ひだ)” の例文
仕方がない、何でもよいから食物くいもののある所まであるこうと決心をしてそろりそろりと池をひだりに廻り始めた。どうも非常に苦しい。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すると其の翌年寛政かんせい十年となり、大生郷村の天神様からひだりに曲ると法恩寺ほうおんじ村という、其の法恩寺の境内に相撲が有ります。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
うけて見よと眞向まつかう振翳ふりかざして切てかゝる此時吾助は身に寸鐵すんてつおびざれども惡漢しれものなればすこしも恐れずそばに落たる松の枯枝かれえだおつ取て右にうけひだりに流ししばし戰ひ居たりしが吾助は元來もとより劔術けんじゆつ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
右へ行くもひだりへ行くも手を動かすも足を動かすも皆な意志の自由である如く思うているけれど、それも意志の自由ではなくて、やはり或る原因から右に行かねばならぬように
病牀苦語 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
素人しろうとにして捨てて置くは惜しい物の中に加へぬ、さりとてお寺の娘にひだづま、お釈迦しやか三味しやみひく世は知らず人の聞え少しははばかられて、田町たまちの通りに葉茶屋の店を奇麗にしつらへ
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
でたくらいで割り切れる訳のものではない。今度はひだりの方をのばして口を中心として急劇に円をかくして見る。そんなまじないで魔は落ちない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
素人しろうとにしててゝくはしいものなかくわへぬ、さりとておてらむすめひだづま、お釋迦しやか三味しやみひくらずひときこすこしははゞかられて、田町たまちとほりに葉茶屋はぢやゝみせ奇麗きれいにしつらへ
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
何処だかちっとも分りませんが、鼻をつままれるも知れません、たゞ妙な事には、なア棒組、妙だなア、此方こっちひだり手に見える燈火あかりうしてもあれは吉原土手のなんだ、茶屋の燈火にちげえねえ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
奇變あやなししやう三郎にいつはりていま辨濟へんさいせざれども長兵衞は催促さいそくもなさず彼是するうちまたとしすぎ翌年よくどしなり身代しんだいひだり前にて難儀なんぎなるよしちう八より申せしかば庄三郎も不審ふしんに思ひ何とて其樣そのやうなりしぞと云に忠八御屋敷おやしき普請ふしんぞんじのほかつもちがひにて一はこ損金そんきんになり其外そのほか彼是かれこれにて二千兩餘のそんに爲たりとくちから出任でまかせにいつはるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
二人ふたり蓮池はすいけまへとほして、五六きふ石段いしだんのぼつて、その正面しやうめんにあるおほきな伽藍がらん屋根やねあふいだまゝすぐひだりへれた。玄關げんくわんしかゝつたとき宜道ぎだう
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
彼がエリザ式の半ズボンに絹の靴下を膝頭ひざがしらで結んだ右足をひだりの上へ乗せてペンのさきを紙の上へ突いたまま首を少し傾けて考えているところを想像して見た。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小野さんは机に添えてひだりの手をしたまま、顔をななめに、受け取った封書をてのひらの上に遠くからながめていたが、容易に裏を返さない。返さんでもおおかたの見当けんとうはついている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
赤い首輪につけた鈴がちゃらちゃらと鳴る。おや正月になったら鈴までつけたな、どうもいいだと感心しているに、吾輩のそばに来て「あら先生、おめでとう」と尾をひだりへ振る。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
水底みなそこは、暗い所にただようて、白帆行く岸辺に日のあたる事を知らぬ。右にうごこうが、ひだりになびこうがなぶるは波である。ただその時々にさからわなければ済む。れては波も気にならぬ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
余は茂る葉を見ようと思い、青き野をながめようと思うて実は裏の窓から首を出したのである。首はすでに二へんばかり出したが青いものも何にも見えぬ。右に家が見える。ひだりに家が見える。
カーライル博物館 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ひだりへ折れて血塔の門に入る。今は昔し薔薇しょうびらんに目に余る多くの人を幽閉したのはこの塔である。草のごとく人をぎ、にわとりのごとく人をつぶし、乾鮭からさけのごとくしかばねを積んだのはこの塔である。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)