かぶり)” の例文
千五百石取の旗本の弟、学問武芸何一つ暗からぬ人物が、身を落して入婿してもという話もありましたが、桜子は唯かぶりを振るばかり
真剣そのもので、福松がさいぜんから後生大事に抱え込んでいる両刀を指して促すと、福松どのは、一層深く抱え込んで、かぶりを振り
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
否々いやいやをして、かぶりをふって甘える肩を、先生が抱いて退けようとするなり、くるりとうしろ向きになって、前髪をひしと胸に当てました。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ありません。」と、丸山はすぐにかぶりをふった。「無論に手分けをしていろいろに穿索せんさくしたんですけれど、影も形もみえません。 ...
麻畑の一夜 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
馭者はかぶりを振り振り、「いやはや、この旦那は!」とつぶやいては、まるで*スパニエル犬のように毛のながい馬の背を手綱で鞭打った。
(新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
お増はかぶりを振った。一ト月の入院のあいだに、家がどうなるか知れないという不安が、これまでにも始終お増の決心を鈍らせた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
媼さんはかぶりつた。智慧の持合せの少かつたのを、六十年来使ひ減らして来たので、頭の中では空壜あきびんるやうな音がした。
そこで父と衝突しようとつだ。父はもう期限きげんが來たからと謂ツてやかましく義務の實行を督促とくそくする、周三は其様な義務を擔はせられた覺は無いとかぶり振通ふりとほす。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
わしは檣頭マストヘッドからしおいている鯨のやつらをちゃんと見たのだから、君がいかにかぶりを横にふっても、そりゃあ駄目だ
私はこれまで、外へあそびに行く時には、きつと時男さんを誘ふのでしたが、時男さんはいつも「お母さんに叱られるから。」と云つてかぶりをふりました。
時男さんのこと (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
と解せぬ面持おももちかぶりを振り振り、未亡人は出て行ったが、そうそうわたくし、申し上げるのを忘れていましたと、ロヴィーサがまた重大なことを付け加えた。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
起きて来た連中れんぢゆうが一銭銅貨を投げるふりをすると彼はかぶりを振つて応じない。五銭はく銅以上を要求するのである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「ボタンを返してくれ。」と、彼は手を出しながら言った。女は嬉しそうに笑ってかぶりを横にふった。「返してくれよ。」と、彼はむきになってもう一度言った。
プウルの傍で (新字新仮名) / 中島敦(著)
「こんな風に裏を覗く気持はもうやめなければならない」志保はそっとかぶりを振りながら呟やいた
菊屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
時々子供が泣きぼやくので、馬のように長い顔をしかめて婦はかぶりを振った。
土城廊 (新字新仮名) / 金史良(著)
活けたのもお前か、と訊けば、それは此家ここの旦那だと正直にかぶりを振る。
みなかみ紀行 (新字新仮名) / 若山牧水(著)
つきそひのをんなかゆぜん持來もちきたりて召上めしあがりますかとへば、いや/\とかぶりをふりて意氣地いくぢもなくはゝひざよりそひしが、今日けふわたし年季ねんあきまするか、かへこと出來できるで御座ござんしやうかとてひかけるに
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
或る温室では釣鐘草つりがねさうあふひ棕櫚しゆろかぶりを振つてゐるだらう
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
と、つよくかぶりを振ったが、藤吉郎は一転語気をかえて
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、お悦の言葉には、強くかぶりを振ったのである。
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
ドゥーニャは否定するようにかぶりを振った。
博士が訊ねると、川手氏はかぶりを振って
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
『嫌。』とかぶりを振つて、『山サ行く。』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
澤がきくと、一郎はかぶりを振って
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
マイダスはかぶりを振りました。
とドクトルはかぶりをふった。
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
糸子はかぶりたてに振った。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
広栄はかぶりった。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
かぶりを振つた京之介きやうのすけ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
お為ごかしに理窟を言って、動きの取れないように説得すりゃ、十六や七の何にも知らない、無垢むくむすめが、かぶり一ツり得るものか。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
花魁おいらんももうお見えでござりましょう。まずちっとお重ねなされまし」と、彼女が銚子をとろうとすると、外記は笑いながらかぶりをふった。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と石崎爺さんは、たしなめるやうにわざかぶりをふつてみせた。滑つこい頭の上では、小さな丁髷が魚のやうに尻つ尾を掉つてゐた。
さすがに赤い顔をした様ですが、猛烈にかぶりを振るところを見ると、年頃の娘らしい、色恋というわけでも無いようです。
悪人の娘 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
しきりにかぶりをふって否定の意を示し、しまいには、そんなことは全く何でもありません、私はすっかりあなたに惹きつけられてしまったから、どうかして
行員たちは再三マジャルドーに歎願していたが、律儀一途のマジャルドーは頑としてかぶりを縦に振らなかった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
とマリイはかぶりを振りながら云つて、さげすむやうな目附と身振をした。おれは重ねて問はなかつたが、金を添へて永久にれて仕舞しまつたのだと云ふことがマリイの様子で想像された。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
案の如く、万太郎は取ッてもつけないかぶりを振って
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
町はいつもの冷やかな調子でかぶりを振った。
松林蝙也 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
お銀様はかぶりを振って泣きました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「いいえ。」正雄はかぶりった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
すると慌ててかぶりをふった。
光の中に (新字新仮名) / 金史良(著)
糸巻を懐中ふところに差込んだまま、この唄にはむずむずと襟をって、かぶりって、そしてつら打って舞うおのが凧に、合点合点をして見せていた。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼のかねの入り途を疑って、そういう不信用の人間に大事の金を貸されないというような口ぶりで、あくまでもかぶりを振り通した。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お絹が、どうしてもかぶりを縱に振らないから、近頃は妹のお鳥に乘りへて、一生懸命御機嫌を取つてゐるさうだ
「そんなに怖い目して見るのは厭!」娘はあまえたやうにかぶりをふつた。「ねえ、阿母おつかさん、阿母おつかさんも結婚ぜんうち阿父おとうさんと一緒に温室に入つた事があつて。」
そのうちにちょっとかぶりをふって、『へっ、旦那は何をうたってござることだか!』と呟やいた位だ。
また像をおほうて今は落葉おちばして居る一じゆ長春藤ちやうしゆんとうが枝を垂れて居た。ブリゲデイエ君に礼を云つて酒手さかてを遣らうとしたが中中なかなかかぶりを振つて受けない。西洋人としては珍らしい男である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
お千絵は泣きふしながらかぶりをふった。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と少年がかぶりを振る。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
姉や、こう開けてくんねえ、というと旦那、てんづけかぶりをふるんでさ。べらぼうめ、どこだと思う、場所が場所だに己達おれッちだ。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)