大切だいじ)” の例文
二人のお父さんはこの国でたった一人の上手な鐘造りで、お母さんが亡くなったあと、二人の子供を大切だいじに大切に育てておりました。
ルルとミミ (新字新仮名) / 夢野久作とだけん(著)
大切だいじの大切の一枚看板を外されては、明日からの人気にさわる。人気よりも、損得よりも、出し抜かれたことがお角としては口惜くやしい。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
切って、指環だけ抜取ってしまったのだ。大切だいじな証拠を抜取ってしまったのだ。指に食入っているので切らなければ抜けなかったのだよ
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「かう言つちや何ですが、もしや貴方のお荷物に、何か大切だいじな物があつて、水神すいじん様がそれを欲しがつてるのぢやありますまいか知ら。」
今の中等人士は昔時むかしの御大名同様に人の手から手へ渡って行って、ひどく大切だいじにされまするので、山も坂も有ったものじゃあ有りません。
旅行の今昔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
何方も大切だいじの校長先生だ。僕は審判係の一人だったから殊更に責任を感じた。間一髪だったから、西引佐が口惜しがったのも無理はない。
ある温泉の由来 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「わしにも大切だいじ阿母おかあさんなら、お前にとっても一人の母親だ。この老母を路頭に迷わせるようなことがあってはならぬからな」
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
「なるほど、それはお大切だいじなわけ。そういう御旧家であってみれば、何か、夭折わかじにをしないような、家伝の名薬があってもよいわけだが……」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
誠にわしを真実の親のように大切だいじにしてくれますから、んな白痴者たわけものは要りません、最うおくの一人で沢山でござる、孫も追々成人しますから
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「ええ、なんですか、たいへんきたがって、わたしに、六週間しゅうかんだけ、とまりにやってくれッていますの。先方むこうけばきっと大切だいじにされますよ。」
ろく小袖こそで一つ仕立って上げた事はなく、貴下が一生の大切だいじだった、そのお米のなかった時も、煙草たばこも買ってあげないでさ。
女客 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
みこと御国みくににとりてかけがえのない、大切だいじ御身おみうえ……何卒なにとぞこのかずならぬおんな生命いのちもっみこと御生命おんいのちにかえさせたまえ……。
此女これはよほど大切だいじに保養せねばならんのです。それに私もこの頃過労くたびれているので、ゆっくり静養したいと思います
そうまで師匠がどうしてそんな大切だいじにかけるのか? どうしてそう強情を張りつゞけたのか? どうしてそう意地を
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
父の希望のこもった大切だいじな名を間違われるのはいやだからだ。つゆ子なんて名は、なにか病み細って、蒼い顔をしてうつむいている女の姿を連想させる。
キャラコさん:01 社交室 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
おなどしの私の児供は魔子を不便がったと見えて、大切だいじにしていた姉様あねさまや千代紙を残らず魔子にってしまった。
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「馬の前飾りじゃ。菊、存じておろう。鎧櫃よろいびつと一緒に置いてある筈じゃ。大切だいじな品ゆえ粗相あってはならぬぞ」
「お前が大切だいじだから、アレもつい、度を過ごすのだろう。ま、お父さんは、もう一人前の人間と思うとるから、あまりこまかいこともいわんようにしとる」
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
そしてござのところへきて、これからごちそうをこしらえて人形にんぎょうにやろうとおもいますと、大切だいじ大切だいじ人形にんぎょう姿すがたが、どこへいってしまったかえなかったのです。
なくなった人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それが大切だいじなんで——殿樣は三年越の御病氣、少々氣が變だといふことですが、兎に角寢たつ切り、奧方の百枝樣はまだ若いし、若樣の鶴松樣は五つ、家の中は
それは大切だいじ大切だいじな、職業しやうばい道具のはひつた、手品の種の袋を船の中に置き忘れてきてしまつたのです。
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
「それはそうと、お前達の大切だいじの阿父さんはどうしたんだろうね?」と、クラチット夫人は云った。
大切だいじの大切のお蚕様こさまが大きくなって居るのだ。然し月の中に一度雹祭ひょうまつりだけは屹度きっと鎮守の宮でする。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
俳諧の聖芭蕉でさへも、旅に病んでは寂しかつたか、夢は枯野をかけめぐると、云うたではないか。お互ひに大切だいじにする事だ、愛惜いとほしい物は命だと、私が云へば、妻も寂しく笑つて噎せた。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
老女おばさん」と篠田は渡辺の老女を顧みつ「花さんは大切だいじな体です、将来こののちに大きな事業しごとをなさらねばならぬ役目をんで居られますので、又た花さんの性質にく適当した役目であると思ひますので、 ...
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「私の大切だいじな大切な可愛いい坊や」
少年・春 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
「姉と妹二人きりになったのです。故郷の人達の同情なさけに依って、何とか生活して行く道はあるでしょうが、身体だけはうか大切だいじにして下さい。この上、あなたかお妹さんでも病気になると、それこそ取返しが付きませんからね…………」
友人一家の死 (新字新仮名) / 松崎天民(著)
「オイオイ、そんなもの、大切だいじ相にしまい込んでどうするんだね。そいつは、君達の手品の楽屋で拾って来た、おもちゃのピストルだよ」
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
人間といふものは、打捨うつちやつておくと、入用いりようのない、下らない事を多く記憶おぼえたがつて、その代りまた大切だいじな物事を忘れたがるものなのだ。
「いや、お祖父さんで懲りているから、大切だいじを取って何でも一応大問題と見做すことにしているが、今度という今度は初めから大問題だよ」
小問題大問題 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「まあ、せいぜい大切だいじにしておあげなさるがいい。手前もまた何かのおりにお訪ねすることもござろうが、ただ今のお住家すまいはこの御近所で?」
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
「フーム。返す返すも珍しい事を申す。世の中に金ほど大切だいじな物はないという事を、その方はよく存じておる筈じゃが……」
名さへ響かぬのつそりに大切だいじの仕事を任せらるゝ事は檀家方の手前寄進者方の手前も難しからうなれば、大丈夫此方こちいひつけらるゝに極つたこと
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
眞「有難い、これども……お梅はんあんま大切だいじに仕過ぎて、旦那の身体悪うしては成らぬから、こりゃはやおやかましゅう」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「それがよろしうございます。わたしはここで、人をよんで座敷を改めてもらいます、あなたにもお世話になりましたが、どうぞ、お大切だいじに……」
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
二葉亭の家では主人の次には猫が大切だいじにされた。主人の留守に猫に粗糙そそうがあっては大変だといって、家中うちじゅうがどれほど猫を荷厄介にやっかいにして心配したか知れない。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
次郎はふところへ手を突ッ込んで、藁や髪の毛や木の葉でまるまッた鳥の巣を、両手で大切だいじそうにとり出して
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小櫻姫様こざくらひめさま、どうぞ若様わかさま生命いのちりとめてくださいませ……。わたくし過失ておち大切だいじ若様わかさまなせてしまっては、ドーあってもこのながらえてられませぬ。
返してくれといいだして、僕が大切だいじにしていた文束を引奪ひったくるように取って行ったのです。それで僕の小説は、どうしても結末のつかぬものになってしまいました
ふみたば (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
「じゃァ、もう一つ、それほど大切だいじにおもってるせがれに何だっていつまで女房をもたせなかったんだ?」
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
あの頸飾りは、お母様がほんとうに大切だいじにしていらっしゃいますの。めったにお使いになることもございませんし、召使たちには絶対触れさせもなさいませんわ。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
どないなった問うた時、ちと知縁のものがあって、その方へ、とばかり言うて、預けた先方さきを話しなはらん、住吉辺の田舎へなと思うたら、大切だいじとこに居るやもの。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大切だいじな黒髪までもおろして恋を遂げようとは、近頃ずんと気に入ったわい。それにつけても許し難きは玄長法師じゃ。先程かばった女スリはいずれへ逃げせたか存ぜぬか
(悦二郎氏にしたって、こんなくだらないひとの手紙なんか大切だいじにとっとくことはないわ!)
キャラコさん:06 ぬすびと (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
養蚕ようさんおも副業ふくぎょうの此地方では、女の子も大切だいじにされる。貧しいうち扶持ふちとりに里子をとるばかりでなく、有福ゆうふくうちでも里子をとり、それなりに貰ってしまうのが少なくない。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
何程なんぼ花婿が放蕩はうたうして、大切だいじな娘が泣きをつても、苦情を
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
私は、私から大切だいじな恋人を奪った奴を憎んだ。初代の冥福めいふくの為にというよりは、私自身の為に恨んだ。腹の底から、そいつの存在を呪った。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「ガヷナーの信用も大切だいじには相違ないが、今帰ったんじゃ此方の問題が全然打ち切りになってしまう。困るよ、特にこの際」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
被告の身にとつては人のい、福々ふく/″\した、朝餐あさめしうまく食べた裁判官に出会でくはすといふ事が大切だいじだが、原告になつてみると、平常いつも不満足たらしい
口をアングリとあけて呆然となったが、やがて震える手でかたわらの大きな信玄袋の口を拡げて、生命いのちよりも大切だいじそうに人形を抱え上げて落し込んだ。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)