とい)” の例文
安藤謹んで曰く、今日蘆原あしはらを下人二三人召連通めしつれとおり候処、蘆原より敵か味方かととい、乗掛見れば、さむらい一人床机に掛り、下人四五人ならび居たり。
大阪夏之陣 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
お君は八五郎のといには答えず、廊下にヘタヘタと崩折くずおれてしまいました。内から応じたうめき声も、ついには絶えてしまった様子。
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
聴水は可笑おかしさをこらえて、「あわただし何事ぞや。おもての色も常ならぬに……物にや追はれ給ひたる」ト、といかくれば。黒衣は初めて太息といき
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
義連は、大勢のといに答えたり、近年の平家一門の横暴ぶりなどを、何かと例を挙げてはなした後で、こういう注意を一同に与えた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黒板につるした大きな黒い星座の図の、上から下へ白くけぶった銀河帯のようなところをしながら、みんなにといをかけました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
いつも宿り客の内幕を遠慮も無く話しちらすに引代ひきかえて、余計な事をおといなさるなと厳しく余を遣込やりこめたれば余が不審は是よりしてかえって、益々つの
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「そうよ」こものといに応じて一人の少年が気競きおって答えた。「うまく行きやあがった。風はねえけれど十軒は大丈夫だぜ」
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
なぜ生きていなければいけないのか、そのといに思い悩んで居るうちは、私たち、朝の光を見ることが、出来ませぬ。
古典風 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「どんな話をです?」と、氏のとい呑込のみこめないので訊き返したが、その時っと胸に浮んだのは沼南外遊中からの夫人のかんばしからぬ噂であった。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
と云うといでございました。所が有るか無いかと外国人に尋ねられて、わたくしも当惑して、早速に答も出来ませんから
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
尊も不思議に思っていたから神仙にうかごうた。神仙は尊のといに答えて、「近比ちかごろ人間界から来た新仙しんせんがあって、まだ音楽に熟していないのが混っているからである」
神仙河野久 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
編笠あみがさかぶって白い手甲てっこう脚袢きゃはんを着けた月琴弾げっきんひきの若い女の休んでいる汚ない茶店の婆さんに同じといをかけたら、婆さんは案外にもすぐそこだと容易たやすく教えてくれたので
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
であるから自分は馬を書きながらも志村は何を書いているかというといを常にいだいていたのである。
画の悲み (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「——赤外線写真撮影用意!」湯河原中佐は、参謀のといに答えないで、通信兵に、命令を発した。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
るとき使節がアムストルダムにいって地方の紳士紳商に面会、四方八方よもやまの話のついでに、使節のとい
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
院長いんちょうおわりといには赤面せきめんして。『いや、あれは病人びょうにんです、しかし面白おもしろ若者わかもので。』とこたえた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
気の弱いわたしはそこまで立入ったといは心がゆるさなかったので、その真偽は聞きもらしたが、思いがけない面白い——面白いといってはすまない、その人にとれば、いままで
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
この時、ねむっていない人が一人でもあるとすれば、これは、私はじめ待構えたといだった。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と女ははなやかなる声の優しくまずとい懸けたり。されど仙太は応答こたえもなさで、首をたれたるまま、時々思い出したらんように苫屋の方を振返りつつ、あてもなく真砂まさごの間をざくざくとふみ行きぬ。
片男波 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
更にといかえて、「私の拝借しているアノお座敷は中々立派ですね、お庭もお広いですね、実は昨夜、夜半よなかに眼が醒めたのでアノ窓をあけて庭を眺めてましたが、夜の景色は又格別ですね」
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
というこの一語でもって自分のといに答えたこの児の気の動き方というものは、何という美しさであろう、われ恥かしい事だと、愕然として自分はおおいに驚いて、大鉄鎚だいてっついで打たれたような気がした。
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
広子はちょっと苛立いらだたしさを感じた。のみならず取り澄ました妹の態度も芝居ではないかと言う猜疑さいぎさえ生じた。すると辰子はもてあそんでいた羽織のひもを投げるようにするなり、突然こう言うといを発した。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
おに七のといは、まったく千きちにはおもいがけないことであった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
どうぞお胸におといになって、ほしいままに受けられた
セララバアドは小さなかわの水入れをかたからつるして首をれてみんなのといやアラムハラドの答をききながらいちばんあとから少しわらってついて来ました。
土佐守は御老中が突然だしぬけといに、はて奇妙なお尋ねも有るものかなと暫く考えて居りましたが、もとより奉行でも勤めるくらいのお方でありますから、それと心付きまして
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
阿駒は苦しき息の下より、「いやとよ。猫にも追はれず、鼬にも襲はれず、わらわ自らかく成りはべり」「さは何故の生害しょうがいぞ」「仔細ぞあらん聞かまほし」ト、また連忙いそがわしくといかくれば。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
健三が急に話を途切らしたので、細君はしばらくを置いたあとでこんなといを掛けた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
事件の鍵とする「二つのとい」は、まだ、花世の口から語られてないのであるから。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
少年は三たびといを重ねた。するといちばん年かさの子供がやっと口を開いて
三浦右衛門の最後 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
安行のといに対して、母子おやこは即坐に何とも答えなかった。お政は霎時しばらく考えて
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「さ、さ。」と老人は膝を刻んで、あたかもこのといを待構えたように
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その時は明治四十三年の八月ごろのことで、長崎への長距離電話は無論なかった。主人は気が注いて電話局へといあわしてみた。はたして長距離の電話もなければ、今電話をつないだこともないと云った。
長崎の電話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
お駒のといが不意だったので、三之丞も少しギョッとしました。
黄金を浴びる女 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
或時あるとき兄が私にといを掛けて
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
大王のといをみんなが口々に相伝あいつたえてっているのをきいて
手紙 二 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
平次にとっては、この後のといの方が大事だったのです。
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
ふたつのとい
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)