多寡たか)” の例文
どんな事情があるか知らないが、多寡たかが若い女のことで、どうでも死ななければならないというほどの深い訳があるのでもあるまい。
半七捕物帳:37 松茸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
二人の交際が、どこまで進んでいるのか知らないが、思い過ごしすることも、多寡たかをくくることも、どちらも同様に危険だと思った。
御覧ごらんのとおりわたくしなどはべつにこれともうしてすぐれた器量きりょう女性おんなでもなく、また修行しゅぎょうったところで、多寡たかれてるのでございます。
しかし、その仕事の多寡たかを計算して、労銀を払い渡すという時になると、与八はいない。いないのではない、姿が見えなくなるのです。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「はははは。あれは、単なる噂にすぎない。寺の裏山などへもぐる盗賊なら、多寡たかの知れた小盗人か辻斬かせぎの牢人者であろう」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
してみれば徳利の徳利たる所以ゆえんはある最小限以上の容積すなわち分量すなわち仕事にあると思わるれども、分量の多寡たかには大差がある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
けだしその船の大小、人員の多寡たか、いまだ知るべからずといえども、動物の属その数億のみならず、あにことごとくこれをするにたえんや。
教門論疑問 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
丹「それなら何も心配は入りません、一箱で一両も二両もする訳のものじゃアございやせん、多寡たかの知れた胡蘿蔔にんじんぐらいを」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
今は大谷石を特等、一等、二等と分ける。「みそ」の多寡たかや質の粗密でそれが決まる。二等品は大ものに当て、一等品は主として小ものに使う。
野州の石屋根 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「まるで由比の正雪みたいだろう——もっとも天下を狙ったわけじゃねえ、多寡たかが女の二の腕だ——どうだ、八。見たか」
君はわしとわしの運命とのあいだに多寡たかが氷ぐらいの邪魔物があるからといって、わしがこの国を去られると思うかね。
と団さんは荷を恐れることおびただしい。団さんの説によると文明の程度は旅行者の荷物の多寡たかによってきまる。日本でも米を持って歩いた時代があった。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
その談話は何かと聞けば、競馬の掛けごとに麻雀賭博マージャンとばく、友人の悪評、出版屋の盛衰と原稿料の多寡たか、その他は女に関する卑猥ひわいきわまる話で持切っている。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
土地に対する人口の多寡たかや、または移住の径路や四隣の民族との関係などによって、民族的特異性の多いものであることが、推測せられねばなるまい。
栄養供給の多寡たかによって、適当に肥痩ひそうせしめるのも一法だが、もっと手っとり早い方法がある。それは現に隆鼻術に行われている、パラフィン注射だ。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
曾根少佐は、それまで多寡たかをくくったような調子で、応対おうたいしていたが、やっと俊亮の鋒先ほこさきを感じたらしく、急にいずまいを直して、口ひげをひねりあげた。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
とにかく、人形の性能は多寡たかの知れたものだよ。歩き、停まり、手を振り、物を握って離す——それだけの事だ。仮令たとえこの室から出たにしても、あの創紋を
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
親兄弟が配給の食膳の一握りの多寡たかを疑い、子は親に隠して食い、親は子の備蓄を盗み、これをしも魂の荒廃、魂の戦争といわずして、何事が戦争であるか。
帝銀事件を論ず (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
いうまでもなく、祝儀しゅうぎ酒手さかて多寡たかではなかった。当時とうじ江戸女えどおんな人気にんき一人ひとり背負せおってるような、笠森かさもりおせんをせたうれしさは、駕籠屋仲間かごやなかまほまれでもあろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
五厘一銭、わら一筋でも。多寡たかいとわぬ願人坊主じゃ。頭たたいて頂きまする……チャカポコチャカポコ……
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私がこの三鷹に引越して来て、まだ四日しか経っていないのだから何も知るまいと、多寡たかをくくって出鱈目でたらめを言っているのに違いない。服装からしていい加減だ。
善蔵を思う (新字新仮名) / 太宰治(著)
それとも多寡たかくくってそのままにしているのだろうか。それはこういう動物の図々しいところでもある。
交尾 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
その技芸から見ても、多寡たかが女と侮ると大違い、実際割引なしに感心させられる技芸の持主も多かった。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
軍隊の後方における略奪者の多寡たかはその司令官の苛酷かこくに反比例することは、人の見たところである。オーシュおよびマルソー両将軍には少しも遅留兵がなかった。
玉川ゴルフ場から十分ぐらいの半径はんけいの中なら、一軒一軒当っていっても多寡たかが知れているではないか。どうして分らぬのか、分らんでいる方がむついと思うが……
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
古藤なんぞに自分の秘密がなんであばかれてたまるものかと多寡たかをくくりつつも、その物軟ものやわらかながらどんどん人の心の中にはいり込もうとするような目つきにあうと
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
縦しや姿は見えずとも人通りのない夜の最う一時過ぎだから人違いなどする気遣いはない心の底で多寡たかを括って居ると、例の安煙草が何処からか臭って来る、ア、是だ
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
またその梅を折る人も物を盗むは悪い事と知りながらそれを金にえようというわけでもなく、多寡たかが梅の花の一枝位だから折ってやれと、ひそかに折り取ろうとしていると
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
鶏卵と、玉子と、字にかくとおんなじというめくらだけれど、おさらいの看板ぐらいは形でわかりますからね、叱られやしないと多寡たかをくくって、ふらふらと入って来ましたがね。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひとえ定役ていえき多寡たかを以て賞罰の目安めやすとなせしふうなれば、囚徒は何日いつまで入獄せしとて改化遷善せんぜんの道におもむかんこと思いもよらず、悪しき者は益〻悪に陥りて、専心取締りの甘心かんしんを迎え
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
只日に一度、弁当を提げて漁場へ運んで来る妻女の姿が氷上に現れる。氷を滑り鴨を追つて遊ぶ子どもの群れが、漁猟の多寡たかを見るために、ここの「やつか」へ立ち寄ることもある。
諏訪湖畔冬の生活 (新字旧仮名) / 島木赤彦(著)
田舎廻いなかまわりの政治家などが、いくら語呂の論理をふり廻しても、その害は多寡たかがしれている。しかし責任の地位にある人が、こういう語呂の論理に耳を傾けたら、その影響は恐ろしい。
語呂の論理 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
よく世間の人は何処どこの牛肉屋がやすいとか高いとかいって肉の分量ばかりかれこれ申しますがあれこそ料理の趣味がない証拠で分量の多寡たかよりも品質の良否よしあしを選ばなければなりません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
すると豊島は煙草入れの中に入っている小銭を与えながら、乞食の仲間の貰いの様子、家々の屑の捨て方の塩梅あんばい、盛り場の食物店の仕込みの多寡たか——そんなことを小さい声で訊ねます。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しかし知行の多寡たかはもちろん、高家筆頭なぞという地位も表面の格式だけで、かつては百二十万石の雄藩、謙信入道の直系である東北の雄藩上杉と、九州の名門島津をうしろだてとして
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
われも久しくためさねば、少しは腕も鈍りたらんが。多寡たかの知れたる犬一匹、われ一矢にて射て取らんに、何の難き事かあらん。さらば先づ弓矢を作りて、明日かれの朱目が許より、帰る処を
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
「そうじゃァねえか、なぜって? ——多寡たかが役者のかゝァじゃァねえか。」
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
就学者の多寡たかをかぞえ、人口と就学者との割合を比例し、または諸学校の地位・履歴、その資本の出処・保存の方法を具申せしめ、時としては吏人を地方に派出して諸件を監督せしむる等
学問の独立 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
朝帰りの客を当て込んで味噌汁、煮豆、漬物つけもの、ご飯と都合四品で十八銭、細かい商売だと多寡たかをくくっていたところ、ビールなどをとる客もいて、結構商売になったから、少々眠さも我慢出来た。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
だによって労力の高下こうげでは報酬の多寡たかはきまらない。金銭の分配は支配されておらん。したがって金のあるものが高尚な労力をしたとは限らない。換言すれば金があるから人間が高尚だとは云えない。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三人の鮨詰すしづめで済ませるものと多寡たかをくくっていたらしいのだ。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
多寡たかは入用にまかすべし。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
今まではさのみ珍らしくもない町家の娘と奉公人の色事と多寡たかをくくっていた半七は、この重大事件にぶつかって少し面喰らった。
半七捕物帳:02 石灯籠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
多寡たかの知れた女ひとりに、そう立ち騒ぐこともあるまい。誰よりもよく八雲の顔を見知っている此方が、一鞭ひとむちてて捕えてくる』
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こんなものにおどろいて消えてなくなるような大蛇なら、どうせ多寡たかが知れてると思いましてねえ、それで、つい笑いだしたようなわけ。
顎十郎捕物帳:15 日高川 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
『唯信抄』にいう、「仏いかばかりの力ましますと知りてか、罪悪の身なれば救われ難しと思うべき」と。仏の悲願は私たちの罪の多寡たかには左右されない。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
人間の値打が金でまるものでないという理窟は万々承知していても、差当りサラリーの多寡たかが尺度になる。
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
もちろん組合の費用は全部、費消つかっても構わない覚悟はきめていた訳だがそれでも多寡たかは知れている。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
多寡たかが江戸までの路用、——今の半十郎には大金でも、わずかに十三両二分しか入って居りませんが、振り分けの荷の中には、身にも世にも、命にも、面目にも替えがた
江戸の火術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
不思議な侏儒こびとルキーンの出現は、それまで多寡たかくくっていた、法水の鐘声に対する観念を一変させた。そして彼は、凄惨な雰囲気の中に、一歩踏み入れたような気がした。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)