埃及エジプト)” の例文
あ! 何だいあれあ! え! 埃及エジプトの女だって? 鼻柱へ輪のついた棒みたいな物を立てて、黒いヴェイルを垂らしてるじゃないか。
レーンの『近世の埃及エジプト人』十八章には著者カイロにあった内、夫も子も友もない女が一犬を子のごとく愛したが、犬死んで愁歎の極
路上のどんな小さな石粒も一つ一つ影を持っていて、見ていると、それがみな埃及エジプトのピラミッドのような巨大コロッサールな悲しみを浮かべている。
冬の日 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
「鶯張は今の人が何程いくら工夫しても出来ないというが、建築家の意見は何うだね? 矢張り埃及エジプト木乃伊ミイラ見たいに堙滅いんめつした技術かしら?」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
きっと見上げる上から兄は分ったかとやはり見下みおろしている。何事とも知らず「埃及エジプト御代みよしろし召す人の最後ぞ、かくありてこそ」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
体の妙に細い角々しい曲線の手先もうでも太さの同じな、かおのほね立った動く時に埃及エジプト模様の中の人間のようになる人がある。
芽生 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
煙草たばこの世に行はれしは、亜米利加アメリカ発見以後の事なり。埃及エジプト亜剌比亜アラビア羅馬ロオマなどにも、喫煙の俗ありしと云ふは、青盲者流せいまうしやりうのひがごとのみ。
埃及は支那の十分の一にも及ばぬほどの大きさの処で、且つ英仏いずれとも国境が近い。この両国がついに埃及エジプトの破産に原因して争った。
三たび東方の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
地下の探検は自然の毒瓦斯ガスでやられることがある、埃及エジプトのツタンカーメン王の墓の発掘で大勢死んだのも、毒瓦斯ガスのせいらしい
水中の宮殿 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
後にアラビア人が埃及エジプトを占領するに及んで、金属の染色だけでは満足せず、卑金を黄金に変化せしめる術を錬金術と呼ぶに至ったのである。
錬金詐欺 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
客 全篇、森厳なレクヰエムだ、古代の埃及エジプトびとの数種の遺文に与えられた「死者の書」という題名が、ここにも実にいきいきとしている。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
スフィンクスは埃及エジプトの万有神教から生れたものだけに、人間の鼻の表現の呪い方も森羅万象式で種々雑多に分かれております。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
古代埃及エジプトの彫像は怪奇を極めているが、超現実的ではない、いかなる怪奇幻怪なるものの裏にも、必ずや厳密なる写実がある。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「筑前、筑前。そんな所をいくら見ていても日本はないぞ。その辺りは、羅馬ローマ西班牙スペイン、また、埃及エジプトなどという国々のいておる内海うちうみ——」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
斯の如きものは即ちイスラヱルの子孫が埃及エジプトにありてなしたる主に対するつとめなり、この事に就きては吾人之を出埃及記しゆつエジプトきしるさるゝを読めり。
主のつとめ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
これは猶太民族が埃及エジプトを出た遠い昔を記念するための年中行事の一つとして、教授の家庭に行はれてゐたことであるとか。
桃の雫 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
遥かなる過去の一時期に西は埃及エジプトから東は米大陸に至るまでの広汎こうはんな地域を蔽うた共通の「古代文明の存在」を仮定する。
「これらの絵と字を書いた完全なる埃及エジプト伝来の紙草パピュルスを創り上げ、しかも……」と博士は傍らの木函のふたをどんと叩かれた。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
其他エール大学のウルシー博士が日本の行動を是認したとか埃及エジプトなるマホメツト教の新聞が我国の態度を賞讃したとか
およそ近世の文学に現れた荒廃の詩情をあじわおうとしたら埃及エジプト伊太利イタリーおもむかずとも現在の東京を歩むほど無残にもいたましいおもいをさせる処はあるまい。
埃及エジプトのカタコンブから掘出した死蝋しろうであるのか、西蔵チベット洞窟どうくつから運び出した乾酪かんらく屍体したいであるのか、永くいのちの息吹きを絶った一つの物質である。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
官衙くわんがの掲示も商店の看板も英仏埃及エジプトの三語で書かれて居る。清国の革命騒ぎも此処ここでは最早もはや問題に成らない代りに伊土の戦争が適切な問題に成つて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
埃及エジプトの大占星家ネクタネブスは、毎年ニイルの氾濫を告げる双魚座ピスケスを、〓でなしに〓という記号で現わしている。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
博士は暫時しばらく立っていた。駱駝らくだを薦める埃及エジプト人の、うるさい呼声を聞き流して、暫時そこに立っていた。そして全く日が暮れた時、彼は旅館へ引き返えした。
木乃伊の耳飾 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それから間もなくフランスへ帰ったものと見てよいから巴里の旧廃兵院デ・ザンウァリートの大円蓋の下、血紅色の埃及エジプト大理石の墓塋におさめられているナポレオンの心臓は
フランス伯N・B (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
古い文明の歴史は、何も支那だけが持っているとは限らない。印度はどうだ、埃及エジプトはどうだ。そうしてその国の現状はどうだ。支那は慄然りつぜんとすべきである。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
古のメンフィスの民が、荘厳なる埃及エジプトの天地を、ピラミッドとスフィンクスとで飾ったように、清吉は清浄な人間の皮膚を、自分の恋でいろどろうとするのであった。
刺青 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
埃及エジプト人が永生の象徴として好んで甲虫スカラベイのお守を彫ったように、古代ギリシャ人は美と幸福と平和の象徴として好んでセミの小彫刻を作って装身具などの装飾にした。
蝉の美と造型 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
家並の上にはまた家並がつづき、そして彼等の目ざす塔のように特別に高い何層楼という建物は、今金色の日没をうけて埃及エジプトの建築物のように高く上空に輝いていた。
横浜外人居留地の近くに生れ、又、其処そこで成育した事が何よりの理由となって、私は支那人、印度人、時には埃及エジプト人などとさえ、深い友誼を取り交した経験を持っている。
ラ氏の笛 (新字新仮名) / 松永延造(著)
そしてシガレット・ケースから、高価な埃及エジプトの紙巻煙草を取出して、卓上の灰皿に添えられた燐寸マッチを手際よくると、青味がかった煙を、支配人の鼻先へフッと吹出した。
二銭銅貨 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
玩具及び人形は単に一時の娯楽品や、好奇心を満足せしむるをってやむものでない事は、人類最古の文明国たりし埃及エジプト時代にすでに見事なものが存在したのでも知られる。
土俗玩具の話 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
ええええ馬鹿め! おれは馬鹿だったが、此不幸なる埃及エジプトの百姓(埃及軍エジプトぐんの服を着けておったが)
行儀よく五体が、湯槽の中に蔵められたところは、そぞろに古代埃及エジプト木乃伊みいらを思い起させる。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
先年日本に来られた英国のセイス老教授から自分は聴いた。かつて埃及エジプトの古跡発掘において、中期王朝の一書役の手録が出てきた。今からざっと四千年前とかのものである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
すなわ使つかいを発して兵を徴し、百八十万を得、まさに発せんとしたりと。西暦千三百九十八年は、タメルラン西部波斯ペルシヤを征したりしが、そのふゆ明の太祖及び埃及エジプト王の死を知りたりとなり
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
埃及エジプトの薄浮彫に似ているようでもあれば、生理学の懸図の姿勢に似ているようでもあり、その平凡な謎の如き姿勢が、妙に暗示的な、無気味な、神秘な感じをもって迫るのだった。
凍るアラベスク (新字新仮名) / 妹尾アキ夫(著)
英領埃及エジプトにおいてしかり、英領印度においてしかり、英領アフリカ植民地においてもまた同様であった。英国のこれまで他国を奪いとるときに用いた手段は、いつもこれであった。
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
(船の進むことゆっくりと歩みにも似て、海峡のせまいことはまるで川のようである。埃及エジプトの山々はいずこにあるのであろうか、平らな砂原がはるかに広がっているのをみるだけである。)
南半球五万哩 (新字新仮名) / 井上円了(著)
埃及エジプトに進めば、これまた本国羅馬に優るとも劣らぬ文化があったために、羅馬人はこれらの国を治むるに到底本国と同じ筆法を以てするの不可能なるを察し、始から特別の行政機関を設けて
東西相触れて (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
恐らく三千年来の謎であった埃及エジプトのスフィンクスが、其体内に埋蔵していた殿堂や、其頭上に穿たれた大きな孔の何であるかを解かれたのを最後として、世に謎の種は尽きたのではあるまいか。
秩父の奥山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
埃及エジプトと、羅馬ローマと、そうしてドラヴィデア王国の星たちが美々しく称神の舞踊をおどりつづけ、塔の根もとには向日葵ひまわり日輪にちりんへ話しかけ、諸国から遊学に来た大学者のむれが天文の書物を背負い
ヤトラカン・サミ博士の椅子 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
埃及エジプトのピラミッドを登るやうなものだ!」と彼は怒つたやうに云つた。
その日の新聞を開いたときの匂い、初めて見る若い女性に遇うたときの匂い、吸物碗の蓋をとったときの匂い、埃及エジプト煙草の口を切ったときの匂い、親友から来た手紙の封を破ったときの匂い。……
夜長ノート (新字新仮名) / 種田山頭火(著)
その南のかたに高き石の塔あるは埃及エジプト尖塔ピラミッドにならひて造れりと覚ゆ。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
然れども改正案の定むるところのものは埃及エジプトのごとき立合裁判とは全くの別物にして任免懲戒の権まったくわが手にあれば格別我国の体面を損ずることなくしてまた干渉を蒙るの恐あることなし。
風蕭々 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
否、吾人はこの旨味ある新食品の愈々盛んに我国に輸入せられん事を希望してまざるものなり。古来英国の貴族及び旅人りよじん埃及エジプトに於て鱷を捕へて食する事我国人の熊を捕へて食ふと異る事なし。
蘇士スエズから上陸して蒸気車に乗て、埃及エジプトのカイロ府につい二晩ふたばんばかり泊り、それから地中海に出て、其処そこから又船に乗て仏蘭西フランス馬塞耳マルセイユ、ソコデ蒸汽車に乗て里昂リオンに一泊、巴里パリに着て滞在およそ二十日
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
(出埃及エジプト二十章三、四、五、申命記十章二十、馬太マタイ伝四章十)
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
かの煙濃く、かをりよき埃及エジプト煙草ふかしつつ
呼子と口笛 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)