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後向
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うしろむき
ふりがな文庫
“
後向
(
うしろむき
)” の例文
彼は立てるままに目を
瞪
(
みは
)
りつ。されど、その影は
後向
(
うしろむき
)
に居て動かんとも
為
(
せ
)
ず。満枝は
未
(
いま
)
だ往かざるか、と貫一は覚えず高く舌打したり。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
と云ふ英也にも口が利かれなくて、唯お辞儀をしただけで鏡子は花壇の傍へ走つて行つて、二人には
後向
(
うしろむき
)
になつて葉鶏頭の先を指で叩いて居た。
帰つてから
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
と口のゆがんだ神さんが、
後向
(
うしろむき
)
になって盆を
拭
(
ふ
)
きながら云った。後向きだから、どんな顔つきをしているか見えない。
坑夫
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
人気
(
ひとけ
)
ないのを見すまして、だんだんと事務室の方へ……。やがて
硝子戸
(
ガラスど
)
越
(
ご
)
しに、三吉少年が
後向
(
うしろむき
)
になって、地図を案じているのが、ハッキリ解った。
地中魔
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
彼
(
かれ
)
は
庭
(
には
)
に
立
(
た
)
つて
泣
(
な
)
いて
居
(
ゐ
)
る
與吉
(
よきち
)
を
見
(
み
)
た。
與吉
(
よきち
)
の
横頬
(
よこほゝ
)
に
印
(
いん
)
した
火傷
(
やけど
)
が
彼
(
かれ
)
の
惑亂
(
わくらん
)
した
心
(
こゝろ
)
を
騷
(
さわ
)
がせた。
勘次
(
かんじ
)
は
又
(
また
)
其
(
そ
)
の
側
(
そば
)
に
目
(
め
)
を
瞑
(
つぶ
)
つて
後向
(
うしろむき
)
に
成
(
な
)
つて
居
(
ゐ
)
る
卯平
(
うへい
)
を
見
(
み
)
た。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
▼ もっと見る
綾子は
後向
(
うしろむき
)
にて顔は見えず、片手を
卓子
(
テエブル
)
に、片手を膝に、
端然
(
ちゃん
)
と澄まして、敵の
天窓
(
あたま
)
を
瞰下
(
みおろ
)
したり。
貧民倶楽部
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
針ほども心に面白き所あらば命さえ
呉
(
くれ
)
てやる珠運も、何の操なきおのれに未練残すべき、
其
(
その
)
生白
(
なましら
)
けたる
素首
(
そっくび
)
見
(
みる
)
も
穢
(
けがら
)
わしと身動きあらく
後向
(
うしろむき
)
になれば、よゝと泣声して
風流仏
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
九蔵の久吉、
浅黄
(
あさぎ
)
のこくもちに白のおひずる、濃浅黄のやつし
頭巾
(
ずきん
)
を
冠
(
かぶ
)
り、浅黄の
手甲
(
てっこう
)
、
脚半
(
きゃはん
)
にてせり上げの間
後向
(
うしろむき
)
にしやがみ、楼門の柱に「石川や」の歌をかき居る。
両座の「山門」評
(新字旧仮名)
/
三木竹二
(著)
さては神様が我身を見殺しにする
思召
(
おぼしめし
)
か、情ないと思って居りますと、親熊が
頻
(
しき
)
りにお町の前へ来て、
後向
(
うしろむき
)
に脊中を出して居ります。お町も始めの内は心付きませぬが
後の業平文治
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
わざとらしく境の
襖
(
ふすま
)
が明け放しになっていて、長火鉢や
箪笥
(
たんす
)
や
縁起棚
(
えんぎだな
)
などのある八畳から
手水場
(
ちょうずば
)
の
開戸
(
ひらきど
)
まで見通される台処で、おかみさんはたった一人
後向
(
うしろむき
)
になって米を
磨
(
と
)
いでいた。
雪解
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
序
(
つい
)
でに狐退治の極意を披露すると、田舎の一軒屋などでは、夜が更けると狐がとん/\と
扉
(
と
)
を叩いて
悪戯
(
いたづら
)
をする事がある。その時狐は
後向
(
うしろむき
)
になつて持前の太い尻尾で
扉
(
と
)
に
触
(
さは
)
つてゐるのだ。
茶話:02 大正五(一九一六)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
後向
(
うしろむき
)
だったから、顔は分らなかったが、
根下
(
ねさが
)
りの
銀杏返
(
いちょうがえ
)
しで、
黒縮緬
(
くろちりめん
)
だか何だかの小さな紋の附いた羽織を着て、ベタリと坐ってる後姿が何となく好かったが、私がお神さんと物を言ってる間
平凡
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
けれども十分とは自分を
待
(
また
)
さなかった、彼の
起
(
たち
)
あがるや病人の
如
(
ごと
)
く、何となく力なげであったが、
起
(
た
)
ったと思うと
其
(
その
)
儘
(
まま
)
くるりと
後向
(
うしろむき
)
になって、砂山の
崕
(
がけ
)
に面と向き、右の手で其
麓
(
ふもと
)
を掘りはじめた。
運命論者
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
嫂はこう云って小さい袋から
櫛
(
くし
)
やなにか
這入
(
はい
)
っている
更紗
(
さらさ
)
の
畳紙
(
たとう
)
を出し始めた。彼女は
後向
(
うしろむき
)
になって蝋燭を一つ占領して鏡台に向いつつ何かやっていた。
行人
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
「
蛇
(
へび
)
嫌
(
きれ
)
えだと、さうだ
大
(
えけ
)
え
姿
(
なり
)
してあばさけたこといふなえ、
俺
(
お
)
らなんざ
蛇
(
へび
)
でも
毛蟲
(
けむし
)
でも
可怖
(
おつかね
)
えなんちやねえだから、かうえゝか、
斯
(
か
)
うだぞ」といひながら
爺
(
ぢい
)
さんは
後向
(
うしろむき
)
に
立
(
た
)
つて
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
明
(
あく
)
る日表の格子戸を
覗
(
のぞ
)
いて、
下駄箱
(
げたばこ
)
の上に載せた
万年青
(
おもと
)
の鉢が
後向
(
うしろむき
)
にしてあれば、これは誰もいないという合図なので、大びらに
這入
(
はい
)
るが、そうでない時はそっと通り過ぎてしまう。
ひかげの花
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
路端
(
みちばた
)
の芋大根の畑を隔てた、線路の下を抜ける処は、
物凄
(
ものすご
)
い渦を巻いて、下田圃へ落ちかかる……線路の上には、ばらばらと
人立
(
ひとだち
)
がして、
明
(
あかる
)
い雲の下に、海の方へ
後向
(
うしろむき
)
に、
一筆画
(
ひとふでがき
)
の墨絵で
突立
(
つッた
)
つ。
沼夫人
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
「
兄
(
にい
)
さんは
今
(
いま
)
一寸
(
ちよいと
)
」と
後向
(
うしろむき
)
の
儘
(
まゝ
)
答
(
こた
)
へて、
御米
(
およね
)
は
矢張
(
やは
)
り
戸棚
(
とだな
)
の
中
(
なか
)
を
探
(
さが
)
してゐる。やがてぱたりと
戸
(
と
)
を
締
(
し
)
めて
門
(旧字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
初めは何か子供の
悪戯
(
いたずら
)
だろうくらいにして、別に気にもかけなかったが、
段々
(
だんだん
)
と
悪戯
(
いたずら
)
が
嵩
(
こう
)
じて、来客の下駄や
傘
(
からかさ
)
がなくなる、主人が役所へ
出懸
(
でか
)
けに机の上へ
紙入
(
かみいれ
)
を置いて、
後向
(
うしろむき
)
に洋服を着ている
間
(
ま
)
に
一寸怪
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
「
大分
(
だいぶ
)
賑
(
にぎ
)
やかな様ですね。何か面白い事がありますか」と云つて、ぐるりと
後向
(
うしろむき
)
に縁側へ腰を掛けた。
三四郎
(新字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
といったばかりできまりが悪そうに、くるりと
後向
(
うしろむき
)
になった。
高野聖
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
二三年前
宝生
(
ほうしょう
)
の舞台で
高砂
(
たかさご
)
を見た事がある。その時これはうつくしい
活人画
(
かつじんが
)
だと思った。
箒
(
ほうき
)
を
担
(
かつ
)
いだ爺さんが
橋懸
(
はしがか
)
りを五六歩来て、そろりと
後向
(
うしろむき
)
になって、婆さんと向い合う。
草枕
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
といつたばかりで
極
(
きまり
)
が
悪
(
わる
)
さうに、くるりと
後向
(
うしろむき
)
になつた。
高野聖
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
と、黒い頭の一つが
怒鳴
(
どな
)
った。
後向
(
うしろむき
)
だから顔は見えない。すると
坑夫
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
後
常用漢字
小2
部首:⼻
9画
向
常用漢字
小3
部首:⼝
6画
“後”で始まる語句
後
後生
後退
後方
後悔
後姿
後家
後手
後日
後世