あによめ)” の例文
をとこ女蕩をんなたらしの浮氣うはきもの、近頃ちかごろあによめ年増振としまぶりけて、多日しばらく遠々とほ/″\しくなつてたが、一二年いちにねんふか馴染なじんでたのであつた。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
泣きながら云うあによめの言葉は途切とぎれ途切れにしか聞こえなかった。しかしその途切れ途切れの言葉が鋭い力をもって自分の頭にこたえた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これを聞いてかあによめが母に注意したらしく、或日母は常になくむずかしい顔をして、二人を枕もとへ呼びつけ意味有り気な小言を云うた。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
兄はただ今より即ち皇叔に附随して新野しんやの城へゆくであろう。汝は、あによめをいつくしみ、草廬そうろをまもって、天の時をたのしむがよい。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
太郎の妻であるあによめが、傍から、「まあ、そのことは、ふつつかではありますが、私がうかがいましょう。さあ、こちらへいらっしゃい」
と三吉はあによめの額をながめた。お倉は髪を染めてはいるが、生際はえぎわのあたりはすこしめて、灰色に凋落ちょうらくして行くさまが最早隠されずにある。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お島はくすぐったいような、いらいらしい気持を紛らせようとして、そこを離れて、子供を揶揄からかったり、あによめ高声たかごえで話したりしていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
まだ独身で、家でぶらぶらしていたが、人のいないところではあによめに抱きついたりキスをしたりして、小心な奥さんを困らしていた。
私は冬季休暇で、生家に帰り、あによめと、つい先日の御誕生のことを話し合い、どういうものだか涙が出て困ったという述懐じゅっかいに於て一致した。
一灯 (新字新仮名) / 太宰治(著)
奥から出て来たあによめに彼は頼んだ。寝巻姿や洋服の子供がぞろぞろと現れた。みんな、かつて八幡村でわびしい起居をともにした戦災児だった。
永遠のみどり (新字新仮名) / 原民喜(著)
その無節操なあによめに対して敢えて不倫を行ったところで、自分の良心に恥ずべきところは些もない筈だと考えて、窃に機会を待つことにした。
勝敗 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
たった二十歳の青年が、すっかり安じ、弱いあによめを顎使して居るのを見ると、いやだ。小さい人間には何と云うなり易いことか。
そして、臧の方ではあによめが家を出ていたことをいやしんでいたし、嫂の方でもまた臧の気の荒いことを悪んで相手にしなかった。
珊瑚 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
平次も少しあきれました。まだ下手人の見當もつかないのに、此の女は殺されたあによめの惡口を、何の遠慮もなく並べ立てるのです。
しかし国へ帰っても自分のうちへ帰るのではない——兄とあによめの家——苦しい事は同じだ。私は自分をどうする事もできない。
亮の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
家へ帰って来ても、兄やあによめと顔を合せぬよう、どんなに私が苦労していたかも、貴方には察して戴けるであろうと思います。
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
母親は亡かったけれど、兄に美代みよという妻があって、家事はすべてあによめに任されていたから、菊枝は自分のことを始末すればほかに用はなかった。
日本婦道記:不断草 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「弦おじちゃん、大変でしたね」あによめ喜代子きよこも、お妻について弦三をかばった。「さあ、ミツ子、おじちゃん、おかえんなさいを、するのですよ」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その当時、武平ぶへい県の農民劉義りゅうぎという者が官に訴え出た。自分のあによめが奸夫と共謀して、兄の劉せいを殺したというのである。
たまにお帰宅かえりの時分を外したからって、何も女中を寄越して恥をかゝせるには当りませんわ。今夜は家人数うちにんずばかりでなく目黒のあによめが来ていましたよ。
女婿 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
その流れのなかに、あによめスギの顔だけが、にゅうと、大きく飛び出た。その軽侮と憎悪の眼が、金五郎を睨みつけている。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
兄はその後もこの道の修業を積むおりがおりおりはあったであろうが、あによめの師事した石塚いしづか宗匠からの間接の教えも、大いに悟入に資したことと思う。
茶の本:01 はしがき (新字新仮名) / 岡倉由三郎(著)
あによめが「会社へいらっしゃるの」と聞いたけれど、返事もしないで外に出た。無論会社へ出る為ではなかった。初代の母親を慰問いもんする為でもなかった。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
広巳は節操のないあによめに対する憤りから、その嫂にまかれて不甲斐ない兄を憤る一方で、人とも神とも判らない女に心をかれているところであった。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
はげしいヒステリイの起つてゐる時などは、悲しい程にさうでした。あなたの兄上やあによめの君の信用の最も厚い婦人と云ふのはあのかたであるとも聞きました。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
邪慳じやけんしうとめのこと、意地くね曲つたヒステリーのあによめのこと、相変らず愚図で気のきかぬ頼りない亭主のこと、それから今度のごた/\についてのことだつた。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
みす/\返り討になるは知れてある、出家を遂げれば其の返り討になる因縁をのがれて、亡なられた両親やまた兄あによめの菩提を吊うが死なれた人の為じゃ、え
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
杖柱つえはしらとも頼みたる父上兄上には別れ、あによめは子供を残して実家に帰れるなどの事情によりて、容易に授業を始むべくもあらず、一家再び倒産のあわれを告げければ
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
母親の煙草盆たばこぼんに火を入れてゐた鶴子は、自分を振り返つたあによめに、「すぐよ」かう云つて離の方につた。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
ことに辰雄のあによめに当る人、———実家の兄の妻と云うのが、字の上手な婦人なので、それに負けないように書きましょうと思うと、一層気が張るのであろう、いつも
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
きのこを炊込たきこんだ御飯は、新吉が子供の頃の好物だったとあによめが代筆した母の言葉を書添えてあった。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
その頃、台湾にいた母の長兄のもとから、あによめに当る人の悔状くやみじょうが届いたが、母のことを、遂に幸福の太陽が昇るのを見ずに世を去った、そう云ってあったのを私は読んだ。
生い立ちの記 (新字新仮名) / 小山清(著)
可哀相なは慎次で、四五枚の札も守り切れず、イザとなると可笑をかしい身振をして狼狽まごつく。それを面白がつたのはあによめの清子と静子であるが、其狼狽方まごつきかた故意わざとらしくも見えた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
やもめになったあによめは、二本松の商家に女中奉公をするのだと、女の子を連れて去って行った。
和紙 (新字新仮名) / 東野辺薫(著)
そのあによめの懐胎して臨月なるを憐み、左思右考するに、その林に切れば血色の汁を出す樹あり、因ってその汁をに塗り、私陀を林中に棄て、帰って血塗りの箭を兄王に示し
あによめや妹の心づくしを君はすぐ感じてうれしく思いながら、持って帰った漁具——寒さのために凍り果てて、触れ合えば石のように音を立てる——をそれぞれの所に始末すると
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
はじめて、ふり返って、にっこりと笑ったのは、忘るるひまのないあによめのお浜でありました。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ぼくの家には、父と母、次兄とあによめ、三兄、それにぼく、長兄は戦死して、六人暮しです。
あによめの犯罪を聞いて、顛倒せんばかりに驚いて、「あり得べからざることだと思います。姉さん程、気持ちの平らな、感じの好い人は、この世の中に二人といない位いですのに——」
アリゾナの女虎 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
福子には、そうしたあによめたちの気持が飲みこめなかった。隠居に取り入って何をしようとするのだろう。そんなことでお互いに気持をりあっている嫂たちの姿が、何か哀しかった。
万年青 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
籌子かずこ夫人のこのお婿さん工作も、愛弟だったときけばうなずけるし、実家のあによめは東本願寺からきた人で、例の御連枝ごれんしと縁のあるかたであり、それらの張合もないとはいえまいが、良致氏は
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「お帰りなさいませ」そう云って、駈けだして来たあによめはすでに吐息まじりであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
家庭のことを述べたてるあによめのおしゃべりに、耳も傾けずただうなずきながら、微笑ほほえんで夢想にふけっていた。クリストフは粉屋と並んで影の中にすわり、子供の髪を静かに引っ張っていた。
一 兄公こじゅうと女公こじゅうとめは夫の兄弟なれば敬ふ可し。夫の親類にそしられにくまるれば舅姑の心にそむきて我身の為にはよろしからず。睦敷むつまじくすれば嫜の心にも協う。又あいよめを親み睦敷すべし。殊更夫のあにあによめあつくうやまふべし。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
座敷へ帰ると、あによめが写真を持ってはいってきた。彼はそれを受け取ると微笑しながら机の上の手文庫の中へ抛りこんだ。文庫の中には彼の結婚の候補者の写真がいっぱいになっているのだった。
青草 (新字新仮名) / 十一谷義三郎(著)
あによめの鈴子の兄は豊雄といって、×大出の若手の医者である。智子と新しく親戚関係になったこの青年紳士は、目的あって、せっせと智子と交際し出した。そして誰が見ても、二人は好配偶だった。
明暗 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
終りの年のことです。大分重態になられてからお見舞に上りましたが、すぐ病室へ入るのを遠慮して、傍の部屋にいますと、水蜜桃すいみつとうの煮たのを器に入れて、あによめが廊下づたいに病室に入られました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
これに限らず、さうした不思議の話は、その近所の町と村とを中心にして波動のやうにしてつたはつて行つた。ある時はひそかにあによめに通じてゐた小商人こあきうどの店にあらはれて、それをして悔い改めさせた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
そして三年の間別れてゐた兄やあによめと逢ふのであつた。
三十三の死 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
彼女は、去ったあによめと一番の仲よしだった。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)