首肯うなづ)” の例文
芝居として、舞台の上で見ては、変化があつて綺麗であるかも知れないが、根本的に人を首肯うなづかせるやうなまことの処がない。
社会と自己 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
水聲は中々激しくて、川といはうよりは瀧といつた方が好い位であり、成程「瀧」といふ地名も名詮自性であると首肯うなづかせた。
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
蜀黍粒もろこしつぶおつこつてあんすぞ、さうすつと此處ここけたのまた何處どこへかつてつちやつたな」被害者ひがいしやはいつた。巡査じゆんさ首肯うなづいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「実に御辞おことばの通りです」と篠田は首肯うなづき「けれど老女おばさん、真実我を支配する婦人の在ることは、男児をとこに取つて無上の歓楽では無いでせうか」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
まはつてゆく。權三は何かさゝやけば、おかんは首肯うなづいて、再び下のかたより自分の家のうしろへ廻つてゆく。權三は助十の家の縁に腰をかける。
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
玉依姫様たまよりひめさまは一々首肯うなづきながらわたくし物語ものがたり熱心ねっしんみみかたむけてくだされ、最後さいごわたくしひとりさびしく無念むねんなみだれながらわかくて歿なくなったことを申上もうしあげますと
たれ我邦わがくにの現状に見て、金は一切の清めなりといへることわざの、遂に奪ふまじき大原理たるに首肯うなづかざらんや。近世最も驚くべきは、科学の進みなりとぞ。
青眼白頭 (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
お末はおとなしく首肯うなづいた。医師はやがてお末の額に手をあてゝしげ/\と患者を見て居たが鶴吉を見返つて
お末の死 (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
「又都合してうちませんか」と云つた。三千代はえゝと首肯うなづいて微笑した。代助は身をられる程つらかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
本郷臺をサスかけて下りける時、丸山新町と云へるを通りたることありしが、一葉女史がかゝる町の中に住まむとは、告ぐる人三たりありて吾等やうや首肯うなづきぬ。
彼は感心したやうに首肯うなづいて警部の話を聞いてゐたが、だん/\と、この男がやはり、自分のことをもその鐵の鎖で縛つた氣で居るのではないか知らといふ氣がされて來て
子をつれて (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
太古の文芸がこの水のたゞよふ岸辺から発生した歴史から、美しい女神によしんベヌスが紫の波よりうまいでたと伝ふ其れ等の神話までが、如何にも自然で、決して無理でないと首肯うなづかれる。
黄昏の地中海 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
この大規模な設計は如何にも後藤新平氏の総裁時代に出来ただけの事はあると首肯うなづかれる。其れに続いて支那側の作つた広大な商埠地が同じく繁華な欧風都市を現はしてゐる。
『えゝ』と自分は首肯うなづいた。それを見ると母は急に起上つて来て自分の手を堅く握りしめて、泣きながら『ありがたう。順吉、ありがたう』と云つて自分の胸の所で幾度か頭を下げた。
志賀直哉氏の作品 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
女漁をんなあさりの猛烈さが、必ずしも扇屋の金力ばかりではなかつたと首肯うなづかせます。
三木は思はず首肯うなづいた。まさに、そのとほりだつたのである。
火の鳥 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
あいちやんは其兩眼そのりやうがんあらはれるのをつて、首肯うなづきました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
野田は大きく首肯うなづいた。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
私は首肯うなづいた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
さうしてとげえた野茨のばらさへしろころもかざつてこゝろよいひた/\とあふてはたがひ首肯うなづきながらきないおもひ私語さゝやいてるのに
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「御用で忙がしいところを氣の毒だが、少しお前に聞いて貰ひたいことがあるんだが……。」と、をぢさんは左右を見まはすと、半七は快く首肯うなづいた。
半七捕物帳:01 お文の魂 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「ほんとにねエ、いらしつたからとて、れと云ふ別段のことあるでも無いのだけれど」と、兼吉の老母も首肯うなづきつ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
御米およね産後さんご蓐中じよくちゆうその始末しまついて、たゞかる首肯うなづいたぎりなんにもはなかつた。さうして、疲勞ひらうすこんだうるませて、なが睫毛まつげをしきりにうごかした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そんなことをっているうちにも、なにやら通信つうしんがあるらしく、おじいさんはしきりに首肯うなづいてられます。
御米およねはそんな消息せうそくまつたらなかつた。小六ころくからくはしい説明せつめいいて、はじめて成程なるほど首肯うなづいた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
カンテラのひかりもみ木陰こかげ何處いづこからでも明瞭はつきり勘次かんじ容子ようすたせるやうにぼう/\と油煙ゆえんてながら、周圍しうゐまなこ首肯うなづうてあかしたをべろべろときつゝゆらめいた
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
(外記笑ひながら首肯うなづく。綾衣と綾鶴は駕籠に乘りてゆく。雨の音しめやかに、櫻の花はら/\と散りかゝる。外記は傘をさして見送る。綾衣は駕籠の垂簾たれをあげて、見返る。)
箕輪の心中 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
銀子はばし思案に暮れしが、独り心に首肯うなづきつ「——梅子さん、私知つてますよ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
此花このはなうしたんです。かつたんですか」といた。三千代はだまつて首肯うなづいた。さうして
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
(お米の顏を見る。お米はやうやく首肯うなづく。)
箕輪の心中 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
三四郎は此所こゝで木戸を開けた。庭の真中に立つてゐた会話の主は二人ふたりとも此方こつちを見た。野々宮はたゞ「やあ」と平凡に云つて、あたま首肯うなづかせた丈である。あたまに新らしい茶の中折帽を被つてゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
澁々しぶ/\ながら首肯うなづく。)
能因法師 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
三四郎は思はず首肯うなづいた。女の影は右へ切れて白い壁のなかへ隠れた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ちゝの機嫌を取りもどすには、今度の結婚を断るにしても、あらゆる結婚に反対してはならなかつた。あらゆる結婚に反対しても、ちゝ首肯うなづかせるに足る程の理由を、明白に述べなければならなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)