其様そんな)” の例文
旧字:其樣
あなたはトルストイの名を其様そんなに軽いやすっぽいものに思ってお出なのでしょう乎。「吾未だ義人ぎじんすえの物乞いあるくを見し事なし」
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
(と笑う。その声も広い沙漠の中で時ならぬ沈黙を破るように聞えた。)其様そんななことで、この沙原の遠方が見えると思われるのか……。
日没の幻影 (新字新仮名) / 小川未明(著)
伊「悔みをいわれちゃ、穴へでも這入へえりてえくれえでげすが、それにしてもお前さんこそ何うして其様そんなお姿におなんなすったんですえ」
お春さんもお歌さんも乃公と口をかない。今日はお歌さんは自分で郵便を出しに行った。それ見ろ直ぐに其様そんなに不便じゃないか。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
『これ、お作や。御辞儀しねえかよ。其様そんな他様ひとさまの前で立つてるもんぢや無えぞよ。奈何どうして吾家うちの児はう行儀が不良わるいだらず——』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
自分は生来うまれつき外出そとでを好まなかった所へ父母が其様そんなであるから、少しは意地にもなって、全く人目に触れない女になってしまおう
私の貞操観 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
しかも敵兵の介抱が急がしいので、其様そんなことあ考へてるひまもなかつたなんぞと、憶面おくめんもなくいふ如きに至つては言語同断ごんごどうだんといはざるを得ん。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「何だエ」と伯母は眼をまるくし「其様そんなえら婦人ひとで、其様そんなとしになるまで、一度もお嫁にならんのかよ——異人てものは妙なことするものだの」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「決して其様そんなことはありません。僕はこれまで彼女あのおんなに会いたいなど夢にも思わなくなりましたが、貴女には会いたいと思っていましたから……」
恋を恋する人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
其留守はどんなに静で好だろう是からネ其様そんな時にはのがさず手紙を遣るから来てお泊りよ、二階が広々として、エお出なネお出よお出なね、お出よう
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
大きくはなるけれど、まだ一向に孩児ねんねえで、垣の根方ねがたに大きな穴を掘って見たり、下駄を片足門外もんそとくわえ出したり、其様そんな悪戯いたずらばかりして喜んでいる。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
『阿母さん、昨日きのふ校長さんが君んとこ阿父おとうさんは京のまちで西洋のくすりや酒を売る店を出すんだつて、本当かて聞きましたよ。本当に其様そんな店を出すの。』
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
しかし其様そんな事には目もくれずおくらの役人衆らしいおさむらい仔細しさいらしい顔付かおつきに若党を供につれ道の真中まんなかを威張って通ると
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
決して私とお寿賀さんとの二人の間に醸された所の其様そんな恋愛の事なのでは無いので、何う致しまして私などは、いつも気の利いた恋愛からは仲間外れにされる玉の方で
温室の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
狐にばかされているのが其様そんなに嬉しいかと云わぬばかりに、ぴしゃりと一本見事に見舞っている。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
『何も其様そんなに!』と清子も泣声で言つて、そして二人は相抱いてしばし泣いた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
何アに、其様そんなに心配した程の事は無えでごす。警官も奴の悪党の事は知つて居るだアで、内々は道理もつともだと承知してるでごすが、其処は職掌で、さう手軽く済ませる訳にも行かぬと見えて、それで彼様あんな事を
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
おめで鯛の焼もの膳『外には何もござりませねど。皆々みんなあちらでお相伴、まづ召上がれ』とさし出す『あれまあ、それでは恐れいりまする。いつまでも其様そんなに、お客待遇して戴いては、気が痛んでなりませぬ。それよりは御勝手で、お手伝ひなと致したが』
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
何故、新平民ばかり其様そんないやしめられたりはづかしめられたりするのであらう。何故、新平民ばかり普通の人間の仲間入が出来ないのであらう。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
空井戸の中を覗くと、真暗まっくらであった。けれど、彼は、その井戸はいつかいろいろのもので埋っていて、其様そんなに深くないことを知っていた。
過ぎた春の記憶 (新字新仮名) / 小川未明(著)
柳「お前さんのような心がけの良い方が、何うしてまア其様そんな不仕合ふしあわせだろう、お母さんをもう少し生かして置きたかったねえ」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
此様こんな小さい者を其様そんないじめて育てて、若しか俊坊としぼうの様な事にでもなったら、如何どうおしだ? 可哀かわいそうじゃないか。」
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
戯謔じやうだん仰つしやツちや、因まりますゼ、松島さん、貴下あなた其様そんな馬鹿気たこと、何処から聞いておいでになりました」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「行きますよ行きますよ。其様そんなひどい事をしなくたって行きますよ。けれども姉さん、姉さんと森川さんは……」
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「成程そうですねェ、真実ほんとに私は困まッちまッたねエ、五週間! もう其様そんなになったろうか、」と主人の少女は嘆息ためいきをして、「それで平岡さんが何とか言って?」
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
露貨は其様そんなに持たない、仏貨をぜたら有るかも知れぬと、云ふとそれでもいと云ふ。かく八十円を出して仕舞しまふと、後は途中の食費と小遣が十円も残るや残らずになるのである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
自分は三年の後卒業したなら、父と別れて自分一個の新家庭を造り、母を請じて愉快に食事をして見やう……とよく其様そんな事を考へて居ましたが、あゝ人生夢の如しで、私の卒業する年の冬
一月一日 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
『兄様……其様そんな……。』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
奥様おくさん其様そんなに御心配無く——猪子君は私が御預りしましたから。』と弁護士が引受顔なので、細君も強ひてとは言へなかつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
と両人はすぐに駈出して小田原迄逃げたと云うが、其様そんなに逃げなくっても宜しい。此の武家ぶけ莞爾にっこり笑って直其の足で京橋鍛冶町へ参りました。
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「ああ、おれもあんな時代があったのだ。」……其様そんな空想にふけっていると、日は蔭って、小鳥は囀るのを止めてしまった。
不思議な鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
やあ、僕の理想は多角形で光沢があるの、やあ、僕の神経はきりの様にとンがって来たから、是で一つ神秘の門をつッいて見るつもりだのと、其様そんな事ばかり言う。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「何をビク/\するんだ」と、主人は吾妻を一睨いちげいせり「其様そんなことで探偵が勤まるか——篠田や社員の奴等に探偵と云ふことを感付かれりやなかろな」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
其様そんなに驚くには当るまい。北極探検から帰って来たのじゃあるまいし。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「大丈夫よ。お父さん、わたしだって其様そんな向見むこうみずな事はしやしないから大丈夫よ。カッフェーに働いていさえすれば誰の世話にならなくっても、毎日会っていられるんだから。いっそ一生涯そうしている方がいいかも知れないのよ。」
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「まア其様そんななことを!」
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
由「もし、また豆腐入の玉子焼なぞが出来るので……どうも旦那お茶代を其様そんなに遣らねえでもようございます、此処ですから」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「兄さん、何を其様そんなに考えているんです、何処どこか悪いんでありませんか。え、兄さん。僕は昨夜不思議な夢を見たから話そうと思って来たんです。」
迷い路 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「相の児だつて言はれたのが其様そんな口惜くやしいの? そんなら温順おとなしく成さいナ。それ、くすぐつて遣れ——さうめん——にうめん——大根おろし/\。」
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
賤「其様そんなに云わずにお前お帰りよ、折角お迎いにおいでなすったに誠にお気の毒様、大事な御亭主を引留めてね、さアお帰りよ、手を引かれてよ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
私は、火の気のない火鉢の側に坐って、老婆と向い合って、つらつら其様そんなことを思うとこの老婆が憎くなった。
老婆 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「ナニ、私のことは其様そんなに心配しなくてもいよ。それよりか子供を見て御呉れよ——私はこれから病院へ行きさへすれば可い人だ——最早もうこゝまで来たんだもの。」
灯火 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
女「皆来る方は其様そんなことを云いますが、お前さん方はたまに来るからで、朝夕のべつゞけに山を見ると山に倦々あき/\しますよ」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
其様そんな家の内の光景ありさまなどを一々いちいち覗き込んで、町の中程になっている按摩あんまの家を訪ねた——家は九しゃくけんなかは真暗である——私は「今晩は。」といって入った。
黄色い晩 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「もうおねむに成つたんでせう、それで其様そんなな愚図愚図言ふんでせう。」そこへお節は気が着いて自分の膝を枕にさせて居るうちに、子供は泣じやくりをきながら次第に眼をつぶりかけた。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
清「大丈夫でえじょうぶだ、あゝゝ魂消たあんまり小言を云わねえがえよ、義理立をして見す/\子を殺すようなことが出来る、もう其様そんなに心配しねえが宜えよ」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
其様そんな時に受持教師がそのかたわらを通り合せても、またかといわぬばかりに見ぬ風をしてさっさと行き過ぎてしまう。生徒は益々図にのって、彼をばいじめるのである。
蝋人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「栄ちやん、何を其様そんなに考へ込んでるんだネ——」
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
千「あれをあなた召上れな、人参という物は、なに其様そんなに飲みにくいものでは有りませんと、少し甘味がありまして」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
其様そんな時には白い石筆が微塵みじんに砕けて散って、破片は窓の硝子を打ったり、ベンチの上に飛び散った。
(新字新仮名) / 小川未明(著)