金目かねめ)” の例文
文字通りこの上なしの金目かねめの朝飯が出ているのに、その金目かねめのためにこそ、却ってそれがなんにもならないものになっているのです。
だが総体に交際は派手で、虚栄きょえい的で、お祭りとか葬式とかの時にはできるだけ金目かねめのかかった衣裳をつけて出るのが女の習慣だった。
「そうして小僧さん、お前はお化けや狼の出るという山の傍で、まぐろや鯨より大きな金目かねめのものを持っていて、それでこわくはないのかい」
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
蒔繪まきゑではあるが、たゞ黒地くろぢ龜甲形きつかふがたきんいただけことで、べつたいして金目かねめものともおもへなかつた。御米およね唐棧たうざん風呂敷ふろしきしてそれをくるんだ。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
先頃も、同じようなハメになって、お蝶は父二官の合鍵を盗み、父が管理している切支丹屋敷の土蔵から、金目かねめの品物を持ちだして龍平に渡している。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
甚「オイ兄い、何処どこく、人に相談もしねえで、無暗むやみに驚いて逃出しやアがる、此の金目かねめのある物を知らずに」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
つきの一口は大小ばかり賣拂ひても金五十兩程になるべし其外そのほか小袖こそで合羽かつぱの類まで彼是六十兩餘の金目かねめの品々を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
金目かねめのものは、いっさいがっさい、ほんとうに引っ越しのようにぬすんでいくつもりにちがいありません。
大金塊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
どんな所にいても大事な金目かねめなものをくだらないものと一緒にほうり出しておくのが葉子の癖だった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
すると、親戚としてではなく客として迎えられた——がもとよりその晩餐には、儀式ばった接待以外の金目かねめはかけられていなかった。子供たちはその従兄姉いとこらに会った。
折皮のかばんがある。女持ちの装身具や手提げがある。それがみな、相当に金目かねめのものばかりだ。
五階の窓:03 合作の三 (新字新仮名) / 森下雨村(著)
家主は、家の中を、じろじろ見回していましたが、金目かねめの品物は何一つないのを知ると、らんぼうにも、子供たちがくるまっていた一枚の布団をひったくってしまいました。
神様の布団 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
たのむところはなし、どうすることもできなく、猟師りょうし自分じぶんのだいじな鉄砲てっぽうろうと決心けっしんしました。なぜならほかに、るような金目かねめ品物しなものは、なんにもなかったからです。
猟師と薬屋の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ペナンから印度インド人の甲板旅客デツキ・パツセンヂヤアが殖えた。稼ぎめて帰る労働者だが、細君や娘は耳、鼻、首、腕、手足の指まで黄金きんづくめ宝石づくめの装飾で燦燦きらきらして居る。大した金目かねめだ。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
いったん持出しては見たものの兜などはどうにもなりそうもないので、何か他の金目かねめのありそうな物だけを抱え去って、重い兜はそのまま門前に捨てて行ったのではあるまいか。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
綾や絹はおろかな事、珠玉とか砂金さきんとか云う金目かねめの物が、皮匣かわごに幾つともなく、並べてあると云うじゃございませぬか。これにはああ云う気丈な娘でも、思わず肚胸とむねをついたそうでございます。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
金目かねめのものではあるまいけれども、紅糸べにいとで底をゆわえた手遊おもちゃ猪口ちょくや、金米糖こんぺいとうつぼ一つも、馬でき、駕籠かごかかえて、長い旅路を江戸から持って行ったと思えば、千代紙ちよがみの小箱に入った南京砂なんきんずな
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
會毎くわいごと三人さんにん相談さうだんしてかならつき一度いちど贈品ぞうひん大島小學校おほしませうがくかうおくる、それがかならずしも立派りつぱものばかりではない、筆墨ひつぼくるゐ書籍しよせき圖畫づぐわるゐなどで、オルガン一臺いちだい寄送きそうしたのが一番いちばん金目かねめものであつた。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
小松屋、そこで頼みがある。あすかないしはあさって頃、船脚が遅くて小さな船で、そうして金目かねめを積み込んでいる、つまり海賊に襲われそうな船が、どこかの問屋から出はしないか、そいつを
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「あの人たちは、あれでなかなか金目かねめのものを挿していますよ。」
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「いゝ竿だ、大分金目かねめの掛つたこしらへだぞ……」
「何か金目かねめのものでも持ってるのか。」
その大小が金目かねめと睨んだのだ、たかの知れたお前たちの小遣銭なんぞに目はくれねえ。よ、痛い目をしねえうちに投げ出しちめえねえ。
(官庫へおいで、官庫へおいで、切支丹屋敷のあるくらければ、無限に金目かねめな物があるじゃないか、そこはお前もよく勝手を知っている場所じゃないか)
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金側きんがわ懐中時計(金鎖きんぐさり共)一番金目かねめなのは、室の中央の丸テーブルの上にあった、金製の煙草セット(煙草入れと灰皿けで、盆は残っていた。盆は赤銅しゃくどう製である)
何者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ものの解ったね。去年御新造ごしんぞが死んじまって、今じゃ道具ばかりひねくってるんだが——何でも素晴らしいものが、有るてえますよ。売ったらよっぽどな金目かねめだろうって話さ
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
仏具のなかでも金目かねめになりそうな物を手あたり次第にぬすみ取り、風呂敷につつんで背負い出そうとしたが、それでもまだ飽き足らないで、仏前にそなえてある餅や菓子を食い、水を飲んだ。
半七捕物帳:21 蝶合戦 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そして、そのくにひとたちは、しま人々ひとびとのように、しんせつではありませんでした。三にんは、さっそくかねこまったのでした。につけているもので、って金目かねめになるようなものはなにもありません。
南方物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「えらい! よく届いた。葛籠の中には女物で金目かねめの物が入ってる、そうしてみると、いよいよわからなくなる」
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
すくなからぬ金目かねめの品物が、まま妙な箱や、聖像の銅板や、きたない襤褸ぼろの間などから転げて出る。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
道具類だうぐるゐせきばかりつて、金目かねめにならないものは、こと/″\はらつたが、五六ぷく掛物かけものと十二三てん骨董品丈こつとうひんだけは、矢張やは氣長きながしがるひとさがさないとそんだと叔父をぢ意見いけん同意どういして
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「あのね、あんまり立入ったことだけれども、お前なにか金目かねめの物を持っていやしないかね、売るとか質に入れるとかして、まとまったお金の手に入るようなものを」
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なにか金目かねめ宝物ほうもつでもないかと、しきりにあっちこっちを荒らしていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それからお前、くしだのかんざしだの、足袋から下駄まで、そっくりこしらえてくれたのだよ。なかなか金目かねめのもので、わたしたちが二年と三年かせいだからって、これだけのものは出来やしない」
頭領かしら、思いがけなく、金目かねめなものがありましたぜ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)