どじょう)” の例文
どじょうが居たらおさえたそうに見える。丸太ぐるみ、どか落しでげた、たった今。……いや、遁げたの候の。……あかふんどしにも恥じよかし。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こはいかに、大なる瓢箪ひょうたんであった。中には大きいどじょう五、六匹入りて口をふさいであるために、あたかも生きているように動くのである。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
スパイはいつでもいそうなところにいないことは、柳の下のどじょうと同じことだから、なおさら、われわれは細心に注意しなければなるまい。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
そうそういつも柳の下にどじょうというものはいるものではない。メッキははげる。以後注意! よろしいそれでは教えてやろう。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
喜平というのは、村はずれの小屋に住んでいる、五十ばかりのおやじで、雑魚ざこどじょうを捕えては、それを売って、その日その日の口をぬらしていた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
それはまことに枯淡閑寂などじょうすくいを踊りぬいて、赤い農民美術の木の盆と共に危くひっくり返りそうになったほどだ。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
汁粉屋に雑煮餅なく鰻屋にどじょうを絶やす事あり。海老の種切れは天麩羅屋の口癖にして鮪のおあいにくさまは鮨屋の挨拶。
偏奇館漫録 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
蜻蛉釣りや、鮒釣りや、どじょうすくいに行くと、いつも仲間より獲物が多かった。そして真冬のほかは、大てい跣足のまま、何処へでも飛びあるいた。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
いろはにほへとはいつでも同じ順にあらわれてくる。柳の下には必ずどじょうがいる。蝙蝠こうもりに夕月はつきものである。垣根にボールは不似合かも知れぬ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自然薯でも、田螺たにしでも、どじょうでも、終始他人ひとの山林田畑からとって来ては金にえ、めしに換え、酒に換える。門松すらって売ると云う評判がある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
どじょうの骨抜を皿へとりわけるにも、僕の方には玉子の掛らない処を探して、松五郎の方へばかり沢山玉子の掛った処が往くと、一々気になって来ます。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
めだかを瓶の中に飼うたり、田螺たにしを釣ったりした六つ七つの時が恋しい。どじょうが土の底から首を出した。源五郎虫が水の中でキリキリ舞いをしている。
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
よその人気の尻馬しりうまに乗って人真似をして、柳の下のどじょうねらうような真似は、お角さんには金輪際こんりんざいできないのですよ。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「アハハ。成る程。死んどる死んどる。ウデだこごとなって死んどる。酒で死ぬ奴あどじょうばっかりションガイナと来た」
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
どじょうとりのかんてらが、裏の田圃に毎夜八つ九つ出歩くこの頃、蚕は二眠が起きる、農事は日を追うて忙しくなる。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
日本人はせいがひくくってみすぼらしい上に。さぎがどじょうをふむようなふうをして。あれですからきつけないと困ります。私くしはふだん洋服でおりますが。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
飯粒や生玉子と一緒に呑込めば済むと思う人がありますけれども、鯛の骨やかれいの骨やどじょうの骨なぞは腹の中で色々な害をして悪くすると盲腸炎を引起します。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
うぬか、一昨年おととしの泥棒は。味をしめて、また来たのだろうが、そうは、いつも柳の下に、どじょうはいねえぞ。
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
物を食うにもさけでもどじょうでもよい、沢庵たくあんでも菜葉なっぱでもよく、また味噌汁みそしるの実にしてもいもでも大根でもよい。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「今年もかね? きみ! いつもいつも柳の下にどじょうはいないよ。いったいどこの工場だね?」
仮装観桜会 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
ええどじょうで無くッてお仕合せ? 鰌とはえ? ……あ、ほンに鰌と云えば、向う横町に出来た鰻屋ね、ちょいとおつですッさ。久し振りだッて、おごらなくッてもいいよ。はははは
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
盲目めくら滅法にパクついたのでは、タスカローラの深海魚のスチューも、裏の溝川どぶがわどじょうの柳川鍋もあまり変りがなく、喰う方も喰わせる方も、まことに張合はりあいの無いことであります。
どじょうなども八寸以上のものがよく獲れるそうである、沼尻川でいつか捕えたふなは、鮒とはいえない程余りに大きかったので、これこそ主とでもいうきものと如何にも気味わるく
尾瀬雑談 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
先年上野の動物園で鶴が雛をかえしたときも雌雄の親鳥がていねいにこれを養い育て、初めはどじょうを小さく切って食わせ、次には鰌を水中におよがせてはこれを捕える練習をなさしめ
生物学より見たる教育 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
わたしはあるいは将軍に、あるいは近衛騎兵に、あるいは軽騎兵将校に、時には貴婦人たちに道を譲りながらきわめて見苦しい恰好で、まるでどじょうのようにちょろちょろ泳ぎ廻った。
どじょう釣り、うなぎの夜釣りなどもちよつとよいが、面白いのは鯰釣り、長竿で太糸で、大鉤へ蛙をつけて、夕暮の沼や川の藻の中を、ぽかんぽかんと叩く、すると貪婪な鯰がガバと来る
夏と魚 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
三、四町行くとまた一軒の汚い旅人宿、幸いここでは、どじょうの丸煮か何かでようやく昼飯に有付くことが出来た。東京ではとても食われぬ不味まずさであるが、腹が減っているので食うわ食うわ。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
身体じゅうが松花まつはなのように黄ばんで、地面の上に置くとひょろひょろと歩き出し、互に呼び交し、いつも一所に集ってピヨピヨと鳴いている。一同は喜んで明日はどじょうを買ってやりましょうと言った。
鴨の喜劇 (新字新仮名) / 魯迅(著)
我事とどじょうの逃げし根芹ねぜりかな 丈草
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
どじょうか、こいか、ふなか、なまずか、と思うのが、二人とも立って不意に顔を見合わせた目に、歴々ありありと映ると思う、その隙もなかった。
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
上っても上らなくってもい、どじょうの抜きを、大急ぎで然う云って来や、冷飯草履を穿いてけ殿様あれは年は二十三ですが、器量がうございましょう
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
栂の尾から余等は広沢ひろさわの池をて嵐山に往った。広沢の池の水がされて、ふなや、どじょうが泥の中にばた/\して居た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
どじょうも裂いて四つ五つ位竹串へさして牛乳一杯、メリケン粉二杯、玉子の黄身二つ、塩とパセリ少々とへ泡立てた白身二つ分を加えた衣で揚げてもようございます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「アラアラ大変だ。きいちゃん。どじょうが泳いでるよ。」という黄いろい声につれて下駄の音がしだした。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「土左衛門の臓腑ぞうふを烏がついばむところがあるんだ。土左衛門は人形だが、烏は真物ほんもので、種を聞くと、桶へ入れてこもの間に隠しておく、どじょうをついばむんだってね、そりゃ凄いぜ親分」
淫祀いんし祈祷の弊害につきて一、二の例を挙げんに、『修身書』に祈祷者の徳利の中にどじょうを入れたる話が出でておったが、これに類したる話が『怪談弁妄録かいだんべんもうろく』と申す書物の中に見えておる。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
蟹も、〈めだか〉も、源五郎虫も、蛙も、どじょうも、田螺もコーラスに加わった。
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
道庵先生、この型を行ってみたいのだろうが、そうそう柳の下にどじょうはいまい。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それやあ、秋繭あきまゆの時ゃあよかったさあ。だが、いつも柳の下にどじょうはいねえってやつだ。百貫目もかついで行った荷が、今度あ二束三文どころか、何処の異人いじんめも、値もつけやがらねえんだ。
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まねき猫、お湯うずめ、蠅追い、スウェーデン式、どじょうすくい、灰掻き、壁塗り
うなぎなまずどじょう、ハゼ、イナ、などが釣れ、海では、鯛、すずきこちかれいあじきす烏賊いかたこ、カサゴ、アイナメ、ソイ、平目、小松魚、サバ、ボラ、メナダ、太刀魚たちうお、ベラ、イシモチ、その他所によつて
日本の釣技 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
明日も快晴であろうと思われる空の気色けしきにいよいよ落ちついて熱のさめたあとのような心持ちでからだが軽くなったような気がする。金魚が軒下へ行列して来る。どじょうが時々プクプク浮いてあわを吹く。
水籠 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
それこそ真っ黒々に汚ごしきって、すなわち早速さそくどじょうすくいと来た。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
鍋の中で、ビチビチ撥ね疲れたどじょうだった。
労働者の居ない船 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
蒟蒻こんにゃくおけに、ふなのバケツが並び、どじょうざるに、天秤を立掛けたままの魚屋の裏羽目からは、あなめあなめ空地の尾花がのぞいている……といった形。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふなどじょうを子供が捕る。水底みなそこに影をいて、メダカがおよぐ。ドブンと音して蛙が飛び込む。まれにはしなやかな小さな十六盤橋そろばんばしを見せて、二尺五寸の蛇が渡る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
池のまわりは浅草公園の釣堀も及ばぬにぎやかさである。どじょうふなと時には大きなうなぎが釣れるという事だ。
い人だけにのぼせ上り、ずぶ濡れたるまゝ栄町の宅へ帰り、何うやら斯うやら身体を洗い、着物を着替えたが、たもとからどじょうが飛出したり、髷の間から田螺たにしおっこちたり致しました。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「だが、しゃくにさわる野郎じゃないか。この平次をどじょうと間違えやがって」
または漁具を伏せて置いてうなぎどじょうなどを捕るのであるから、大方そんなものだろうと思うと、その人影は、垣根のすきから庭の中を一心にのぞいていたが、どう思ったか、人丈ひとたけほどな垣根を乗り越えて