と振袖を顔に当て、潜々さめ/″\と泣く様子は、美しくもあり又物凄ものすごくもなるから、新三郎は何も云わず、南無阿弥陀仏なむあみだぶつ、南無阿弥陀仏。
何んと恐しかろう。捻平さん、かくまで身上しんしょうを思うてくれる婆どのに対しても、無駄な祝儀は出せませんな。ああ、南無阿弥陀仏なむあみだぶつ
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
親鸞 (しずかに)南無阿弥陀仏なむあみだぶつだよ。(目をつむる)やはり祈るほかはないのだよ、おゝ仏さま、私があの女を傷つけませんように。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「間違いなく、左脚がちょん切れている。当人は虫の息だ。なまぐさい血の海。——あと二三十分の寿命じゅみょうだろう。南無阿弥陀仏なむあみだぶつ
彼女の実家は仏教の篤信者とくしんじゃで、彼女の伯母おばなぞは南無阿弥陀仏なむあみだぶつとなえつゝ安らかな大往生だいおうじょうげた。彼女にも其血が流れて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「は、は、は、は。うんのわるい弱虫の忍剣め、つぎの世には拙僧せっそうのような不死身ふじみを持って生まれかわってこい。かつ! 南無阿弥陀仏なむあみだぶつッ——」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「伝吉はそののち家富み栄え、楽しい晩年を送りました。積善せきぜんの家に余慶よけいありとは誠にこの事でありましょう。南無阿弥陀仏なむあみだぶつ南無阿弥陀仏なむあみだぶつ。」
伝吉の敵打ち (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
与兵衛はかう言つた後で、思はずも南無阿弥陀仏なむあみだぶつ々々々々々々と言ひました。そして川原に立竦たちすくんだまゝ、ぢつとその樫の木をながめて居ました。
山さち川さち (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
なににても目に物の入りたるときは、目をふさぎ「南無阿弥陀仏なむあみだぶつ」と三度唱え、「つ」をのむべし。出ずること奇妙なり。
妖怪学 (新字新仮名) / 井上円了(著)
南無阿弥陀仏なむあみだぶつと唱えて、心から頭をさげた。深い仏壇の奥の方から大旦那がこちらを見ているような気がしたのである。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
すかして見ると、三茎みくきほどの長い髪が、ものうげに揺れかかっている。見つかってはと云わぬばかりに、濁った水が底の方から隠しに来る。南無阿弥陀仏なむあみだぶつ
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いつも湧き上って底から砂を吹いていますが、人がその側に近づいて南無阿弥陀仏なむあみだぶつを唱えて手を打てば、暫くの間は湧き上ることがむというのです。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
竿はもとよりそこにあったが、客は竿を取出して、南無阿弥陀仏なむあみだぶつ、南無阿弥陀仏と言って海へかえしてしまった。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
師匠は何んであるかと、その物を見ると、それらの紙片は短冊たんざくなりに切った長さ三寸巾六、七分位の薄様美濃みのに一枚々々南無阿弥陀仏なむあみだぶつ御名号おんみょうごうが書いてある。
それ故この絵附をまた念仏にたとえてもよいでありましょう。念仏にも色々ありましょうが、誰も知るのは「南無阿弥陀仏なむあみだぶつ」の六字の名号みょうごうとなえることであります。
益子の絵土瓶 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
凡夫の妄執を晴らすは念仏にくは無し 南無阿弥陀なむあみだ 南無阿弥陀仏なむあみだぶつ 南無阿弥陀 南無阿弥陀仏/\
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
七兵衛は棒の先で砂場へ穴を掘って、足の先で腕を蹴込けこんで、砂をかぶせて、南無阿弥陀仏なむあみだぶつをいう。
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかもその地獄から解脱するには、寂滅為楽じゃくめついらく涅槃ねはんに入るより仕方がないのだ。南無阿弥陀仏なむあみだぶつ、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏と、何遍唱えたところでピリヨードがない。
老年と人生 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
基督キリスト教を信ぜぬ者には神の救ひの手は届かない。仏教を信ぜぬ者は南無阿弥陀仏なむあみだぶつを繰返して日を暮らすことも出来ない。あるいは画本を見て苦痛をまぎらかしたこともある。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「今年は、めた水にたたとしだのう、こないだも工女が二人河へはまって死んだというのに、また、こんなことがある」「南無阿弥陀仏なむあみだぶつ。南無阿弥陀仏」「オイ何だい、情死しんじゅうかね」
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
南無阿弥陀仏なむあみだぶつ、南無阿弥陀仏、南無なむ……阿弥陀あみだ……南無阿弥なむあみ…………ぶつ南無なむ……」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それでも、左膳の濡れ燕が、また一人ズンと斬りさげたりすると、いっせいに顔をひっこめて……桑原、桑原!——南無阿弥陀仏なむあみだぶつ——こわいもの見たさで、いつまでも立ち去らない。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
遠いむかしに聞いた南無阿弥陀仏なむあみだぶつの声さえどこからか流れて来るように思われた。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
なほ/\愚僧実家の儀に付きては、往年三縁山さんえんざん学寮出奔このかた、何十年音信いんしん不通に相なり候間、これまた別簡一封いっぷう認め置申候也。以上。南無阿弥陀仏なむあみだぶつ南無阿弥陀仏。慶応 年 月 日。
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
愈々いよ/\しづまつしやつたゞ、南無阿弥陀仏なむあみだぶつ。』
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
南無阿弥陀仏なむあみだぶつ——」
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
南無阿弥陀仏なむあみだぶつの声ひとしきり。やがてやむ。一瞬間沈黙。平和なヒムリッシュな音楽。親鸞の魂の天に返ったことを示すため。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「だめだ。もうあのおそろしい水は、第二発電所へぶつかって、おしつぶしているだろう。南無阿弥陀仏なむあみだぶつだ。もっと下へ電話で危険をしらせろ」
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「はい、はい。それはどうも、何ともはや、勿体もったいもない、お難有ありがとう存じます。ああ、南無阿弥陀仏なむあみだぶつ南無阿弥陀仏なむあみだぶつ。」
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
で、鈴ヶ森へく罪人ならば南無妙法蓮華経なむみょうほうれんげきょう、また小塚原へ往く罪人ならば牢内の者が異口同音いくどうおん南無阿弥陀仏なむあみだぶつとなえて見送ったそうでございます。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
千代子は半紙と筆とすずりとを持って廻って、南無阿弥陀仏なむあみだぶつという六字を誰にも一枚ずつ書かした。「いっさんも書いて上げて下さい」と云って、須永すながの前へ来た。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
南無阿弥陀仏なむあみだぶつ、南無阿弥陀仏、ナア、一体どういうのだろう。なんにしても岡釣おかづりの人には違いねえな。」
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
農民はむつかしい経文はわからぬので、こういう夜の祭の集まりにも、ただ南無阿弥陀仏なむあみだぶつを唱えていた。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ゆくては、本願の彼岸ひがん、波も打て、風もあたれ、ただ真澄ますみ碧空あおぞらへわれらの道はひとすじぞと思うてすすめ、南無阿弥陀仏なむあみだぶつの御名号のほか、ものいう口はなしと思え。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それでも合戦かっせんと云う日には、南無阿弥陀仏なむあみだぶつ大文字だいもんじに書いた紙の羽織はおり素肌すはだまとい、枝つきの竹をものに代え、右手めてに三尺五寸の太刀たちを抜き、左手ゆんでに赤紙のおうぎを開き
おしの (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そうして時々、南無阿弥陀仏なむあみだぶつ、南無阿弥陀仏という声が海嘯つなみのように縁の下まで響いて来ます。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
すなわち、名号とは「南無阿弥陀仏なむあみだぶつ」と題する六字にして、これに対して合掌礼拝するときは、その手より糸の出ずるを見るという。ゆえに、これを糸引きの名号と名づくるなり。
妖怪学 (新字新仮名) / 井上円了(著)
これだって、石の一つぐらいほうれらアね。南無阿弥陀仏なむあみだぶつ南無阿弥陀仏
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
南無阿弥陀仏なむあみだぶつ南無阿弥陀仏なむあみだぶつ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
南無阿弥陀仏なむあみだぶつ南無阿弥陀仏なむあみだぶつ
偏奇館吟草 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
南無阿弥陀仏なむあみだぶつッ……」
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
有りようの処は初鰹はつがつおを戴いてから煮て食うわけには参りませぬじゃ。まことにはや因果でござる。はいはい南無阿弥陀仏なむあみだぶつ
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
室香はお吉にいてより三日目、我子わがこゆだぬるところを得て気も休まり、ここぞ天の恵み、臨終正念しょうねんたがわず、やすらかなる大往生、南無阿弥陀仏なむあみだぶつ嬌喉きょうこうすいはてを送り三重さんじゅう
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「それもそうだな。じゃあ、仕方がない。ここから君たちの冥福めいふくを祈っているよ。南無阿弥陀仏なむあみだぶつ!」
世界の調和はいっそう複雑な微妙なものになる。南無阿弥陀仏なむあみだぶつはいっさいのごうのもつれを解くのだ。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
単に南無阿弥陀仏なむあみだぶつの掛軸が、古くなって何遍となく無細工に修理せられ、まるで白樺の皮を見たようになっているから、それでカバカワというのだと考えていた人もある。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
と二人共にを合せて南無阿弥陀仏なむあみだぶつ/\と唱えながら、友之助がトーンと力に任せてお村の腰を突飛すと、お村はもんどりを打って浪除杭の外へドボーンと飛込んだから
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
太平は死ななければ得られぬ。南無阿弥陀仏なむあみだぶつ南無阿弥陀仏。ありがたいありがたい。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
柩は寝棺ねかんである。のせてある台は三尺ばかりしかない。そばに立つと、眼と鼻の間に、中が見下された。中には、細くきざんだ紙に南無阿弥陀仏なむあみだぶつと書いたのが、雪のようにふりまいてある。
葬儀記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
南無阿弥陀仏なむあみだぶつ!」という無意識のさけびだった。物音に、眼をさまして
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)