)” の例文
無窮な国体のうえに生をつ安心であった。大君の恩であった。これも大御民おおみたからのひとりびとりぞ、と見まわす家庭と家の子らであった。
日本名婦伝:大楠公夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まだかなり長くちそうで、手広く居心地よくできていた。いろんな物置きだの納戸だの、思いもかけない階段だのがたくさんあった。
「いいさ」と私はかれらの去ったあとで自分に云い聞かせた、「味噌煮にしておけばつからな、当分おかずに困らないで済むわけだ」
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そのころには、病人の体もただ薬の灌腸かんちょうや注射でたしてあるくらいであった。頭脳あたまがぼんやりして、言うことも辻褄つじつまが合わなかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
救急車で聖路加へ運ばれ、意識不明のまま二十五日の払暁までっていたが、間もなく苦しみだし、七時ごろ息をひきとった。
雲の小径 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「お師匠さまが山科の家のかどに立って、これは凶宅じゃ、住む人の命はつまいと言われたが、その卜占うらないはたしかにあたった」
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「この空模様じゃ筋違すじかいまでもちませんぜ。お通は仕度をしているはずですから、ともかく晴らしてから出かけましょう」
ちょうど亀裂ひびだらけになって、今にもこわれそうな石地蔵が、外側に絡みついた蔦の力でばかり、やっとっているのを見るような心持がした。
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
てるだけもった体は、ポクリと倒れるまで余命を保っていただけだつた。医者は言った。何ともないが死ぬだろうと、しかも十日はどうかと——
「そらあ悲しかろう。いくら連れ添うても十日とたん婿どんじゃけんになあ。太閤記の十段目ぐらいの話じゃなか」
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
鳥でも獣でも涼しい高い処へ吊るしておくに限ります。下へかしておいては二日つ者も一日で腐ります。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
一同が、眼をそばだてて熟視するなかにしばらくは双方、伯仲はくちゅうの力をあつめてち合いの形と見えたが——。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
髪はこの手合てあいにおさだまりのようなお手製の櫛巻なれど、身だしなみを捨てぬに、小官吏こやくにん細君さいくんなどが四銭の丸髷まるまげ二十日はつかたせたるよりははるかに見よげなるも
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
の身體で、の病氣で、咯血するやうになつたらもう駄目だと言ふんだ。長くて精々三月、或は最初のから咯血から一月とたないかも知れないと言ふんだ。
我等の一団と彼 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
今度こそ死ぬのだと云って、泣いておられる、先生は大丈夫のように云っておられるけれども、看護婦さんは心臓がたないかも知れないと云っておられるし
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
梶は十年も前、自宅の標札をかけてもかけてもはずされたころの日のことを思い出した。長くて標札は三日とたなかった。その日のうちに取られたのも二三あった。
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
聡明な、末起ちゃんには予期していたことですけれど、あなたには、あの悩みに洗滌せんできが要りますの。そうでもしないと、末起ちゃんのからだが、たなくなります。
方子と末起 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「柚木君の仕事はチャチだね。一週間とった試しはないぜ」彼女はこんな言葉を使うようになった。
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「まあその辺で勘弁かんべんしてくれたまえ。俺のロケットの電池は、電圧がウンと下ってきたのだ。すこし倹約しないと、地球へ帰りつくまでたないかもしれないからネ」
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
旅費は無論充分でなかった。代助の旅装に適した程の宿泊とまりを続けるとすれば、一週間もたない位であった。けれども、そう云う点になると、代助は無頓着むとんじゃくであった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
上の前歯は二本は完全に根まで抜けて了つて、他の二本も殆どむしばまれて辛うじて存在をとどめてゐる。下の門歯も内側からがらん洞が出来て、いつまでつか分らない。
大凶の籤 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
『坐ってパン入りのミルクをおあがり! 何百年でもつような、こんな金の薔薇を持ってれば、一日でしぼむようなただの薔薇となら、何時でも取換えられるからね。』
私と同棲してからも一年に三四箇月は郷里の家に帰つてゐた。田舎の空気を吸つて来なければ身体からだたないのであつた。彼女はよく東京には空が無いといつてなげいた。
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
彼は午後四時の退ひけに、貧民窟にも帰らずに、田舎へ散歩に出かけた。そこで彼は二本足の動物と、煤煙と、貧民窟を離れて、少しの間でも自然と接触をちたいと思った。
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
「駄目だよサッチゃん。十月までたないよ。憔悴しょうすいしちゃったよ。寝なきゃあならないんだ」
各人の私生活というものは秘密のおかげでっているのだが、恐らく一つにはそのせいもあって教養人があれほど神経質に、私行上の秘密を尊重しろと騒ぎ立てるのだろう。
「へえ、面目めんぼくねえが、あの体でめられたんじゃ命がたねえような気がしやして。……」
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
一足を十二文と積っても千足万足となれば何程になるか知んねえから、それよりは石を敷き詰めて置くと余程よっぽど得でがんす、わし聞いて見たら百年は受合ってつといいやんした
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
身體からだ容子ようすへんつたことを心付こゝろづいたからである。十ねんあまりたなかつたはら與吉よきちとまつてからくせいたものとえてまた姙娠にんしんしたのである。おしな勘次かんじもそれには當惑たうわくした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
前記ぜんきのとおりわがくに野生のいわゆるタチバナに、かくタチバナの名をたしておくのは元来がんらい間違いであるのみならず、前からすでにある歴史上のタチバナの本物と重複するから
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
執拗にって二月目のある日、〆団治が見舞いに来た。ところが、ついぞ着ぬ洋服を着たのは良いとして、〆団治はまだまだ冬だというのに、異様な半ズボンでぶるぶる震えていた。
わが町 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「中風でも、レコの方は生れてから一遍も知らんのやちうさかいなア、あゝなつても、なかなかつちうやないか。」と、仙太郎といふ漂輕へうきんな若者は、右の拳で變な形をして見せつゝ
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「何とかして、もうほんの少しの間でもたせるように、繕って見ておくれよ。」
外套 (新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
医者はもう幾日もたないと言ってしまってから或る日の女の子は、母親に
音楽時計 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
終焉おわりも遠くはあるまいとのことであった。午後までもつまいと言われた。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その家には一杯朝顏や胡盧へうたんの蔓が這つて、戸は一つの蝶番てふつがひつてゐる。
水車のある教会 (旧字旧仮名) / オー・ヘンリー(著)
まだ若い頃だからったけれど、今のおれならとても出来ることじゃない
狂い凧 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
彼女のいさらばえた肉体がまだっているうちは、その上に置かれた氷のように冷え果てた片手のもとで胸がまだ苦しげに波うっているうちは、まだその身から最後の力がけきらないうちは
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
その台場を築いた者はこのテーブルの中にも居るではないか、こんな事で日本国がてると思うか、日本は大切な国だぞなどゝ、公衆の前で公言したような事は、私の方こそ気違いの沙汰さたである。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
つまいか」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「いいさ」と私はかれらの去ったあとで自分に云い聞かせた、「味噌煮にしておけばつからな、当分おかずに困らないで済むわけだ」
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「医者はつといっておりますが、何分ひどくたかぶっていらっしゃるので、時折傷口から出血するのがよくないそうで」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「この空模樣ぢや筋違すぢかひまでもちませんぜ。お通は仕度をして居る筈ですから、兎も角晴らしてから出かけませう」
「大池さん、十一時よ……あと七時間……いままでった心臓なら、明日の朝まで保つでしょう。しゃべるのはそれくらいにして、すこし眠ったらどう」
肌色の月 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「柚木君の仕事はチャチだね。一週間とった試しはないぜ」彼女はこんな言葉を使うようになった。
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
お京さんが思いっきりの音無しい人で自分が我儘な気ままな女だからどうか斯うかって居たんだ。
千世子(二) (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
そして日頃はらっていた色々の場合のおとらの挙動ふるまいが、ねちねちした調子でなじられるのであった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
旅費は無論充分でなかつた。代助の旅装に適した程の宿泊とまりつゞけるとすれば、一週間もたない位であつた。けれども、さう云ふ点になると、代助は無頓着であつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
火焔と同じくらいの熱度をった空気に迫られて動くまいとしても動かずにいられなかったのであろう。死物狂いに手足を振り動かして火の海に背中を向けようとした。
オンチ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それを弱い火にかけてアクを掬い取りながら気長に煮ます。つまり水気が混じると早く腐りますからそれを防ぐためです。こうしたのは夏でも四、五日ぐらいちます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)