自分は鎌を腰に挟んだ。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
とたんに、彼の上へ、棍棒こんぼう鈎棒かぎぼう鳶口とびぐち刺叉さすまた、あらゆる得物えものの乱打が降った。そして、しし亡骸むくろでもかつぐように、部落の内の籾干場もみほしばへかつぎ入れ
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
脇差もほうりっぱなしで出て来た——あわただしく両手を振ってみたが、得物えものとてはなんにもない、思わずあたりを振向いたけれども、暗い中に転がっている物とては
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)