さか)” の例文
この通りピイピイしているから金なんぞはさかさにふるったって出て来ねえんだ。だから、まだなかなか死にっこはねえよ、安心しろよ
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
わたくしの頭を鉄扇で打ち、門弟がたぶさを取って引摺り出し、打ち打擲するのみならず、割下水へさかさまに突込つきこまれてわたくしは半分死んで居ります
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
つまり佐渡ヶ島は、「工」の字をさかさにしたような形で、二つの並行した山脈地帯を低い平野がひもで細く結んでいるような状態なのである。
佐渡 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ト思うと、日光の明るみに戸惑いしたふくろうを捕まえて、さかさまに羽根でぶらさげながら、陽気な若者がどこへか馳けて行く。
禰宜様宮田 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
秩父街道から眺めた大洞川の谷は、左右の山裾が幾多絶大の人の字、入の字をさかしまに重ね合せて、奥は深くつ暗い。
秩父の奥山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
僕は、だが、水の中へさかさまに飛び込んで直ぐに首を出すと、あんな思ひも、あんな言葉も、すつかり忘れて
熱い砂の上 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
さかさに銀河を崩すに似ている飛泉に、碧澗から白刃はくじんなげうつように溌溂はつらつとして躍り狂うのであるから、鱒魚の豊富な年ほどそれだけ一層の壮観であるそうである
平ヶ岳登攀記 (新字新仮名) / 高頭仁兵衛(著)
ただれたる高櫓の、機熟してか、吹く風にさからいてしばらくは燄と共に傾くと見えしが、奈落までも落ち入らでやはと、三分二を岩に残して、さかしまに崩れかかる。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
子供こども兩足りようあしとらへてさかさにつるし、かほそとけて、ひざもてせなかくとふのですさうすれば、かつての實驗じつけんよつるから、これツてれと熱心ねつしんすゝめました
初夏のころその横倉山から眺めると、瀑は半ば以上を新緑の上に見せて、その銀色の大樽をさかしまにしたような水が鼕々とうとうとして落ちているので、土地の人は大樽と呼んでいる。
蛇怨 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
僕は気の毒に思った、その柔和な顔つきのまだ生き生きしたところを見て、無残にも四足を縛られたまま松の枝からさかさに下がっているところを見るとかあいそうでならなかった。
鹿狩り (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
○玉子の白身が全く泡になる時はその器をさかさにして落ちず、これを度とすべし。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
この花床すなわち蓮房が後には下に点頭してさかさまになり、その果実が段々その蓮房より離れて水中に落ちます。落つれば果実の先端が下となり、その蓮房に附着していた本の方が上になる。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
ここに石楠花にとろけている生物が二個ある、一個は私である、一個は石楠花の花の中に没頭して、毛もくじゃらの黄色い毛だらけの尻を、さかしまに持ちあげ、蜜を吸い取っているアブである。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
「どうも君の心づかい、うれしく思います。お察しの通り、私は今困っている。弟子の君から、そういう心づかいをされてはさかさま事だが折角のお志ゆえ、では辞退せず暫時しばし拝借することにしよう」
富士なれば、たれかの絵で見た扇をなかばたたんでさかさに立てたような景色であった。その富士をうしろにして展望すると、すぐ天の一角に海を見て、佐田の岬、佐賀関あたりがほうふつと見える。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
丁度前の政府が惨虐であって無罪の人をさかさまに釣るしておいたのを
渡良瀬川 (新字新仮名) / 大鹿卓(著)
この靴を逆さまにいて追う者の眼をごまかし無難に逃げおおせるという事よくあるやつで、『義経記』五の六章に、義経吉野を落る時、弁慶誰も命惜しくば靴をさかしまに履きて落ちたまえと勧め
ふと縁側に足音……耳をそばだてて、お勢ははッと狼狽うろたえた……手ばしこく文典を開けて、さかしまになッているとも心附かで、ぴッたり眼で喰込んだ、とんと先刻から書見していたような面相かおつきをして。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
既にして人々はカミン炉の上に多量のすゝあるを見て、試に炉中を検せしに、人の想像にも及ばざる程の残酷なる事実を発見せり。女主人の娘の屍体さかさまに炉の煙突に押し込みありしことこれなり。
それから、送音管を外して、それをさかさまに中央の回転軸に縛り付ける。すると、発音器サウンドボックスが俯向くから恰度卍の一本と同じ形になるのだが、それが済むと、愈停止器を動かして回転を始めさせたのだ。
後光殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
南の方へ三四十間離れた土城の続きが遂に持ちこたえきれず、見る見る崩れて流の中へさかさに落ちかかったのだ。水のしぶきが十数尺も高く弾ね上った。それは闇の中に銀色にぴかぴか閃いて見えた。
土城廊 (新字新仮名) / 金史良(著)
おくみは両方へあかりを送るやうに、電気をさかさにして持つてゐた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
晝をさかさ蝙蝠よく見ればずるげなる目をあいてゐにけり
河馬 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
そこで尻尾しっぽつまんでさかさに吊るしたように
「たしがらやさかさに読めばやらかした」
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
さかさに手を垂れて
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
ながれればさかしまに
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
由「旦那、只何うもわっしが今日驚きましたのは、のツク乗りで、何うもさかさまに紐へ吊下ぶらさがって重次郎さんがさがって参ります処には驚きました」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
シルクハットをさかさまにして、その帽子の底に、小さい小さい旗を立てた、それが甲府だと思えば、間違いない。きれいに文化の、しみとおっているまちである。
新樹の言葉 (新字新仮名) / 太宰治(著)
稲が刈り取られて林の影がさかさに田面に映るころとなると、大根畑の盛りで、大根がそろそろ抜かれて、あちらこちらの水溜みずためまたは小さな流れのほとりで洗われるようになると
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
その岩の上に一人の女が、まばゆしと見ゆるまでに紅なる衣を着て、知らぬ世の楽器をくともなしに弾いている。みどり積む水が肌にむ寒き色の中に、この女の影をさかしまにひたす。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さかさになって切々せっせっ雑巾掛ぞうきんがけをしていた。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
あまつさえ御門弟しゅもとゞりを取って門外へ引出し、打ち打擲して割下水へさかさまに投入なげいれられ、半死半生にされても此方こっちは町人、相手は剣術の先生で手向いは出来ず
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
画舫ゴンドラといふと、女と一所に乗らなければ済まない様な気がする。だまつてあをみづと、みづの左右の高いいへと、さかさにうつる家のかげと、かげなかにちらちらするあかきれとを眺めてゐた。すると
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
これから風呂敷を解いて衣服きものを着替え、元のように風呂敷包を仕舞って寝ようと思いましたが、これまで思い付いた宿志しゅくしを遂げないから、目はさかさまにつるし上り、手足はふる
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
小林はたちまちナイフをさかさまにして、やけに食卓テーブルたたいた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)