そむ)” の例文
両家とも欺波しば家の家老である。応仁の乱の時、斯波家も両方に分れたとき、朝倉は宗家の義廉にそむいた治郎大輔たいふ義敏にくっついた。
姉川合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
どうしてこんなお方にそむいたろうかと、身のほどがそら怖ろしくなるのだった。慚愧ざんきにうたれて、詫び入ることばも見つからなかった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
インドチャイニース族の集合であるところの熊襲くまそが大和朝廷にしばしばそむいたのは新羅が背後から使嗾するのであると観破され
日本上古の硬外交 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
左様さよう、近頃はトンと聞かぬが、天正十八年(一五九〇)に一族九戸政実くのへまさざねそむいた時、南部の福岡城で用いたということが伝わっている」
私たちの為すべきつとめは、ただ歴史を繰り返すことではありません。まして歴史にそむいたり歴史を粗末に扱ったりすることではありません。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
魯の哀公あいこうが西のかた大野たいやかりして麒麟きりんた頃、子路は一時衛から魯に帰っていた。その時小邾しょうちゅの大夫・えきという者が国にそむき魯に来奔した。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
草薙くさなぎつるぎ景行天皇けいこうてんのう御時おんとき東夷とうい多くそむきて国々騒がしかりければ、天皇、日本武尊やまとたけるのみことつかわして之を討たしめ給う。みこと駿河するがの国に到りし時……
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それでは、これが短歌たんかかといふと、第一だいゝち片歌かたうた約束やくそくそむきます。片歌かたうたは、片歌かたうたどうしあはせるもので、けっして、短歌たんか一組ひとくみにはなりません。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
これ剣道の師の命令にそむき、女侠客の為に抑留されて、心ならずも堕落していた身から出たさび。斯う成るのも自業自得と、悔悟の念が犇々と迫った。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
景勝の代にそむいて三年籠城して討ち死にの時もこの馬に乗ったという(『常山紀談』)。昨年予の方へ紺紫色の雀極めておとなしきを持ち来った人あり。
……現在の妻なり夫なりにそむくのは、つまり不実な人間で、やがては国にそむくことにも、なりかねないんだよ。
その上、幸か不幸か、妙子自身が、どんなことがあっても親の言いつけにはそむき得ない様な、昔風の娘だった。
恐ろしき錯誤 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
よりすぐれたものとなるためには、自分らから子供をそむかせたい——それくらいのことは考えない私でもない。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
僕も一時は親兄弟にそむいて教義を捨てようかと本当に煩悶した者です。僕は此の宗門に深い疑ひと反感を持つてゐました。殊に肉体に対しての解釈に於て。
十 第一の手紙にいはく、「社会主義を捨てん、父にそむかん乎、どうしたものでせう?」更に第二の手紙にいはく、「原稿至急願上げ候。」而して第三の手紙にいはく
病中雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しかも自らそれにそむかないわけにいかなかつた苦しさを訴えるものだつた、と、しみじみ語つたことである。
光は影を (新字新仮名) / 岸田国士(著)
すなは巴里パリ叫喊きようかん地獄の詩人として胸奥の悲を述べ、人にそむき世に抗する数奇の放浪児が為に、大声を仮したり。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
自分に親しい恋人や子に対しては絶対服従をもいとわぬ位に犠牲的な愛情をささげながら、自分にそむいて少しでも厚意を持たない者に対してはたちまち冷酷な態度を以て対し
婦人改造と高等教育 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
我等は今十八日深夜二時、貴家書斎にて黄色金剛石イエロオダイアモンド頸飾を受取らんとす。貴下は書斎の卓子テーブルの上に、頸飾を出しておかるべし、この命令にそむく時は一家残らす惨殺すべし。
黒襟飾組の魔手 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その眼がいつの間にか自分に馴れなくてそむこうとしているのを——かれは恐ろしげにながめた。
みずうみ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
夫にそむいて俺の側に居る。不貞の妻、姦通者! こういう永遠の烙印を其の額にやきつけられながら、永久に俺と共に地獄に苦しまねばならない。おお、何たる喜ばしさであろう。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
「ありがとうございます。私にとっては、それに越したことありません。けれど」と私は、この伊藤のことを話して「そうすると伊藤さんにそむくこととなるのが心苦しいんで……」
これにそむく事は世間から睨まれる事でこれは不完全な社会でも馬鹿々々しい世間でも、とにかく或交渉を持たなければならない者にとつてはこれは大きな苦痛でなくてはなりません。
男性に対する主張と要求 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
何程の事かあらん、漢の七国を削るや、七国そむきたれども、間も無く平定したり、六師一たび臨まば、たれく之を支えん、もとより大小の勢、順逆の理、おのずから然るもの有るなり
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
阿部一族はかみそむいて籠城めいたことをしているから、男同志は交通することが出来ない。しかるに最初からの行きがかりを知っていてみれば、一族のものを悪人として憎むことは出来ない。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
主人の主人にそむかせ、その主人の子供を自分が殺して主家を乗とり、公方くぼうを殺し、目の上のコブを一つずつ取って、とうとう天下の執政にとぐろをまいて納ったが、このやり方では味方がない
織田信長 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
プロレタリア文学が、文壇的な大衆とは可成りにかけ放れた、狭隘な読者範囲に止っていて、その域を充分脱していないということは、プロレタリア文学の本来の目的にそむくものであろうと思う。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
この手紙を素直に慧鶴に渡してうどんか煎餅せんべいでもおごらせる工夫をするのが頂上だったろうけれど慧鶴に憎しみを持出した此頃の彼等は、彼等にそむいた同僚に一泡吹かす手段にこの手紙を利用した。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
太閤ノ時ニあたリ、其ノ天下ニ布列スル者、おほむネ希世ノ雄也、而シテことごとク其ノ用ヲ為シテ敢ヘテそむカシメザルハ必ズ術有ラン、いはク其意ニあたル也、曰ク其意ノ外ニ出ヅル也——程度で尽きるだろう。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
たとい高等地獄とはいいながらお宮の義理人情にそむいた仕方といい
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
父の意見で最も健実な勤め口だという裁判事務を見習うために県の首都まちへ送られたが、裁判所へは行かずに父の意見にそむいて軍隊へ入ってしまい、勝手に父のもとへ軍服を買う金を請求してよこした。
白粉おしろいも買へぬくらしにそむき出し
鶴彬全川柳 (新字旧仮名) / 鶴彬(著)
何ものかわれにそむきぬ
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
「しかし、ちんには、司馬懿しばいそむかれるような覚えがない。そも、彼は何を怨んで魏に弓を引く心になったと卿らは考えるのか」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「左樣、近頃はトンと聞かぬが、天正十八年に一族九戸政實がそむいた時、南部の福岡城で用ひたといふことが傳はつて居る」
信長は荒木村重むらしげとの初対面に、刀で餅を刺して、壮士ならこれをくらへ、と云つて突き出したが、後年そむかれてゐる。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
何人も自然にそむき人情に逆らって、器を作ることはできない。自らを欺いたとて、器の前には偽ることができぬ。都会人にどうして農民の工藝ができよう。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
日本武尊やまとたけるのみことの軍におられた橘媛たちばなひめなどは、妻としての従軍と考えられなくもない。崇神天皇の時にそむいた建埴安彦タケハニヤスヒコの妻安田アダ媛は、夫を助けて、一方の軍勢を指揮した。
最古日本の女性生活の根柢 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
「どうせ天国にそむいたうえは地獄の鬼となれ。」彼はそういう捨てばちな気持ちになったのであった。
しかるに馬が物を食う時鼻革を脱ぎやらず、食事自由ならざらしむるを上帝にそむく大罪とすとあり。
「最所治部めがそむいたそうな。毛利元就もとなりかんを通じ俺に鋒先を向けるそうな」
郷介法師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
河内かわち高屋たかやそむいているものがあるので、それに対して摂州衆、大和衆、それから前に与一に徒党したが降参したのでゆるしてやった赤沢宗益の弟福王寺喜島ふくおうじきじま源左衛門和田源四郎を差向けてある。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
之も皆師にそむいた罰だ。堕落した為だ。ういう風に悔いながら
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
又五郎は二十三歳のとき、師の信近にそむいて狩野家を出た。
おれの女房 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「それよりも、一山同鐘いっさんどうしょうの礼を欠いては、当院だけが、中堂の令にそむく意志を示すわけになる。台教興隆のよろこびの鐘だ。——誰か、見てこい」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私たちは大切な伝統を粗末に扱うようなことをしてはなりません。それは故国にそむくようなものであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「どうせ天国にそむいた上は地獄の鬼となれ。」彼はさう云ふ捨鉢な気持ちになつたのであつた。
厳島の宮尾城は、つい此の頃陶にそむいて、元就に降参した己斐こひ豊後守、新里にいざと宮内少輔しょうゆう二人を大将にして守らせていた。陶から考えれば、肉をくらっても飽足らない連中である。
厳島合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
智馬死すると聞いてたちまちそむき去ったとはうけられがたいようだが、前達せんだって『太陽』へ出した「戦争に使われた動物」てふという拙文中にも説いた通り、昔は何地いずくの人も迷信重畳しおり
「究極において悲鳴すべからず。これにそむくものは九指を折らる」
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)